春が来た。
雪柳は白い小さな花を満開にして、太陽へと伸ばした枝は、その重みで緩やかな弧を描いている。
桜の枝先は淡いピンクに色付き始めた。
冷たい風は鳴りを潜め、柔らかな大気が辺りを満たす昼下がり。
すぐ傍には眩しそうに空を見上げる牧野の横顔がある。
その黒髪が風にそよいでいる様に見惚れた。
「類、暖かいねえ、今日は。
日向ぼっこ気持ちいー!」
広い庭の陽だまりに、ブランケットを敷いてピクニックごっこ。
牧野にとっては、こんな事が贅沢な時間らしい。
普通にダイニングで食べればいいんじゃないかと思うけど、態々バスケットに詰めて、外に持ち出したランチ。
「そりゃ、類んちのご飯はとっても美味しいけど。
お日様の元で食べるともっと美味しく感じるんだから!」
そんな牧野の小さな我儘を受け入れて、自分の家の庭でサンドイッチを口にする。
牧野がそんな俺を見てにっこり笑うから、俺は自分の拘りなんてどうでもよくなるんだ。
甲斐甲斐しくスープの入ったマグを手渡してくれたり、「類、ここ付いてる!」なんて言いながら、ナプキンで口元を拭ってくれたりするのがくすぐったい。
いつもはどっちかっていうと、俺が牧野の世話をしてると思ってるのに。
何故か今日は立場が逆転?
「このサンドイッチ、めっちゃゴージャスじゃない?
ローストビーフ、こんなに厚く切ってあるのに、柔らか~!」
ランチにと用意してあったメニューを急遽サンドイッチに仕立てたんだろうバスケットの中身は、牧野を十二分に楽しませているみたいだ。
かぷりと大きな口を開けてサンドイッチに齧りついてる牧野。
目を細めて見つめていた俺に気付いて、ふいっとこちらを向いた。
「なあに? 食べてるとこなんてじっと見ないで。
恥ずかしいでしょ!」
ぽっと顔を赤らめて、唇を尖らせる、いつものポーズ。
ついつい頬が緩んでく。
「あんたはいつも美味しそうに食べるよね。」
「だって美味しいんだもん!
こっちのアボカドと海老フライのも食べなよー。」
「それはあんたの好きな物をウチのシェフが用意してたんでしょ。
牧野が食べな。」
「一緒に食べたいの!
類と同じ物食べて、2人で美味しいねって言い合えたら、ますます美味しく感じるでしょ?」
そんなものかな?
俺は食べ物なんかより、それを楽しんでる牧野の笑顔の方が大事なんだけど。
そう思いつつも手渡された新しいサンドイッチを見下ろした。
粗方食べ終えて、ポットから注いでくれたコーヒーを飲み終わったら、ブランケットにごろりと横になる。
瞼を閉じても牧野を感じられるように、右手は牧野の手を握った。
暖かな掌は、春の陽射しよりも俺の心を温めてくれる。
手を繋いでいるところから、温もりだけじゃなくて俺の胸を高鳴らせる魔法が流れ込んでくる。
俺が牧野に出会えたという運命。
そして俺を選んでくれたという奇跡。
牧野が俺の傍にいてくれるというかけがえのない幸せ。
「類、寝ちゃったの?」
小さな声で牧野が聞いてくる。
起きてるけど、寝てたらどうするんだろ?なんて悪戯心が湧いて、寝たふりをした。
牧野の指が俺の髪をするりするりと梳いている。
「類の寝顔って天使みたい。
あたしのところに舞い降りてきた天使。
でもホントは悪戯な天使だよね。」
くすくす笑いながらそんな事を独り言ちてる牧野にドキリとする。
寝たふりを見抜かれたかと思って。
「でもね、あたし、そんな悪戯な天使が大好きだよ。
お誕生日おめでとう…」
はっとして目を開けた。
目の前に牧野が優しく微笑む顔がある。
と思ったら、びっくり顔になった。
「なっ! 起きてたの?」
「ねえ、お祝いしてくれるなら、起きてる時にしてよ。」
「聞こえてたって事は起きてたんでしょ?
なんで寝たふりするのよっ?」
「うーん… 俺が悪戯な天使だから?」
牧野のお気に入りの無邪気な微笑みでそう返すと、途端に真っ赤に頬を染めた。
ぐいっと手を引いて、バランスを崩した牧野を受け止める。
ふぎゃっ!とか変な声がして、牧野の顔は俺の胸にぶつかった。
すかさず転がって、身体の上下を入れ替える。
「ふえっ?」
「ふっ。ホントにあんたっていっつも面白い声出すよね。
ま、それも楽しいんだけどさ。」
そう言って、唇にちゅっと吸い付いた。
「な、何すんのっ? お庭だよ、ここっ!」
「ん? 誕生日プレゼント、貰おうかなって。」
「じゃあ、退いてよっ!
あたし、プレゼント持って来るから。」
ブランケットの上でジタバタしている牧野にまたキスを落とす。
甘い唇を堪能して、そっと顔を離せば、頬が上気して、目がうるうると濡れている可愛い恋人がいた。
「誕生日プレゼントはキスがいい。
いっぱいキスしよ、牧野。」
「…もう、この悪戯天使!」
そんな目で睨んできたって、全然怖くないよ。
寧ろもっとキスしたくなるばっかりだ。
「春っていいもんだね。
俺の誕生日が巡って来るんだもん。
今まで気付かなかったけど。
初めて誕生日が嬉しいって思ってるかも。」
「…じゃあこれからは、毎年楽しい誕生日にしようね。」
「牧野さえいてくれたら、楽しい誕生日になるよ。
だから、ずっと俺の隣にいてね。」
恥ずかしそうにこくりと頷いてくれる牧野にまたキスをする。
柔らかな春風が吹き抜けてく庭は、ただのだだっ広いだけの場所だったのに、途端に俺にとって大切な場所になった。
こうして牧野とひとつずつ、思い出を積み重ねて歩いて行くんだ。
この先ずっと…
___________
類誕、何か書きたいなと思ったんですが、なかなか難しくて…
でも、まぁ、気持ちだから!
類、お誕生日オメデトー!
ホントならチャット会してる筈でしたね、今夜は…
出来なくてごめんなさい。
またいつか企画したいと思ってます!
沢山のお優しいお言葉、有り難うございます!
そんな温かい応援のお言葉を胸に、また明日から病院通い頑張ります!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
雪柳は白い小さな花を満開にして、太陽へと伸ばした枝は、その重みで緩やかな弧を描いている。
桜の枝先は淡いピンクに色付き始めた。
冷たい風は鳴りを潜め、柔らかな大気が辺りを満たす昼下がり。
すぐ傍には眩しそうに空を見上げる牧野の横顔がある。
その黒髪が風にそよいでいる様に見惚れた。
「類、暖かいねえ、今日は。
日向ぼっこ気持ちいー!」
広い庭の陽だまりに、ブランケットを敷いてピクニックごっこ。
牧野にとっては、こんな事が贅沢な時間らしい。
普通にダイニングで食べればいいんじゃないかと思うけど、態々バスケットに詰めて、外に持ち出したランチ。
「そりゃ、類んちのご飯はとっても美味しいけど。
お日様の元で食べるともっと美味しく感じるんだから!」
そんな牧野の小さな我儘を受け入れて、自分の家の庭でサンドイッチを口にする。
牧野がそんな俺を見てにっこり笑うから、俺は自分の拘りなんてどうでもよくなるんだ。
甲斐甲斐しくスープの入ったマグを手渡してくれたり、「類、ここ付いてる!」なんて言いながら、ナプキンで口元を拭ってくれたりするのがくすぐったい。
いつもはどっちかっていうと、俺が牧野の世話をしてると思ってるのに。
何故か今日は立場が逆転?
「このサンドイッチ、めっちゃゴージャスじゃない?
ローストビーフ、こんなに厚く切ってあるのに、柔らか~!」
ランチにと用意してあったメニューを急遽サンドイッチに仕立てたんだろうバスケットの中身は、牧野を十二分に楽しませているみたいだ。
かぷりと大きな口を開けてサンドイッチに齧りついてる牧野。
目を細めて見つめていた俺に気付いて、ふいっとこちらを向いた。
「なあに? 食べてるとこなんてじっと見ないで。
恥ずかしいでしょ!」
ぽっと顔を赤らめて、唇を尖らせる、いつものポーズ。
ついつい頬が緩んでく。
「あんたはいつも美味しそうに食べるよね。」
「だって美味しいんだもん!
こっちのアボカドと海老フライのも食べなよー。」
「それはあんたの好きな物をウチのシェフが用意してたんでしょ。
牧野が食べな。」
「一緒に食べたいの!
類と同じ物食べて、2人で美味しいねって言い合えたら、ますます美味しく感じるでしょ?」
そんなものかな?
俺は食べ物なんかより、それを楽しんでる牧野の笑顔の方が大事なんだけど。
そう思いつつも手渡された新しいサンドイッチを見下ろした。
粗方食べ終えて、ポットから注いでくれたコーヒーを飲み終わったら、ブランケットにごろりと横になる。
瞼を閉じても牧野を感じられるように、右手は牧野の手を握った。
暖かな掌は、春の陽射しよりも俺の心を温めてくれる。
手を繋いでいるところから、温もりだけじゃなくて俺の胸を高鳴らせる魔法が流れ込んでくる。
俺が牧野に出会えたという運命。
そして俺を選んでくれたという奇跡。
牧野が俺の傍にいてくれるというかけがえのない幸せ。
「類、寝ちゃったの?」
小さな声で牧野が聞いてくる。
起きてるけど、寝てたらどうするんだろ?なんて悪戯心が湧いて、寝たふりをした。
牧野の指が俺の髪をするりするりと梳いている。
「類の寝顔って天使みたい。
あたしのところに舞い降りてきた天使。
でもホントは悪戯な天使だよね。」
くすくす笑いながらそんな事を独り言ちてる牧野にドキリとする。
寝たふりを見抜かれたかと思って。
「でもね、あたし、そんな悪戯な天使が大好きだよ。
お誕生日おめでとう…」
はっとして目を開けた。
目の前に牧野が優しく微笑む顔がある。
と思ったら、びっくり顔になった。
「なっ! 起きてたの?」
「ねえ、お祝いしてくれるなら、起きてる時にしてよ。」
「聞こえてたって事は起きてたんでしょ?
なんで寝たふりするのよっ?」
「うーん… 俺が悪戯な天使だから?」
牧野のお気に入りの無邪気な微笑みでそう返すと、途端に真っ赤に頬を染めた。
ぐいっと手を引いて、バランスを崩した牧野を受け止める。
ふぎゃっ!とか変な声がして、牧野の顔は俺の胸にぶつかった。
すかさず転がって、身体の上下を入れ替える。
「ふえっ?」
「ふっ。ホントにあんたっていっつも面白い声出すよね。
ま、それも楽しいんだけどさ。」
そう言って、唇にちゅっと吸い付いた。
「な、何すんのっ? お庭だよ、ここっ!」
「ん? 誕生日プレゼント、貰おうかなって。」
「じゃあ、退いてよっ!
あたし、プレゼント持って来るから。」
ブランケットの上でジタバタしている牧野にまたキスを落とす。
甘い唇を堪能して、そっと顔を離せば、頬が上気して、目がうるうると濡れている可愛い恋人がいた。
「誕生日プレゼントはキスがいい。
いっぱいキスしよ、牧野。」
「…もう、この悪戯天使!」
そんな目で睨んできたって、全然怖くないよ。
寧ろもっとキスしたくなるばっかりだ。
「春っていいもんだね。
俺の誕生日が巡って来るんだもん。
今まで気付かなかったけど。
初めて誕生日が嬉しいって思ってるかも。」
「…じゃあこれからは、毎年楽しい誕生日にしようね。」
「牧野さえいてくれたら、楽しい誕生日になるよ。
だから、ずっと俺の隣にいてね。」
恥ずかしそうにこくりと頷いてくれる牧野にまたキスをする。
柔らかな春風が吹き抜けてく庭は、ただのだだっ広いだけの場所だったのに、途端に俺にとって大切な場所になった。
こうして牧野とひとつずつ、思い出を積み重ねて歩いて行くんだ。
この先ずっと…
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でも、まぁ、気持ちだから!
類、お誕生日オメデトー!
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