学生課前の掲示板で、見逃せないバイトを見つけた!
ペットシッター
1回3時間で1万円(交通費込み)
動物が好きで、体力に自信のある方
これは誰にも譲れない高待遇!
毎日チェックしてた甲斐あったなぁ。
早速その掲示を剥がして、電話を掛ける。
聞いてみれば、犬の散歩を頼みたい、出来れば今日の午後から…との事。
3時半に伺いますと返事して、電話を切った。
大学の傍の高級住宅街の中にある、立派なお宅。
女の子で大丈夫かしら…と仰る奥様に、
「体力には自信があります!」と胸を張る。
それならお任せしますと託された犬は、予想よりずっと大きかった。
ゴールデンレトリバーの女の子。
名前はベル。
ドッグランのある公園まで散歩して、ドッグランで1時間遊ばせる。
その後おやつタイムの後、ゆっくり歩いて帰ってくる3時間。
よろしくね、ベル!と声を掛けて、リードをしっかり持って歩き始めた。
だけど…
毎日の散歩コースだという並木道を歩いていた時、ベルの足がぴたっと止まった。
その場にお座りしちゃって、引っ張っても、話しかけても全然動かないー!
「ね、ベル、お願い。
公園まで行こう?
きっとお友達もいるし、リードも外してあげられるよ?」
通じていないかも知れないけれど、優しく話し掛ける。
全く効果が無いから、今度は力一杯リードを引っ張る。
でもベルは立ち上がる素振りもなく、ぎゅうっと力を込めて座り続けるだけ。
「ベールー!」
ベルとあたしの力比べみたいになってる。
体力に自信がある方って、この事だったの?
「牧野、お前、何やってるんだ?」
左ハンドルの車の運転席から、ニヤニヤ笑いながらあたしを見てるのは西門さんだ。
「見りゃ分かるでしょ! 犬の散歩のバイト!」
「散歩って、ちっとも歩いてねぇじゃん。」
「何でか知らないけど、ここで座り込んじゃったの、この子!」
「何やってんだか…」
そう言い残して車は走り去った。
からかう為だけに車止めたんかい!
むかっとしながら、途方にくれてベルを見る。
犬は主従関係がはっきりしてるって聞いたことがある。
自分より力があると認めた相手の言う事には従うけど、そうじゃない者の言う事は聞かない。
つまりあたしはなめられてる!
あー、どうしたらいいのー?
そうしたら、ベルの向こう側に誰かの足が見えた。
顔を上げたら西門さんがポケットに手を突っ込んで立っていた。
「…何やってんの? 車は?」
「パーキングに入れて来た。
暇だから付き合ってやるよ。
この犬、名前は?」
「ベル。女の子。」
西門さんはベルの目線にまで腰を降ろして話し掛けてる。
「ふうん、いい名前じゃん。
ベルって美女の事だよな。
綺麗な毛並みだし、美人だよ。
なぁ、ベル、俺と一緒に散歩行くか?」
「ワン!」
まるで言ってる事が解ってるみたいに返事をしたベルはすっと立ち上がった。
西門さんがあたしに向かって手を出してる。
「何?」
「リード、寄越せ。」
「あ、うん。」
ベルは西門さんの飼い犬みたいに隣に寄り添って歩き出した。
西門フェロモンって、犬にも有効なの?
目をぱちくりさせながら、2人…というか、1人と1匹の後ろを付いていく。
「牧野ー、どこ行きゃいいんだ?
決まったコースがあるんだろ、犬の散歩って。」
「うん、この先真っ直ぐ行った所の大きな公園のドッグランに連れて行くの。」
「お前、何落ち込んでんの? たかが犬の散歩だろ?」
「だって…」
あたしの言う事は聞かないのに。
何も持たないあたしを、犬にまで見抜かれたみたいで。
何だか胸がもやもやする。
「またつまんない事考えてんだろ。
考えたって仕方ねーの!
犬なんてのはさ、相手をきちんと認めれば言う事聞くモンなんだよ。
むやみに引っ張ったりしてもダメなワケ。」
そう言って鼻で笑うから、悔しくなって、その背中を睨みつける。
何でも完璧にこなすのは知ってるけど、犬の扱いまでうまいなんて。
天は何物与えりゃ気が済むのよ?
「西門さん、犬飼ったことあるの?」
「ねぇよ。あの邸に犬なんて置ける訳ないだろ?」
それもそうだ。
お茶室に響く犬の鳴き声…なんてあり得ないよね。
そうやって歩くうちに、公園が目の前に迫っていた。
__________
ちょっとイレギュラーにSSアップです。
犬は大型犬が好きです。
でもホントは猫派です(笑)



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1回3時間で1万円(交通費込み)
動物が好きで、体力に自信のある方
これは誰にも譲れない高待遇!
毎日チェックしてた甲斐あったなぁ。
早速その掲示を剥がして、電話を掛ける。
聞いてみれば、犬の散歩を頼みたい、出来れば今日の午後から…との事。
3時半に伺いますと返事して、電話を切った。
大学の傍の高級住宅街の中にある、立派なお宅。
女の子で大丈夫かしら…と仰る奥様に、
「体力には自信があります!」と胸を張る。
それならお任せしますと託された犬は、予想よりずっと大きかった。
ゴールデンレトリバーの女の子。
名前はベル。
ドッグランのある公園まで散歩して、ドッグランで1時間遊ばせる。
その後おやつタイムの後、ゆっくり歩いて帰ってくる3時間。
よろしくね、ベル!と声を掛けて、リードをしっかり持って歩き始めた。
だけど…
毎日の散歩コースだという並木道を歩いていた時、ベルの足がぴたっと止まった。
その場にお座りしちゃって、引っ張っても、話しかけても全然動かないー!
「ね、ベル、お願い。
公園まで行こう?
きっとお友達もいるし、リードも外してあげられるよ?」
通じていないかも知れないけれど、優しく話し掛ける。
全く効果が無いから、今度は力一杯リードを引っ張る。
でもベルは立ち上がる素振りもなく、ぎゅうっと力を込めて座り続けるだけ。
「ベールー!」
ベルとあたしの力比べみたいになってる。
体力に自信がある方って、この事だったの?
「牧野、お前、何やってるんだ?」
左ハンドルの車の運転席から、ニヤニヤ笑いながらあたしを見てるのは西門さんだ。
「見りゃ分かるでしょ! 犬の散歩のバイト!」
「散歩って、ちっとも歩いてねぇじゃん。」
「何でか知らないけど、ここで座り込んじゃったの、この子!」
「何やってんだか…」
そう言い残して車は走り去った。
からかう為だけに車止めたんかい!
むかっとしながら、途方にくれてベルを見る。
犬は主従関係がはっきりしてるって聞いたことがある。
自分より力があると認めた相手の言う事には従うけど、そうじゃない者の言う事は聞かない。
つまりあたしはなめられてる!
あー、どうしたらいいのー?
そうしたら、ベルの向こう側に誰かの足が見えた。
顔を上げたら西門さんがポケットに手を突っ込んで立っていた。
「…何やってんの? 車は?」
「パーキングに入れて来た。
暇だから付き合ってやるよ。
この犬、名前は?」
「ベル。女の子。」
西門さんはベルの目線にまで腰を降ろして話し掛けてる。
「ふうん、いい名前じゃん。
ベルって美女の事だよな。
綺麗な毛並みだし、美人だよ。
なぁ、ベル、俺と一緒に散歩行くか?」
「ワン!」
まるで言ってる事が解ってるみたいに返事をしたベルはすっと立ち上がった。
西門さんがあたしに向かって手を出してる。
「何?」
「リード、寄越せ。」
「あ、うん。」
ベルは西門さんの飼い犬みたいに隣に寄り添って歩き出した。
西門フェロモンって、犬にも有効なの?
目をぱちくりさせながら、2人…というか、1人と1匹の後ろを付いていく。
「牧野ー、どこ行きゃいいんだ?
決まったコースがあるんだろ、犬の散歩って。」
「うん、この先真っ直ぐ行った所の大きな公園のドッグランに連れて行くの。」
「お前、何落ち込んでんの? たかが犬の散歩だろ?」
「だって…」
あたしの言う事は聞かないのに。
何も持たないあたしを、犬にまで見抜かれたみたいで。
何だか胸がもやもやする。
「またつまんない事考えてんだろ。
考えたって仕方ねーの!
犬なんてのはさ、相手をきちんと認めれば言う事聞くモンなんだよ。
むやみに引っ張ったりしてもダメなワケ。」
そう言って鼻で笑うから、悔しくなって、その背中を睨みつける。
何でも完璧にこなすのは知ってるけど、犬の扱いまでうまいなんて。
天は何物与えりゃ気が済むのよ?
「西門さん、犬飼ったことあるの?」
「ねぇよ。あの邸に犬なんて置ける訳ないだろ?」
それもそうだ。
お茶室に響く犬の鳴き声…なんてあり得ないよね。
そうやって歩くうちに、公園が目の前に迫っていた。
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ちょっとイレギュラーにSSアップです。
犬は大型犬が好きです。
でもホントは猫派です(笑)



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