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hortensia

Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
まず初めに「ご案内&パスワードについて」をお読み下さい。
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綿雪降りつむ 前編

明けましておめでとうございます。
今年も拙宅の色んなキャラ達を愛でて頂けるように頑張ります!
新春一つ目のお話はラブラブバカップルで。
今日は1月1日ですが、お話は4日のこと…という設定です。


__________



茶道宗家の年末年始と言うものは慌ただしい。
年末から初釜に向けての準備が始まり。
大晦日から元旦にかけての大福茶<だいふくちゃ>も大切な茶事だ。
家元と家元夫人、俺と、極々少数の内弟子だけで行う、内々の茶事。
旧年最後の茶を飲んだ後に、その茶を点てた時の炭を、元旦の大福茶を点てる茶室に移す。
そこに新しい炭を足して、火を絶やさないように守るのだ。
そして元旦の夜明け前に、その受け継いだ炭で沸かした湯で大福茶を点てる。
家元が点てた濃茶を回し飲みしするこの茶事を以て、宗家の一年は始まる。

その後はゆっくり朝寝…といきたいところだが、そんな事が許される訳もなく。
清々しい朝日を浴びた後も、皆で雑煮やら御節料理を食べたりする。
そうこうしているうちに、新年早々、年始の挨拶をしようと人が訪ねて来て。
そうすると、寒い中態々来てくれた客に一服…というのは当たり前で、年始釜が始まる訳だ。

そんな大晦日から三が日を過ごして、少々怠い身体を抱えた4日の朝。
年始の挨拶も一段落し、俺が居なくても問題ないだろうと、邸を抜け出す事にした。
勿論、親父とお袋にはちょっと出て来ると、一応断りを入れる。
2人とも、あっさり了解してくれた。
親父は片方の口角だけ上げて薄く笑いつつ頷き。
お袋に至っては、何処に行くとも言っていないのに、

「牧野さんに宜しくお伝えして頂戴。
あ、総二郎さん、お年賀お持ちになるの忘れずにね。
そうだわ、美味しいお菓子があったから、あれも持って行って差し上げて…」

などと、手土産をダイニングテーブルの上に積み上げた。
牧野相手に『お年賀』って。
逆にあいつに気を遣わせるだろう…と思った言葉は飲み込んだ。

外に出てみれば、穏やかに晴れ渡った空に、澄んだ空気が心地いい。
新春にふさわしい天気だ。
ちょっと遠出するつもりで、足の速い車を選んで、邸を後にする。
牧野の部屋に着くと、ドアを開けてにこやかに迎えてくれた。

「明けましておめでとう、西門さん。
今年もよろしくね。」
「おめでとう、牧野。これ、お袋から。宜しく言ってた。」
「わあ、ありがと!」

持たされた手土産を渡して中に入ると、玄関のシューズボックスの上のスペースには千両が生けられた花瓶。
部屋のテーブルの上には、松と紅白のアマリリスのアレンジメントが載っている。
一人暮らしでも、正月花を生けようとか思うようになったんだな…と、微笑ましく思っていたら、おずおずと

「こんなの、ダメだった?」

なんて聞いてくる。

「いや、つくしちゃんらしいんじゃねえの。
自分の好きな花活けるのに、良いも悪いもない。
縁起物だしな。
あると気持ちも華やぐだろ。」

あからさまにほっとしたような表情を浮かべてこくりとひとつ頷く。

別に俺はいつでもお前の師匠じゃねえよ。
茶室の外では優しい彼氏だろ?

牧野にしか向けない甘い微笑みを浮かべつつ、華奢な身体を腕の中に掴まえた。
牧野の誕生日以来離れ離れだった時間を埋めるように、しっかりと抱き締める。

「お仕事、大丈夫?
今日はいいの? こんなとこ来てて。」
「いいんだよ。散々働かされて、俺もつくしちゃん不足なワケ。
初釜をしっかりこなす為にも、ここらでエネルギー補填しとかねえと。」

そう言って新年初キスを頂いた。
甘く柔らかな唇につい夢中になる。
唇を合わせているだけなのに、胸の奥底から何かが溢れ出し、背筋がゾクゾクして、肩に触れている掌に熱が籠る。
やっとの思いで唇を離すと、牧野が肩で大きく息をしながら、俺の胸に頭をこてんと寄せた。
それを撫でながら、このまま2人で部屋に籠りきりになりたいという誘惑を振り切り、声を掛ける。

「なあ、今日、どっか行かねえ?
天気もいいし、ぱーっと開けた景色でも見て、すかっとしたいんだよな。」
「あたしはいいけど…
道混まないかな?
今日Uターンラッシュだって、さっきTVで言ってたよ。」
「時間選べば平気だろ。何処行きたい?」
「海! 海が見たい、あたし!」

牧野の一声で冬の海に行き先を決めた。
行きの道はUターンラッシュとは逆方向だったから、快適なドライブだった。
東名から小田厚を抜けて、海岸線に出る。
淡い空の色、銀色に輝く海。
そんなものを左手に見ながら、はしゃぐ牧野の声にこちらまで心が浮き立つ。

「そろそろ腹減らねえ?」
「うーん、ちょっと空いたかな?」
「この先に知ってるレストランあるんだよ。
そこまで我慢できるか?」
「うん、大丈夫ー!」

道すがら、食い物の店は沢山並んではいるが、折角ここまで出掛けてきて、口に合わないものは食いたくない。
一度車を停めて、目当ての店に電話を入れてから、また走り出した。
海岸線の凸凹に合わせて作られている道は、曲がりくねっていて、短い距離だけど、なかなかスムーズには進まない。
でも牧野曰く、それだけいっぱい海が見られるからいいのだそうだ。
レストランに着いたのは1時をちょっと過ぎた頃。
レストランと言っても、ここはとあるホテルの別館だ。
連絡を入れておいたこともあって、すんなり席に通され、ランチのコースがサーブされ始める。
海鮮中心の創作イタリアンのメニューは牧野の口に合っていたようで、また飛び切りの笑顔が引き出された。

「お魚、美味しっ! やっぱり地の物なのかなぁ。」
「そうだろ。魚も野菜も、ここら辺で獲れるものに拘ってるらしいぞ。」

やがてコース料理も出尽くす頃、シェフがテーブルに挨拶に来た。
大袈裟なくらい料理の美味さを伝える牧野に、シェフも恐縮している。

「西門様、今日はこちらにお泊りのご予定ですか?」
「いや、単なるドライブで、日帰りするんですが。」
「ああ、それなら急がれた方がいいかも知れません。
これから天気が崩れるようで。
もしかすると、夕方には雨ではなく雪になるかもしれませんから。」

は? あんなにいい天気だったのに、雪が降る?

言われてみれば、窓の外は日射しも見えなくなっており、うすら寒そうなどんよりとした空模様だ。
今帰るとなると、渋滞のなかにどっぷり嵌ってしまうだろうけれど仕方ない。

「牧野、悪い。道混むかもしれないけど、もう戻るか。
俺の車、タイヤ、スタッドレスじゃねえんだよ。
雪降ったらアウトだからさ。」
「あたしは海も見れたし、ドライブもお食事も楽しんだし。
全然いいんだけど…
西門さん、運転しっぱなしで疲れちゃうでしょ。
ごめんね、あたし、何のお役にも立てなくて…」
「いや、俺は大丈夫だ。
コーヒー飲んだら帰るか。」
「うん。」

まだ夕方ではないというのに、窓の外はどんどん暗くなっているようだった。


__________


念のためにお断りしておきますが、茶道宗家の年末年始に関しての部分は、あくまでも管理人の妄想で、事実ではございません。
茶道宗家の内々の儀式なんて、見れる訳ないしー。
そう、これは西門流。あくまでも西門流ですから、何があっても不思議じゃない!ということで(笑)


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綿雪降りつむ 中編

東京も、ここまで来る道中もあまりにいい天気だったこともあって、天候の確認をしなかったのは失敗だった。
そして、思った通り、大渋滞の中に嵌ってしまった。
3時間かけて、一体何キロ移動しただろう?
さっきのホテルから10キロも離れていないかもしれない。
そして日が落ちてから、本当に雪が降り始めた。
それも大粒の牡丹雪。
今は地熱があるせいで道路に降った分はすぐに融けて積もっていないけれど、これで山側の抜け道には行けなくなった。
いつも車に乗せると寝てしまう癖のある牧野だが、今日に限って寝ないで、次から次へと話を繰り出してくる。
イライラし始めた俺を和ませようとしてるんだろう。
それを遮るように声を掛けた。

「牧野。」
「あ、ゴメン。こんな話、つまんなかった?
でもさ、あたし…」
「いや、そうじゃなくて。今日、帰るの諦めようぜ。
これじゃ、いつになったら東京に着けるか分かんねえ。
車捨てて電車で帰るにしても、駅までも辿り着かねえよ、これ。」
「んーーー、あたし、明日仕事始めだから帰らないと…
西門さんだってお仕事あるでしょ。」
「俺は明日中に戻れば何とかなるだろ。
牧野の方こそ初日って挨拶ぐらいで、大した仕事ないって自分で言ってたじゃねえか。
事情話して休み取れよ。」
「えー、でも、7日の初釜の日もお手伝いに行くからって、有給休暇お願いしちゃったんだもん。
新年早々1週間に2回も有給取るのはさ…」
「ふーん、何なら会社に俺から話通してやるけど。」

そう言ったら、首を横にぶんぶん振ってる。

「ダメっ! それは絶対にダメっ!
自分で何とかするからっ!」

慌てて携帯で会社の先輩に連絡をして、相談している。
俺が出張るとそんなに都合悪いのか?
お前が俺との関係、ひた隠しにしてるのは知ってるけど。
お茶の師匠として名乗り出るならアリだろう?

「先輩が、忙しくないから大丈夫だろうって。
今から課長にメールしておいたらって言ってた。」
「じゃ、決まりな。俺はさっきのホテルに電話するから。」

昼飯を食ったレストランの本館であるホテルに電話すると、一番高い部屋なら空いているという。
今から戻る旨を伝えて、車を方向転換させた。
今迄いた対向車線は長いヘッドライトの行列。
それがやけに眩しい上に、フロントガラスに吹き付ける大粒の雪が視界を悪くする。
慎重に車を走らせ、ホテルに着くと、駐車場やホテルの庭はもう真っ白になっていた。

「うわあ、こんなに積もるだなんて。びっくりだねえ!
雪だるま作りたーい!」

アクシデントの只中でも楽しげな牧野に、肩の力が抜けていく。
フロントで名前を告げると、食事の時間があるので、まずはレストランへと言われた。
昼間に食べたメニューとまた違ったものが並び、それらはどれも素材の良さを引き立てながらも洗練された味で、牧野はますますここのシェフの虜だ。
きりりと冷えた白ワインがどこかイライラしていた神経を解してく。
牧野の笑顔を酒のあてにするのは俺にとってのとびきりの贅沢。
金では買えない幸せな時間だ。
テーブルの上の揺らめくキャンドルライトに照らされた牧野の顔を見つめつつグラスを傾けた。

食後に案内されたのは別棟の独立したコテージだった。
偶然にも、以前宿泊した時と同じ部屋。
広々とした造りの部屋は、既に程好い温度に温められていたお蔭で、こんな天気の夜でも頗る快適で。
リビングの中央にある大きなソファにふうっと息を吐いて沈むと、身体が途端に重くなった気がした。

「西門さん、このお部屋すごい!
温泉の露天風呂、掛け流しだって!」

そうそう、知ってるよ。
総檜造りの広々した湯船が、窓の外にあるのを。
別に俺がこの部屋、意図的に選んだ訳じゃねえけど。
2人っきりで入れる温泉の意味、正しく理解して喜んでんのか、お前は?

無邪気な牧野の姿に、今日の疲れも融かされてく。
その一方で、悪戯心も湧いてきた。

「あれ…?」

ぽつりと声を漏らした牧野。
あんなにはしゃいでたのに、急に眉間に皺を寄せてる。

「どうした?」
「…言いたくない。」
「何だよ、言えよ。なんかあったか?」
「…何もない。」

何だ、その嘘。
吐くまで追及するぞ、どんな手を使っても。

顔に目を当てると、ふいとそっぽを向く。
それじゃあと隣に立てば背中を向ける。
仕方ないから、ぐいぐい引っ張り、ソファに座った俺の膝の上に載せた。
それでも逃げようとするから、がっちり腕の檻の中に囲い込む。

「どうしたんだよ、さっきまで楽しそうにしてただろうが。
急に機嫌損ねるだなんて。俺、何かしたか?」

何もした覚えはないけれど、一応そう聞いてやる。
女ってのはどこに火種があるか分からない。
鼻息荒い牧野。
何かに怒ってるってのは分かる。

「西門さん、ここ来た事あるんだよね?」
「ああ、この部屋泊まるの2度目。
レストランはもっと来てるけどな。
それがどうした?」
「他の女の人と来た思い出の宿に連れてきてくれたって嬉しくないんだけど。
でもまあそんな事言ってたら、日本中のホテル、泊まれなくなっちゃうし、ご飯食べに行くお店もなくなっちゃうかもねっ!」

ぷんぷん怒ってる牧野に苦笑いが止まらない。

俺って幸せだよな、ホント。
どんなことしたって、結局こいつは俺の事好きでいてくれるんだから。

「牧野。」
「……。」
「1人で早合点すんなよ。ここに前泊まったのは仕事で。
この近くの桜の有名な公園での野点に呼ばれた。
レストランにたまに来たのは、1人でドライブがてら。
ウソだと思うなら、ホテルのスタッフでも、シェフにでも聞いてみろよ。」
「…ホテルの人達が、お客様の不利益になる情報、ぺらぺら喋る訳ないじゃん。」
「じゃ、俺を信じろよ。
ま、俺は、つくしちゃんの嫉妬するとこ見れちゃって、得した気分だけど。
いやー、俺ってホント愛されちゃってるよなぁ。
もっと怒ってもいいぞ。
そんな勘違いならいくらされても嬉しいだけだから。」
「もー、バカぁっ!」

拳で俺の胸をどんと叩きながら、肩口に顔を埋めて恥ずかしがっている牧野。
俺はそんなのも可愛くって仕方ない。
牧野の重みと体温を感じながら、心がじわじわと温かくなる。
幸せには温度があるものなのだと知った。


__________


ドタバタバカップルー。
下らない嫉妬さえ嬉しくなっちゃう総二郎。
バカだね、ホントにつくしバカ!(笑)
さて。次回は雪見ですよん。
やっと和歌が出てくるのー。


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綿雪降りつむ 後編

リビングの大きな窓は結露でスモークガラスのようになっていたが、牧野は指先できゅっきゅと結露を拭って、窓の外を見ている。
この窓の向こう側は、広々としたウッドデッキがあり。
その奥はライトアップされた庭に雪が降りしきるのだけが浮かび上がっているだろう。
海沿いの断崖の上に建つこのホテルは、部屋から海が見えるのが売りだが、今夜は海も空も、真っ暗な闇に包まれていて、何も見えやしないはずだ。
ただ、潮騒の音が耳に響いてくる。

「西門さーん、明日車走れるようになるのかなぁ?
こんなに雪降っちゃって、ヤバいよね。」
「いざと言う時は、ここに車置かせてもらって、電車で東京に戻るから大丈夫だ。
そんなに心配すんなよ、つくしちゃん。」
「うん、そっか…
あれ? でも、それだったら、今夜そうしても良かったんじゃないの?」

鈍感牧野にしては鋭いツッコミ。
そう。牧野の言う通り、東京に戻る電車はまだある時間だった。
でも折角なら、雪降る宿に2人閉じ込められるのもいい…って思ったから、ここに来ることにしたのだ。

「あれ、バレちゃった?
だーって俺、仕事立て込んでたから、ちょっと疲れててな。
その気晴らしで出て来たのに、あの渋滞だろ?
帰るのかったるくなったんだよ。
温泉浸かって、英気を養ったっていいと思わねぇ?」
「んーーー、なんかどこか引っかかるけど…
でもまあいっか? もう明日のお休み、了承もらえちゃったし。
あたし、有給いっぱい余ってたから、使わないと勿体なかったしね。」
「そうだろ? 折角だからのんびりして帰ろうぜ。」

ソファに戻ってきた牧野が俺の横にちょっと隙間をあけて座った。
何を警戒してるんだか。
それじゃあと、牧野の膝の上に頭を載せて横になる。
胸の底から疲れを吐き出すように溜息をこぼして、軽く目を瞑った。

「ちょっ、何してんのよっ!」
「のんびりしてんの。食休み。」
「だからってあたしの膝の上で寛がなくたっていいでしょうが。」
「お前の膝の上だから、リラックス出来るんだろ。
だって、これ、俺専用だし。
温かくて寝心地いいんだよ。」
「本物の枕の方が寝心地いいに決まってるでしょ!」

つんけんする言葉を投げてくる牧野の膝頭を何気無く撫でたら、その手をぺしんと叩かれた。

「お触り禁止っ!」
「はぁ? お前なあ… 疲れた彼氏に癒しを与えようとか思わねえ、普通?」
「膝なんて撫でなくたって疲れは癒せるでしょ。
お風呂入って来たら? そっちの方がよっぽど効果ありそう。」
「んーーー、この雪の中、屋根がついてるとはいえ、露天風呂入るには、ちょっと勇気要るよな。
決心つくまで、こうしてる。」

本当に疲れが溜まっていた俺は、そのまま転寝してしまった。
気が付いたのは、牧野の指が、そっと俺の額に触れた感覚があったから。

「ああ、悪い。脚、きついか?」

目を開けて、見上げた先にある牧野の顔は柔和で、俺はその微笑みを眩しく思う。

「ううん、大丈夫。
綺麗なおでこだなーって思って触っちゃったの。
起こしちゃったよね。ごめんね。」

深い眠りに落ちた感覚があったから、長い時間寝てしまったかと思ったが、身体を起こして時計を見れば、さっきから大して時間は経っていなかった。
両手を思い切り天井に向けて伸びをする。
やっぱり身体は疲れてるようだ。

「雪、どんなだ?」

さっき牧野が立っていた窓辺に行き、ガラスを拭って、その向こう側を覗く。
雪は勢いを弱めることなく、しんしんと降り続けていた。
隣にそっと寄り添うように立つ牧野もまた、外の景色を眺めている。
窓から冷気を感じるけれど、隣にある温もりのおかげで俺は寒さを感じない。

「新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事」

ふと頭の中に浮かんだ奈良時代の歌を諳んじた。

「いやしけよごと…ってどういう意味?」
「『いやしけ』の『いや』はいよいよって意味で、『しけ』は重なるって意味の命令形だ。
『吉事』は良い事ってこと。
つまり、『新しい年の始めである初春の今日、降り積もる雪のように、良い事も降り積もれ。』ってな意味の歌だ。」
「ふうん… 雪のように降り積もる良い事かぁ。
真っ白な雪がこうやってふんわりふんわり積もっていくと、雪って冷たい物なのに、なんだか温かな綿みたいに見えてくる。
雪を見てるのに温かな気持ちになるなんて不思議だよね。
その歌を詠んだ人も、こんな気持ちだったのかなぁ?」

牧野の稚拙だけれども素直な言葉に、思わず微笑みが溢れる。
天下の歌人・大伴家持の、この歌を詠んだ時の気持ち全てを分かる事は出来ないが、この歌からは良い事が沢山ある1年になって欲しいという願いが伝わってくる。
それは俺も同じだ。
牧野と手を携えて歩いていく。
その時間の中で、牧野を幸せにする良い事が沢山あればいい。
俺が沢山の幸せを牧野に降らせてやりたい。

「昔はさ、新年に降る雪は豊作の兆しで縁起がいいってことになっていたから。
その縁起のいい雪のように、良い事も降って来て欲しいっていう願いが込められてるんだろ。
もしかしたら今日みたいな綿雪だったのかもな、その雪は。」
「うん、きっとそうだよ。粉雪や霙じゃ、こんな歌にならないよ、きっと。」

キラキラと瞳を輝かせ、そんな事を力説するから、俺もすっかりそんな気持ちになってくる。

「良い年にしような。
良い事がいっぱいある、幸せな年に。」
「うん。でももうあたし、幸せなんだよね。
西門さんといられたらそれだけで。」

ぽろりと牧野の口から飛び出した言葉にやられた。
胸にせり上がってきた切なくも激しい想いは、俺の中で一気に熱くなり、身体の中を暴れ回る。
そんな想いを牧野に伝えるべく、きつくきつく抱き寄せる。

俺こそ牧野さえいてくれたら幸せなんだ。
他には代えられない、たった一つの護りたいもの。

そんな唯一無二の存在を手にしている喜びに心が震える。
俺の中に幸せが降り積もる。
牧野にとってもそうあって欲しいと願いながら、甘やかな唇に自分のそれを重ねた。


-fin-

__________


うーわー、書いてみたらラストが甘くて、1人で悶えました(苦笑)
うん、一応-fin-と打ってみましたが。
その窓の外の掛け流し温泉が気にならない?(笑)
んーーー、2人で雪見風呂。すんなりあがれる訳がないよね。
新春早々、アイツ呼び出しか?(爆)
続きがあった方がいいよねー!と思われたら、拍手やコメで応援お願いいたします♪
それを原動力に管理人、新年会の合間を縫って妄想頑張るー!


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綿雪降りつむ -湯煙編- 1

大変長らくお待たせしました。
そろそろお湯に浸かって頂きます(笑)


__________


「西門さん、ちょっと目瞑ってて。お願い…」

降りしきる雪が見える露天風呂。
潮の香りが微かにする冷たい空気に包まれてはいるが、こんこんと湧いている熱い湯と、そこから立ち上る湯煙のお陰で、凍えることも無く、ゆったりと浸かっていられる。
俺に先に入るようにと牧野が促すから、いつ来るのか、今か今かと待っていたのに、なかなか姿を現さなかった。
やっと来たと思ったら、湯に入るところを見るなと言う。

何だよ、どんだけ待たせりゃ気が済むんだ?

ちゃぷりちゃぷりと湯に脚を下ろしている音。
うわー、あったかーい!などと漏らす小さな声の感嘆。
湯の中を進んでいるんであろう、水面の波立つ感覚。

「もう大丈夫。ありがと…」

そう言われて目を開ければ、俺が寄り掛かっている湯船の縁から一番遠い、庭側の角に、こちらに背中を向けて、湯に浸かってる。
湯煙に隠されて、薄いオーガンジーのカーテンの向こう側にいるかのようだ。

おいおい牧野。
お前、やっぱ分かってねーだろ。
2人きりで心置きなく温泉に入れるって時に、こんなに離れてる馬鹿がどこにいるんだよ!

「…何でそんな端にいるワケ?」
「え…? あ、うーんと… 雪が良く見えるから?」

身体は前を向いたまま、首だけこちらをに捻って、おずおずと話す牧野。
恥ずかしがっての事なのか、目線を合わせようとはしない。
伏せ目がちに水面を見遣ってる。
さっきまで梳き下ろしていた黒髪をルーズに結い上げていて、首筋に残った後れ毛が艶めかしい。

「雪ならここからでも見えるだろ。」
「う…ん… こんな広いお風呂、入り慣れないから、身の置き所が無くて…
なんかついつい端っこに寄っちゃう…」

なんつー貧乏性。
折角なんだから、手足を伸ばしてゆったり浸かればいいものを。

「こっち来れば?」
「そっち、明るくて恥ずかしいんだもん。」

内湯との隔ては一面ガラス窓とガラスのドア。
内湯からも庭が望めるようにとの設計だろう。
そこから漏れる灯りが恥ずかしいと言う。
ここから数m離れてる檜風呂の角も、明るさは大して変わらない。

「湯に浸かってたら、身体なんて碌に見えねえよ。
ほら、一杯付き合え。」
「ん…」

そろりそろりと肩から下を湯に沈めたまま、こちらに近づいてくる牧野。
頰はほんのりピンクに染まり、前髪は湿気を吸って小さな毛束になりながら、額を覆ってる。
濡れたように光る唇は、化粧を落としてきたんだろうに、つやつやとしていた。

俺の後ろには、さっき牧野が運んで来た盆の上に徳利と猪口がふたつ。
熱燗の徳利を傾けて、ふたつの猪口を香りのいいぬる燗で満たした。

「ほら。」

猪口を差し出せば、両手でそれを受け取って。
そのまま動きを止めている。
自分の目線より上に掲げて、くいっと俺が飲んだ後も、飲むのを躊躇ってるようだ。

「ん? 飲まねえの?」
「温泉入りながらお酒飲んだら、回りそうで怖いんだけど…
大丈夫かなあ、あたし…」

確かに然程アルコールに強くない牧野。
温泉の効果と熱燗の回りの早さで、普段よりも酔いやすいかもしれない。

「じゃ、一杯だけにしとけ。
まぁ、冬の温泉を楽しむ風物詩と思って。」
「うん。じゃあ頂きます。」

ゆっくりと猪口を唇に付け、そっと酒を流し込む。
その唇や喉の動き、猪口を包む細い指先から目が離せない。
立ち上る湯気の中、ふうと一息つき、俺に小さく笑い掛ける。

「何だかお酒が柔らかくなるね、お燗すると。
香りもたつし、美味しい。」
「そうだなぁ。
俺も普段は風呂で酒飲んだりしねえけど、こんな夜は向いてるよな。
雪見風呂に雪見酒。」

そう言いながら、顔の横の後れ毛に指を絡めた。
そのまま後頭部に指を挿し込む。
ゆっくりこちらに引き寄せようとしたら、それより一瞬だけ早く、牧野自身がこちらに倒れ込んできた。
額を湯から出ている鎖骨にこつりと当てている。

「何だか今、あたし達、この世に2人きりみたいな気分になる。
雪やこの湯煙に囲まれて、浮世と切り離された感じがしない?」

ちょろちょろと注がれ、湯船から溢れていく水音。
断崖の下の岩場にぶつかり、波が砕ける音。
そして2人の息遣いだけが聞こえている。
しんしんと降る雪が、その音を吸い取って、落ちて、世界を白く埋めていく。

この世に2人きり。
そうなれたらどんなに幸せなのだろう。
何にも邪魔されず、互いだけを感じ、互いだけを見つめる永遠の時間。
想像するだけで、心をうっとりとさせるそんな世界が、今だけだとしても手の中にある。

「じゃあ、今はその2人きりの時間を堪能しないとな。」

牧野がついと身を起こし、俺と視線を絡ませる。
湯気のせいか、酒のせいか。
薄い水の膜を纏った黒く煌めく瞳を見つめた。
自然と手が肩を掴む。
湯から出ている白い肩は冷えていた。
その肩を掌で包み、親指で鎖骨をなぞる。
牧野の口から溜息がほうっと漏れて、そっと目が瞑られたのを合図に、俺の唇を寄せていった。


__________


うん、このSSは、温泉に行きたい!という管理人の切なる願いが込められております。
でも、こんな色っぽい温泉じゃなくていいな。
1人きりでのんびり入りたい、のんびり(笑)

えー、暴飲暴食が原因だと思っていた体調不良は風邪だったと判明。
悪化する一方でございます。
病院行ったけど、まだまだ寒気がするし、咳出るし、ふらっふらー。
続きはのんびりお待ちいただければ幸いです。


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綿雪降りつむ -湯煙編- 2

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