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花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
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独り占め

このお話は「fake」の後日譚となっております。
1話の短編としてもお楽しみ頂けますが、宜しければ「fake」読了後に再読して頂ければ嬉しいです。
<前書き追記:2017.09.25>


__________


色んな事があったけど。
本当に・・・ ここまで色んな事があったけど。
あたし達は晴れて今日から『2人暮らし』になる。


西門さんがお邸を出て生活するなんて、有り得ない!って思ってたのに、それが叶っちゃったのには驚いた。
一体どういう風の吹き回しなのか、聞いてもはぐらかして教えてくれないって事は・・・
何かあたしに言えないような事、したんじゃないかなあ?って疑ってる。
でも2人で暮らせるっていうのはすっごく嬉しい。
ただ、こうなるまでにはちょっとした波風もあったんだよね。

一緒に住む為の物件を幾つか見に行った時、どれもこれも、今迄住んできた部屋とは雲泥の差で、若干引き気味になってたあたし。
あまりにも豪華で広過ぎて、セキュリティーも凄いとこばっかり見せられたんだけど、西門さん曰く、「これぐらい最低限必要だ!」との事で。
まあ、有名人だし、マスコミにもマークされたりすることもある西門さんだから、仕方ないらしい。
色んなお部屋を見せてもらって、結局西門さんがお仕事する上で困らない為にお邸に近くて、あたしにとって有り難い、近所にスーパーがあるマンションに決めたんだ。
スーパーって言っても、これまたあたしが常日頃利用してる、庶民派な何でも安いお店と違って、どれもこれも手を出すのが躊躇われるような、ピッカピカのお野菜や、見たこともないスパイスや調味料が並んでる、高級スーパーだけどね。

住む所が決まったら、次に連れて行かれたのは家具屋さんだった。
「こんな広い家具屋さん、初めて来た・・・」って言ったら、「バーカ、ショールームって言うんだ。」と、口の悪い人に鼻で笑われた。
東京ドームが何個も入るという広さの床面積を持つ、その『ショールーム』の中を、脚を棒にしながら歩き回って、2人で住む部屋に置く家具を選んだ・・・というか、殆ど西門さんが決めちゃったんだけど。
あたしはどんな家具でも、カーテンでも、照明でも拘らないから、お任せしてた。
いや、高すぎる!って何度か言っちゃったか?
だけどソファだけはあたしの意見も取り入れてもらって決めたんだ。
だって今まで使ってたソファは小ちゃくて、2人で座るのには窮屈で。
今度は2人でのんびり座れるものにしたいと思った。
ずらーっと並んだソファ売り場で色んなソファに座ってみて、これだ!とあたしが思えたのは、西門さんが「これで良いんじゃね?」と気軽に言ってのけた革張りの何百万もするソファセットなんかじゃ無くて。
まあ、あたしの金銭感覚からするとこれも目玉が飛び出るお値段だったけれど、西門さんセレクトの物よりはぐっとリーズナブルな、コットンの帆布素材のカバーが掛かってて、季節毎に好きな色に取り換えられるソファ。
春は柔らかなオリーブグリーン。
夏は涼し気なオフホワイト。
秋は落ち着いたカーキ。
冬は温かみのあるココアブラウン・・・と、あたしの頭の中にイメージが広がる。
冬用は帆布だけじゃ無くて、コーデュロイ生地も選べるのも嬉しい!
勿論お揃いのクッションカバーもある。
カバーを取り換えつつ使うなら、末長く使えそうだし、何より同じソファなのに違うカラーに出来るのが楽しい!
それに、このソファは座面が他の物より広いところが魅力だった。
脚の長ーい西門さんでもゆったり座れるし、あたしが膝を抱えて載っかってもぜーんぜんはみ出したりしない。
座ると身体全体が包まれる感じで、思わずうっとりしてしまったのも決め手だった。

「ねえ、ねえ、これにしよ!
絶対これがいいよ!
あたし、このソファに惚れちゃったー。」

座面や肘掛けを撫でて感触を確かめつつそんな事を言ったら、何故かそこでちょっとした口喧嘩になった。

「おい、惚れるのは俺だけにしとけよ。
浮気なんて許さねえからな!」
「はぁー? 何言っちゃってんの?
これはヒトじゃないの、ソファなの!
それにあたしは誰かさんと違って、一途ですから、浮気なんてしないしっ。」
「俺だって浮気なんかしねえよ!
お前、俺の事、そんな風に思ってんの?」

信じられないとでも言いた気にあたしの事を睨み付けてくるから、こっちこそどの口がそんな事言ってんの?との思いを込めて睨み返す。
一頻りバチバチと火花を散らし合ったけど、案内してくれていたショールームのスタッフさんが困ってオロオロしてらっしゃるのに気が付いて、その場は取り敢えず言いたい事を飲み込み、一時休戦したんだけれど。
帰りの車で、西門さんが蒸し返したもんだから、車内の空気は最悪になった。

「おい、つくしちゃん。
俺がいつ浮気したってんだよ?
俺の事、信じてねえんだな、お前って。」
「今浮気してるなんて言ってないでしょ!
でも昔の悪行三昧を忘れたとは言わせないからねっ。」
「フッザケンナ!
俺はなあ、本気で好きになった女は1人しかいねえんだ!
お前こそ、初恋が類で、司がいなくなってからもずっと司に操立ててた癖に。
俺より気が多いじゃねえか!」
「そのあたしを無理矢理どうにかしちゃった西門さんがそんな事言うの?
あたしは男の人は西門さんしか知らないのに!
西門さんは一体どれだけの女の人と遊んで来たのよっ?」
「単なる暇潰しだったんだよ!
顔も名前も憶えてない女の事、カウントするな!」
「なっ・・・ 何、その屁理屈っ!?
憶えてないからって、してきた事実は消えないんだから!」

と、まあ、まるで猫の喧嘩みたいな、今考えてみればとーっても馬鹿馬鹿しい言い争いをして、互いにそっぽを向いて座る事になった後部座席。
あたしの部屋の前に車が横付けされて、運転手さんが恭しくドアを開けてくれても、西門さんには「じゃあねっ!」という捨て台詞だけで、車を降りてしまった。
結局、それから1週間冷戦を繰り広げた挙句に、渋々仲直りしたんだけど。
これによってあたしが選んだソファは曰く付きのソファになってしまったって訳。


2人暮らしすることになったお部屋に、真新しい家具や家電が次々と運び込まれてく。
西門さんの私物もお邸から移されて。
最後にあたしが今迄使ってた安物の家具や小さな冷蔵庫なんかを処分して、身の回りの物だけを運ぶ小さな引っ越しをした。
持ってきた物は少ないと思ってたのに、引っ越し当日に全部の荷解きを済ませたら、思いの外体力を使ったみたい。
草臥れちゃったあたしはリビングのソファにふう・・・と息を吐きながら腰掛けた。
ふかふかと柔らかなソファに身体を預けると、まるで吸い込まれていく感覚!
疲れがすうっとどこかに溶けて消えていくかのようで、夢見心地で目を閉じた。

あー、このソファ、やっぱり最高!
これにして良かったなあ。
決めた時、あんな喧嘩しちゃったけど・・・
それにしても、あの時、なんだってあんな言いがかりつけて来たのかなあ、西門さんは。
「ソファに惚れた」って言っただけだったのに。

あの日の口喧嘩の事を反芻しながら、その原因のソファに身を任せているうちに、あたしはついつい寝てしまった。
ふと目を覚ますと、自分の身体には肌触りのいい薄手のケットが掛けられている。
そのケットの中から手を出して、眠い目をこすろうとしたら、既の所で優しい手がそれを遮った。

「んん・・・?」
「つくしちゃん、そんな事するとアイメイク剥げちまうぜ。」

声がする方に首を回すと、ソファの背凭れに頬杖を突きながら隣りに座って、あたしの方を見てる西門さんがいた。


甘々総二郎


「西門さん・・・」

名前を呼んだら、ふわりと甘く笑ってくれたから、それだけであたしは嬉しくなる。
目尻が下がった優しい笑い顔につい見惚れた。

「そんなに座り心地良かったか、このソファ?」
「うん、もうサイコー!
あたしここに根っこが生えて立てなくなりそ。」
「大袈裟だな、お前。」

ふふっと小さく笑う西門さんにつられて、あたしもえへへと笑ってしまう。

「なあ、つくしちゃん、俺とソファ、どっちが好き?」
「・・・変な質問。
比べるものじゃないでしょ。」
「だってお前、ソファに惚れたなんて言ってたじゃん。」
「そんなの言葉の綾だよ。
まさかソファに嫉妬してる・・・なんて事ないでしょ?」

笑いながらそう言ったら、西門さんが急に真顔になった。

「俺はお前が俺以外に心惹かれてくのが嫌なんだよ。
それがヒトだろうが、モノだろうが!
お前は俺だけに夢中になってりゃいいの。」

何て無茶苦茶な主張なの!
独占欲、強過ぎない?
でも、胸の内では嬉しさが広がってく。

「・・・あたしには西門さんだけだよ。」

さっき西門さんが握ってくれた手を、今度はあたしがきゅっと握り返す。
あたしの想いを指先からも伝えるために。

「分かってるでしょ、そんなの。
でも・・・ 焼き餅焼かれてちょっと嬉しいかも。」
「お前こそ、俺の過去に嫉妬してたじゃねえか。」
「だあって、あんなこと言うんだもん。」
「これからは嫉妬させるようなことは絶対にしない。
だから俺をお前の最初で最後の男にしろよ。」

ちょっと切なげな眼差しであたしにそんな事言うこの人が、何だか可愛い駄々っ子に見える。

全くこんな時でも俺様発言なんだから・・・

「いいよ。そうしてあげる。」

あたしの言葉に、ほっとしたのか、ふっと表情を緩ませた。
いつもポーカーフェイスで、強気で、何事も達観しちゃってるようなこの人の、あたしだけに垣間見せる感情の揺らぎ。
それを見つける度にあたしは嬉しくなる。

でも本当はあたしの方が欲深いんだよ。
あたしだけが知ってる西門さん。
ずっとずっと独占しちゃうんだから。

「だーい好きっ!」

笑顔で告げて、大きな背中に手を回して、愛しい人を捕まえた。

もう、二度と放してあげないんだから。
貴方はずーっとあたしのもの。
だから・・・ 覚悟してよね!


__________


ONCE UPON A TIME の K+M様の素敵イラスト「甘々 総ちゃん」をお借りしてのイラスト付SSイベント。
ラストの4話目はこんなお話となりました。
K+M様のお蔭で妄想が膨らみました。
この度は、いや、この度も!本当に有り難うございました!
このお話の総二郎だけ、服を着てるイメージですね(笑)
うん、あくまでも裸総二郎祭りじゃなくて、甘い微笑みの総二郎祭りなんでね(爆)

さてさて、本日1月31日はNYの野獣のお誕生日でございます。
おめでとうございまーす(笑)
毎度スルーですけどねっ。
スマホアプリではちゃっかり踊らされておりますよ・・・

<追記>
諸般の事情により、更新日を変更してあります。
このお話は、当初は2016年1月31日に、K+M様のイラストをお借りしたSS4つのうちの一つとしてUPしたものでした。
他の3つは
・りく様の「水曜日の恋人・番外編 満たされる時 -side 総二郎- & -side つくし-」
・「ある朝の風景
となっております。


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fake 1

「ふっ・・・ 偽善者。」

そう鼻で笑われて、顎を掴まれ、視線を合わせる様に上を向かせられる。
向いた先には笑っているのに、目はまるで笑っていない歪んだ表情があった。
急な角度に首を持ち上げられているから少し苦しい。
息が詰まる気がする。

「お前のそういうおどおどして、如何にも『自分は傷付いてます』みたいに見せかけてる態度。
見てるとホント、イライラするよ。」
「あ、たしは・・・」

こんな手、振り払って逃げればいいのに。

そう思ってるのに、今のあたしはまるで虫ピンで刺された標本のように、壁にへばりついたままで。
何か言おうにも言葉が出てこない。

「ホントに傷付いてる・・・、未だに胸が痛む・・・とでも言う気か?」

蔑んだように薄く笑うその顔は、今迄見てきた表情の中で一番冷たく、恐ろしく、あたしの目に映る。

「もうとっくに司の事なんか諦めてる癖に。
お前がそうやってるのは、類やあきらに過剰に甘やかしてもらう為か?
『可哀想な牧野』って言われ続けたいからなのか?
それこそ下らねえ。
悲劇のヒロインぶって、自己憐憫に浸ってんじゃねえよ。」
「そんな事・・・っ!」

顎を掴んでいた指が離れてく。
ほっとしたのも束の間、今度は顔の横にドンっという叩きつけるような音と衝撃があり、心臓がぎゅんと縮んだ。
思わず目を閉じてしまったけれど、詰めていた息を吐き出すのと同時に、恐る恐る目も開けてみた。
首は動かさず、目線だけ左右に振ると、あたしは壁と長い腕とで作られた檻に閉じ込められているのが分かる。
そんな事をした張本人はゆっくりあたしと同じ目線まで腰を屈めて、真正面であたしをじっと見詰めてきた。

怖い。

昏い闇色の瞳から放たれる冷え冷えとした視線に射貫かれて、思わずぶるりと身震いし、壁に背中を付けたまた立ち尽くした。

「くくくっ。震えてんの、つくしちゃん?
俺が怖いのか?
赤札貼られて、全校生徒相手に戦ってたお前が?
たった一人を相手にビビるなんておかしくねえ?
そろそろ大声出して人でも呼ぶ?
それとも、そのポケットの中で握り締めてる携帯で、あいつらに助けてって泣き付くか?」

そう言われて初めて、自分が冷や汗をかきながらぎゅうっと握っているものが携帯電話だと気が付いた。
だけど今この状況で、ポケットから携帯電話を引っ張り出すことも、ましてやそれで誰かに連絡を取ることも出来ないだろう。
どうしてこんな事になっているのか、理解が及ばないあたしにもそれぐらいは分かる。
たとえ、電話しようとしたとしても、すぐに奪われることは目に見えてる。
小さくぎこちない動きで首を横に振る事しか出来ないあたしは、精一杯背中を壁に押し付けて、少しでも距離を取ろうとしたけれど、そんな事効果がある訳もなく、余計に腕の檻は狭まって来た。

「なあ、ホントの事言ってみろよ?
もう過去の恋愛なんか脱ぎ捨てて、新たに生き直したいって思ってるって。
司の事なんてもう忘れたいって。
お前がそう言ったって、俺はあいつらみたくガッカリしたりしないぜ。
だって俺は知ってるからな。
恋や愛なんて、まやかしだって。
ほら、その証拠に、俺はいつだって女に不自由してないけど、誰も俺に執着しないだろ?
その程度の感情なんだよ。
だから、お前がしがみ付いてるのは司への愛なんかじゃない。
司の事が好きだった過去の自分だ。
お前は自分が可愛いだけなんだよ。」

この人は何を言ってるんだろう・・・?

道明寺があたしを忘れてNYへ行って、もう3年。
あたしは・・・ いつか道明寺がここに帰って来てくれるのを信じて待ってた。
類も美作さんも、滋さんも桜子も、ずっとずっとそれを応援してくれてる。

記憶は戻る。
道明寺はあたしを思い出してくれる。
あたし達はいつかきっとまた同じ未来を夢見れる。
だって、あたし達はあんなに想い合っていたんだから。

そう思って生きてきた3年だった筈なのに・・・
この人の言葉はあたしの胸にぐさぐさと刺さる。
この言葉が根も葉もない事ならば、笑って聞き逃せる筈。
なのに、一言一言が、あたしに鋭い痛みとなって降り注ぐ。

「あたしは・・・」

あたしは本当はもう諦めているの?
道明寺の事を忘れたいの?
あたしが好きなのは、道明寺じゃなくて、道明寺の事を好きだった過去の自分?

頭の中が混乱して訳が分からなくなった。
今自分が置かれている異常な状況すら、気にならなくなってしまった時、目の前がふっと暗くなった。
何で?と思ったのと、唇に何かがぶつかったのは、同時だったのかもしれない。
熱く柔らかな何かで、口を塞がれて・・・
それが人の唇だと気付いた。

なんでこんな事するのっ?
止めてよっ!

そう声に出したいけれど、意味を成さない唸り声にしかならず、あたしは代わりに両手の拳を力任せに振り回した。
だけどもびくともしないその体躯。
暴れたら、余計に深い口付けを落されて、その責め苦から逃げ出したくて、がりっと歯を立てた。

「いって・・・」

やっとあたしを解放し、唇を拳で拭ってる。
その拳には、淡い血の色が滲んでた。

「何すんだよ?」
「そ、そっちこそ何すんのよっ?」
「つくしちゃんがもう司の事なんか想ってないって証明してやっただけだろ?
お前、今、何考えてた?
司以外の男にキスされて、司に申し訳ないってチラリとでも思ったか?」

また頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
今、あたしの中には、そんな気持ち、浮かんできていなかったから。

あたし、もう道明寺の事、好きじゃないの・・・?

そう思ったら、身体がさーっと冷えていくような感覚に襲われて。
言葉は何も出て来なくなった。
だって、あたしには言い返すべき言葉が無かったから。

冷たい視線と、嘲笑に耐え切れずに、あたしは脱兎の如くそこから逃げ出した。


__________


書き切れていないものいっぱいあるのに、新しいの始めちゃって、バカバカバカー!って感じなんですけど(苦笑)
ほんわか、甘々・・・みたいのを書いてると、反動で、思いっ切り悪いヤツを書いてみたくなったりするのであります。
いやあ、ブラック総二郎、初登場。
難しくなる事請け合いです。
何が「fake」<偽り>なのか、書いていけたらいいなと思います。

いっぱいお休み頂いてしまい、スミマセン。
ホントーに忙しくてですね。
全くPCに触る余裕無かったんですよね。
それでも只今、プチイベント企画中!
時間を見つけて頑張ります!
コメントへのお返事と関係各所へのご連絡も滞っております。申し訳ないです。
近日中に必ず!


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fake 2

壊せ。
壊せ。
壊しちまえ。

いつの頃からか、俺の頭の中には、そんな声が聞こえる様になっていた。
司が牧野を忘れてNYへと去って3年。
皆が牧野を慰め、支えた3年。
俺も最初はあいつらと同じ様に牧野に言っていた。

「司の事だから、ひょんなことから記憶を取り戻すかもしれねえぜ。」
「あいつがお前の事忘れたままでいるわけねえって。」
「絶対に司は帰ってくる。それまであとちょっと辛抱だ。」

それが一月、二月、半年・・・と時間が過ぎていくうちに、俺はそんな言葉を口に出来なくなった。
だって、司はもう帰ってこないんじゃないかって。
牧野の事を思い出すことは二度とないのかもしれないって。
そう思い始めてしまったから。

皆が過剰と言えるほどに牧野を護り、繰り返し慰めの言葉をかけているうちに、牧野はどんどん本来の笑顔を失っていった。
作り笑いをして、皆の前で必要以上に明るく振る舞い、大丈夫と繰り返す。
それが日常になった。
皆だってそんな牧野を見ながら、どうにかしたかったに違いない。
でもどうにもならなかった。
司が帰ってくることでしか、牧野をあるべき姿に戻す術がないのだから。
そんな牧野を、あいつらを、俺は少し遠巻きにして見るようになった。
牧野を励ます筈だった「司は帰ってくる」「記憶はきっと戻る」という言葉はまるで呪いのように俺には聞こえてくる。
自分の口からそんな気休めの言葉を吐きたくなかったし、誰かが牧野にそれを言っているのを聞くのも嫌になった。

司といた時の牧野は眩しかった。
弾けるようなエネルギーに満ち溢れていて、俺からしたら明るすぎてちょっと目をそむけたくなるような、太陽のような眩しさだった。
でも今ここにいる牧野は弱々しい光しか纏わない。
今にも消えてしまいそうな風に吹かれている細い蝋燭の炎の如く。


春が来て、俺とあきらと類は4回生に、牧野は3回生にと進んだ。
俺は勿論就職活動といったものにも関係なく。
大学院に残って、研究と仕事の両立でもしながら、もう暫く学生という立場をキープしようかなどとぼんやり思っていた。
そうなると多少教授のご機嫌伺いはしておいた方が、事はスムーズに進むだろうという打算的な考えが働き、研究室を覗いた帰り。
誰かいるだろうか?と思って立ち寄った俺達専用のラウンジには、牧野1人が佇んでいた。
大きな窓の向こうには風に揺られる新緑が夕方の淡い光に照らされており、その前に佇む背中は、窓というフレームに切り取られた写真の中の人物のように現実感が薄い。

胸の内には「しまった・・・」という思いが過る。
どうしてそう思ってしまったのだろう。
窓辺に佇んでいたその背中が、いつもよりも更に小さく見えたからなのか。
弱ってしまった牧野を目の当たりにしたくなかったからなのか。
はたまた、牧野と2人きりは息が詰まると思ったからだったのか。
そっと踵を返そうかと思ったのに、物音に気付いた牧野が振り返り、「あ、西門さん。」と言ったから、それは出来なくなった。

「よ。牧野1人か?」

見れば分かるのに敢えて聞いてみる。

「うん、皆学校来てないんじゃないかなあ。
あたし、今日は誰とも会ってないよ。」
「ふうん、そうか。」
「うん。」

そう言って小さく頷きつつ笑いかけてきた顔が、寂しげで、窓の外の風景に溶けていきそうに儚いものに見えて、胸に痛みが走り抜ける。

見たくねえ。
見たくねえんだ。
俺に向かってそんな顔で笑うんじゃねえ。
笑いたくないなら笑わなきゃいい。
泣きたいなら泣けばいい。
なのに、自分の感情を押し殺して、作り物の笑顔なんか晒してんじゃねえよ。

さっき痛みが走った胸の奥からは、口にすることは許されないような思いが湧き出す。

「あ、何か飲む?
あたし、あったかい紅茶でも飲もうかと思ってたんだ。
西門さんはコーヒー?」
「・・・ああ、頼む。」

飲み物は頼めば運ばれてくるのに、牧野はそれを嫌って自分で取りに行くのが常だ。
ひとりソファに腰を下ろして、胸の中の波立った感情を宥めようと、目を瞑り、長く息を吐き出した。

牧野に何も言うな。
言ったってどうにもならないんだから。
俺は傍観者であればいい。
手を差し伸べる奴も、慰める奴も、俺以外にいる。
俺は少し離れたところからそれを見ているだけでいい。
牧野以外の人の事には無頓着な類と。
こちらの踏み込んで欲しくない領域には決して入り込んでこないあきら。
あとの奴らはその他大勢でいいじゃないか。
自分の本音をぶつける様な付き合いをする奴は、俺には必要ない。

生まれ育った環境のせいか、自分の気質なのか。
他人との係わり合いは、浅く広く・・・が常だった。
司と、類と、あきら。
友と呼べるのはこの3人だけだったけれど、司がここを去って一切の連絡が無くなった今、3人は2人になった。
牧野は・・・
司の想い人だった牧野は、いつの間にか俺達の輪の中にいるのが普通になっていたけれど、俺の中にはどこか見えない壁があった。
司が全身全霊を掛けて欲した女。
そんな稀有な存在に必要以上に近付くのは躊躇われた。
もしかすると怖かったのかもしれない。
司が、類が、牧野によってどんどん変わっていったように、自分にも牧野の力が作用することが。
今の牧野からは、そんな力を感じることはないが、別の意味で距離を置きたい存在になった。
作り物の笑顔を貼りつけた生きた人形。
そんな牧野を見ているのが辛かった。

「西門さん、お待たせー!」

そう言いながらコーヒーと紅茶の載ったトレーをテーブルまで運んで来た牧野。
俺の前にコーヒーを、自分の座るところの前には紅茶を置くと、俺の向かいにすとんと腰掛け、ふうふうとティーカップを吹いてから口を付けた。

「あー、美味しっ!
ここの紅茶、いい香りがして、あたし好きなんだー。」
「そうなのか?
俺はあんまり紅茶は飲まねえからな。」

牧野と話すべき話題を持たない俺は、牧野の口から溢れる、他愛のない近況報告に適当な相槌を打つだけに終始する。
春休みはバイトが忙しかっただの、桜子の家の桜が見事だっただの、この間観た映画が結構面白かっただの、聞いても聞かなくてもいいような話ばかり。
互いのカップの中身がなくなる頃、牧野の話のネタも尽きたようで、「じゃ、あたし帰るね!」と勢いよくソファから立ち上がった。

「ついでだから部屋迄送ってってやろうか、つくしちゃん?」
「えー? いいよ。
西門さんちの車、落ち着かないんだもん。
庶民は夕焼けでも見ながら、のんびり歩いて帰りますー。」
「まあ、別に好きにすりゃいいけどさ。」
「うん。でもそう言ってくれてありがと。
気持ちだけ貰っとくから。」

壁際のコートクロークから自分の上着を取り出し、羽織りながらこちらを振り向いた牧野は、またあの作り笑いを浮かべている。

だからそんな顔してんじゃねえ。
俺はそんなお前を見てたくねえんだ。

この2年以上もの間、胸の奥に押し込めていた台詞が飛び出して来たきっかけは一体何だったのか?
いつも通りに目を逸らすだけでは事足りず、勝手に言葉が口から出て行く。

「お前さ、その変な笑い顔止めろよ。」
「何よ、変な顔って!
しょうがないでしょ! これがあたしの生まれ持った顔なんだから!」
「そうじゃなくて。
その、作り笑いするのを止めろって言ってんだよ。」
「あ、あたし、作り笑いなんかしてないもん!」

まさか自分で気付いてないってのか?
本来の自分を忘れ、仮面のような笑い顔を貼り付かせていることを知らない?
それによって、俺が、俺の胸の内が、ずっと得体の知らない何かに苛まれているってのに。

気付けばソファから身を起こし、一歩、二歩・・・と牧野の方に近寄っていた。
目の前の女は、そんな俺に驚いたのか、目を丸くしながら、その場に立ち尽くしてる。

「お前、ホントに気付いてねえの?」
「な、何の事?」
「自分が偽物の笑顔晒してるって事にだよ。」
「さっきから何言ってんの?
もー、意味分かんない。
そこどいてよ、あたし、帰るんだからっ!」

俺の前から逃げ出そうとする牧野の動きを封じ込める為に身体が独りでに動く。
更に歩を進めて牧野を壁際に追い込んだ。
自分が何故そんな事をしているのか分からないままに。


__________


はいー、たっぷりお休み頂いた後のお話は、この「fake」の第2話でございました。
総二郎の思考覗き見回です。
PCに触る余裕が無かった間、頭の中で色んなお話を妄想しておりましたよー。
このお話だけでなく、他のお話の先々の部分とか妄想して、現実逃避しておりました。
お陰様で病人その2も退院し、その1の方も落ち着いて来たので、今日は久々にPCでお話書けました♪
またぼちぼち頑張りますので、宜しくお願いします!


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fake 3

壁を背にして戸惑いと怯えを露わにしつつ、俺の前からどうにかして逃げようと頭を巡らせているであろう牧野がいる。

こんなの牧野じゃない。
本当の牧野は気に入らない事があったら、誰にでも真正面からぶつかってくる女で。
こんな情けない顔して、縮こまってる女じゃなかった。
そう、これは牧野じゃない。
牧野の外見とよく似た生きた人形。
そんなものはこの世に必要ない。
だから壊そう。
壊しちまえばいい。
いつも・・・ いつまでもあんな作り物の笑顔を貼り付けて、びくびくしている偽者なんか、ぶっ壊しちまえばいいじゃないか。

頭の中に響き渡るもう一人の自分の声。
今迄理性で己の片隅に押し込めていた、どす黒いどろどろとしたものが、突然身の内でぶわりと膨らみ始め、抑え切れなくなって、口から牧野を切り裂く鋭い刃へと形を変え飛び出していく。
自分の声なのに、まるで別の誰かが話しているかのような感覚。
そして牧野に触れている指先に神経が集中する。
牧野のひやりとして、少し震えている頤先とは違って熱くなり、じんじんと痺れているみたいだ。

俺の言葉に殆ど意味のある言葉を返さない牧野。
壁にへばりついて、怯えた表情を晒すばかりで。
そんな牧野を見ていると、己の中の嗜虐心が煽られ、ますます言葉で追い詰めて、傷付けたくなる。
壁に拳を叩き付ければ、びくりと身体を震わせ、ぎゅっと両の目を瞑った。
あまりに予想通りの反応に、口からは小さく笑いが漏れる。
一呼吸の後、ゆっくりまた瞼が開いて、怯えながらも目玉だけはきょろきょろと動き、こちらの様子を窺っているから。
更なる威嚇の為に彷徨う視線をこっちに引き寄せたくて、腰を折って顔を近付けた。
恐怖の色に染まった瞳が揺れている。
身体も小刻みに震えている。

あの牧野が。
あんなに強かった牧野が、こんな弱々しい態度を取るはずがない。
やっぱりこいつは偽者なんだ。

「あたしは・・・」

そう小さな声で呟いたけど、後の言葉は続くことがない。
色を失った震える唇が目に入った。

俺はこいつが何て言えば満足なんだ?
分かんねえ。
分かんねえけど、聞きたくない言葉はある。

その言葉を紡がせないためだったのか。
それとも唇の震える様をもう見ていたくなかったのか。
気付けば、そこに自分の唇を重ねていた。
驚いた牧野が、何かを言わんとしているけれど、全ての言葉を封じる為にさらに深く口付ける。
抵抗しようと俺の胸を叩いても、そんな細い腕から繰り出されるパンチなんか、痛くも痒くもなかった。
無理矢理こじ開けた唇の狭間に舌を捩じ込んだ時、牧野がそこに思い切り歯を立てた。
流石の俺も、その痛みには驚いて、つい顔を引いてしまう。
右の拳で唇を拭えば、そこには朱色の筋が付き、口の中には鉄の味が広がった。
勝手に口付けておいて嫌がられたってのに、口から零れるのはこれまた自分勝手な屁理屈。
勢いに任せて適当な事を言ったつもりだったのに、案外牧野の痛いところをついていたらしく、真っ青になった牧野は、何の反論もせずに、俺の前から駆け出していった。

何やってんだ、俺は?
こんな事する筈じゃなかった。
あんな言葉、言う筈じゃなかった。
なのに何で・・・?

その場に立ち尽したまま、俺は薄く血が滲んだ拳を見つめた後、その手でくしゃりと前髪を掻き上げ、そして盛大に溜息を吐いた。

常に傍観者である事は、決して心地いい立ち位置ではなかった。
いや、牧野の傍にいた誰もが、複雑な思いを抱えていたことは分かってる。
でも深く係わらまいと、離れた所に身を置きつつも、牧野の事を気にしてしまう日々は俺の中に確実に何かを溜め込ませていた。
生気のない牧野を見るにつけ、自分の中にぽたりぽたりと落ちてくる苦い思い。
それが溜まりに溜まって。
己の身から溢れ出すギリギリのところまで来ていた事には気付けなかった。
さっき上着を羽織りながら俺の方を向いた牧野の作り笑いを見た時に、辛うじて身の内に閉じ込めていたどす黒い感情は一気に弾け、俺を支配した。

ったく、全然人間が出来てねえな。
感情のコントロールなんてお手の物。
常にポーカーフェイスを気取ってた西門総二郎という男は何処に行った?
ここにいるのは一体誰なんだよ?
本当の俺は、こんな風に自分勝手で、我慢の効かない、冷たい男なのか?

口の中の微かな血の味を感じながら、それをごくりと飲み下す。
思いも寄らない自分の心の乱れと、制御しきれない身体を持て余していた。


それから数日、牧野と顔を合わせるのも憚られ、大学には行かなかったが、ずっと休んでいる訳にもいかない。
せめてゼミだけでも・・・と、何となく重たい身体を引きずりながら、キャンパスに向かった。
広い学内。
牧野のいそうな場所を避ければ会わない筈だと思っていたが、同じ学部だと自ずと出入りする建物も同じになる。
運悪く、北館のエントランスを入った所で、ばったり顔を合わせてしまった。

「あっ・・・」

俺をみとめて小さな声を上げた牧野は、そのまますうっと視線を他所に向けて、すれ違っていく。
俺はと言えば、掛ける言葉もなく、引き止めたい訳でもないから、それをそのままぼんやりと見遣りながらやり過ごした。

ふうん、無かった事にするつもりか。
でも・・・
やっぱり、本来の牧野だったら、ここで睨んでくるか、文句のひとつやふたつ言ってくる筈だろ。
事なかれ主義なんて、全く牧野らしくねえ。
何時だって台風の目だった癖に。

また胸には苦いものが込み上げてくる。
エントランスホールに溜息ひとつ吐き棄てて、目的の研究室に向かった。


帰りにラウンジに行くのも止めて、ひとりぶらりとキャンパスを歩く。
新緑が風に揺れて心地良い季節になったというのに、自分の中はちっともすっきりしない。
通りすがりに声を掛けてくる女に愛想を振りまくのも面倒で、また溜息が口から零れ出た。

こんな時は酒でも飲むか・・・

気兼ねなく酒を酌み交わせるのは、あきらくらいしか思い付かない。
携帯電話であきらにメッセージを送ると、直ぐに返事が来た。

悪いな。
今日はこれからマダムとデート。
22時以降なら身体空くけど?

あきららしい回答。
4回生になり、遊べる時間はあと少し・・・とでも思っているのだろうか。
この頃のあきらの午後のスケジュールは結構埋まっている気配。
それでも、妻が若い男とお楽しみの時間を過ごして来たとは知らない、気の毒なご主人の帰りに合わせて一時の情事の相手を家に帰した後は暇になる。
今日のあきらの成果でもツマミにしつつ飲むことにするか・・・と、待ち合わせの店を指定した。


__________



久しぶりの「fake」でした。
ちょっと短かめですが、キリがいいのでこの辺で!

GWですね。
皆様如何お過ごしですか?
管理人はですねー、連休初日に左手を負傷。
茶碗も持てない程の激痛が数日続きまして。
やっと良くなってきたかなー?と思ったところで、病人から風邪を感染されました( ꒪Д꒪)
熱は下がったのですが、咳が止まらず、また気管支炎になってそうです(病院お休みにつき、自己診断)。
そんなゴールデンならぬどんよりウィークを送っておりますよ。
お粥生活、飽きました・・・
誰かたーすけてー!
って、誰も来ないよっ!
明日も大人しく寝ておくとします・・・


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fake 4

あきらと待ち合わせたのは、俺が静かに飲みたい時に行くホテルのバー。
落ち着いた雰囲気が気に入っていて、女を口説く時に来る事はない、俺の取って置きの場所だ。
独りでいる時はカウンターで飲むのが常。
使い込まれて飴色に輝くカウンターに置かれたグラスの中も飴色の酒で満たされていて、氷が少し顔を出してる。
グラスを傾けたり、手の中で弄んだり。
氷がかちゃりとクリスタルガラスにぶつかる音を楽しんでいると、そこにあきらがやって来た。

「待たせたか、総二郎?」
「いや、早目に来て飲んでたんだ。」

カウンターの中のバーテンダーに目配せすれば、小さく頭を下げて、了承の意を表してる。
あきらと2人、奥に用意されたVIPルームへと移動した。

「それで? 今日のお相手は?」
「若くて美しいのに、働き盛りのダンナは帰宅が遅い。
更に帰って来ても連日お疲れで、飯、風呂、寝るの三拍子。
暇も身体も持て余してるのを俺とのデートで紛らわしてる。
そんな人妻。」
「単なるデートでもないけどな。」
「俺はお前程酷くないぜ。
会ってその足でベッドに直行なんて逢瀬はしないの。
今日だって彼女好みのカフェでお茶して。
その後はブティックで洋服見立ててあげて。
それから2人でホテルのプールで泳いできた。」

なんとあきらのマメな事。
ベッドを1回共にする為にそんな工程を熟してるなんて。
俺には到底真似出来ない。

「そういうの面倒臭くねえの?」

はっと小さく声を上げつつ破顔してあきらは答えた。

「楽しいぜ、好きな人の色々な表情を見られるのは。
女の事好きにならない総二郎には分かんないか?」
「好きな人ったって、所詮他人の女。
あきらだって本気じゃねえだろ?」
「会ってる間だけ本気になる。
俺のはそういう純愛。」

パチンとウインクひとつ寄越したあきらは、カクテルグラスを傾けて空にする。

純愛?
純愛ってそういうモンなのか?
互いに唯ひとりの相手だけを見つめてるのが純愛なんじゃねえの?
俺達はそれを見守ってた事があったじゃねえか。
絶望的な状況でも、相手の事ばっか見つめて、手を伸ばして、その手を掴もうと必死になってた2人を。
ああいう想いを純愛と呼ぶのなら・・・
やっぱりあきらの一時の逢瀬は、単なる火遊びに過ぎないだろ。

胸の内で思っても、言葉にしない方がいい事もある。
思い付いた言葉は、酒と一緒に飲み下すと、すとんと胃袋に落ちていった。

ほら、いつもの俺は、こうして言葉を飲み込めるんだ。
何で今日はあんな風に溢れちまったんだろう・・・?

夕方のラウンジでの出来事が、断片的に浮かんでは消え、また違う場面が浮かんでくる。
それを遮ったのは、新しい話題を切り出してきた、あきらの声だった。

「そういやさ、司んち、またちょっとヤバいらしいな。」
「親父さんが?
それとも事業の方が?」
「どっちも・・・だな。
道明寺会長がここひと月ほど何処にも姿を見せてないって話だ。
体調が思わしくないなんて、絶対に明らかにしないだろうけど、出てこれない程具合が悪いんだろうって憶測を呼んでる。
それと、今大統領予備選が行われてるけど、道明寺が肩入れしていた候補者が指名獲得争いに負けた。
NY州知事だから道明寺と繋がりが深い事もあって推してたんだろうけど・・・
相当な大金を注ぎ込んでた筈だ。
それが回収の見込みが無くなった訳だから・・・」
「道明寺サイドにも影響が出るって事か。」
「実際、もう株価には表れてる。」
「今から勝ち馬に乗り換えるにしても・・・」
「更なる支出は免れない、イコール、株主からの突き上げを食う。」
「この間の子会社の粉飾決算もあったしな・・・」

2人で顔を見合わせ、小さく息を吐く。
ここで俺達がどんな事を話そうと、NYの司に力を貸す事は出来やしない。
大国の政治とカネの問題の前では、いくらF4だと風を切って歩いている俺達でも、所詮井の中の蛙なのだ。

「大変だな、司は。」
「ああ、どうしてるんだろうな。
連絡を取ろうにも、使ってた携帯電話は不通だし。
道明寺宛に電話しても、慇懃無礼な対応で断られるしな。」
「直接会いに行ったって、アポ無きゃ取り合ってもらえねえし。
そのアポ取る為の電話は繋いでもらえないって、もう会うなって事だよな。」

きっと凄まじい激流の中に身を置いているだろう司を暫し思う。
牧野という光を失くした司の世界は一体どんな闇に覆われているのだろう。
新たな光を見つけることは出来たのだろうか?
それとも真っ暗な中で独り足掻いているのだろうか?
いや、足掻く事すらなく、粛々と激流に乗せられてどこかへ流されていっているのかもしれない。

「牧野が・・・」

あきらの口にした名前に、身体がぴくりと反応してしまったかもしれない。
それを誤魔化そうと、何もなかった振りをして、目線だけで続きを促す。

「牧野が傷付くようなことにならないといいんだけどな。」
「傷付く・・・?」
「今回の事で道明寺は相当なダメージを食らう。
それをリカバリーするためにと、どこかと手を組もうとするかもしれない。
その時に単なる協力体制で済めばいいけれど・・・
司の結婚絡みの話が出て来てもおかしくないだろ?」
「・・・まあな。」

今迄だって、司の母親は政略結婚で道明寺を強固なものにしようと画策した事がある。
今度だってあり得る話だ。
そもそも俺達は、自分で将来の伴侶を選ぶ自由を持たずに生まれてきた。
司だけじゃない。
俺だって。あきらも類もだ。
家の為、血統を絶やさぬ為、会社の為、社員の為。
そういう事の為に結婚する日が必ずやって来る。
今はまだ学生だから、若輩だから・・・と断っているが、あと10年後には、各々の隣には妻という肩書きを得た誰かがいる筈だ。

「牧野は・・・
司が戻って来るってまだ信じてんのかな?」
「さあ・・・?」
「俺は・・・ もう分からなくなったよ。」

そう呟いたあきらは、少し苦しげに表情を歪めつつ、遠くを見ているような目になった。

俺なんかとっくに分からなくなってたさ。
いや、もう帰ってこない、牧野を思い出さないって思っちまってるよ、あきら。

「総二郎、最近牧野に会ったか?」
「今日、北館の入り口ですれ違ったけど、話はしなかった。」
「そうか。ここのところ、全然ラウンジにも顔出さなかったから、何かあったのかと思ったけど。
大学にはちゃんと来てるんだな。
それならいいんだけど。
そういや総二郎も全然大学では見かけなかったな。」
「・・・少し仕事が入ってたから、そっち優先させてた。
年々、面倒な事が増えてくるよな。」

あきらに何も気取られない位に、俺はポーカーフェイスが出来ているだろうか?

「仕方ないさ。
それが俺達の役目ってものだからな。」

自分でグラスに氷を落とし、とぷりとぷりと酒を注いだあきらが、俺にも同じものを手渡してきた。
酒を飲みたくてあきらを呼んだのに、ちっとも酔えず、憂さも晴れない。
口の中に湧いてくる苦い思いを身体の奥に押し戻す為に、グラスを煽った。


__________



お待たせしました。やっと1話書けました!
風邪は何とか快方に向かい、左手も使えるようになりましたが、まだ何となく身体に力が入らなくて、ふわふわした感覚ですー。
お優しいお見舞いの言葉、有り難うございました!

さてさて、2周年も過ぎまして。
次なるイベントを企画しております!
お友達のりく様との合同企画です。
じーつーは、今回、互いのお話をリメイクしよう!という事になりました。
りく様が拙宅の「天邪鬼」&「似た者同士」を鷹瑠璃Versionに!
管理人がりく様のお部屋の大好きな作品「契約愛人(絶賛連載中!)」の途中までを総つくVersionにリライトさせて頂く事になりました!
現在、鋭意創作中です!
近日連載開始!という事で、楽しみにお待ち下さいね!
って、書く本人がとても楽しみでーす(つω`*)テヘ


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