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Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
まず初めに「ご案内&パスワードについて」をお読み下さい。
https://potofu.me/hortensia

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だめだだめだだめだ -前編-

東京駅の新幹線ホーム。
12時ちょうどののぞみ、新大阪行き。
発車メロディーが流れ始めた。
困ったような、ちょっと情けない笑い顔してこっちを見てる。

もう放さなきゃ・・・

そう思ったけれど、こんな土壇場でせり上がって来た想いのせいで、とてもその手を放せない。



忘年会の席で牧野が、年度末を待たずに引っ越しをすると言い出した。
4月から就職する会社が関西で。
研修があるからひと月早くその会社の寮に入るという。

「大学の卒業式はどうするんだ?」

と聞けば、

「あー、別に出なくてもいいんじゃない?
出席しない人の分の卒業証書は後から送られて来るんだって。」

と、サバサバしたものだ。
盛大に祝ってやろうと密かに思っていた俺達は肩透かしを食らった格好になった。
美作にも、花沢にも、もちろん西門にも関係のないところに就職したい・・・というのが牧野の希望。
別れた上に、司のお袋さんから毛嫌いされてる道明寺なんかもってのほかだし。
俺達はそんな牧野の意思を尊重し、無理に自分達の会社や家業に牧野を引き入れない・・・という暗黙のルールの下、じっと見守っていたんだけれど。
牧野がそんな遠くに行ってしまうとは誰も思っていなかったと思う。
俺なんか、勤務先は都内の何処かだろ?位に考えていたし。
気軽に会えなくなってしまうなんて思いもよらなかった。



7月になって大阪の会社に内定が出た時、牧野はスッキリした表情を浮かべていた。
それはそうだ。
希望の会社に入れると決まったんだから。

「大阪って新幹線乗ったら2時間半だよ?
そんなのすぐでしょ。
でも、一番安いのは高速バスなんだって。
知ってる? 高速バス。
あんた達なんかきっと一生乗る事ないだろうけど。
便利なんだよー。
最近のは乗り心地も良くってさ。
セキュリティも案外しっかりしてて女の子一人でも安心して乗れるんだ。
夜乗って、寝て起きたら朝には着いてるの!
何かあったらそれに乗ってこっち来たらいいし。」

全く便利じゃなさそうな、その上ペラペラのカーテンで仕切られているだけの乗り物を安全だと、真面目に勧めてくるところはいかにも牧野っぽいけれど。
これには俺も類も、少なからず渋い顔をした。
それに比べてヘラヘラしていたのは総二郎だ。

「俺は仕事でよく関西行くし。
そっち行った時には一緒に美味いモンでも食いに行こうぜ、つくしちゃん。」
「あ、西門さんがよく行くような所はあたし行きたくないだけど・・・」
「どーいう意味だよ?」
「綺麗なお姉さんを誑かす為のお店なんでしょ? そんなのヤだよ。」
「大丈夫だよ、お前はその『綺麗なお姉さん』とやらの基準からは大きく外れてるし。
ちゃーんと食いしん坊のつくしちゃんに見合った店に連れてってやるから。」
「何かそれもムカつくんですけどっ!」

まるで自分のテリトリーに牧野を迎え入れたような余裕綽綽の総二郎が忌々しい。
俺も類もどちらかというと国内の出張は無くて、東京での仕事が殆ど。
将来はどこか他所の国に駐在するっていうレールが敷かれている。
そうなったら牧野との距離は一層離れてしまい・・・
新幹線に乗ったって、高速バスに乗ったって会えなくなる。

「ツマンナイ・・・」
「どして?」
「牧野が俺から離れてっちゃうの、ツマンナイ・・・」
「別に類から離れようとしたわけじゃないんだけど。
希望の会社が大阪に本社があっただけなんだもん。
いっぱい頑張って決めたあたしの就職、類は祝ってくれないの?」
「俺、牧野と一緒に働きたかったのに・・・
昼休みに2人でランチ食べたり、昼寝したりさ。」
「それ、全然働いてないじゃん。
それに花沢に就職したとしても、そこのジュニアとお昼休みにランチしたりお昼寝したり、フツーのOLが出来る訳ないの。」

そう言われた類が年甲斐もなく膨れている。
べったり牧野に貼り付いていた類も、大学の年次が進んでからはそうもいかなくなり、慢性的な牧野不足が深刻なんだろう。
更に会えなくなると思ったら、不機嫌になるのもむべなるかな。

俺はこんな時だって、ついいつも通りの『物分かりのいい男』を演じてしまう。

「希望の会社、受かって良かったな、牧野。」
「うんっ! ありがと、美作さん。」
「文具の会社なんだろ? 」
「そう、オフィス家具から、小さいクリップや画鋲まで扱ってるんだけどさ。
その中でもユニバーサルデザインの文房具っていうのが面白いなって思って、それでこの会社希望したんだよねー。
ちょっとした工夫が使う人の『あ、これ便利!』に繋がるのがいいなって。
そういうのが、誰でも手に取れるそこここのお店に置かれてるのが嬉しいじゃない?
自分で文房具売り場に行ってもワクワクするんだ。」
「牧野は色んな経験をしてるから、そこから他の人とは違うアイデアが出せるんじゃないか?
俺、向いてると思うよ。」
「えへへ。そうかな?
最初は営業の下っ端・・・とかからのスタートだと思うんだけど。
いつか商品の企画とか、開発に携われたらなって思ってるんだ。」
「うん、頑張れよ。」
「うん、あたし頑張るよ、美作さん!」

幸せそうに明るく笑った牧野に、俺も微笑み返した。

本当は俺だって、類みたいに思ってるんだ。
牧野が離れて行ってしまうのは嫌だって。
でも牧野の未来を自分の手で阻むなんてしたくない。
そんな勇気も恣意も持ち合わせていない俺。
だからこんな当たり障りのない事しか言えないでいたんだ・・・


_________



2月28日!
あきらのお誕生日でーす。
おめでとー!
パチパチパチパチ!
それなのにこのダメな感じのタイトル(苦笑)
スミマセン、タイトルつけるの苦手過ぎて。
取り敢えず仮タイトルでつけていたものをそのまま使ってしまいました(;'∀')
まだ全然お誕生日っぽくないけれど。
なんとかまとめていきたいと思っております。
続きをお待ち下さい。

はー、毎日色々ありますね。
病人の風邪の看病していて、自分に感染って、やっと立ち直ったら、また病人の状態が良くなくなる・・・という魔のループ!
辛い・・・ 辛すぎる・・・
外に出るのも気を遣う状況ですし。
運動不足に拍車が掛かりそうです!
花粉症の薬貰いにかかりつけ医の所に行ったら、2ヶ月分処方されました。
そんな事、出来るんだね(苦笑)
皆様、1に手洗い、2に手洗い!でこの難局をどうにか乗り切りましょう~。


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だめだだめだだめだ -中編-

長年浸かっていた英徳というぬるま湯から出て、俺は親父の会社に入って働き始めた。
分かっていた事とはいえ、それまでとはがらりと違う生活。
連日目も回る忙しさだ。
俺は単なる新入社員とは違う。
どうしてもそれ以上を求められる。
何でもスマートに熟せると思っていたのに、その鼻っ柱を折られ続ける日々。

ジュニアの受ける洗礼か?
いや、類なんか淡々とというかぼーっと受け流してそうだな・・・

とか思いつつ、こっそり奥歯を噛み締めていた。
疲れが溜まってきた時に、ふと浮かぶのは牧野の明るく心温まる笑い顔。
忙し過ぎてプライベートな時間は自分の部屋で持ち帰った仕事の資料を読んだり、パソコンと向き合ってばかりの俺は、偶には顔を見て話したい・・・と思って、夏の休暇のうちの1日に牧野を食事に誘った。
折り良く牧野もバイトが休みだという夜。
選りすぐりのレストランで向かい合わせに座った。
きゃらきゃらと元気に笑う牧野との食事は、想像していた通りに心が浮き立つ。
久し振りに会った牧野は話したいことが沢山あるらしく、話題は脈絡なくあちこちに飛び、それに合わせてくるくると表情を変えた。
そんな様子を見ているだけで、自然と心が和んでく。
ワイングラスを傾けながら心地良く解けていく自分を感じて、随分と肩に力が入っていた事を自覚させられ・・・
そして自分に必要なのはこういう時間だったのか・・・と思い至った。

あぁ、牧野といるのはいいな。
自分が自然体でいられる。
牧野が笑ったら、こっちもつられて笑顔になってしまうし。
色んな話を聞いて、それに合いの手を入れるのもこんなに楽しい。
美味い物を食べさせたら、幸せそうに目を瞑って頬を押さえてる、そんな大げさな仕草さえ牧野がやっていると、見守る俺まで幸せになってしまう。
こんな気持ちになるの、久し振りかも・・・

「美作さん、もしかしてちょっとお疲れ?
夏バテしちゃった?」

「うーん、まあ少し疲れてはいるかな。
学生時代と違って今は会社勤めで、毎日色々あるんだよ。
やっぱり、これ迄必要な事を叩き込まれてきたんだって言ったって、実戦の現場に出ると知らなかった事も次から次へと出てくる。
日々勉強なんだよな。
時には思わぬ壁にぶつかる事もあるし。
俺って、自分が器用な人間だと思い込んできたけど、実はそうでもないのかも。」

「そっかあ。社会に出るってだけで大変だけど。
美作さんは将来会社を背負って立つ人にならなきゃいけないんだもんね。
そしてそれを周りの人がみーんな知ってるんだから。
他の人とは違う目で見られたり、気を遣ったりするよねえ・・・。」

牧野が言うような事は、実は大して気になってはいない。
俺が親父の跡取りなのは、この世に生まれ落ちた時から決まってる事だし、そういう目で見られる事にも慣れきっている。
そうじゃなくて、まだまだそれに見合った実力が足りない事が歯痒いんだ。
格好悪くて素直に口に出せはしないけれど。

「あたしさ、美作さんが働いてるの、見たことがある訳じゃないけど・・・
美作さんが会社で頑張ってるところは目に浮かぶんだ。
大変な事あっても、それを顔に出したりしないで、ぐっと堪えて、颯爽と働いてるに決まってる。
今迄だってそうだったもの。
いつも誰かがトラブってあーだこーだ騒いでても、美作さんは皆の為にさっと動いてくれて。
自分にも嫌な事あったとしても、それは全然見せないでお腹の中にそっと仕舞って、優しく笑っててくれる。
だからさ、時々ちょっと疲れちゃうでしょう?
あたしと2人でいる時は、気を張らなくていいんだよ。
あたし、分かってるから。
2人の時は少しだけでもいいから、いつもよりリラックスしてくれたら嬉しいな。」

そう言って、にっこり笑ってる。
俺は持ち上げられて、そして自分の本質を言い当てられた気がして、とてつもなく恥ずかしくなったというのに。
動揺しているのを悟られないように、ちょっと視線をずらしてしまった。
手元の皿の上には、食べかけの料理が載っている。

「少しだけじゃないよ。
牧野といると、とってもリラックスできるんだ。
何でかな?
牧野の話が楽しいからか・・・
それとも美味そうに食べる様が、俺の食欲まで刺激するのかな?」

「ねえ、それってあたしがお喋りで食いしん坊って言ってる?」

「そうは言ってないだろ?」

「えー? どこが違うのか分かんない!」

そんな声につられてついまた牧野を見詰めてしまう。
ちょっぴり上目遣いで俺を睨み、少し唇を尖らせ気味にしている様子が可愛くて、俺の頬も緩んでいく。
牧野と過ごす時間はそうやって優しく俺を癒してくれるから。
そんな事望んではだめだと分かっているのに、この時がずっと続けばいいのに・・・と思ってしまうんだ。



次に2人きりで会えたのは、俺の家でだった。
いや、最初は2人+双子だったんだけど。
双子がハロウィンのお茶会をするから「つくしお姉様にも来て頂きたいの!」という我儘を言って、快く受けてくれたからだった。
日曜日の昼下がり。
南瓜尽くしのデザートがたっぷり用意されたダイニングには、不思議の国のアリスの衣装を着込んだ2人と、うさぎの耳付きカチューシャを着けさせられた牧野と、シルクハットを被るように強制された俺がいた。
不思議な国のアリスの世界に浸りながらお茶を飲む・・・という変な午後のひと時。
双子は勿論楽しんでいるし、牧野もそんな2人に付き合ってくれている。
俺はそれを見守りながらゆっくりと紅茶を飲んだ。
早く双子が牧野を解放してくれるのを願いながら。
お袋が「ピアノのレッスンのお時間よー。」と呼びに来たから、名残惜しそうにしながら牧野に手を振りつつ双子はリビングを後にして。
俺はこれ幸いにと、秋薔薇が咲き誇っている庭へと牧野を誘った。
楽しそうな素振りの牧野が軽やかな足取りで俺の前を歩いてく。
それを追い掛けてた。

「ねえ、美作さんっ!」

くるりと振り返った時、束ねた髪の先がふわっと跳ねて、ワンピースの裾もひらりと宙を舞う。
そして牧野の大きな黒い瞳が柔らかな午後の陽の光を受けてきらりと輝いて・・・
その刹那、返事をするのも忘れて牧野を見詰めていた。

あ、だめだ。
気持ちが持って行かれる。
身体まで牧野の方へと吸い寄せられてく気がする。

「気持ちいいね、美作さんちのお庭。
とってもいい香りがする。
これが薔薇の香りかな?」

「あ、ああ、そうだよ。
秋薔薇は春薔薇より花が小ぶりなんだけど、香りは強くなるんだ。」

「へえー! そうなんだぁ!」

不意に湧き起こる強い感情に驚きつつも、何とか普段通りの俺を取り戻そうと試みる。
様々な種類の薔薇が植えられている小道を庭の奥へ奥へと牧野が進んで行く。
咲き誇る薔薇を通りすがりに見遣り、時には立ち止まって花に顔を寄せ、香りを吸い込み、うっとりとした表情を浮かべ・・・
花の色合いや香りの感想を思うままに口にして、俺の目や耳を楽しませてくれる。

でも本当は・・・
花じゃなくて俺だけを見て欲しいのに。

ほんの少し距離を保って歩いているのがじれったい。
もっと牧野の近くに行きたくて、そんな気持ちがどんどん強くなることに戸惑った。

こんな牧野を知っているのは俺だけならいいのに。
他の誰にも見せたくない。
牧野を独占したい。

今すぐ俺の腕の中に囲い込んでしまいたくて。
でもそんな事出来やしなくて。
牧野と同じ甘い薔薇の香りを吸い込みながら、自分の気持ちをなんとか宥めようとした。
全くうまくはいかなかったけれど。


_________



あきらのお誕生日SS、どんだけ時間掛かって書いてんだ?って感じですね。
申し訳ないです(^^;;
まだ誕生日場面も出て来てませんしねぇ。
後編も大体書けてますので、近々UPします。

丸1ヶ月、何してたのかと申しますと・・・
コロナウイルスに振り回されてました!
って、罹患した訳ではないですよ。
リアル拙宅の病人、厚労省の言うところの『新型コロナウイルスは、高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患などの基礎疾患のある方や透析を受けている方、また、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方は重症化しやすい』に当て嵌まってまして。
病人が罹患しちゃったらエライコッチャ!という事で、病人は家閉じ込め。
管理人も外に出るとウイルス持ち込むリスクがあるからなるべく在宅。
だけど一日中病人の相手していて、ゆっくりPC開く暇なし(涙)
買い物だけはどうしても行かねばならないから、それはパパッと行って。
帰って来たら買った物を全てアルコールで拭いてから部屋に入れる・・・なんて手間が掛かることやってまして。
段々疲れてきましたよう。
マスクやアルコールの買い置きは普段からしてるんですけど、この対ウイルス生活がいつまで続くのか分からないので、在庫切れが不安ですー。
NYの友達が「日本は大変だねー。」なんて呑気にしてたのに、今では外出制限でお家から出られなくなってしまいました。
日本も明日は我が身かも知れませんね。
『自粛疲れ』もしてますが、今暫く気を抜かずに頑張っていきましょうー。


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だめだだめだだめだ -後編-

とうとうやって来てしまった。
今日は牧野旅立ちの日。
昨日は俺の誕生日で・・・
牧野からは「おめでとう!」とのメッセージを貰っていた。
「有り難う。いよいよ明日だな。気を付けて行けよ。何時の新幹線だ?」と返信すると
「お昼の12時! 新幹線の中でお弁当食べようと思って。
駅弁、どんなのにしよう? 楽しみー!」
なんて返事が返って来るのが牧野らしい。

どうしても最後に一目でもいいから会いたいんだ・・・
居ても立っても居られない。

昼の休憩を前倒しにして、11時半にデスクを離れた。
丸の内の本社ビルから東京駅は目と鼻の先。
急ぎ足で東京駅へと向かい、新幹線口の辺りでぐるりを見渡しながら、牧野を探した。
暫くして、大き目のショルダーバッグを肩に掛け、片手にはランチが入っているんだろう袋を持った牧野の姿を捉える。
人混みの中でも俺に気付いて、ととと・・・と駆け寄って来た。

「美作さん? 何で? お仕事は?」

目をぱちくりさせている牧野。

「丁度昼休みだから、見送りに来た。」
「えー? いいのに、そんなの。
美作さんがお昼ご飯食べそびれちゃうじゃない!」
「大丈夫だよ。」

この期に及んで「いいのに・・・」と遠慮している牧野と一緒に新幹線のホームに上がった。
牧野が乗るのは12時ちょうどの新大阪行きのぞみだ。
発車迄あと5分。
俺達はその微妙な長さの時間を、どうでもいいような話をすることで埋めて・・・
「そろそろ乗るね?」という牧野の言葉で、会話は終わりになった。
牧野が新幹線へ乗り込み、こちらに振り返る。
俺は「じゃあ。」と言って右手を出した。
「お見送り、ありがと!」と言って、牧野も右手を伸ばしてきて、俺達は握手を交わす。
その手を握った途端、急に胸がぐっと苦しくなって・・・
俺は言葉を失くしたまま、その手を握り続けてた。
そして発車メロディーが流れ始める。

だめだ。
だめだ。
だめだ。
俺はこの手を放せない。

「美作さん、もうドア閉まる・・・」

けたたましい音に背中を押されるように・・・
俺は牧野の手を握ったまま、するりと新幹線へと乗り込んだ。
背中でドアが閉まる音。
そして線路の上を走り出す気配。

「え? え? え?
ちょっと、どーすんの?
美作さん、乗っちゃってるじゃない!」

何だかとても慌ててる牧野を前にして、逆に俺は落ち着いてる。
でも別の理由で心臓はどくんどくんと高鳴ってたが。

「うん、大丈夫だよ。」
「な、何が? これ、新幹線だよ?」
「すぐに品川に止まるから。」
「あ、そうか・・・? でも何で?」

今度は小首を傾げて、きょとんとした表情で聞いてくる。
「こんな事してる理由が知りたい?」と聞いた俺。
「うん。」と素直に首を縦に振った牧野。

そうだよな。
ここまで来たら、俺も腹を決めないと。

牧野の顔を覗き込むように腰をかがめると、互いの距離がぐっと近くなる。
途端に牧野の頬がさあっと色付く。
その熱っている頬を空いている左手の指でそっとなぞると、ほんの一瞬ぴくりと震えた牧野。
指先からは温かくてふわふわとして柔らかな感触が伝わって来る。

「み、美作さん、近いよ・・・」

俺と目を合わせないように顔を背けたから、頬から指が離れていった。
目の前には牧野の横顔。
忙しなく瞬きしているのが目に入る。
横顔だと頬の紅さが一層よく分かる。
微かに髪の毛の狭間から見えている耳朶も水彩絵の具で色付けしたかのように紅く滲んでる。

「あっつ・・・
あたし、どうかしちゃったのかな?」

俺の前でこんな風に恥じらって、戸惑っている牧野が愛しくて仕方が無い。

「牧野の気持ちは、俺には分からないけど。」

もう一度牧野の顔に手を伸ばした。
ゆっくりと指を顎のラインに沿って滑らせて、こちら側に顎先をくいと持ち上げたら、やっと牧野と視線がぶつかる。

「自分の気持ちは分かるんだ。
牧野が好きだ。」

そう告げて微笑みかけると、牧野が大きな目を一層見開いて、まじまじと俺を見詰め・・・
それから一気に顔中が真っ赤に染まった。

「な、な、な、何言って・・・」
「うん、こんな土壇場にならないと言い出せなかった俺の事、意気地なしだなって思ってくれていいよ。
でもだめなんだ。
もうこの気持ち、隠し通すなんて出来ないって気付いたから。」
「え・・・?」
「仕事が休みの日は大阪まで会いに行ってもいいか?」
「そんな事・・・ しないでよ。美作さん、忙しいのに。」
「それでも俺が牧野に会いたいって言ったら?」
「え? や・・・ それは・・・」
「だってこれに乗ったら2時間半で大阪に着くんだろ?
時間が出来たら会いに行きたい。」
「んーーーーー、もうっ!
急に色々言われても分かんないよ!」

そう言って、ドアの方に身体を向けてしまった。
その言葉と態度につい笑いが溢れた。

そうだよな、そうだろう。
ついさっきまで単なる見送りの人だった俺に、新幹線のドアの横で突然迫られてるんだから。

「ああ、悪かった。
じゃあ・・・ ゆっくり考えてくれるか?
きっと牧野の答えが出る前に俺が会いに行ってしまうけど。」
「・・・ねえ、本気で言ってる?」
「俺が冗談なんか言うタイプの男じゃないって知ってるだろ?」
「どうだろ・・・?」

本気じゃなかったら、こんなタイミングで、こんなカッコ悪い告白なんかしない。

そう思えば思うほど、今迄年上の人達との恋だと思い込んでいたあれこれが、全部真剣な想いからではなく計算ずくの行動だったんだと分かって来た。

恋をするってこういう事か。
『恋はするものではなく、おちるものだ』と書いてあったのは、何かの小説だったろうか。
きっと俺は落ちたんだ。
何年も胸の奥に押し込めていた想いが『だめだ』『だめだ』と思う度にどんどん膨らんで、とうとう今日、自分を抑えておけなくなった。
本当に人を想ってしまったら、駆け引きなんかする余裕もなく、想いは溢れ出す。
今初めて知ったよ、牧野。

「牧野はどうしたら信じてくれる?」
「え・・・?」

振り返ろうとした牧野の耳元に唇を近付けて・・・

「好きなんだ。
牧野だけ。
こんな気持ち、初めてなんだ・・・」

繋ぎ続けていた右手をぎゅっと握る。

「ひゃあっ!」

妙な声を上げて、きゅっと首を縮こめた牧野の蟀谷あたりに小さなキスを落とした。

「な、な、な・・・!?」
「残念ながら時間切れだ。
じゃあ、次の週末は大阪で。
気を付けて行けよ。」

このまま牧野を抱き締めて、唇を奪ってしまいたいけど・・・
それはきっとまだ早い。

品川駅のホームに滑り込んだのぞみのドアが開く。
名残惜しいけれど、牧野の右手をそっと解き放って、俺はホームに降りた。
まだ放心している牧野は、品川から乗り込む人の波に押されて見えなくなる。

初めて本気で人を好きになり。
形振り構わず告白をした。
それは東京ー品川間、たった7分の出来事だった。



あのカッコ悪い告白から約1年。
遠距離恋愛は二度とごめん!という牧野は、何度大阪まで会いに行ってもすまなさそうにはするけれど、俺の気持ちに応えてはくれず。
押してもだめなら引いてみる・・・なんて小細工しても仕方ないから、俺はやんわりとながら自分を売り込み続けている。
今日は俺の24歳の誕生日。
牧野から「おめでとう!」のメッセージが届くことを期待していた。
朝から何度も携帯をチェックするけど、まだ何もない。

まあ、牧野も仕事中だろうから・・・
夜になったら何か届くかも・・・

なんて願いつつも、携帯が気になって気になって仕方ない。
そんな俺の携帯がふるふると内ポケットで震えたのは夕方5時。
急いで手にした携帯の画面に現れた文字は、考えていたのとは全く違うものだった。

「今東京駅にいます。
今夜会えますか?」

全ての仕事を放り投げて、オフィスを飛び出した。
駅前の広場の妙なオブジェの前に立っている牧野を見付けて、背筋を何かが走り抜けていく。
息を切らしながら辿り着いた俺を見て「走って来なくていいのにー。」なんて言ってる。

「どうしたんだ、急に。大阪で何かあったのか?」
「まあ、あったって言えばあったけど・・・」

何があったんだろう?
この真面目な牧野が、平日に休んで東京に来るなんて。
よっぽどの事なんだろうか?
心配でどんどん胸が苦しくなって来た。

「あのね、あたし東京に転属願い出してたの通ったの。
4月から東京の販売部門に勤務になるんだ。
今日は有給休暇。
年度末近いのに余ってるから。
土日と合わせて3連休ー!」

そう一気に言い放ってにかっと笑ってる牧野を見て、俺が心配しているような事が起きたんじゃないとやっと分かった。
安堵の溜息が漏れる。

「あ、そうなのか・・・」
「うん、そうなの。
だからさ・・・ お誕生日おめでとう、美作さん。
今日はそれを言いに来たんだ。」

どくりと心臓が大きく鳴ったのが、耳の奥に響いたような気がした。

それって、それって・・・
もしかして・・・

「今日、俺の為に休みを取って来てくれた・・・?」
こくりと頷く牧野。
「4月から東京勤務?」
また首を縦に振る。
「なあ、それって・・・
俺、都合のいい解釈をしそうになってるんだけど・・・
間違ってる・・・のかな?」

ちょっとはにかんで、俺の視線を正面から受け止めない牧野が言う。

「多分、間違ってないと思う。」

身体の奥から、熱いマグマみたいなものがぐわっと湧いてきて。
気が付いたら俺は牧野を抱きしめてた。
牧野も嫌がらずにされるがままになってる。

「ヤバい。今日って最高の誕生日だ。」
「大袈裟だよ・・・」

大袈裟なんかじゃないだろ。
1年前のあの日、東京駅で溢れ出した想いが、今日同じ場所で結実するなんて。
夢にも思っていなかったんだから・・・

「ありがとう、牧野。
俺、牧野の事、ずっとずっと大切にする。」
「うん、あたしも・・・ 1年も待っててくれてありがとう。」

牧野を腕に抱き、この上ない幸せを噛み締める。

だめだ、俺はもう二度と牧野を離せそうにない!


__________



やっとお誕生日場面に辿り着けました!
1ヶ月遅れになったけど・・・(^_^;)
あきらきゅん、お誕生日おめでとうございました(苦笑)
ラストは書けていたんですが、ダラダラと話が長くなってまして。
バッサバッサと枝葉を切り落として、それでもこのボリュームになっちゃいました。
でももうこれ以上どこを削ったらいいのか分からなくなったので、このままUPさせて頂きます。

あき誕SSが終わったとこですが、もう類誕が目の前です!
3月29日23:00から3月30日1:00に類誕チャット会しようと思っていますので、良かったら遊びにいらして下さいね。
詳しいご案内は当日UPしますが、LINEのOpenChatにチャットルームをご用意しています。
「花沢類」で検索して下さいね。
『花沢類生誕祭2020』というお部屋です。
どうぞ宜しくお願いします!

週末、東京とその近県では外出自粛を・・・という事になりましたね。
お天気もあまり良くないようですし、日曜日は寒気の影響で雪が降るかも?なんて予報ですから。
お家でぬくぬく美味しいスイーツでもつまみながら読書でもしましょうかー?
久々に紙の本のページを捲ってみようかと思います!


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