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Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
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総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
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重たい薬指 後編

道明寺と過ごした夜と、西門さんと過ごす夜は、全く違っていた。

道明寺と身体を重ねた時は、道明寺からの情熱を受け止めるだけで精一杯で。
何も知らないあたしは唯々激しい波に揺蕩うばかりだった。
奥手で、身も心も幼かったあたし。
道明寺と身体を繋げることは、会えないでいた長い空白を埋めて、少しでも互いの距離を縮める為の大切な儀式だった。
慣れない身体が少し痛んだとしても、その痛みさえ会えた実感に繋がり、心は束の間満たされた。
そう、束の間だったけれど・・・
短い逢瀬が終わって、独り日本への帰路に就く。
飛行機の座席に座り、2人で過ごした時間を何度も何度も反芻して。
道明寺に触れられた感覚を憶えておきたいと思うのに、飛行機が着陸して、自分の家に向かって歩き出してしまうと、それらは全て過去になってしまう。
また時間の流れに押しやられて、道明寺の記憶は少しずつ少しずつ色褪せていく。
そんな事の繰り返しだった。



西門さんに抱かれると、どんどん自分が自分でなくなっていく。
抱かれる度に知らなかった事を教えられ、身体は深い快楽を憶えてしまう。
無知だったから、乾いた紙が水を吸う様に身に取り込んでしまうのか、それとも本当は物凄く貪欲な女だったのか。
それともそのどちらもなのか、自分でも分からないけれど、あたしはどんどん西門さんに溺れていった。
暗い闇の中、必死で目の前の人に縋りつく。
罪を重ねる事への恐怖と不安。
それを一時忘れてしまうほどの悦びに震える身体。
あたしはその麻薬から抜け出せなくなっていった。



朝、目覚めると、そこにいつもの温もりがなかった。
2人で夜を過ごした翌朝に置いてけぼりにされた事は一度もなかったから。
ああ、とうとう愛想つかされちゃったのかな・・・なんて考えが頭を過る。
いつそんな朝が来たっておかしくないって知ってたはずなのに。
いざその時が来てみると、胸の奥に何かが詰まっているかのように息苦しい。
それと同時に、自分の身体が砂粒になって、サラサラと崩れていくような虚脱感に襲われた。

やっぱり、あたしは独りぼっちになるしかないのかな。
あたしは、いつも手が届かない人ばかりに手を伸ばしてしまう。
類だって、道明寺だって。
・・・西門さんだって。

寂しさに圧し潰されそうになり、そっと自分で自分を抱き締める。
独りきりのベッドの上は、広すぎて、上掛けを掛けていても薄ら寒い気がする。
昨夜西門さんが触れてくれた感触がまだ残っている自分の腕を撫で摩っているうちに、あることに気付いた。

左手が軽い。
指輪が無い・・・

左手の薬指にいつも嵌めていた、あの指輪が無くなっていた。
親指で薬指の付け根を探ってみる。
やはりそこに硬い感触は見付からなかった。
今度は自分の目の前に左手を持ってきて確かめてみる。
薬指にはその痕が残っているけれど、ずしんと重たくて、凶暴なまでに煌めき、圧倒的な存在感を放っていた、ダイヤモンドのエンゲージリングが指から消えていた。

気付かないうちに指から抜けて、どこかに転がっていった・・・?

シーツの上に掌を滑らせて探ってみるけれど、手の届く範囲には無いようだ。
重たい身体をのろのろと起こして、ベッドの上に視線を走らせたけれど、見つからなくて。
どこにいったんだろう?とまだよく覚醒していない頭で考え始めた時、背後から声が響いた。

「お前が探してんのは、これだろ?」

独りきりだと思っていたのに、突然西門さんに話し掛けられたから、思わず「ぎゃっ!」と叫んで身を縮こませる。
ひと息入れて、その強張りを解いてから、声が聞こえてきた方に顔を向けると、窓辺に置かれた一人掛けのソファに、すっかり身支度を整えた西門さんが腰を掛け、あたしの指輪を親指と人差し指で摘まんで掲げていた。

「はあ・・・ もう、驚かさないで。」

心臓がまだどっくんどっくんいってる。
気配を消してあたしがあたふたしているのを見てるだなんて、意地が悪いというか、悪趣味というか。
一体なんなのよ?

そうは思いつつも、独り置いてけぼりにされたんじゃなかったんだ・・・という気持ちも心のどこかに湧き起って来て、ほっとしている自分もいる。
混乱しながらも安堵の溜息を吐き出し、ふと自分を見下ろすと、何も身に着けていないことにやっと気付いた。
慌てて手探りでシーツを引っ張って、貧相な身体を隠す。
幾ら昨夜も全てを曝け出し、この人に抱かれていたんだとしても、もう部屋の中は明るいし、あっちはきっちり服を着てるのに、こっちは素っ裸だなんて気恥ずかし過ぎだ。

「この指輪、俺が預かるから。」

そう西門さんは唐突に宣言した。

西門さんにとっては何の意味もない指輪を、どうして預かる・・・なんて言うんだろ?
何の為なのか全然分からない。

「・・・どうして?」
「だって、お前もういらねえだろ。」
「・・・そんなの、西門さんが決める事じゃない。」
「お前が自分じゃキッチリ片付けらんねえから、仕方ねえんだよ。」

片を付ける・・・
西門さんは何度もあたしにきっかけをくれてた。
でも・・・ 指輪を外すことはどうしても出来なかった。
何度道明寺を裏切っても、それでも外せなかったのは・・・
怖かったからだ。
今まで以上の荒波に、この身を投じるのが。
この指輪さえしていれば、『道明寺司の婚約者』の振りをしていられる。
例えそれはもう守られることのない約束なんだとしても、指輪さえあれば人の目は何とか誤魔化せる。
そんな最後の砦のように思えていた。
いや、そうじゃない。
一番の役割はいつからか変わっていた。
これ以上自分が西門さんに溺れてしまわない為の歯止め。
自分への戒め。
身体を深く繋げてしまったことで、自分の心がどんどん西門さんに浸食されていくのを何とか止めようとしていたのだ。

「返して。」

シーツの隙間から手を突き出して、指輪を返して欲しい意を更に表す。
ソファから立ち上がって、こちらにゆっくりと歩いてきた西門さん。
てっきり指輪を掌に載せてくれるんだと思ったのに、伸ばした手を丸っきり無視して、あたしの目だけをじーっと見つめてきた。
漆黒の瞳を見詰め返すと、喉元に熱い何かが込み上げて来て泣きたくなる。

「俺、今からNYに行くから。」
「・・・ふうん、そうなんだ・・・」

お仕事なのかな?
だからもう着替えてたのね。
それならそうと言ってくれたらいいのに。
でも、それとこれとは話が別。
指輪は返してもらわないと。

「司に一発殴られてくる。」
「・・・え?」
「まあ、ホントは俺もあいつを殴り飛ばしたいとこだけど、そうもいかないしな。
大人しく殴られることにするわ。」

この人、何言っちゃってんの?
道明寺に殴られにNYに行く・・・だなんて。

「俺がお前をこの指輪から解放してやるよ。」

そう言って、ふっと表情を緩めた西門さんが、ベッドに上がって来て・・・
あたしは包まっているシーツ毎ぎゅうっとその腕に閉じ込められた。

「だからさ・・・ 牧野。
お前も俺が戻って来るまでに覚悟決めてくれ。」
「・・・か、くご?」
「そ。この先、司とじゃなくて、俺と生きてくって覚悟。
俺はもう決めたからな。」

そこまであたしの耳元で囁くように言って、西門さんはあたしから身体を離し、ベッドから降りてく。
余りの事に、まだぼうっとして、唯々西門さんを見上げているだけのあたし。

『決めた』って、何を決めたって言うのよ?
西門さんにはその覚悟があるってこと?
嘘だ。
そんな訳ないよね。
だってあたし達、身体だけの関係で・・・
西門さんはあたしに同情してくれてたから傍にいてくれただけで・・・
何よりあたしは形だけだとしても西門さんの親友の婚約者。
そして西門さんは、あたしの手の届かない世界の人なんだもん。
期待なんかしちゃいけない。
ねえ、そうでしょう?

言葉にならない問いかけを、胸の内で呟いている間に、西門さんは「行ってくる。」と一言だけ言い置いて、部屋を出て行こうとしていた。

「ちょっと待って!
待ってってば!
西門さん!」

必死に呼び止めたのに、西門さんは決して振り向くことなく去っていき、ドアがぱたんと閉まって。
あたしはベッドの上に独り取り残された。

心臓が派手に音を鳴らしているのが耳に響く。
ぱちぱちと目を瞬きながら、必死で頭を巡らせた。
左手の薬指の指輪の痕をそっとなぞってみる。
あんなに重たかった左手は、まるで羽が生えたかのようにふわふわと軽く感じられて。
いつも指先で確かめていた、冷たい輝きはもうそこには無かった。

NYに行こう、西門さんと一緒に。
道明寺に謝らなきゃいけないのは、西門さんじゃなくてあたしなんだから。
あたしの気持ちはもう・・・
そうだ、自分の心がどこに向かっているのか、あたしは知ってる。

そう思えたら、やっと暗いトンネルを抜け出せて、先へ一歩進める気がした。


__________



大変お待たせしましたー。
重たい薬指からつくしが解放されたところで、このお話は終わりです。
ラスト、つくしが自分から指輪を外すのか、総二郎が無理矢理外しちゃうのか、どちらか悩んだのですが、総二郎に花を持たせてやろうと、こういうことにしました(笑)
前編書いて、ラストはこうしよう!というのは決めてたんですけど、難しくて・・・
忙しさもあってなかなか書き上げることが出来ませんでした。

この「重たい薬指」は平井堅の「哀歌(エレジー)」をモチーフに書かせて頂きました。
切ない歌で、暗めの総つくにいつか使いたいと思ってた歌です。
でも書いてみたら、上手くはまらなくて。
四苦八苦しました。
単に管理人の力不足でございます(;^_^A

2人を幸せに!というお声が多かったので、先に光が見えるラストを迎えることになったこのお話、ホッとして頂けましたでしょうか?ご感想など頂けたら嬉しいです。


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