2月、バレンタイン、その後は・・・あきらのお誕生日がやって来ますね。
2月はあきらの月!ということで。
何年振りに書いてるの?と思われるでしょうが・・・
「イチョウ並木の坂道で」の続きのお話です。
タイトルだけずーっと温めていて、中身が書けてませんでした。
改めて宜しくお願いします。
__________
「わあ、もしかして雪?」
手袋を嵌めた掌で雪を受け止めようと、空を見上げている牧野がいた。
ちらちらと、本当に小さな小さな雪の粒が薄鈍色の空から舞い降りてくる。
白い氷の欠片が牧野にも俺にも降りそそいで・・・
牧野の髪に、コートに、手袋に到達した途端に、すうっと融けて消えていく様子は、何故だか夢の中の出来事のように俺の目に映る。
「ねえ、美作さん!
雪の結晶見たいのに、すぐ融けちゃう!」
何も残っていない手袋を俺に見せ、淡く微笑みながら話し掛けてくる牧野を見詰めながら、俺の心臓はぎゅうっと絞られる様に痛んでいた。
牧野・・・
俺が求めているものは一体どこにあるんだろう?
お前のずっと冷え切ってる心は、暖めたいと思ってこの手で包んだら、この雪のように掴めないままに融けて消えてしまうんだろうか?
どうしたらその心を抱き締めることが出来るんだろうって、いつも考えているけれど。
俺が触れる事で消えてしまったら・・・と思うと怖くて、牧野の中に踏み込めない。
その小さな手を取ってそっと握る事しか出来ないんだ・・・
牧野の20歳の誕生日を2人きりで祝った。
想いを込めたプレゼントを贈り、司をもう待たないでくれ・・・なんて情けない願いを口にした夜。
牧野は言ったんだ。
「待っていない。」「記憶はきっと戻ってる。」「もう2度と道明寺と歩く未来はない。」と。
それが本当なら・・・と考えたら、胸がざわついて、いてもたってもいられなくなった。
司に会わないと。
司と話をしなければ。
その一心で俺は年明け早々にNYに飛んだ。
表向きは親父の名代として、美作からの今後の共同事業展開を見据えた表敬訪問。
そういう形でしか司のアポイントをもぎ取れなかったから。
ホテルからイエローキャブで向かった道明寺ビルディングはマンハッタンの中でも一際高く、堂々とした佇まいのそこに、俺は初めて足を踏み入れた。
司の執務室に通され、声を掛けようとした時、司が先手を打ってくる。
「あきら、何しに来た?」
「久しぶりに会うってのに随分な挨拶だな。」
俺は苦笑いしつつ、こちらをろくに見る事もなくデスクでパソコンのキーボードを叩き続けている司の方へと歩み寄った。
「表敬訪問・・・なんてのは建前だ。
いくつか聞きたい事があって来た。」
そう告げると、初めて司の視線がちらりと俺に向く。
「何だよ?」
「単刀直入に聞く。
司、記憶戻ったのか?」
「記憶?
お前ら、昔もなんやかんや言ってたけどな。
過去なんか意味ねえだろ。
俺は目の前の事と、これからの事で手一杯だ。」
「牧野つくし。
この名前に聞き覚えは?」
「誰だ、それ? 知らねえな。」
またパソコンに向かい合って、俺の方を見ない司。
本当に忙しいからなのか、何かを誤魔化したいからなのか、これだけでは判断がつきかねた。
「お前の恋人だった女だ。
ほんの数ヶ月だったけどな。」
「ふん、何だよ、恋人って。
俺はそんなもんいた事ねえし。
欲しいとも思わねえ。
あきら、ホントにお前何しに来たんだよ?
そんな事の為にわざわざNY迄来たのか?
お前、よっぽど暇なんだな。
俺は寝る間もない位忙しいんだよ。
そんなくだらねえ事聞くしか用がねえならとっとと帰れ。」
その話題には触れられたくないとバリケードを張ってるように思えるのは、俺の先入観から来るものか?
それとも牧野の勘は外れていて、本当に司の記憶はまだ戻っていないのだろうか?
こちらを睨み付けてきた司と視線がぶつかって、ひと時見詰め合う。
そしてその眼差しから、ある考えが閃いた。
きっとこの場では話せない。
そういう事なのだ。
ここは司の執務室だけれども・・・
司と牧野の間を永遠に引き裂きたいと思っている人間の懐でもあるから。
「・・・時間取らせたな。
あと3日、NYにいる。
一緒に食事でも出来るタイミングがあったら連絡してくれ。」
そう言って胸ポケットに入れていたビジネスカードにホテルの名前とルームナンバーを書き込んで、司のデスクに置いた。
「そんな時間ねえよ。」
「・・・そうか。
まあ兎に角俺はあと3日、ここにいる。
邪魔して悪かったな。」
司はもうこちらを見なかった。
俺はそのままそこを辞して、ビルの外に出た。
知らず知らずに肩に力が入っていたようで、ふう・・・と息を吐き出すと、身体が少しだけ緩んだ気がする。
でもあっという間に東京より気温の低いNYの冷え込んだ冬の大気に包まれ、また身体はすぐに強張り始めた。
昼間なのに吐き出す息は真っ白。
薄い氷をぱりんぱりんと突き破りながら歩いているかのような冷気が顔に突き刺さる。
凍てついた歩道は気を抜くと転びそうになるから、自然と歩くのはゆっくりになった。
どんよりと曇った空からは時折雪が舞い降り、マンハッタンのビル風であらぬ方向から雪の礫が吹き付けて来るのに翻弄されながら、地下鉄の駅へ向かって歩く。
駅まではビルのエントランスからたった5分の距離なのに、俺の身体はすっかり冷えてしまった。
タイムリミットはあと3日。
本当なら、司と話せたら直ぐにでも東京に帰るつもりだった。
でももし俺があの時思った事が当たっているなら・・・
時間に余裕を持たせた方が、司と話せる可能性が高くなる・・・と咄嗟に思ったんだ。
大学の冬季休暇が終わるまでの3日間、滞在を引き延ばす。
果たしてその間に司からコンタクトはあるのだろうか?
NYでの目的は司と会うことだけだった俺は、手持ち無沙汰になった。
独りで綺麗な景色を見て回りたいとも思えない。
ブロードウェイでミュージカルを観る気にもなれない。
買い物したい物も何も浮かばない。
忙しく働いている日中に司が連絡してくる可能性は低そうだと踏んで、とりあえずメトロポリタン美術館で時間を潰そうと決めた。
300万点という収蔵品がある美術館だ。
3日通っても見切れないだろう。
美術館とレストランとホテルだけを行き来して過ごしたNYでの時間。
離れていても、何を見ても、牧野を想う事を止められない。
ここは牧野も来た事がある街だ。
司の事が好きで、好きで・・・
突然に告げられた一方的な別れに、諦められないと司を追い掛け、単身この地にやって来た。
英語もろくに出来なくて。
知らない街で頼れる人もいない中、司を探して。
そして結局、司とではなく、牧野を案じて迎えに行った類と帰ってきた。
そしてその直後、司は記憶を失くした。
あの冬から3年。
最初の1年はいつか司の記憶が戻る事を信じて待ち続け。
大学に入ってからの2年は、もう司は戻らないと悟って諦めようとした日々。
そこからずっと牧野は過去に縛られ、独り立ち尽くしてる。
俺は司が何と言うのを期待してここに来たんだろう?
本当は思い出していると言って欲しいのか、それとも全く思い出せないと確認したいのか・・・
自分の衝動的な行動に、適切な理由を見つけられない。
矛盾した気持ちが胸に渦巻く。
司から連絡があったのは、帰国前日、3日目の夜だった。
__________
今更?とお思いでしょうが・・・^^;
「イチョウ」のあきらが帰って来ました。
23話の更新日は2015.03.09ですって。
ろ、6年振り?
誰も待ってないですよねー(苦笑)
目標としては、どのお話にも -fin- と打って終わりたい!という思いがあるのです。
頭の中には続きがずーっと何となーく寝かされてはいたのですが、それを文字にして紡ぐのは一苦労。
少しでもこの2人を前に進ませてあげたいなーと願いつつ頑張りますので、応援宜しくお願いします!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
2月はあきらの月!ということで。
何年振りに書いてるの?と思われるでしょうが・・・
「イチョウ並木の坂道で」の続きのお話です。
タイトルだけずーっと温めていて、中身が書けてませんでした。
改めて宜しくお願いします。
__________
「わあ、もしかして雪?」
手袋を嵌めた掌で雪を受け止めようと、空を見上げている牧野がいた。
ちらちらと、本当に小さな小さな雪の粒が薄鈍色の空から舞い降りてくる。
白い氷の欠片が牧野にも俺にも降りそそいで・・・
牧野の髪に、コートに、手袋に到達した途端に、すうっと融けて消えていく様子は、何故だか夢の中の出来事のように俺の目に映る。
「ねえ、美作さん!
雪の結晶見たいのに、すぐ融けちゃう!」
何も残っていない手袋を俺に見せ、淡く微笑みながら話し掛けてくる牧野を見詰めながら、俺の心臓はぎゅうっと絞られる様に痛んでいた。
牧野・・・
俺が求めているものは一体どこにあるんだろう?
お前のずっと冷え切ってる心は、暖めたいと思ってこの手で包んだら、この雪のように掴めないままに融けて消えてしまうんだろうか?
どうしたらその心を抱き締めることが出来るんだろうって、いつも考えているけれど。
俺が触れる事で消えてしまったら・・・と思うと怖くて、牧野の中に踏み込めない。
その小さな手を取ってそっと握る事しか出来ないんだ・・・
牧野の20歳の誕生日を2人きりで祝った。
想いを込めたプレゼントを贈り、司をもう待たないでくれ・・・なんて情けない願いを口にした夜。
牧野は言ったんだ。
「待っていない。」「記憶はきっと戻ってる。」「もう2度と道明寺と歩く未来はない。」と。
それが本当なら・・・と考えたら、胸がざわついて、いてもたってもいられなくなった。
司に会わないと。
司と話をしなければ。
その一心で俺は年明け早々にNYに飛んだ。
表向きは親父の名代として、美作からの今後の共同事業展開を見据えた表敬訪問。
そういう形でしか司のアポイントをもぎ取れなかったから。
ホテルからイエローキャブで向かった道明寺ビルディングはマンハッタンの中でも一際高く、堂々とした佇まいのそこに、俺は初めて足を踏み入れた。
司の執務室に通され、声を掛けようとした時、司が先手を打ってくる。
「あきら、何しに来た?」
「久しぶりに会うってのに随分な挨拶だな。」
俺は苦笑いしつつ、こちらをろくに見る事もなくデスクでパソコンのキーボードを叩き続けている司の方へと歩み寄った。
「表敬訪問・・・なんてのは建前だ。
いくつか聞きたい事があって来た。」
そう告げると、初めて司の視線がちらりと俺に向く。
「何だよ?」
「単刀直入に聞く。
司、記憶戻ったのか?」
「記憶?
お前ら、昔もなんやかんや言ってたけどな。
過去なんか意味ねえだろ。
俺は目の前の事と、これからの事で手一杯だ。」
「牧野つくし。
この名前に聞き覚えは?」
「誰だ、それ? 知らねえな。」
またパソコンに向かい合って、俺の方を見ない司。
本当に忙しいからなのか、何かを誤魔化したいからなのか、これだけでは判断がつきかねた。
「お前の恋人だった女だ。
ほんの数ヶ月だったけどな。」
「ふん、何だよ、恋人って。
俺はそんなもんいた事ねえし。
欲しいとも思わねえ。
あきら、ホントにお前何しに来たんだよ?
そんな事の為にわざわざNY迄来たのか?
お前、よっぽど暇なんだな。
俺は寝る間もない位忙しいんだよ。
そんなくだらねえ事聞くしか用がねえならとっとと帰れ。」
その話題には触れられたくないとバリケードを張ってるように思えるのは、俺の先入観から来るものか?
それとも牧野の勘は外れていて、本当に司の記憶はまだ戻っていないのだろうか?
こちらを睨み付けてきた司と視線がぶつかって、ひと時見詰め合う。
そしてその眼差しから、ある考えが閃いた。
きっとこの場では話せない。
そういう事なのだ。
ここは司の執務室だけれども・・・
司と牧野の間を永遠に引き裂きたいと思っている人間の懐でもあるから。
「・・・時間取らせたな。
あと3日、NYにいる。
一緒に食事でも出来るタイミングがあったら連絡してくれ。」
そう言って胸ポケットに入れていたビジネスカードにホテルの名前とルームナンバーを書き込んで、司のデスクに置いた。
「そんな時間ねえよ。」
「・・・そうか。
まあ兎に角俺はあと3日、ここにいる。
邪魔して悪かったな。」
司はもうこちらを見なかった。
俺はそのままそこを辞して、ビルの外に出た。
知らず知らずに肩に力が入っていたようで、ふう・・・と息を吐き出すと、身体が少しだけ緩んだ気がする。
でもあっという間に東京より気温の低いNYの冷え込んだ冬の大気に包まれ、また身体はすぐに強張り始めた。
昼間なのに吐き出す息は真っ白。
薄い氷をぱりんぱりんと突き破りながら歩いているかのような冷気が顔に突き刺さる。
凍てついた歩道は気を抜くと転びそうになるから、自然と歩くのはゆっくりになった。
どんよりと曇った空からは時折雪が舞い降り、マンハッタンのビル風であらぬ方向から雪の礫が吹き付けて来るのに翻弄されながら、地下鉄の駅へ向かって歩く。
駅まではビルのエントランスからたった5分の距離なのに、俺の身体はすっかり冷えてしまった。
タイムリミットはあと3日。
本当なら、司と話せたら直ぐにでも東京に帰るつもりだった。
でももし俺があの時思った事が当たっているなら・・・
時間に余裕を持たせた方が、司と話せる可能性が高くなる・・・と咄嗟に思ったんだ。
大学の冬季休暇が終わるまでの3日間、滞在を引き延ばす。
果たしてその間に司からコンタクトはあるのだろうか?
NYでの目的は司と会うことだけだった俺は、手持ち無沙汰になった。
独りで綺麗な景色を見て回りたいとも思えない。
ブロードウェイでミュージカルを観る気にもなれない。
買い物したい物も何も浮かばない。
忙しく働いている日中に司が連絡してくる可能性は低そうだと踏んで、とりあえずメトロポリタン美術館で時間を潰そうと決めた。
300万点という収蔵品がある美術館だ。
3日通っても見切れないだろう。
美術館とレストランとホテルだけを行き来して過ごしたNYでの時間。
離れていても、何を見ても、牧野を想う事を止められない。
ここは牧野も来た事がある街だ。
司の事が好きで、好きで・・・
突然に告げられた一方的な別れに、諦められないと司を追い掛け、単身この地にやって来た。
英語もろくに出来なくて。
知らない街で頼れる人もいない中、司を探して。
そして結局、司とではなく、牧野を案じて迎えに行った類と帰ってきた。
そしてその直後、司は記憶を失くした。
あの冬から3年。
最初の1年はいつか司の記憶が戻る事を信じて待ち続け。
大学に入ってからの2年は、もう司は戻らないと悟って諦めようとした日々。
そこからずっと牧野は過去に縛られ、独り立ち尽くしてる。
俺は司が何と言うのを期待してここに来たんだろう?
本当は思い出していると言って欲しいのか、それとも全く思い出せないと確認したいのか・・・
自分の衝動的な行動に、適切な理由を見つけられない。
矛盾した気持ちが胸に渦巻く。
司から連絡があったのは、帰国前日、3日目の夜だった。
__________
今更?とお思いでしょうが・・・^^;
「イチョウ」のあきらが帰って来ました。
23話の更新日は2015.03.09ですって。
ろ、6年振り?
誰も待ってないですよねー(苦笑)
目標としては、どのお話にも -fin- と打って終わりたい!という思いがあるのです。
頭の中には続きがずーっと何となーく寝かされてはいたのですが、それを文字にして紡ぐのは一苦労。
少しでもこの2人を前に進ませてあげたいなーと願いつつ頑張りますので、応援宜しくお願いします!



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