空の色は淡いブルー。
吹き抜けてく風の温度は秋の訪れを感じさせるけど、紅葉を愛でるにはまだちょっと早い。
今はそんな季節。
少し傾いた陽射しは柔らかく辺りに降り注いでく。
その中を独りで歩いていた。
目指すは大学のキャンパスの端にある金木犀の生垣。
そこに頭を埋めながら突っ立ってる奴がいる。
顔見なくたって分かる。
あの背丈、あの細っこい背中、黒々とした艶髪。
牧野だ。
静かに近付いて、横からそっと覗き込んでみる。
まるで金木犀にキスしてるかのように、顎をちょっと上向きにしながら目を瞑って、幸せそうに微笑みながら、芳しい金木犀の花の香りを吸い込んでいた。
あんな表情を浮かべて自分の前に立ってくれるのならば、金木犀に成り代わりたい・・・なんて思ってしまう程に、俺の頭はオカシクなっている。
「つくしちゃん、起きてっか?」
「うひゃっ!! に、西門さんっ?
な、何よ!驚かさないでよ!
気配消して近付いてこないで!
びっくりするでしょうが!」
「そっちが立ったまま寝てたんだろ?」
「寝てないっつーの!」
急に名前を呼ばれて金木犀の夢の中から引っ張り出されたかのような牧野は、あたふたとして俺から少し遠ざかるように後退った。
別に取って食おうなんて思っちゃいないのに。
俺を避けようとするその態度が憎い。
「でも夢心地だったろ?」
「だあって、金木犀がとってもいい匂いなんだもん!
あたし、毎年秋になったらここに来るの楽しみにしてるの。
用がなくてもわざわざここ通って帰る事にしてるんだー。
この生垣、だーい好き!」
知ってる。
金木犀が好きなのも。
毎年この生垣の前で香りを堪能してるのも。
だから俺はここへやって来たんだ。
牧野好みの香りを振り撒くだけで「だーい好き」と言わしめてしまう、単なる生垣の木に密かに嫉妬している自分に気付く。
だけどお前は俺が金木犀の香りを纏っていたって、惚れてくれる訳じゃねえんだろ?
また生垣に向かって顔を近付け、思いっ切り花の香りを吸い込んでいる牧野。
はあ・・・と満足げな溜息を吐き出してる。
「ふーん、そんなに金木犀好きなのか?」
「うん、これが風に乗ってふわん・・・って香って来ると、あー、秋が来たなあって思うんだよねー。」
「あー、じゃあ、俺ん家来れば?」
「えっ? 西門さんち? 何で?」
くりくりとした丸い目をぱちくりさせながら聞いてくるから、その表情があまりにも頓狂でつい笑い顔になっちまう。
「俺んち庭広いじゃん。」
「うん、そうだねえ。」
「金木犀も植わってる訳よ。」
「まあ、あんなに広いお庭だから、色んな種類の木が植えられてるんでしょ。」
「家の裏側に植えられてる金木犀は日当たりの関係で、遅咲きなんだよな。
だから、良く陽の当たる方の金木犀の花が落ちた後も、まだ香りが楽しめる。」
「へえー、いいねえ、お庭が広いとそんなこともあるなんて。」
「まあ、な。
それと、ウチのお袋も結構金木犀の花の香りが好きみたいでさ。
中国から態々金木犀の花入りの茶を取り寄せたりしてるんだよな。
つくしちゃん、好きそうだなって思ってさ。」
そこまで言ったら、ぱあっと顔が明るくなった。
瞳もキラキラと輝いている。
現金なものだ。
まあ、牧野らしいっちゃらしいんだけど。
「そんなお茶あるんだ?
流石西門さんちだねー。」
「俺が淹れてやろうか?」
「中国茶も淹れられるの、西門さん?」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだよ。」
そう言ってニヤリと笑い掛けたら、牧野は小さく笑った。
「ふふふっ、俺様発言。」
「ほら、来るのか?来ないのか?」
「んー、じゃあ、ちょっとご相伴にあずかっちゃおうかなー?
バイトまで時間もあるし。」
よしよし、釣れたぞ。
そう思いながら歩き出す。
「ちょっと待ってよー。」と言いながら、後ろをついてくる気配が心を湧きたたせる。
頬が緩んでるのを見られない為にも、一歩先を歩かないと。
「ねえ、そう言えば、西門さんは何でこんな所に来たの?」
痛いところを突かれた。
とてもお前の姿を探し求めて・・・なんて言えやしない。
「・・・散歩だよ。」
「ふうん・・・ 散歩・・・」
ついちょっと早足になる。
「歩くの早いってば、西門さん!」
ぱたぱたと足音が追い掛けてくるのが妙に嬉しい。
端々に零れ出る俺の気持ちに、お前はちっとも気付かない。
人一倍鈍感な牧野に気付けという方が無理だよな。
「俺ん家来れば?」なんて・・・
プロポーズの台詞だったんだぜ。
いつの日か、お前の心に届くように言えるのか?
まあ、今日の所は、俺の目の前で美味そうに茶を飲むのを見守るだけにしとくよ。
ちょっとずつ、お前の心に忍び込んでやるさ。
牧野、待ってろよ!
__________
リハビリ活動第2弾です。
毎日金木犀の植え込みの前を通りながら、これで1話書けないかな・・・と思ってました。
金木犀が散る前に・・・と慌てて書きました!
第1弾の短い短いお話にも拍手やコメント、有り難うございます!
頑張ろうって思う力になります。
感謝しております♪
連休終わりましたね。
リアル拙宅はまたまた病人がダウンです(^_^;)
連休は全部病人の相手をしていて終わりました。
看病疲れしています、ハイ・・・
今日も病院連れて行かねば。
皆様も風邪引かない様に温かくしてお過ごしくださいね!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
吹き抜けてく風の温度は秋の訪れを感じさせるけど、紅葉を愛でるにはまだちょっと早い。
今はそんな季節。
少し傾いた陽射しは柔らかく辺りに降り注いでく。
その中を独りで歩いていた。
目指すは大学のキャンパスの端にある金木犀の生垣。
そこに頭を埋めながら突っ立ってる奴がいる。
顔見なくたって分かる。
あの背丈、あの細っこい背中、黒々とした艶髪。
牧野だ。
静かに近付いて、横からそっと覗き込んでみる。
まるで金木犀にキスしてるかのように、顎をちょっと上向きにしながら目を瞑って、幸せそうに微笑みながら、芳しい金木犀の花の香りを吸い込んでいた。
あんな表情を浮かべて自分の前に立ってくれるのならば、金木犀に成り代わりたい・・・なんて思ってしまう程に、俺の頭はオカシクなっている。
「つくしちゃん、起きてっか?」
「うひゃっ!! に、西門さんっ?
な、何よ!驚かさないでよ!
気配消して近付いてこないで!
びっくりするでしょうが!」
「そっちが立ったまま寝てたんだろ?」
「寝てないっつーの!」
急に名前を呼ばれて金木犀の夢の中から引っ張り出されたかのような牧野は、あたふたとして俺から少し遠ざかるように後退った。
別に取って食おうなんて思っちゃいないのに。
俺を避けようとするその態度が憎い。
「でも夢心地だったろ?」
「だあって、金木犀がとってもいい匂いなんだもん!
あたし、毎年秋になったらここに来るの楽しみにしてるの。
用がなくてもわざわざここ通って帰る事にしてるんだー。
この生垣、だーい好き!」
知ってる。
金木犀が好きなのも。
毎年この生垣の前で香りを堪能してるのも。
だから俺はここへやって来たんだ。
牧野好みの香りを振り撒くだけで「だーい好き」と言わしめてしまう、単なる生垣の木に密かに嫉妬している自分に気付く。
だけどお前は俺が金木犀の香りを纏っていたって、惚れてくれる訳じゃねえんだろ?
また生垣に向かって顔を近付け、思いっ切り花の香りを吸い込んでいる牧野。
はあ・・・と満足げな溜息を吐き出してる。
「ふーん、そんなに金木犀好きなのか?」
「うん、これが風に乗ってふわん・・・って香って来ると、あー、秋が来たなあって思うんだよねー。」
「あー、じゃあ、俺ん家来れば?」
「えっ? 西門さんち? 何で?」
くりくりとした丸い目をぱちくりさせながら聞いてくるから、その表情があまりにも頓狂でつい笑い顔になっちまう。
「俺んち庭広いじゃん。」
「うん、そうだねえ。」
「金木犀も植わってる訳よ。」
「まあ、あんなに広いお庭だから、色んな種類の木が植えられてるんでしょ。」
「家の裏側に植えられてる金木犀は日当たりの関係で、遅咲きなんだよな。
だから、良く陽の当たる方の金木犀の花が落ちた後も、まだ香りが楽しめる。」
「へえー、いいねえ、お庭が広いとそんなこともあるなんて。」
「まあ、な。
それと、ウチのお袋も結構金木犀の花の香りが好きみたいでさ。
中国から態々金木犀の花入りの茶を取り寄せたりしてるんだよな。
つくしちゃん、好きそうだなって思ってさ。」
そこまで言ったら、ぱあっと顔が明るくなった。
瞳もキラキラと輝いている。
現金なものだ。
まあ、牧野らしいっちゃらしいんだけど。
「そんなお茶あるんだ?
流石西門さんちだねー。」
「俺が淹れてやろうか?」
「中国茶も淹れられるの、西門さん?」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだよ。」
そう言ってニヤリと笑い掛けたら、牧野は小さく笑った。
「ふふふっ、俺様発言。」
「ほら、来るのか?来ないのか?」
「んー、じゃあ、ちょっとご相伴にあずかっちゃおうかなー?
バイトまで時間もあるし。」
よしよし、釣れたぞ。
そう思いながら歩き出す。
「ちょっと待ってよー。」と言いながら、後ろをついてくる気配が心を湧きたたせる。
頬が緩んでるのを見られない為にも、一歩先を歩かないと。
「ねえ、そう言えば、西門さんは何でこんな所に来たの?」
痛いところを突かれた。
とてもお前の姿を探し求めて・・・なんて言えやしない。
「・・・散歩だよ。」
「ふうん・・・ 散歩・・・」
ついちょっと早足になる。
「歩くの早いってば、西門さん!」
ぱたぱたと足音が追い掛けてくるのが妙に嬉しい。
端々に零れ出る俺の気持ちに、お前はちっとも気付かない。
人一倍鈍感な牧野に気付けという方が無理だよな。
「俺ん家来れば?」なんて・・・
プロポーズの台詞だったんだぜ。
いつの日か、お前の心に届くように言えるのか?
まあ、今日の所は、俺の目の前で美味そうに茶を飲むのを見守るだけにしとくよ。
ちょっとずつ、お前の心に忍び込んでやるさ。
牧野、待ってろよ!
__________
リハビリ活動第2弾です。
毎日金木犀の植え込みの前を通りながら、これで1話書けないかな・・・と思ってました。
金木犀が散る前に・・・と慌てて書きました!
第1弾の短い短いお話にも拍手やコメント、有り難うございます!
頑張ろうって思う力になります。
感謝しております♪
連休終わりましたね。
リアル拙宅はまたまた病人がダウンです(^_^;)
連休は全部病人の相手をしていて終わりました。
看病疲れしています、ハイ・・・
今日も病院連れて行かねば。
皆様も風邪引かない様に温かくしてお過ごしくださいね!



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