うーーーーー。
何でこんな事になっちゃったのー?
今あたしの部屋では黒毛のグレーハウンド・・・ならぬ、黒髪の西門総二郎が寛いでる。
人のテリトリーでこんなリラックスしないで欲しい。
「つくしちゃん、俺コーヒー飲みてえ。」とか、「なんか腹減らね?」とか、気侭に要求してくるし。
何で?
何でここにいついてる訳?
それも利き手の右手が包帯ぐるぐる巻き状態だし・・・。
話は3日前に遡る。
仕事帰りにスーパーに寄って、食材を買い込んで。
晩ご飯の献立と明日のお弁当のおかずを考えながら帰って来た。
今夜はカレーを食べたいけど、お弁当にするには向いてないからなー。
半分は肉じゃがにしよっか?
そうしたら、今夜は豚コマカレーとサラダ。
カレーには温泉卵載せちゃお!
で、明日のお弁当のおかずは卵焼きと肉じゃが、プチトマト、ブロッコリーでいいな。
よし!
お弁当の中身を決めておかないと、朝バタバタしてしまう。
なので事前に頭の中のお弁当箱におかずを並べるイメージをする。
一度そうしておくとスムーズにお弁当作りが出来るのだ。
そんな事をしながら薄暗くなった道を歩いて帰って来た。
今あたしが住んでいるのは、1階が大家さん経営のクリーニング屋さんで、2階に大家さん一家のお住まい、3階に3部屋だけ賃貸の部屋がある、こじんまりとしたマンションだ。
広さの割にお値段が安くて、下に大家さんがいるという安心感が決め手だった。
クリーニング屋さんの裏手に階段があるのだけれど、今夜はその階段横のメールボックスの下に座り込んでる人影があった。
黒っぽい服を着てる男の人みたい。
うっ・・・!
あんな所に誰かいる!
怖っ! 嫌だなー。
こんな時間にかくれんぼしてる子供・・・の訳ないし。
あたしの隣のお部屋の人を訪ねて来たけど留守だったから待ってる・・・とか?
いや、もしかしたら誰かのストーカーだったりして。
兎に角、触らぬ神に祟りなしよ。
さーっと通り過ぎて、ぱっと部屋入っちゃお!
そう決めてなるべくそちらを見ないように早足で歩いて階段のステップに足を掛けた時、名前を呼ばれた。
「牧野・・・」
「ひゃあっ!」
むっくり立ち上がった黒い服の男の人は、何と西門さんだった。
「に、西門さんっ?
何してんの、そこで?」
「お前を待ってたんだろ。
携帯何度鳴らしても出ねえから・・・」
「えっ? ごめん、会社出てから携帯バッグに入れっぱなしで、ちっとも気にしてなかった。
って、暗い所に蹲ったりして怪しい人だと思われるでしょ!
何でそこにいたのよ?」
「いや、ちょっと・・・
理由説明するから、とりあえず部屋入れてくんない?」
「何で乙女の部屋にこんな時間から上がり込もうとするのよ?
やだよ。
話あるなら、どっかそこら辺のファミレスででも聞くからさ。」
そう言った時、西門さんの右手がやけに白いのに気が付いた。
左手で右腕を庇う様に支えながら立っている。
「ちょっとこれ痛えんだよ。
何か冷やす物とかあると助かるんだけど。」
そう言われてまじまじ見てみれば、右手は包帯でぐるぐる巻きになっている。
「どしたの、それっ?」
「んー、ちょっと・・・」
「あー、もー! 何なのよ?
仕方ないなぁ・・・ 落ち着いたらすぐ帰ってよ?」
「ハイハイ。」
あたしが階段を上がると、少し間隔を空けて西門さんが上ってくる足音が聞こえる。
鍵を開けて廊下を振り返ると、なんだか神妙な顔して立ってる西門さんがいた。
「どーぞ。」
手が痛そうだから、あたしがドアを押さえて、先に西門さんを玄関に入れると、「どーも。」と呟いてするりとその身を滑り込ませる。
片手で靴脱げるの?と心配していたら、あっさり脱ぎ捨ててさっさと中へと歩き出した。
「ちょっと!
靴くらい揃えなさいよ!」
「手が痛えんだよ。勘弁してくれよ。」
「んーーー!もうっ!」
仕方なしに自分の靴と西門さんの靴を並べて、後を追いかけた。
リビングダイニングとは名ばかりの6畳間のソファにばふっと身体を投げて、はあ・・・と溜息吐いてる。
そんなに手が痛むのかしら?
「つくしちゃん、ジャケット脱ぎたいんだけど手伝ってくんない?
なんか上手く脱げなさそ。」
そう言いつつ身体を捩ってる。
お坊ちゃまは手が掛かるったらありゃしない。
「先に痛くない手の方から抜くのよ。」
「そうしようとしてんだけどさ。」
仕方ないから左側の袖口を引っ張って脱がせに掛かる。
「ほら、肘曲げて。」
「んー。」
するっと左腕が抜けたら、今度は痛むんであろう右腕を気遣いながらそうっと引っ張ると、ジャケットはあたしの手の中にやってきた。
高級に決まってるジャケットを皺にならないようにハンガーに掛ける。
それから右手を冷やす物を探すべく、冷凍庫を開けた。
夏の夜、寝苦しい時に使ってたアイス枕を見つけて、タオルで包む。
いつもなら軽口を叩いてばっかりの西門さんが今夜は妙に静かだ。
ソファの肘掛けのところにアイス枕を置いて、「ここに手載せて。」と言うと、素直に従ってる。
何の文句や揶揄いの言葉も言わない西門総二郎って気持ち悪い。
「ねえ、どうしちゃったの?」
「えー、あー、んー・・・ まあ、色々あってな。」
「理由、説明してくれるんじゃなかったっけ?」
「そんな一言では説明出来ねえよ。」
「・・・・・・ご飯は?」
「メシ? 食ってねえけど。」
「とりあえずご飯作る。
庶民のご飯に文句つけるなら、もう理由も聞かずに叩き出すから。
分かったわね!?」
「ハイハイ。」
「はいは1回!」
そう言ったら、やっとくすりと笑ったから、ちょっとだけ安心する。
予定通り豚コマカレーを作る事にした。
利き手が使えないなら、スプーンかフォークで食べ易くないとダメだよね?
サラダは全部一口サイズにカットした野菜で作るか・・・
お米を炊いてる間にカレーを作って、カレーを煮込んでる間にサラダを作った。
最後にお水を少し入れたマグカップに卵を割り入れて、爪楊枝で何ヶ所か刺して電子レンジで40秒。
即席温泉卵も出来た。
2人分のカレーとサラダをテーブルに並べると、西門さんがひょこひょこやってくる。
「左手で食べれそう?」
「箸じゃねえから何とかなるんじゃねえの?
いただきまーす。」
「・・・いただきます。」
案外器用にスプーンを操って、庶民の味の代表格でもあるカレーを食べてるお坊ちゃま。
「何か飲む?」
「ビールなんかあんの?」
「怪我してるんでしょ?
お酒なんかダメだよ!
牛乳か麦茶かアイスティー!」
「じゃあアイスティー。」
朝冷蔵庫に入れていった水出しアイスティーのポットを取り出す。
お気に入りのグラスに注いで、まず西門さんの前に。
それから自分の前にことりと置いた。
黙々とカレーを食べてる西門さんをじーっと見詰める。
んーーー?
何でこんな事になってんの???
_________
暗くて悶々とした話ばかり書いていると、おバカな話を書きたくなる衝動が(笑)
Blog開設7周年のもう一つのSSです。
ドタバタでちょっと笑えるのを書ければなーと思います。
7周年のお祝いのお言葉や、沢山の拍手有り難うございました。
とても嬉しかったです!
これを糧にまた頑張ります!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
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今あたしの部屋では黒毛のグレーハウンド・・・ならぬ、黒髪の西門総二郎が寛いでる。
人のテリトリーでこんなリラックスしないで欲しい。
「つくしちゃん、俺コーヒー飲みてえ。」とか、「なんか腹減らね?」とか、気侭に要求してくるし。
何で?
何でここにいついてる訳?
それも利き手の右手が包帯ぐるぐる巻き状態だし・・・。
話は3日前に遡る。
仕事帰りにスーパーに寄って、食材を買い込んで。
晩ご飯の献立と明日のお弁当のおかずを考えながら帰って来た。
今夜はカレーを食べたいけど、お弁当にするには向いてないからなー。
半分は肉じゃがにしよっか?
そうしたら、今夜は豚コマカレーとサラダ。
カレーには温泉卵載せちゃお!
で、明日のお弁当のおかずは卵焼きと肉じゃが、プチトマト、ブロッコリーでいいな。
よし!
お弁当の中身を決めておかないと、朝バタバタしてしまう。
なので事前に頭の中のお弁当箱におかずを並べるイメージをする。
一度そうしておくとスムーズにお弁当作りが出来るのだ。
そんな事をしながら薄暗くなった道を歩いて帰って来た。
今あたしが住んでいるのは、1階が大家さん経営のクリーニング屋さんで、2階に大家さん一家のお住まい、3階に3部屋だけ賃貸の部屋がある、こじんまりとしたマンションだ。
広さの割にお値段が安くて、下に大家さんがいるという安心感が決め手だった。
クリーニング屋さんの裏手に階段があるのだけれど、今夜はその階段横のメールボックスの下に座り込んでる人影があった。
黒っぽい服を着てる男の人みたい。
うっ・・・!
あんな所に誰かいる!
怖っ! 嫌だなー。
こんな時間にかくれんぼしてる子供・・・の訳ないし。
あたしの隣のお部屋の人を訪ねて来たけど留守だったから待ってる・・・とか?
いや、もしかしたら誰かのストーカーだったりして。
兎に角、触らぬ神に祟りなしよ。
さーっと通り過ぎて、ぱっと部屋入っちゃお!
そう決めてなるべくそちらを見ないように早足で歩いて階段のステップに足を掛けた時、名前を呼ばれた。
「牧野・・・」
「ひゃあっ!」
むっくり立ち上がった黒い服の男の人は、何と西門さんだった。
「に、西門さんっ?
何してんの、そこで?」
「お前を待ってたんだろ。
携帯何度鳴らしても出ねえから・・・」
「えっ? ごめん、会社出てから携帯バッグに入れっぱなしで、ちっとも気にしてなかった。
って、暗い所に蹲ったりして怪しい人だと思われるでしょ!
何でそこにいたのよ?」
「いや、ちょっと・・・
理由説明するから、とりあえず部屋入れてくんない?」
「何で乙女の部屋にこんな時間から上がり込もうとするのよ?
やだよ。
話あるなら、どっかそこら辺のファミレスででも聞くからさ。」
そう言った時、西門さんの右手がやけに白いのに気が付いた。
左手で右腕を庇う様に支えながら立っている。
「ちょっとこれ痛えんだよ。
何か冷やす物とかあると助かるんだけど。」
そう言われてまじまじ見てみれば、右手は包帯でぐるぐる巻きになっている。
「どしたの、それっ?」
「んー、ちょっと・・・」
「あー、もー! 何なのよ?
仕方ないなぁ・・・ 落ち着いたらすぐ帰ってよ?」
「ハイハイ。」
あたしが階段を上がると、少し間隔を空けて西門さんが上ってくる足音が聞こえる。
鍵を開けて廊下を振り返ると、なんだか神妙な顔して立ってる西門さんがいた。
「どーぞ。」
手が痛そうだから、あたしがドアを押さえて、先に西門さんを玄関に入れると、「どーも。」と呟いてするりとその身を滑り込ませる。
片手で靴脱げるの?と心配していたら、あっさり脱ぎ捨ててさっさと中へと歩き出した。
「ちょっと!
靴くらい揃えなさいよ!」
「手が痛えんだよ。勘弁してくれよ。」
「んーーー!もうっ!」
仕方なしに自分の靴と西門さんの靴を並べて、後を追いかけた。
リビングダイニングとは名ばかりの6畳間のソファにばふっと身体を投げて、はあ・・・と溜息吐いてる。
そんなに手が痛むのかしら?
「つくしちゃん、ジャケット脱ぎたいんだけど手伝ってくんない?
なんか上手く脱げなさそ。」
そう言いつつ身体を捩ってる。
お坊ちゃまは手が掛かるったらありゃしない。
「先に痛くない手の方から抜くのよ。」
「そうしようとしてんだけどさ。」
仕方ないから左側の袖口を引っ張って脱がせに掛かる。
「ほら、肘曲げて。」
「んー。」
するっと左腕が抜けたら、今度は痛むんであろう右腕を気遣いながらそうっと引っ張ると、ジャケットはあたしの手の中にやってきた。
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夏の夜、寝苦しい時に使ってたアイス枕を見つけて、タオルで包む。
いつもなら軽口を叩いてばっかりの西門さんが今夜は妙に静かだ。
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何の文句や揶揄いの言葉も言わない西門総二郎って気持ち悪い。
「ねえ、どうしちゃったの?」
「えー、あー、んー・・・ まあ、色々あってな。」
「理由、説明してくれるんじゃなかったっけ?」
「そんな一言では説明出来ねえよ。」
「・・・・・・ご飯は?」
「メシ? 食ってねえけど。」
「とりあえずご飯作る。
庶民のご飯に文句つけるなら、もう理由も聞かずに叩き出すから。
分かったわね!?」
「ハイハイ。」
「はいは1回!」
そう言ったら、やっとくすりと笑ったから、ちょっとだけ安心する。
予定通り豚コマカレーを作る事にした。
利き手が使えないなら、スプーンかフォークで食べ易くないとダメだよね?
サラダは全部一口サイズにカットした野菜で作るか・・・
お米を炊いてる間にカレーを作って、カレーを煮込んでる間にサラダを作った。
最後にお水を少し入れたマグカップに卵を割り入れて、爪楊枝で何ヶ所か刺して電子レンジで40秒。
即席温泉卵も出来た。
2人分のカレーとサラダをテーブルに並べると、西門さんがひょこひょこやってくる。
「左手で食べれそう?」
「箸じゃねえから何とかなるんじゃねえの?
いただきまーす。」
「・・・いただきます。」
案外器用にスプーンを操って、庶民の味の代表格でもあるカレーを食べてるお坊ちゃま。
「何か飲む?」
「ビールなんかあんの?」
「怪我してるんでしょ?
お酒なんかダメだよ!
牛乳か麦茶かアイスティー!」
「じゃあアイスティー。」
朝冷蔵庫に入れていった水出しアイスティーのポットを取り出す。
お気に入りのグラスに注いで、まず西門さんの前に。
それから自分の前にことりと置いた。
黙々とカレーを食べてる西門さんをじーっと見詰める。
んーーー?
何でこんな事になってんの???
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暗くて悶々とした話ばかり書いていると、おバカな話を書きたくなる衝動が(笑)
Blog開設7周年のもう一つのSSです。
ドタバタでちょっと笑えるのを書ければなーと思います。
7周年のお祝いのお言葉や、沢山の拍手有り難うございました。
とても嬉しかったです!
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