実はあたし、こう見えて、アート作品を観に行くのが好きだったりする。
海外から遥々運ばれてきた絵画も、国内の芸術家の造形作品も、興味深く観に行っている。
小さなギャラリーでこじんまりと開催されている個展や、新進気鋭の写真家さんの展覧会まで、時間があるとちょこちょこ足を運んでいた。
今日も『バイトがお休みだから、どこか行けるところはないかなー?』なんて、ラウンジのソファで食後のあったかいミルクティーを飲みながら調べていたら、ドンピシャの展覧会を発見!
興味はあってもまだ一度もちゃんと作品を見た事が無かった海外の有名アーティストの絵が来てるなんて!
早速『これに行こう!』と決めて、周りの皆に声を掛けた。
「ねえ、誰か一緒に行かない?」
「・・・私はその方のドローイング、好みではないんですよね。
花沢さんか美作さんをお誘いになったらいかがです?」
(桜子が冷たいのなんか、今に始まった事じゃないし!)
「・・・俺、帰って寝たい。
絵なんか観に行ったら、美術館で寝そう・・・」
(美術館で立ったまま寝られても、そこらのベンチとかで寝られても放置出来ないし困るわ!)
「あー、牧野、悪い!
俺、午後は先約があるんだ。
又の機会にしてくれ。」
(これからどこぞのワケありマダムとデートなのね。うーん、褒められた事じゃないけど、あたしが口出しするのもなんだし・・・これは放っとこう!)
必然的に1人だけ候補に挙がっていなかった西門さんに視線が集まる。
でも西門さんこそ、毎日女の人との予定がみっちり詰まっている筈だし・・・と思ったのに、驚くべき返事が返ってきた。
「まあ、誰も相手がいなくて寂しいってんなら、付き合ってやってもいいぜ、つくしちゃん。」
ふっと小さく笑って。
片方の口角だけくいっと上げ、流し目でこっちを見てる男が妙に忌々しい。
あたしはそんなのには引っかからないんだから!
「ぜんっぜん寂しくなんかないから、1人で行ってくるね。
じゃ、皆また明日ー!」
そう言い置いてラウンジを飛び出した筈なのに。
コンパスの違いなのか、後からやってきた西門さんにあっさり追い抜かれ。
それどころかあたしが肩に掛けてた勉強道具入りのトートバッグまで、あれよあれよという間に奪われて。
今度はあたしが西門さんの後を追う羽目になった。
「何よ!あたし、1人で行くって言ったでしょ!」
「ふふん、本当は誰かと一緒に行きたかったくせに。
俺がお供してやるよ。」
「結構です!西門さんはどうせお忙しいでしょうから。
あたしの事なんか構わずに、今日の待ち合わせ相手の所に行ってよ。」
「別に誰とも会う約束なんかしてねえし。
牧野の美術鑑賞に付き合ってやるって。
お前、俺をアシに出来るだけでも名誉な事だぞ。喜べ。」
「そんなの頼んでないっつーの!」
そんな事を言いつつも、バッグを持たれたままじゃ、こっちはお財布すら持ってない訳で。
ついこの鼻持ちならない自信満々な男を追い掛けてしまい、そのまま車にも乗せられてしまった。
ふかふかのシートに身体をもたせ掛けると、何故だか「はぁ・・・」と長い溜息が溢れ出た。
「六本木だろ?」
「うん・・・」
「何ぶすくれてんだよ?
この車に乗せて、そんな顔するのはお前だけだぜ。
フツーはワーキャー喜ぶもんだ。」
「どーせあたしはブスですよっ!」
「んー、つくしちゃんはその卑屈な根性から直した方がいいなー。
だからお前男にモテねーんだよ。」
「余計なお世話っ!」
どうしてか西門さんと喋ると、会話が全部喧嘩腰になっちゃう。
昔道明寺と付き合ってた時も、いっぱい言い合いしたけど、ここまでじゃ無かった気がする。
類や美作さんとは、あたし、喧嘩なんてしないし・・・
なんで西門さんだけ?
根性捻くれてるのはそっちじゃないの?
そしていつもこういう不毛な会話をしていると、怒っているのはあたしだけで、西門さんは余裕綽々な感じでニタついてばっかりだ。
どうにも掌の上で転がされているようで面白くない。
挙げ足を取られないように黙り込んだら、暫くして静かなトーンの声が車内に響いた。
「大丈夫か?」
「え? 何が?」
「車にでも酔ったか?」
「いや、別に何ともないけど・・・」
「ふうん、それならいいけどよ。」
「な、何よ?」
「急に静かになったから、具合でも悪いのかって心配してやったんだよ。
牧野はこんな車、乗り慣れてねえからなぁ。」
そう言って今度は打って変わって可笑しそうにくつくつ笑ってる。
優しい事言ってくれたのかと思いきや、庶民を馬鹿にしてるだけ?
ホントにお坊っちゃまには腹が立つ。
一度庶民生活を体験してみたらいいんだわ!
そうしたら色んなものの有り難みってのが分かる様になる筈よ!
慣れた様子で車を駐車場へと入れた西門さん。
ここへは何度も来ているような雰囲気だ。
まあ、有名なランドマーク的な場所だし。
美術館だけじゃなくて、沢山の飲食店やお店、映画館だって入ってるんだから、知らない所じゃないんだろう。
車を降りる時に後部座席に置かれていたトートバッグを取ろうとしたら止められた。
「お前、その重たいバッグ邪魔だろう?
ここに置いてけよ。」
まあ、そうだわね。
美術館って大抵入り口にコインロッカーがあったりするけど、そこに預けるのも、車に置かせて貰ってるのも大した違いはない。
いや寧ろ、空いてるコインロッカーを探したり、小銭を取り出したりする手間が省ける。
ここは素直にお言葉に甘えて、いつも片隅に忍ばせている買い物用のエコバッグにお財布、携帯、ハンカチ、ティッシュとルージュだけ放り込んで、ドアを閉めた。
どんな時にもルージュを持つのは桜子からきつく言われている事。
「先輩、ルージュというのは朝一度塗ったらそれでOKっていうものじゃないんですよ。
折々に鏡を見て、きちんと塗り直してこそ、塗ってる意味があるんです。
取れかかったルージュの女なんて、見苦しいばかりですから。」
そう。桜子は一緒にお化粧室に行くと、いつも念入りに唇を尖らせたり、にっこり笑ったり、鏡でチェックしながらお化粧直しをしている。
それを横目で『可愛いって大変ね』なんて思いつつぽけーっと見詰めていたら指南された。
怒られたって言うとまた怒られる。
あくまでも『指南』なんだそうだ。
あたしのビューティーアドバイザーはとっても口煩い。
ペラッペラなナイロンのエコバッグを携えたあたしを見て、ちょっと眉を潜めたような表情を浮かべた西門さん。
仕方ないじゃん。
これしかないんだもん。
「行くぞ。」
くいっと顎で進むべき方向を示してから、西門さんが歩き出す。
その後ろを付いて行けば、きっとちゃんと美術館に辿り着けるんだろう。
ワンテンポ遅れて、あたしも足を踏み出した。
__________
またまたお待たせ致しました。
リハビリ活動第3弾のお話です。
そしてもうちょっと続きます!
連日、疲労困憊なhortensiaでございますー。
リアル拙宅の病人がまたまた入院してしまいまして・・・
毎日病院通ってます。
疲れ過ぎちゃったみたいで、昨日は地元の駅前でお友達とすれ違ったのにすら気付けず、「大丈夫なの?」と心配されちゃいました。
で、電車に乗って着いた病院の最寄駅。
毎日使ってるんですよ、この駅!
なのに、改札出て一瞬自分がどこに居るのか分からなくなってしまい、そんな風にパニクった自分にビックリしました。
疲れは人をおかしくするね・・・
早く落ち着きたいものです。
そろそろ紅葉の季節でしょうか?
色付いた葉を愛でる余裕もないのですけれど。
良かったら皆様の紅葉見物のお話、お聞かせ下さいな。
それを読ませて頂いて、綺麗な景色を見た気持ちになりたいと思います!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
海外から遥々運ばれてきた絵画も、国内の芸術家の造形作品も、興味深く観に行っている。
小さなギャラリーでこじんまりと開催されている個展や、新進気鋭の写真家さんの展覧会まで、時間があるとちょこちょこ足を運んでいた。
今日も『バイトがお休みだから、どこか行けるところはないかなー?』なんて、ラウンジのソファで食後のあったかいミルクティーを飲みながら調べていたら、ドンピシャの展覧会を発見!
興味はあってもまだ一度もちゃんと作品を見た事が無かった海外の有名アーティストの絵が来てるなんて!
早速『これに行こう!』と決めて、周りの皆に声を掛けた。
「ねえ、誰か一緒に行かない?」
「・・・私はその方のドローイング、好みではないんですよね。
花沢さんか美作さんをお誘いになったらいかがです?」
(桜子が冷たいのなんか、今に始まった事じゃないし!)
「・・・俺、帰って寝たい。
絵なんか観に行ったら、美術館で寝そう・・・」
(美術館で立ったまま寝られても、そこらのベンチとかで寝られても放置出来ないし困るわ!)
「あー、牧野、悪い!
俺、午後は先約があるんだ。
又の機会にしてくれ。」
(これからどこぞのワケありマダムとデートなのね。うーん、褒められた事じゃないけど、あたしが口出しするのもなんだし・・・これは放っとこう!)
必然的に1人だけ候補に挙がっていなかった西門さんに視線が集まる。
でも西門さんこそ、毎日女の人との予定がみっちり詰まっている筈だし・・・と思ったのに、驚くべき返事が返ってきた。
「まあ、誰も相手がいなくて寂しいってんなら、付き合ってやってもいいぜ、つくしちゃん。」
ふっと小さく笑って。
片方の口角だけくいっと上げ、流し目でこっちを見てる男が妙に忌々しい。
あたしはそんなのには引っかからないんだから!
「ぜんっぜん寂しくなんかないから、1人で行ってくるね。
じゃ、皆また明日ー!」
そう言い置いてラウンジを飛び出した筈なのに。
コンパスの違いなのか、後からやってきた西門さんにあっさり追い抜かれ。
それどころかあたしが肩に掛けてた勉強道具入りのトートバッグまで、あれよあれよという間に奪われて。
今度はあたしが西門さんの後を追う羽目になった。
「何よ!あたし、1人で行くって言ったでしょ!」
「ふふん、本当は誰かと一緒に行きたかったくせに。
俺がお供してやるよ。」
「結構です!西門さんはどうせお忙しいでしょうから。
あたしの事なんか構わずに、今日の待ち合わせ相手の所に行ってよ。」
「別に誰とも会う約束なんかしてねえし。
牧野の美術鑑賞に付き合ってやるって。
お前、俺をアシに出来るだけでも名誉な事だぞ。喜べ。」
「そんなの頼んでないっつーの!」
そんな事を言いつつも、バッグを持たれたままじゃ、こっちはお財布すら持ってない訳で。
ついこの鼻持ちならない自信満々な男を追い掛けてしまい、そのまま車にも乗せられてしまった。
ふかふかのシートに身体をもたせ掛けると、何故だか「はぁ・・・」と長い溜息が溢れ出た。
「六本木だろ?」
「うん・・・」
「何ぶすくれてんだよ?
この車に乗せて、そんな顔するのはお前だけだぜ。
フツーはワーキャー喜ぶもんだ。」
「どーせあたしはブスですよっ!」
「んー、つくしちゃんはその卑屈な根性から直した方がいいなー。
だからお前男にモテねーんだよ。」
「余計なお世話っ!」
どうしてか西門さんと喋ると、会話が全部喧嘩腰になっちゃう。
昔道明寺と付き合ってた時も、いっぱい言い合いしたけど、ここまでじゃ無かった気がする。
類や美作さんとは、あたし、喧嘩なんてしないし・・・
なんで西門さんだけ?
根性捻くれてるのはそっちじゃないの?
そしていつもこういう不毛な会話をしていると、怒っているのはあたしだけで、西門さんは余裕綽々な感じでニタついてばっかりだ。
どうにも掌の上で転がされているようで面白くない。
挙げ足を取られないように黙り込んだら、暫くして静かなトーンの声が車内に響いた。
「大丈夫か?」
「え? 何が?」
「車にでも酔ったか?」
「いや、別に何ともないけど・・・」
「ふうん、それならいいけどよ。」
「な、何よ?」
「急に静かになったから、具合でも悪いのかって心配してやったんだよ。
牧野はこんな車、乗り慣れてねえからなぁ。」
そう言って今度は打って変わって可笑しそうにくつくつ笑ってる。
優しい事言ってくれたのかと思いきや、庶民を馬鹿にしてるだけ?
ホントにお坊っちゃまには腹が立つ。
一度庶民生活を体験してみたらいいんだわ!
そうしたら色んなものの有り難みってのが分かる様になる筈よ!
慣れた様子で車を駐車場へと入れた西門さん。
ここへは何度も来ているような雰囲気だ。
まあ、有名なランドマーク的な場所だし。
美術館だけじゃなくて、沢山の飲食店やお店、映画館だって入ってるんだから、知らない所じゃないんだろう。
車を降りる時に後部座席に置かれていたトートバッグを取ろうとしたら止められた。
「お前、その重たいバッグ邪魔だろう?
ここに置いてけよ。」
まあ、そうだわね。
美術館って大抵入り口にコインロッカーがあったりするけど、そこに預けるのも、車に置かせて貰ってるのも大した違いはない。
いや寧ろ、空いてるコインロッカーを探したり、小銭を取り出したりする手間が省ける。
ここは素直にお言葉に甘えて、いつも片隅に忍ばせている買い物用のエコバッグにお財布、携帯、ハンカチ、ティッシュとルージュだけ放り込んで、ドアを閉めた。
どんな時にもルージュを持つのは桜子からきつく言われている事。
「先輩、ルージュというのは朝一度塗ったらそれでOKっていうものじゃないんですよ。
折々に鏡を見て、きちんと塗り直してこそ、塗ってる意味があるんです。
取れかかったルージュの女なんて、見苦しいばかりですから。」
そう。桜子は一緒にお化粧室に行くと、いつも念入りに唇を尖らせたり、にっこり笑ったり、鏡でチェックしながらお化粧直しをしている。
それを横目で『可愛いって大変ね』なんて思いつつぽけーっと見詰めていたら指南された。
怒られたって言うとまた怒られる。
あくまでも『指南』なんだそうだ。
あたしのビューティーアドバイザーはとっても口煩い。
ペラッペラなナイロンのエコバッグを携えたあたしを見て、ちょっと眉を潜めたような表情を浮かべた西門さん。
仕方ないじゃん。
これしかないんだもん。
「行くぞ。」
くいっと顎で進むべき方向を示してから、西門さんが歩き出す。
その後ろを付いて行けば、きっとちゃんと美術館に辿り着けるんだろう。
ワンテンポ遅れて、あたしも足を踏み出した。
__________
またまたお待たせ致しました。
リハビリ活動第3弾のお話です。
そしてもうちょっと続きます!
連日、疲労困憊なhortensiaでございますー。
リアル拙宅の病人がまたまた入院してしまいまして・・・
毎日病院通ってます。
疲れ過ぎちゃったみたいで、昨日は地元の駅前でお友達とすれ違ったのにすら気付けず、「大丈夫なの?」と心配されちゃいました。
で、電車に乗って着いた病院の最寄駅。
毎日使ってるんですよ、この駅!
なのに、改札出て一瞬自分がどこに居るのか分からなくなってしまい、そんな風にパニクった自分にビックリしました。
疲れは人をおかしくするね・・・
早く落ち着きたいものです。
そろそろ紅葉の季節でしょうか?
色付いた葉を愛でる余裕もないのですけれど。
良かったら皆様の紅葉見物のお話、お聞かせ下さいな。
それを読ませて頂いて、綺麗な景色を見た気持ちになりたいと思います!



ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
