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Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
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難破船 12

心身共に弱った牧野を、お袋の提案で邸に留め置く事になった。
勿論俺も牧野の事が心配でならなかったから、傍で見守れる事には安堵したけれど。
近くにあればある程、焼け付くような想いに苛まれる。
そんな気持ち、今は封印しなければならないと、頭では分かっている。
でも胸に湧いてくる牧野への想いを消し去る事は到底出来はしなかった。
今井先生の手によって『2週間の自宅療養を要する』と書かれた診断書は牧野の会社に届けられ、連日邸の中でのんびり過ごす事を課せられている牧野は、「あたしもう元気なのに、こんな上げ膳据え膳で、お姫様になったみたいな生活、ホント申し訳なくて・・・」と言いながら、眉が八の字になった困り顔で小さく笑っている。
本当は元気なんかじゃない。
貧血なのは、栄養失調と胃潰瘍のせいだった。
ストレス性の急性胃潰瘍。
辛い事があって、食事をすることさえ疎かになった牧野。
その空っぽの胃を胃酸が溶かして、胃痛を招く。
胃が痛いから余計に食べ物を口にしなくなった。
俺と会っている時は心配を掛けまいと、無理に食事をしていたらしい。
身も心もバランスを崩している牧野には、沢山の薬が処方され、その中には精神安定剤も含まれていた。
俺やお袋の手前、文句も言わず服用しているけれど、本当は嫌なんだろうな・・・とその心中を慮る。

だって、今迄病気らしい病気なんかしたことない牧野だ。
こうやって人の家に厄介になるのも、仕事を2週間もの間休むのも・・・
大量の薬を飲まねばならない事だって、治療の一環とはいえ、寧ろ苦痛なんじゃないか?

勿論、当の牧野はそんな事を言ったりもしない。
嫌がるそぶりも見せない。
唯々すまなさそうに、お袋の過保護ともいえる看病を受けていた。
看病と言ったって、一日中ベッドで過ごす程動けない訳でも無いから、どちらかというと過剰な接待に近いものだろうけれど。
日当たりのいいサンルームでノンカフェインの温めのお茶を飲みつつ、音楽を聴いたり、本を読んだり。
気が向いたら庭を散歩するような日々。
時にはお袋の話し相手をして、双子が学校から帰ってきたらその日の出来事を聞いて、宿題をする手助けをしているんだから、接待されているのは牧野よりも寧ろ俺の家族なのかもしれない。
邸に戻ると牧野がいる。
「お帰りなさい、美作さん。」と目を細め、ふわりと花がほころぶ様に笑いかけてくれる。
もうそれだけで、目が眩みそうな幸せと、張り裂けそうな胸の痛みが同時に襲って来るから、俺はつい目を瞑ってしまう。
目を閉じて、ひとつ深呼吸して気持ちを整えてからでないと、「只今。」という一言さえ口から出てこないのだ。
それ程までに、牧野の存在は、牧野の笑顔は、俺の心を揺らすから。

今だけの事だ。
こうして牧野と同じ屋根の下に暮らす・・・なんて、今だけの夢みたいな時間なんだ。
浮かれちゃいけない。
牧野は病んでいるんだから。
少しでも早く痛みや苦痛から解放してやりたい。
そう自分に言い聞かせる一方で、この甘くも苦い幸せに浸っていたいとも思ってしまう、俺は偽善者だ。
牧野を思いやっているようで、本当は自己満足ばかり追い求めている。
でも牧野をこっそりと見詰める事を止められない。
どうしようもなく気になってしまう。
そして触れたくて堪らなくなる。
今にもあの頼り無げな体躯を攫って、この腕の中に閉じ込めてしまいたいと焦がれる程に、牧野を求めている。

自分の中の衝動の強さが怖くて。
俺は邸に帰るのを出来る限り遅くするようになった。
会社に遅くまで残って、牧野が部屋に引き上げただろう時間の後に帰宅する。
朝食の時だけダイニングで顔を合わせて、その様子を垣間見た。
自分の胸の奥が騒めくのを何とか抑え込んで、爽やかな朝を迎えた振りを装う。
「毎日、お仕事忙しいんだね・・・」という、俺を気遣う牧野の言葉さえ、「早く帰って来て欲しい」と言われているかのように聞こえてしまう、俺は本当にどうかしている。

一度だけ、牧野が眠っている姿を見守った日があった。
仕事が休みだった日曜日。
出掛ける気にもならず、かと言って牧野と顔を合わせて、自らがコントロール不能に陥るのを恐れて、自室に籠っていた。
でも持ち帰って来た仕事の資料を読んでも、全く頭に入って来ない。
何かをしようにも、何をしたらいいのか頭に浮かんでくるいいアイデアも無く。
少し顔を見るだけなら・・・と自分に言い訳しながらサンルームを覗いた。
観葉植物に囲まれたソファの一つで、牧野は転寝をしていた。
自分の左肩にことんと頭を傾けて目を瞑っているから、痩せてしまった頬と顎のラインが無防備に晒されていて、また胸がずきりと痛む。
膝に載っている本が滑り落ちて、その音で牧野が目を覚ましてしまうかもしれない・・・と思ったから、そっと近付いて、その本を牧野の膝からテーブルの上へと移した。
痩せてしまったのは顔だけじゃない。
襟元から少しだけ垣間見える鎖骨もくっきりと浮き上がっていて、ソファの上で脱力している小さな手も、かつてよりほっそりとして骨ばって見えた。
その華奢な手を見ていたら、牧野が「なかった事にして欲しい」と言った、あの夜の事を色濃く思い出してしまった。

そっと俺の首に回された時の得も言われぬ感触。
恐る恐る俺の肌の上を滑らせていた掌の温度。
互いに躰を震わせながら、きつく絡め合った指と指。
確かに重ね合った時があったのに。
ほんの一瞬でするりとすり抜けてしまったこの手・・・

今の俺にとって、牧野を見詰め続ける事はとても危険だ。
思い余って何をしてしまうか分からない。
だから、無理矢理視線を引き剥がした。
後ろ髪を引かれる思いで一歩、また一歩と牧野から離れて、サンルームを出た所で、詰めていた息を吐き出し、壁にもたれて目を閉じる。
自分の中で様々な感情がバチバチとぶつかり合っていた。

自分はいくら傷付いたって構わない。
だけど牧野が辛い思いをすることは耐えられない。
牧野が・・・元気を取り戻せるように。
また弾けるように笑える日が来るように。
それを支えられる男にならないといけないんだ。

牧野を手にしたいのも、牧野を護りたいのも、どちらも俺の本心だったけれど。
近付けば触れたくなり、離れていては助けの手を差し伸べられないジレンマ。
ならば、自分がどんなに苦しくても、気持ちを押し殺して、牧野の傍にいるだけ。
いや、それしか出来る事が無かった。



牧野の体調は急激には良くならなかったけれど、薬を飲み始めた事と、2週間の休暇を取った事によって、少しずつ快方に向かっているかのように見えた。
今後は今井先生のクリニックに定期的に通う事を条件に、仕事への復帰も許可が出た。
住み慣れた自分の部屋ではなく美作の邸にいる事は、牧野に気を遣わせた日々だったことだろう。
「ずっといてくれてもいいのに!」なんて言って引き留めるお袋と双子に、これ以上の迷惑は掛けられない・・・と頭を下げ、牧野は自分のアパートへと戻ることになった。
車の助手席に牧野を乗せて、通い慣れた道を走る。

「また気分悪くなったら言えよ。
すぐ停めるから。」
「うん、ありがと。
でも今日は大丈夫そうだよ。お天気もいいし。
あの日は雨が降ってたでしょ。
低気圧が近づくと頭が痛くなったり、乗り物酔いしやすくなることあるって、今井先生も仰ってた。
あたし、これからはもうちょっと気を付けるから。
ほんとにごめんね、美作さん。
一杯心配掛けちゃって。」
「牧野が元気になってくれたら、俺はそれでいいんだ。
でも自分の部屋に戻ってからも、独りだからって無茶しないでくれよ。」
「分かってる。
おば様ともお約束したし。
もうご迷惑掛けない様に、ちゃんとするから。
2週間もお世話になっちゃって・・・
今度改めてお礼に伺うね。」
「俺達も牧野がいてくれて楽しかったんだから、お礼なんかいいんだよ。
また気軽に遊びに来てくれよな。」
「うん・・・ 有り難う、美作さん。」

隣から柔らかな空気が流れてくる。
こんな風にリラックスしている牧野を感じられるのは久し振りな気がした。
それだけでも、良かった、この2週間は無駄じゃなかった・・・と思える。
不意に目が熱くなったから、誤魔化すために慌てて瞬いた。
こんな些細な事でも俺の想いは溢れそうになるから、始末におえない。
俺のそんな気持ちのUP&DOWNとは関係なく、車は流れに乗って牧野の部屋の前へと辿り着き、俺達はそこで別れた。
濃密な2週間の同居生活の終わり。
何処か肩の荷が下りた部分もあったけれど、圧倒的に胸を占めたのは、どうしようもない喪失感だった。


__________



書いてて自分でも焦れ焦れしてしまう程、足踏み状態のあきらでした。
そろそろ新しい局面を出して来たい所です(^_^;)
一度強引に攫ってしまったからこそ、二度目はグイグイいけない所があきらかと思います。
類ならずーっと優しく見守ってるし、総二郎なら無理矢理自分に引き込んでる気がする!
先日某パイセンから「難破船ってあき誕SSなんだよね?」と聞かれました。
いえ、もうそれは忘れて下さい・・・
管理人も忘れます・・・

携帯は何とか無事に修理から返ってきました。
が、やっぱりBack Upの取り方に失敗していて、アドレス帳がおかしくなったよ。
夜なべしてコツコツ直しました・・・
そして家中のカーテンは洗濯終了!
ベッド周りのリネンもじゃんじゃか洗った!
そろそろここも梅雨入りしそうなので、ギリギリセーフでした。
雨、嫌いじゃないけど、自転車通勤出来なくなるのがネックです。


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