人を心の底から好きになるなんて、牧野に出会うまで俺は知らなかったんだ。
静の事は好きだったよ。
でも振り返ってみれば、あれは『恋』じゃなくて『憧れ』だった。
いつでも優しく、美しく、自分が信じた道を歩いて行く静に憧れていた。
静にとって俺は弟みたいな存在で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
静がいなけりゃ生きていけない・・・なんて思ってパリまで追いかけて行ったけれど、側にいたって俺の事をちっとも見ないで、自分のやりたい事に邁進している静と一緒にいる日々はとてつもなく虚しかった。
それで初めて気が付いたんだ。
俺と静の関係は恋愛なんかじゃなかったって。
俺の一方的な憧れ。
ただそれだけだったんだ。
英徳に戻って来た俺は、少しずつ牧野と過ごす時間が長くなっていった。
いつの間にか牧野の頓狂な表情を見ているのが楽しみになってた。
俺の前でだけ零す愚痴。
司の前では見せないだろうリラックスした様子。
2人で過ごす非常階段の踊り場は、普段はなんてことない場所なのに、牧野といる時だけ特別な空間になった。
あそこで待っていたら牧野が来るかもしれないと思うようになった。
気が付いたら自分の心の中に牧野が棲んでいた。
顔を見れたら嬉しくなったし、会えない時にはどうしているのか気になった。
ボタンを掛け違えたかのように、俺と牧野の気持ちは擦れ違ってた。
牧野が俺を好きでいてくれた時には、俺は静の事しか考えられなくて。
俺が牧野の事を見詰め始めた時には、牧野は司を好きになってた。
だったら、そっと見守ろうと思ったんだよ。
俺の友達である司と、俺の好きな牧野とが気持ちを通わせ合ったのなら、俺はそれを邪魔したりしないって。
でも牧野が1人でNYに行ったと聞いて、居ても立ってもいられなくなった。
絶対に知らない街のどこかで途方に暮れて泣いてるって思ったから。
それなら俺が助けに行かないと・・・と身体は勝手に動いてた。
あの時、俺ははっきり自覚したんだ。
牧野は俺にとって特別な存在なんだって。
『好き』なんて気持ちは、溢れる程胸に抱えていても、目に見えないからすごく分かりにくい。
行動にして、言葉にして、相手に伝えたいって強く思わないと伝わらない。
きっと牧野を想う前の俺は、そんな事を必死にするなんて面倒だ・・・って思って生きてた。
そういうことは、他の誰かに任せておけばいいやって。
俺には関係ないことだって。
そんな風に思ってた。
でも牧野だけには知って欲しいって思うようになったんだ。
俺が牧野を大切に思ってるって事を。
この世でたった1人、俺の心を揺らすのは牧野だけなんだって事を。
NYに迎えに行ったあの日から、色々な事があり、歳月を重ね・・・
今やっと牧野は俺の隣にいてくれるようになった。
春が来て沢山の花が綻ぶと、牧野も自然と笑顔になる。
その笑い顔を見て、俺が幸せになる。
不思議な幸せのリンク。
今日の牧野も、スマホ片手ににこにこ笑顔いっぱいだ。
通りすがりに見かける花の写真を撮っては、アプリで名前を調べてる。
「ねえ、類、このお花、蔓日々草って言うんだって!
毎年ここ通る度に可愛いお花だなーって思ってたけど、名前知らなかったの!
アプリ様様だわ。」
「へえ、そうなんだ。」
「あ、こっちの白いのは五月雨桔梗だって。
まだ3月なのに咲くんだね!
日当たりがいいのかな?
お世話してる人が上手なのかな?
桔梗って白いのもあるんだねえ。
これ、お星様みたいなお花で可愛いなあ。」
独りで興奮して喋りまくってる。
5枚の花びらが風車みたいな青藤色の花も、白い星型の花も、俺からみたらありふれた野の花に見えるけれど、牧野にとってはそんな花の名前も大切なものらしい。
そして歩く先々では桜吹雪が降っている。
東京の開花宣言から約2週間。
日当たりのいいところに生えている木は少し葉桜になり、風が吹くたびにはらはらと花びらが舞う。
牧野がそれをうっとりと眺めて、また写真を撮っている。
「綺麗だねー。
今日一緒にここ歩けて良かった!
こんなに綺麗な桜の道、お誕生日の類と見れて嬉しくなっちゃう。」
「俺の誕生日なのに、牧野が嬉しくなるの?」
「そーだよ。
こんなお花がいっぱい咲く素敵な季節に類が生まれてきて良かったなあって思うもの。
自分では思わないの?」
どの季節でも良かったよ。
あんたにこうして出会えたなら。
でもあんたがこんなに喜ぶなら、この季節で正解なのかな?
「嬉しいよ。」
「そうでしょ!」
あんたが喜んでるのが眩しく目に映る。
あんたが笑ってるのを見ると心が温かくなる。
あんたが俺の欠けてる感情を一つずつ埋めてくれる。
あんたが俺に命を吹き込んでるんだ。
隣を歩く牧野の手を掴まえた。
柔く握りながら、そっと見下ろす。
少し恥ずかしそうに頬を色付かせた牧野が俺を見て笑ってくれるから、これ以上欲しい物なんかないような気持ちになる。
今この瞬間が生きてきて一番幸せな時なのかも知れない。
「類、お誕生日、オメデト。」
牧野が祝ってくれるから、誕生日は特別な日になる。
牧野と一緒にいる事で、やっと俺にも分かった。
恋をするとは、相手と色々な時間を共有したいと思う事なんだと。
こうして一つずつ、牧野と色んな事を分かち合って生きていきたい。
それを教えてくれたのは牧野だ。
「ありがとう、牧野。愛してる。」
手を繋いで、笑い掛けて、目と目を合わせて、言葉でも伝える。
俺のありったけの気持ちが真っ直ぐ牧野に届くように。
________________
類のお誕生日SSでした。
去年はドタバタして書いてあげられなかったので、今年は書かねばヤバイ・・・と思ってました(苦笑)
タイトルを決められなくて、UPする3分前くらいまで考えていて、土壇場で「恋を知る時」としましたが、如何でしょうか?
類はつくしと出逢って、恋心を知ったと思うんですよね。
静を好きだった時は、一方的に焦がれているだけで相手から気持ちが返って来なくても意に介さなかったような節があるけど。
つくしを好きになって初めて、自分がつくしを笑顔にしたいって強く思ったんじゃないかと。
本家ではどこまでも献身的な類ですが、ここでは幸せにしてあげたいと思ってます。

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静の事は好きだったよ。
でも振り返ってみれば、あれは『恋』じゃなくて『憧れ』だった。
いつでも優しく、美しく、自分が信じた道を歩いて行く静に憧れていた。
静にとって俺は弟みたいな存在で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
静がいなけりゃ生きていけない・・・なんて思ってパリまで追いかけて行ったけれど、側にいたって俺の事をちっとも見ないで、自分のやりたい事に邁進している静と一緒にいる日々はとてつもなく虚しかった。
それで初めて気が付いたんだ。
俺と静の関係は恋愛なんかじゃなかったって。
俺の一方的な憧れ。
ただそれだけだったんだ。
英徳に戻って来た俺は、少しずつ牧野と過ごす時間が長くなっていった。
いつの間にか牧野の頓狂な表情を見ているのが楽しみになってた。
俺の前でだけ零す愚痴。
司の前では見せないだろうリラックスした様子。
2人で過ごす非常階段の踊り場は、普段はなんてことない場所なのに、牧野といる時だけ特別な空間になった。
あそこで待っていたら牧野が来るかもしれないと思うようになった。
気が付いたら自分の心の中に牧野が棲んでいた。
顔を見れたら嬉しくなったし、会えない時にはどうしているのか気になった。
ボタンを掛け違えたかのように、俺と牧野の気持ちは擦れ違ってた。
牧野が俺を好きでいてくれた時には、俺は静の事しか考えられなくて。
俺が牧野の事を見詰め始めた時には、牧野は司を好きになってた。
だったら、そっと見守ろうと思ったんだよ。
俺の友達である司と、俺の好きな牧野とが気持ちを通わせ合ったのなら、俺はそれを邪魔したりしないって。
でも牧野が1人でNYに行ったと聞いて、居ても立ってもいられなくなった。
絶対に知らない街のどこかで途方に暮れて泣いてるって思ったから。
それなら俺が助けに行かないと・・・と身体は勝手に動いてた。
あの時、俺ははっきり自覚したんだ。
牧野は俺にとって特別な存在なんだって。
『好き』なんて気持ちは、溢れる程胸に抱えていても、目に見えないからすごく分かりにくい。
行動にして、言葉にして、相手に伝えたいって強く思わないと伝わらない。
きっと牧野を想う前の俺は、そんな事を必死にするなんて面倒だ・・・って思って生きてた。
そういうことは、他の誰かに任せておけばいいやって。
俺には関係ないことだって。
そんな風に思ってた。
でも牧野だけには知って欲しいって思うようになったんだ。
俺が牧野を大切に思ってるって事を。
この世でたった1人、俺の心を揺らすのは牧野だけなんだって事を。
NYに迎えに行ったあの日から、色々な事があり、歳月を重ね・・・
今やっと牧野は俺の隣にいてくれるようになった。
春が来て沢山の花が綻ぶと、牧野も自然と笑顔になる。
その笑い顔を見て、俺が幸せになる。
不思議な幸せのリンク。
今日の牧野も、スマホ片手ににこにこ笑顔いっぱいだ。
通りすがりに見かける花の写真を撮っては、アプリで名前を調べてる。
「ねえ、類、このお花、蔓日々草って言うんだって!
毎年ここ通る度に可愛いお花だなーって思ってたけど、名前知らなかったの!
アプリ様様だわ。」
「へえ、そうなんだ。」
「あ、こっちの白いのは五月雨桔梗だって。
まだ3月なのに咲くんだね!
日当たりがいいのかな?
お世話してる人が上手なのかな?
桔梗って白いのもあるんだねえ。
これ、お星様みたいなお花で可愛いなあ。」
独りで興奮して喋りまくってる。
5枚の花びらが風車みたいな青藤色の花も、白い星型の花も、俺からみたらありふれた野の花に見えるけれど、牧野にとってはそんな花の名前も大切なものらしい。
そして歩く先々では桜吹雪が降っている。
東京の開花宣言から約2週間。
日当たりのいいところに生えている木は少し葉桜になり、風が吹くたびにはらはらと花びらが舞う。
牧野がそれをうっとりと眺めて、また写真を撮っている。
「綺麗だねー。
今日一緒にここ歩けて良かった!
こんなに綺麗な桜の道、お誕生日の類と見れて嬉しくなっちゃう。」
「俺の誕生日なのに、牧野が嬉しくなるの?」
「そーだよ。
こんなお花がいっぱい咲く素敵な季節に類が生まれてきて良かったなあって思うもの。
自分では思わないの?」
どの季節でも良かったよ。
あんたにこうして出会えたなら。
でもあんたがこんなに喜ぶなら、この季節で正解なのかな?
「嬉しいよ。」
「そうでしょ!」
あんたが喜んでるのが眩しく目に映る。
あんたが笑ってるのを見ると心が温かくなる。
あんたが俺の欠けてる感情を一つずつ埋めてくれる。
あんたが俺に命を吹き込んでるんだ。
隣を歩く牧野の手を掴まえた。
柔く握りながら、そっと見下ろす。
少し恥ずかしそうに頬を色付かせた牧野が俺を見て笑ってくれるから、これ以上欲しい物なんかないような気持ちになる。
今この瞬間が生きてきて一番幸せな時なのかも知れない。
「類、お誕生日、オメデト。」
牧野が祝ってくれるから、誕生日は特別な日になる。
牧野と一緒にいる事で、やっと俺にも分かった。
恋をするとは、相手と色々な時間を共有したいと思う事なんだと。
こうして一つずつ、牧野と色んな事を分かち合って生きていきたい。
それを教えてくれたのは牧野だ。
「ありがとう、牧野。愛してる。」
手を繋いで、笑い掛けて、目と目を合わせて、言葉でも伝える。
俺のありったけの気持ちが真っ直ぐ牧野に届くように。
________________
類のお誕生日SSでした。
去年はドタバタして書いてあげられなかったので、今年は書かねばヤバイ・・・と思ってました(苦笑)
タイトルを決められなくて、UPする3分前くらいまで考えていて、土壇場で「恋を知る時」としましたが、如何でしょうか?
類はつくしと出逢って、恋心を知ったと思うんですよね。
静を好きだった時は、一方的に焦がれているだけで相手から気持ちが返って来なくても意に介さなかったような節があるけど。
つくしを好きになって初めて、自分がつくしを笑顔にしたいって強く思ったんじゃないかと。
本家ではどこまでも献身的な類ですが、ここでは幸せにしてあげたいと思ってます。



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