最近お休みの日はよく美作さんちの東屋に入り浸っている。
ええ、そーですよ。
いつだったか、美作さんと西門さんに閉じ込められた、あの東屋ですよ。
あの時、あいつもあたしもテンパってたとはいえ、何でバスルームの窓から外に出たりしたんだろ?
今になって思うと、入り口を外からロックされてたとしても、もうちょっとマシなところから出られた筈なのに。
それだけ頭がオカシクなってたんだろう。
恋というのは、非日常のシチュエーションというのは、人を狂わせるわよね、ホントに。
そんな高校時代の駆け抜けた恋もすっかり思い出となり。
この東屋にいても仄かに懐かしさが漂うだけになった。
スタンダールというフランス人の作家がその昔、『恋は熱病のようなものである。 それは意思とは関係なく生まれ、そして滅びる。』と言ったそうだけど。
正にあの恋はその通りだったのよ。
因みにこのスタンダールという人の小説は1冊も読んだ事はない。
それを今近くで優雅に紅茶を嗜みながら読書している人に言ったら、気の毒そうに見詰められた挙句に、帰り掛けにどさっと本を持たされそうだから、絶対黙っておく。
読書はタブレット端末じゃなくて、紙派なんだそうだ。
まあ、あたしもどっちかと言うと、紙をめくって読む方が落ち着くから、気持ちは分かる。
でも、もしかしたらこの人は原書で読んでるのかもしれない。
フランス語も堪能だろうし。
恋愛問題の大家<たいか>なんだし。
あたしは今大学でフランス語を勉強してるとはいえ、原書で読める程の力は到底ない。
いや、もしかしたら日本語に翻訳されてるものだって意味不明だったりするのかも?
ともかく。
大切なのは、スタンダールでも小説でもあたしのフランス語力でもなくて。
毎週末、この東屋に2人でいるって事なのだ。
あたしがこの東屋を使わせて貰っているのには、ちょっとした理由がある。
絵夢ちゃん芽夢ちゃんのクリスマスプレゼントに作ってあげたレジンのキーホルダー。
それがハンドメイドだと知った2人の心をいたくくすぐったらしく、「作り方を教えて、教えて、お姉ちゃま!」攻撃がすごくて。
「うん、じゃあ今度一緒に作ろうねー。」と約束して、次にお邸にお呼ばれした時には、この東屋の一画がすっかりレジン教室でも開けそうな工房に様変わりしていたのだ。
あたしなんて、ネットショップで買ったUVライトも込み込みでごっきゅっぱ(5980円よ!)のセットで作ってるのに・・・
「ねえ、これさ・・・
あたしじゃなくて、ホントの講師の人呼んだらいいんじゃないの?」
「いや、あいつら牧野から習いたいんだから。
他の人じゃ意味ないだろう?」
「でもあたし、ほんの趣味程度で・・・
別に上手くもないんだけど・・・」
「そんなの関係ないって。
つくしお姉ちゃまと何か作りたいって思ってるんだから。
悪いけど、付き合ってやってくれよ。
俺はあいつらを甘やかすのは得意でも、そのレジンってのは門外漢だし。」
いや、絶対にこの人、やり始めたらあたしなんかよりずっと上手に、素敵な物を色々作りそう。
手先器用だし。
という事で始まった『つくしお姉ちゃまのレジン教室』。
こんなに道具を揃えてしまったにも関わらず、双子ちゃん達は3回やったら気持ちが落ち着いたらしく、「教えて!」攻撃はピタリと止んだのだった。
夢子さんが申し訳なさそうに、
「つくしちゃん、子供達飽きっぽくてごめんなさい。
良かったら東屋のお道具はいつでも好きに使ってね。」
と言って下さったので、足繁く通うことになった。
あたしの持ってる安売りセットなんか足元にも及ばない程の便利な道具の数々。
そろそろご飯だからテーブルの上片付けなくちゃ!とか、そんな悩みからも解放される専用スペース。
そして何より美作家のお庭や温室の草花を好きに詰んで、ドライフラワーや押し花にして使えるのだ。
何たる贅沢な工房なのかしら!
そしてここには豪華なオプションが加わる。
あたしの近くに座って読書する美作さんが。
時々後ろから覗き込んできて、「ああ、それいいな。」って言ったり。
「俺にも何か作ってくれよ。」とか無理難題を吹っかけてくるんだけどね。
貴方の声がふわりと降ってくる度に、目が眩むような気がするんだよ。
優しい気配に満ちたこの空間で2人きり。
ふとした拍子に気持ちが溢れそうになって困っちゃう。
「あのね、貴方が好きなんだよ。」とうっかり呟いてしまいそう。
ううん、そんな言葉じゃ足りない位、胸の中には想いが詰まってる。
でもあたしのこんな気持ち、貴方にとってはありがた迷惑なんでしょ?
あたし、全然貴方の好みのタイプじゃないもん。
どっちかって言うと、絵夢ちゃん芽夢ちゃんと同じカテゴリ。
手のかかる妹ポジション。
それでもいいから近くにいたいと思うあたしって、結構健気じゃない?
貴方の声を少しでも聞いていたくて、ちょっぴり我儘を言ってみる。
「ねえ、何か本を読み聞かせをしてくれない?」なんて。
「絵夢と芽夢みたいな事言うなあ。」
ああ、やっぱりあたしは妹ポジションだよね。
「今読んでるこれ、デジタルマーケティングの本だぞ。
牧野、興味ないだろ。」
勿論興味ない。
そもそもデジタルマーケティングが何なのかすら分からない。
いくら貴方の声でも、その内容じゃ全く頭に入って来ないと思う。
「何か音が欲しいなら音楽掛けるけど。」
違うの。
貴方の声を聞いていたいだけなんだから。
でも出来ればあたしにも分かる内容の方がいい。
「んー、じゃあいいや。」
「何だよ。変な奴。」
そうは言いつつも、美作さんは何かを操作して、音楽を流し始めた。
これくらい有名ならあたしも知ってます。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲。
あたしがヴァイオリンの調べが好きだと知っている美作さんのセレクト。
お心遣いは有り難いけど・・・
でも違うんだよね、あたしの我儘はこういう事じゃないのよ。
「ちょっと母屋に行ってくる。
今日のおやつは何がいい?」
おやつって!
そりゃいつもここにお邪魔した時は、なんやかんや頂いておりますけども!
子供扱いにも程があるでしょ?
「別に・・・ あたし、要らない。」
「へえ。珍しいな。」
そう呟いて、美作さんはここを出て行った。
あーーー!!!
素直になりたいのに、全然素直になれない。
優しくして貰ってるのに、つっけんどんにしか話せない。
あたしの中の天邪鬼。
どうしたら大人しくしてくれるのかな?
いつも上手く言葉に出来なくてもどかしい。
あたしって恋愛に不器用過ぎる。
ここまで生きてきて、約20年。
恋っていったら、胸キュンな初恋と、その次の目まぐるしかったドタバタなやつと、この今の片想いしかあたしは知らないし。
上手くいかなくても当然か・・・
それにしても、その相手が全部F4の誰かって・・・
でもあの人達ってやっぱり特別な存在だから仕方ない・・・のかなあ?
でもまあ、4人目は絶対ない。
何があってもない。
天変地異が起こって、この世に2人きりになったとしても、あの下半身で物を考えるオトコ・西門総二郎とは絶対に相容れない。
万が一そんな場面が訪れて、貞操の危機を感じたら、こん棒か何かでタコ殴りにしてやる。
2人きりになってしまったらまず武器を探す、武器を探す・・・と覚えとこ。
「ない・・・、ない・・・、探す・・・、探す・・・って、何か失くしたのか?」
「ひゃあっ!」
「牧野、驚き過ぎ。」
いつの間にか美作さんが戻って来ていたらしい。
笑いが堪えられないといった感じにニヤニヤしてる。
「あ、あ、あの、小さいパーツがどこか行っちゃったかなー?なんて・・・」
「ふうん、一緒に探すか?」
「ううううう、ううん、ダイジョウブっ!
きっとそのうち出てくるし・・・」
「じゃあちょっとこっちおいで?」
あ、また絵夢ちゃん芽夢ちゃんに話し掛けるのと同じ口調になってる。
妹ポジションでは満足できないのに、近くに行けるのは嬉しくて。
ついついその立場に甘んじてしまう。
『おいで?』なんて何かしら?とそろりそろりと近付いていったら・・・
突然視界が遮られた。
________________
あきら、お誕生日おめでとう!
お誕生日SS、さらっと1話完結位で書きましょうかね・・・と思ったのに、全然終わらなかったパターンです。
なるべく早く終われるように鋭意努力します。はい。
レジンは少々嗜みます。
つくしよりは色々揃えちゃってます。
手軽にあれこれ作れるのが良いところです。

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ええ、そーですよ。
いつだったか、美作さんと西門さんに閉じ込められた、あの東屋ですよ。
あの時、あいつもあたしもテンパってたとはいえ、何でバスルームの窓から外に出たりしたんだろ?
今になって思うと、入り口を外からロックされてたとしても、もうちょっとマシなところから出られた筈なのに。
それだけ頭がオカシクなってたんだろう。
恋というのは、非日常のシチュエーションというのは、人を狂わせるわよね、ホントに。
そんな高校時代の駆け抜けた恋もすっかり思い出となり。
この東屋にいても仄かに懐かしさが漂うだけになった。
スタンダールというフランス人の作家がその昔、『恋は熱病のようなものである。 それは意思とは関係なく生まれ、そして滅びる。』と言ったそうだけど。
正にあの恋はその通りだったのよ。
因みにこのスタンダールという人の小説は1冊も読んだ事はない。
それを今近くで優雅に紅茶を嗜みながら読書している人に言ったら、気の毒そうに見詰められた挙句に、帰り掛けにどさっと本を持たされそうだから、絶対黙っておく。
読書はタブレット端末じゃなくて、紙派なんだそうだ。
まあ、あたしもどっちかと言うと、紙をめくって読む方が落ち着くから、気持ちは分かる。
でも、もしかしたらこの人は原書で読んでるのかもしれない。
フランス語も堪能だろうし。
恋愛問題の大家<たいか>なんだし。
あたしは今大学でフランス語を勉強してるとはいえ、原書で読める程の力は到底ない。
いや、もしかしたら日本語に翻訳されてるものだって意味不明だったりするのかも?
ともかく。
大切なのは、スタンダールでも小説でもあたしのフランス語力でもなくて。
毎週末、この東屋に2人でいるって事なのだ。
あたしがこの東屋を使わせて貰っているのには、ちょっとした理由がある。
絵夢ちゃん芽夢ちゃんのクリスマスプレゼントに作ってあげたレジンのキーホルダー。
それがハンドメイドだと知った2人の心をいたくくすぐったらしく、「作り方を教えて、教えて、お姉ちゃま!」攻撃がすごくて。
「うん、じゃあ今度一緒に作ろうねー。」と約束して、次にお邸にお呼ばれした時には、この東屋の一画がすっかりレジン教室でも開けそうな工房に様変わりしていたのだ。
あたしなんて、ネットショップで買ったUVライトも込み込みでごっきゅっぱ(5980円よ!)のセットで作ってるのに・・・
「ねえ、これさ・・・
あたしじゃなくて、ホントの講師の人呼んだらいいんじゃないの?」
「いや、あいつら牧野から習いたいんだから。
他の人じゃ意味ないだろう?」
「でもあたし、ほんの趣味程度で・・・
別に上手くもないんだけど・・・」
「そんなの関係ないって。
つくしお姉ちゃまと何か作りたいって思ってるんだから。
悪いけど、付き合ってやってくれよ。
俺はあいつらを甘やかすのは得意でも、そのレジンってのは門外漢だし。」
いや、絶対にこの人、やり始めたらあたしなんかよりずっと上手に、素敵な物を色々作りそう。
手先器用だし。
という事で始まった『つくしお姉ちゃまのレジン教室』。
こんなに道具を揃えてしまったにも関わらず、双子ちゃん達は3回やったら気持ちが落ち着いたらしく、「教えて!」攻撃はピタリと止んだのだった。
夢子さんが申し訳なさそうに、
「つくしちゃん、子供達飽きっぽくてごめんなさい。
良かったら東屋のお道具はいつでも好きに使ってね。」
と言って下さったので、足繁く通うことになった。
あたしの持ってる安売りセットなんか足元にも及ばない程の便利な道具の数々。
そろそろご飯だからテーブルの上片付けなくちゃ!とか、そんな悩みからも解放される専用スペース。
そして何より美作家のお庭や温室の草花を好きに詰んで、ドライフラワーや押し花にして使えるのだ。
何たる贅沢な工房なのかしら!
そしてここには豪華なオプションが加わる。
あたしの近くに座って読書する美作さんが。
時々後ろから覗き込んできて、「ああ、それいいな。」って言ったり。
「俺にも何か作ってくれよ。」とか無理難題を吹っかけてくるんだけどね。
貴方の声がふわりと降ってくる度に、目が眩むような気がするんだよ。
優しい気配に満ちたこの空間で2人きり。
ふとした拍子に気持ちが溢れそうになって困っちゃう。
「あのね、貴方が好きなんだよ。」とうっかり呟いてしまいそう。
ううん、そんな言葉じゃ足りない位、胸の中には想いが詰まってる。
でもあたしのこんな気持ち、貴方にとってはありがた迷惑なんでしょ?
あたし、全然貴方の好みのタイプじゃないもん。
どっちかって言うと、絵夢ちゃん芽夢ちゃんと同じカテゴリ。
手のかかる妹ポジション。
それでもいいから近くにいたいと思うあたしって、結構健気じゃない?
貴方の声を少しでも聞いていたくて、ちょっぴり我儘を言ってみる。
「ねえ、何か本を読み聞かせをしてくれない?」なんて。
「絵夢と芽夢みたいな事言うなあ。」
ああ、やっぱりあたしは妹ポジションだよね。
「今読んでるこれ、デジタルマーケティングの本だぞ。
牧野、興味ないだろ。」
勿論興味ない。
そもそもデジタルマーケティングが何なのかすら分からない。
いくら貴方の声でも、その内容じゃ全く頭に入って来ないと思う。
「何か音が欲しいなら音楽掛けるけど。」
違うの。
貴方の声を聞いていたいだけなんだから。
でも出来ればあたしにも分かる内容の方がいい。
「んー、じゃあいいや。」
「何だよ。変な奴。」
そうは言いつつも、美作さんは何かを操作して、音楽を流し始めた。
これくらい有名ならあたしも知ってます。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲。
あたしがヴァイオリンの調べが好きだと知っている美作さんのセレクト。
お心遣いは有り難いけど・・・
でも違うんだよね、あたしの我儘はこういう事じゃないのよ。
「ちょっと母屋に行ってくる。
今日のおやつは何がいい?」
おやつって!
そりゃいつもここにお邪魔した時は、なんやかんや頂いておりますけども!
子供扱いにも程があるでしょ?
「別に・・・ あたし、要らない。」
「へえ。珍しいな。」
そう呟いて、美作さんはここを出て行った。
あーーー!!!
素直になりたいのに、全然素直になれない。
優しくして貰ってるのに、つっけんどんにしか話せない。
あたしの中の天邪鬼。
どうしたら大人しくしてくれるのかな?
いつも上手く言葉に出来なくてもどかしい。
あたしって恋愛に不器用過ぎる。
ここまで生きてきて、約20年。
恋っていったら、胸キュンな初恋と、その次の目まぐるしかったドタバタなやつと、この今の片想いしかあたしは知らないし。
上手くいかなくても当然か・・・
それにしても、その相手が全部F4の誰かって・・・
でもあの人達ってやっぱり特別な存在だから仕方ない・・・のかなあ?
でもまあ、4人目は絶対ない。
何があってもない。
天変地異が起こって、この世に2人きりになったとしても、あの下半身で物を考えるオトコ・西門総二郎とは絶対に相容れない。
万が一そんな場面が訪れて、貞操の危機を感じたら、こん棒か何かでタコ殴りにしてやる。
2人きりになってしまったらまず武器を探す、武器を探す・・・と覚えとこ。
「ない・・・、ない・・・、探す・・・、探す・・・って、何か失くしたのか?」
「ひゃあっ!」
「牧野、驚き過ぎ。」
いつの間にか美作さんが戻って来ていたらしい。
笑いが堪えられないといった感じにニヤニヤしてる。
「あ、あ、あの、小さいパーツがどこか行っちゃったかなー?なんて・・・」
「ふうん、一緒に探すか?」
「ううううう、ううん、ダイジョウブっ!
きっとそのうち出てくるし・・・」
「じゃあちょっとこっちおいで?」
あ、また絵夢ちゃん芽夢ちゃんに話し掛けるのと同じ口調になってる。
妹ポジションでは満足できないのに、近くに行けるのは嬉しくて。
ついついその立場に甘んじてしまう。
『おいで?』なんて何かしら?とそろりそろりと近付いていったら・・・
突然視界が遮られた。
________________
あきら、お誕生日おめでとう!
お誕生日SS、さらっと1話完結位で書きましょうかね・・・と思ったのに、全然終わらなかったパターンです。
なるべく早く終われるように鋭意努力します。はい。
レジンは少々嗜みます。
つくしよりは色々揃えちゃってます。
手軽にあれこれ作れるのが良いところです。



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