俺の腕の中でカチンコチンに固まってる牧野。
んーーー、なんかもうちょっと、自然に抱き合えないもんか…?
これじゃまるで俺が嫌がってる牧野に纏わりついてるだけみてえじゃん?
「牧野…」
「な、なにっ?」
そんな裏返った声出すな。
俺ってホント信用ねえのな。
ま、自業自得なんだけど…
嫌がるオンナ、どうこうしようなんて思ってねえよ。
そもそも俺の腕の中で、そんなに緊張して、ビクビクしてるオンナは、お前が初めてだし…
「もちっと力抜こうぜ。
なんか俺、牧野の形した岩でも抱き締めてるみてえ。」
「だ、だ、だ、だって、緊張しちゃってっ!
どうしたらいいのか分かんないんだもん。」
「お前さぁ、俺がお前の気持ち無視して、何かスルと思ってんの?」
「ひえっ? スルとか言わないでよっ!
あ、たし… 今まで西門さんがお付き合いしてきた女の人達と違って、そういうの免疫ないって言うか…」
へー、へー、重々承知ですよ。
だから大事にしてるだろ!
1ヶ月だ! 1ヶ月、キスとハグだけで堪えてんだぞ!
この西門総二郎がだぞ!
お前、これ、物凄いことだって分かってんのか?
今だって俺の忍耐、総動員させてんだ。
それもこれも全部、お前の事好きだからなんだぜ!
「お付き合いしてきた女なんていねえよ。
ちゃんと向き合った女はお前だけ。
好きだって告白したのだって、お前だけ。
俺の恋人って呼べる存在は、お前が初めて。
お前だけがトクベツなんだ。
そろそろ俺の本気に気付いてくれてもいいんじゃねえ?」
そう告げて、牧野の髪にキスを落とす。
「じゃ、じゃ、じゃあ、あの男のロマンとか言って、周りに侍らせてた女の人達って一体何だったのよっ?」
「んーーー、あれは、若気の至りというか、暇つぶしと言うか。
お前が俺に振り向いてくれない憂さ晴らしみたいなもんだったワケ。
でも俺は今はつくしちゃん一筋で、他の女なんか目に入んない。」
きゅっと腕に力を込めて身体を引き寄せて。
俺の気持ちが伝わるようにって思うのに、こいつはつれない。
「あんなにあたしのことバカにしてたくせに!
勤労処女!とか、鉄パン牧野!とか、貧弱ボディとか、色気ねえ!とか散々言って来たじゃないの。」
「お前… 好きな女の気を引きたくて、そういう事言っちゃう男心解れよ!
それに全部事実だろうが。
でも1番目と2番目は、牧野次第でいつでも卒業できるって知ってた?」
1番目と2番目を卒業したら、3番目と4番目も徐々に改善されたりしてな。
そんな事をちらりと思い、ついつい笑みを浮かべつつ、牧野を見下ろす。
自分のセリフを頭の中で反芻したんだろうか?
一瞬静かな時が流れた…と思ったら、今度は腕の中でジタバタし始めた。
「あたしの気持ち無視して何かしたりしないんでしょっ?!」
しねえよ。
っていうか、出来ねえんだよ。
お前の事、大事過ぎて、絶対に傷つけたくなくて、手が出せない。
それがホントのとこ。
「牧野がしたいって思うまでしない。
お前の気持ちが一番大切だって思ってるから。」
その言葉で、ジタバタが止んだ。
牧野の身体から徐々に力が抜けていく。
次第に俺の身体に寄り添ってくる、その熱と重みが嬉しい。
「ありがと… そんな風に言ってくれて。」
牧野の頭がこてん…と俺の胸にぶつかった。
「西門さんってさ、ホントは優しい人なのに、それを隠してるよね。
特にお邸にいる時。
自分のお家にいるのに、いつもどこか緊張してて、リラックス出来てなくてさ。
ホントの自分でいられないでしょ。」
「あそこは俺の職場でもあんの。
使ってる人間も大勢いるし、次期家元って立場もあるんだ。
それなりの顔してないとダメなの。」
「そうかなあ。若宗匠だって、お茶のお師匠様でいる前に1人の人間でしょ。
色んな顔出してもいいと思うけど?」
「誰もそんな事望んでねえし。」
「…あたし、思うんだけど、西門さんがもうちょっと、自分の気持ちを人に伝えるようになったらね、相手の人からも色んな気持ちが溢れてるっていうのが分かると思うの。
西門さんは気付いて無くても、西門さんの周りには、色んな思いが集まってて、それってとっても幸せな事だから。
ちゃんと目を開いて見て欲しいなあ。」
牧野は訳が分からない事を言う。
「つくしちゃんが俺の事好きだったのに気付いてやれなかったって言ってんの?」
「そ、それは… あたしだって必死に隠してたし…
そうじゃなくて!
普段、西門さんが触れ合ってる人達からも、西門さんはいっぱい愛されてるよ!ってこと!
お母さんも、お邸で働いてらっしゃる方達も、沢山のお弟子さんも。
皆、次期家元だから、西門さんのいう事聞いてくれてるんじゃなくって、西門さんの事、大切に思ってくれてて、大好きだから、支えてくれてるって、知って欲しいの。」
牧野と一緒にいる様になって変わり始めた、お袋の様子や、邸の中の空気を思い起こす。
あれって俺が牧野のお蔭で人間らしくあれるようになったから、周囲の目が変わって来たって事なのか?
てっきり、長年の片思いを実らせたバカな跡取り息子のことを面白おかしく見ているのかと思ってた。
だからこっ恥ずかしいと思ってたし、擽ったく感じてもいたんだが…
牧野を想うことによって生まれる新しい変化。
開けられる新しい扉。
こいつっていとも簡単にそういうことをやってのけるから驚きだ。
「それって全部、お前のお蔭だな。」
「え?」
「お袋や邸の人間に俺が認められるようになったっての、全部お前のお蔭。
お前に相応しい男になりたくて。
良い師匠になりたくて。
そう思ったら、真剣に茶と向き合えるようになったんだ。
それに気付いてる人間がいるって事だろう?」
「あたしは関係ないと思うけど…
お邸にいるとね、皆さんが西門さんの事大好きなのが伝わって来るんだよ。
西門さんは気付かないふりして通り過ぎてるみたいに見えたからさ。
ちゃんと知って欲しいなって思ってたんだ。」
柔らかく微笑みながら、俺を見上げる牧野がいる。
俺は途轍もない宝物を手に入れちまった。
こいつ1人側にいるだけで、俺の世界は色を変えていく。
「有り難う、牧野。」
顔を近づけていくと、牧野は逃げずにそっと瞼を閉じた。
ゆっくり長く優しいキスを交わす。
幸せがじわりじわりと沁み出して、心を満たしてく。
2人顔を見合わせて笑い合って。
その幸せを噛みしめる。
牧野がふいに声を上げた。
「あ、やっとお月様、出てきた。」
振り返ると、牧野の部屋の小さな窓の向こうには、上り始めた下弦の月。
「この前、西門さんが寝込んだ時も、あんな半分のお月様だった。」
「ああ、それって、俺達が一緒にいる様になって1カ月経ったってことだ。」
「そっか。丁度一月だね。」
これからは2人でずっと同じ景色を眺めてく。
月の満ち欠けも、季節の移ろいも。
「もうちょっとだけ待っててね、あたしの気持ちが固まるまで。」
俺の胸に凭れ掛かってる牧野からのドッキリ発言。
思わず心臓が跳ねた。
「待つよ。待つけどさ。せめてあとどのくらいとか、目安を教えてもらえると、俺も助かるんだけど…」
そう、この忍耐力ギリギリの状態がいつまでか、聞いとかないと持たなくなる。
「…あの月が満ちたら。そしたらあたし…」
その後の言葉は、俺の胸の中にぐっと抱き込んだせいで掻き消えた。
だってこんな顔見られる訳にはいかないんだ。
俺、きっと今、お前と同じように赤くなってる。
そんなとこ、お前に見られたら、恥ずかしくってやってらんねえだろ!
__________
お待たせしましたー。やっと後半UPです。
初心いつくしに、手を出せない総二郎…というのを書いてみたくて。
いつでもエロ門じゃねえ(笑)
こんな総二郎も可愛いかなー?と思ったり。
パスワードの件では沢山ご心配お掛けしちゃったみたいで。
コメントも拍手コメントも有り難うございます。
全部読ませて頂いてます。
はい、あの、管理人、大丈夫ですんで!
皆様のお声を胸に、また頑張りますー!
花粉症はメッチャ辛いけど…
今日も咳止まらん。目カユカユ。鼻が滝。頭ガーン。
ついつい、花粉症の辛さを思いっきり詰め込んだ替え歌を考えている自分がいます。
(メロディはTけうちMりやの「Kんかをやめて」でしっとりと歌い上げています。←人は具合が悪くなるとバカになるいい例)
本日のブログ村バナーは下弦の月でした。

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んーーー、なんかもうちょっと、自然に抱き合えないもんか…?
これじゃまるで俺が嫌がってる牧野に纏わりついてるだけみてえじゃん?
「牧野…」
「な、なにっ?」
そんな裏返った声出すな。
俺ってホント信用ねえのな。
ま、自業自得なんだけど…
嫌がるオンナ、どうこうしようなんて思ってねえよ。
そもそも俺の腕の中で、そんなに緊張して、ビクビクしてるオンナは、お前が初めてだし…
「もちっと力抜こうぜ。
なんか俺、牧野の形した岩でも抱き締めてるみてえ。」
「だ、だ、だ、だって、緊張しちゃってっ!
どうしたらいいのか分かんないんだもん。」
「お前さぁ、俺がお前の気持ち無視して、何かスルと思ってんの?」
「ひえっ? スルとか言わないでよっ!
あ、たし… 今まで西門さんがお付き合いしてきた女の人達と違って、そういうの免疫ないって言うか…」
へー、へー、重々承知ですよ。
だから大事にしてるだろ!
1ヶ月だ! 1ヶ月、キスとハグだけで堪えてんだぞ!
この西門総二郎がだぞ!
お前、これ、物凄いことだって分かってんのか?
今だって俺の忍耐、総動員させてんだ。
それもこれも全部、お前の事好きだからなんだぜ!
「お付き合いしてきた女なんていねえよ。
ちゃんと向き合った女はお前だけ。
好きだって告白したのだって、お前だけ。
俺の恋人って呼べる存在は、お前が初めて。
お前だけがトクベツなんだ。
そろそろ俺の本気に気付いてくれてもいいんじゃねえ?」
そう告げて、牧野の髪にキスを落とす。
「じゃ、じゃ、じゃあ、あの男のロマンとか言って、周りに侍らせてた女の人達って一体何だったのよっ?」
「んーーー、あれは、若気の至りというか、暇つぶしと言うか。
お前が俺に振り向いてくれない憂さ晴らしみたいなもんだったワケ。
でも俺は今はつくしちゃん一筋で、他の女なんか目に入んない。」
きゅっと腕に力を込めて身体を引き寄せて。
俺の気持ちが伝わるようにって思うのに、こいつはつれない。
「あんなにあたしのことバカにしてたくせに!
勤労処女!とか、鉄パン牧野!とか、貧弱ボディとか、色気ねえ!とか散々言って来たじゃないの。」
「お前… 好きな女の気を引きたくて、そういう事言っちゃう男心解れよ!
それに全部事実だろうが。
でも1番目と2番目は、牧野次第でいつでも卒業できるって知ってた?」
1番目と2番目を卒業したら、3番目と4番目も徐々に改善されたりしてな。
そんな事をちらりと思い、ついつい笑みを浮かべつつ、牧野を見下ろす。
自分のセリフを頭の中で反芻したんだろうか?
一瞬静かな時が流れた…と思ったら、今度は腕の中でジタバタし始めた。
「あたしの気持ち無視して何かしたりしないんでしょっ?!」
しねえよ。
っていうか、出来ねえんだよ。
お前の事、大事過ぎて、絶対に傷つけたくなくて、手が出せない。
それがホントのとこ。
「牧野がしたいって思うまでしない。
お前の気持ちが一番大切だって思ってるから。」
その言葉で、ジタバタが止んだ。
牧野の身体から徐々に力が抜けていく。
次第に俺の身体に寄り添ってくる、その熱と重みが嬉しい。
「ありがと… そんな風に言ってくれて。」
牧野の頭がこてん…と俺の胸にぶつかった。
「西門さんってさ、ホントは優しい人なのに、それを隠してるよね。
特にお邸にいる時。
自分のお家にいるのに、いつもどこか緊張してて、リラックス出来てなくてさ。
ホントの自分でいられないでしょ。」
「あそこは俺の職場でもあんの。
使ってる人間も大勢いるし、次期家元って立場もあるんだ。
それなりの顔してないとダメなの。」
「そうかなあ。若宗匠だって、お茶のお師匠様でいる前に1人の人間でしょ。
色んな顔出してもいいと思うけど?」
「誰もそんな事望んでねえし。」
「…あたし、思うんだけど、西門さんがもうちょっと、自分の気持ちを人に伝えるようになったらね、相手の人からも色んな気持ちが溢れてるっていうのが分かると思うの。
西門さんは気付いて無くても、西門さんの周りには、色んな思いが集まってて、それってとっても幸せな事だから。
ちゃんと目を開いて見て欲しいなあ。」
牧野は訳が分からない事を言う。
「つくしちゃんが俺の事好きだったのに気付いてやれなかったって言ってんの?」
「そ、それは… あたしだって必死に隠してたし…
そうじゃなくて!
普段、西門さんが触れ合ってる人達からも、西門さんはいっぱい愛されてるよ!ってこと!
お母さんも、お邸で働いてらっしゃる方達も、沢山のお弟子さんも。
皆、次期家元だから、西門さんのいう事聞いてくれてるんじゃなくって、西門さんの事、大切に思ってくれてて、大好きだから、支えてくれてるって、知って欲しいの。」
牧野と一緒にいる様になって変わり始めた、お袋の様子や、邸の中の空気を思い起こす。
あれって俺が牧野のお蔭で人間らしくあれるようになったから、周囲の目が変わって来たって事なのか?
てっきり、長年の片思いを実らせたバカな跡取り息子のことを面白おかしく見ているのかと思ってた。
だからこっ恥ずかしいと思ってたし、擽ったく感じてもいたんだが…
牧野を想うことによって生まれる新しい変化。
開けられる新しい扉。
こいつっていとも簡単にそういうことをやってのけるから驚きだ。
「それって全部、お前のお蔭だな。」
「え?」
「お袋や邸の人間に俺が認められるようになったっての、全部お前のお蔭。
お前に相応しい男になりたくて。
良い師匠になりたくて。
そう思ったら、真剣に茶と向き合えるようになったんだ。
それに気付いてる人間がいるって事だろう?」
「あたしは関係ないと思うけど…
お邸にいるとね、皆さんが西門さんの事大好きなのが伝わって来るんだよ。
西門さんは気付かないふりして通り過ぎてるみたいに見えたからさ。
ちゃんと知って欲しいなって思ってたんだ。」
柔らかく微笑みながら、俺を見上げる牧野がいる。
俺は途轍もない宝物を手に入れちまった。
こいつ1人側にいるだけで、俺の世界は色を変えていく。
「有り難う、牧野。」
顔を近づけていくと、牧野は逃げずにそっと瞼を閉じた。
ゆっくり長く優しいキスを交わす。
幸せがじわりじわりと沁み出して、心を満たしてく。
2人顔を見合わせて笑い合って。
その幸せを噛みしめる。
牧野がふいに声を上げた。
「あ、やっとお月様、出てきた。」
振り返ると、牧野の部屋の小さな窓の向こうには、上り始めた下弦の月。
「この前、西門さんが寝込んだ時も、あんな半分のお月様だった。」
「ああ、それって、俺達が一緒にいる様になって1カ月経ったってことだ。」
「そっか。丁度一月だね。」
これからは2人でずっと同じ景色を眺めてく。
月の満ち欠けも、季節の移ろいも。
「もうちょっとだけ待っててね、あたしの気持ちが固まるまで。」
俺の胸に凭れ掛かってる牧野からのドッキリ発言。
思わず心臓が跳ねた。
「待つよ。待つけどさ。せめてあとどのくらいとか、目安を教えてもらえると、俺も助かるんだけど…」
そう、この忍耐力ギリギリの状態がいつまでか、聞いとかないと持たなくなる。
「…あの月が満ちたら。そしたらあたし…」
その後の言葉は、俺の胸の中にぐっと抱き込んだせいで掻き消えた。
だってこんな顔見られる訳にはいかないんだ。
俺、きっと今、お前と同じように赤くなってる。
そんなとこ、お前に見られたら、恥ずかしくってやってらんねえだろ!
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お待たせしましたー。やっと後半UPです。
初心いつくしに、手を出せない総二郎…というのを書いてみたくて。
いつでもエロ門じゃねえ(笑)
こんな総二郎も可愛いかなー?と思ったり。
パスワードの件では沢山ご心配お掛けしちゃったみたいで。
コメントも拍手コメントも有り難うございます。
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はい、あの、管理人、大丈夫ですんで!
皆様のお声を胸に、また頑張りますー!
花粉症はメッチャ辛いけど…
今日も咳止まらん。目カユカユ。鼻が滝。頭ガーン。
ついつい、花粉症の辛さを思いっきり詰め込んだ替え歌を考えている自分がいます。
(メロディはTけうちMりやの「Kんかをやめて」でしっとりと歌い上げています。←人は具合が悪くなるとバカになるいい例)
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