「心の器」をお待ちの方、スミマセンー。
いきなりですが今日と明日は類つくですー。
大学生の2人。新緑の季節です。
____________
<つくし19歳 類20歳の初夏>
何だかあまり夢見が良くなかった気がする。
どんな夢だったかは定かじゃないけど、ベッドから身体を起こしてみても、心のどこかが沈んだままだ。
何の夢か思い出そうとしても、どんどん頭の中から掻き消えていく。
深く息を吐いて、ベッドから下りた。
今日も一日が始まる。
大学に着いてみると、構内の掲示板の前に牧野の後ろ姿。
何かを一所懸命に見ている。
その姿を見るだけで、自分の表情が和らぐのが分かる。
俺をこんな風にさせるのは牧野だけだ。
「牧野。」
くるっと振り返った牧野は、一瞬目を見開き、俺を確かめるとふわっと笑った。
その笑顔で、目が覚めてから続いているどんよりした気分が霧散する。
「お早う、類!」
「ん、おはよ。何見てるの?」
「あぁ、いいバイトないかな~?と思ってさ。ビンボー暇無しですから。」
まだ働くのか?と思ったら、ちょっと俺の顔が曇ったらしい。
顔をくしゃっとさせて牧野が言う。
「類、心配しないで! あたしは大丈夫なんだから。バイトって楽しい事もあるんだよー。色々覚えられて社会勉強にもなるし。友達もできるしさ。あたしに言わせればあんた達こそちょっとやってみて、知らない世界学んだ方がいいと思う。」
と逆にバイトを勧めてくる。
全く力が抜けるよ。
いつだって何だって手助けしたい。
でも頑ななあんたは自分の力だけで立ちたいって肩肘張るから、隣で見守るだけでいるんだ。
見守ってるだけの俺の気持ち、あんたは考えた事あるのかな?
「じゃあ、あとでね~!」
と手を振って、牧野は講義にと消えて行った。
1人になって、ゆっくりと歩きながら俺は考える。
ずっと隣にいたけれど、このままじゃダメなんじゃないか?
いつまで経っても、俺と牧野の距離は変わらない。
司と牧野が別れて、もうどれだけの季節が過ぎたろう。
俺は牧野の傷が癒えるのを待っていた。
きっと牧野の胸の痛みはまだ残っている。
それならその痛みごと、俺が包んでしまえばいい。
思い出になって、笑って話せるようになる日まで、優しく優しく薬を塗って、包帯を巻いて。
そうやって2人で新しい場所に歩き出したい。
新緑溢れる構内の並木道を歩きながら、俺はそんな事を思っていた。
午後の講義が終わった牧野をカフェテリアで待ち伏せして、車に乗せた。
「ねぇ、類ってば。さっきからどうしたの? あたし、夜はバイトあるの!」
「大丈夫、時間までに送って行くよ。だからそれまで俺に付き合って。」
「いいけど… どこに行くの?」
「公園。」
「公園? 珍しいね、類が外に出掛けたいなんて。」
「ん… ちょっと風が感じられる所に行きたいんだ。」
車を広い芝生が広がる公園に着けさせた。
牧野と一緒に柔らかい芝生の上を歩いて、木陰にブランケットを敷いて座った。
青い空。
すうっとたなびく白い雲。
緑の芝生。
零れる木漏れ日。
初夏の爽やかな風が吹き抜けていく。
「広々してて気持ちいいねー!」
サッカーボールを蹴る子供達。
キャッチボールしている人達。
ベビーカーを押しているお母さん。
白詰草を摘んでいる女の子。
楽器の練習をしている人。
柔らかな日差しの中、日向ぼっこしているお爺さん。
芝生の上には、のんびりした光景が繰り広げられている。
リラックスした牧野は、澄んだ空気を思い切り吸って深呼吸してる。
陽の光がキラキラと牧野を縁取る。
黒髪を風が揺らす。
サーモマグに入ったコーヒーを手渡した。
牧野のはピンクの水玉のマグにカフェオレ。
俺のは黒のマグにブラックコーヒー。
「ありがと。可愛いね、このマグ。」
そう言ってマグを受け取った牧野は、両手でそれを包み込みながらゆっくり飲んでいる。
穏やかな表情で、芝生の上で思い思いに過ごす人達に目をやって。
俺はそれを横目で見ていた。



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大学生の2人。新緑の季節です。
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<つくし19歳 類20歳の初夏>
何だかあまり夢見が良くなかった気がする。
どんな夢だったかは定かじゃないけど、ベッドから身体を起こしてみても、心のどこかが沈んだままだ。
何の夢か思い出そうとしても、どんどん頭の中から掻き消えていく。
深く息を吐いて、ベッドから下りた。
今日も一日が始まる。
大学に着いてみると、構内の掲示板の前に牧野の後ろ姿。
何かを一所懸命に見ている。
その姿を見るだけで、自分の表情が和らぐのが分かる。
俺をこんな風にさせるのは牧野だけだ。
「牧野。」
くるっと振り返った牧野は、一瞬目を見開き、俺を確かめるとふわっと笑った。
その笑顔で、目が覚めてから続いているどんよりした気分が霧散する。
「お早う、類!」
「ん、おはよ。何見てるの?」
「あぁ、いいバイトないかな~?と思ってさ。ビンボー暇無しですから。」
まだ働くのか?と思ったら、ちょっと俺の顔が曇ったらしい。
顔をくしゃっとさせて牧野が言う。
「類、心配しないで! あたしは大丈夫なんだから。バイトって楽しい事もあるんだよー。色々覚えられて社会勉強にもなるし。友達もできるしさ。あたしに言わせればあんた達こそちょっとやってみて、知らない世界学んだ方がいいと思う。」
と逆にバイトを勧めてくる。
全く力が抜けるよ。
いつだって何だって手助けしたい。
でも頑ななあんたは自分の力だけで立ちたいって肩肘張るから、隣で見守るだけでいるんだ。
見守ってるだけの俺の気持ち、あんたは考えた事あるのかな?
「じゃあ、あとでね~!」
と手を振って、牧野は講義にと消えて行った。
1人になって、ゆっくりと歩きながら俺は考える。
ずっと隣にいたけれど、このままじゃダメなんじゃないか?
いつまで経っても、俺と牧野の距離は変わらない。
司と牧野が別れて、もうどれだけの季節が過ぎたろう。
俺は牧野の傷が癒えるのを待っていた。
きっと牧野の胸の痛みはまだ残っている。
それならその痛みごと、俺が包んでしまえばいい。
思い出になって、笑って話せるようになる日まで、優しく優しく薬を塗って、包帯を巻いて。
そうやって2人で新しい場所に歩き出したい。
新緑溢れる構内の並木道を歩きながら、俺はそんな事を思っていた。
午後の講義が終わった牧野をカフェテリアで待ち伏せして、車に乗せた。
「ねぇ、類ってば。さっきからどうしたの? あたし、夜はバイトあるの!」
「大丈夫、時間までに送って行くよ。だからそれまで俺に付き合って。」
「いいけど… どこに行くの?」
「公園。」
「公園? 珍しいね、類が外に出掛けたいなんて。」
「ん… ちょっと風が感じられる所に行きたいんだ。」
車を広い芝生が広がる公園に着けさせた。
牧野と一緒に柔らかい芝生の上を歩いて、木陰にブランケットを敷いて座った。
青い空。
すうっとたなびく白い雲。
緑の芝生。
零れる木漏れ日。
初夏の爽やかな風が吹き抜けていく。
「広々してて気持ちいいねー!」
サッカーボールを蹴る子供達。
キャッチボールしている人達。
ベビーカーを押しているお母さん。
白詰草を摘んでいる女の子。
楽器の練習をしている人。
柔らかな日差しの中、日向ぼっこしているお爺さん。
芝生の上には、のんびりした光景が繰り広げられている。
リラックスした牧野は、澄んだ空気を思い切り吸って深呼吸してる。
陽の光がキラキラと牧野を縁取る。
黒髪を風が揺らす。
サーモマグに入ったコーヒーを手渡した。
牧野のはピンクの水玉のマグにカフェオレ。
俺のは黒のマグにブラックコーヒー。
「ありがと。可愛いね、このマグ。」
そう言ってマグを受け取った牧野は、両手でそれを包み込みながらゆっくり飲んでいる。
穏やかな表情で、芝生の上で思い思いに過ごす人達に目をやって。
俺はそれを横目で見ていた。



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