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Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
まず初めに「ご案内&パスワードについて」をお読み下さい。
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遠くに聞こえる雷鳴は恋の知らせ 前編

司の母親に引き裂かれて、司と牧野の幼い恋はあっけなく終わった。
何も持たない牧野と、ゆくゆくは「道明寺の全てを継ぐべき存在」として生きる宿命を背負わされた司との恋は、最初から終わりが見えていたのかもしれないが、別れるにしてももっと穏やかな形があった筈だと思う。
司の母親はそれすら認めることはせず、力でねじ伏せ、「小さな小石」と揶揄した牧野を足蹴にし、司の初恋の相手をその舞台から払い落としたのだ。
責任感の強い牧野が、友人とその家族を犠牲にしてまで、司との恋を選ぶことが出来ないと、よく分かった上での的確な攻撃。
牧野だけではなく、自分の息子の心までずたずたにしたというのに、全く意に介することもなかったのは、「鉄の女」という異名を持つ人物の振る舞いとしては相応しかったのかもしれないが、人としては最低だった。
でもあの時の司には「道明寺」を棄てて牧野の手を取る術はなく、荒んだ目をしたまま日本を離れ、俺達とは音信不通となった。
牧野は・・・と言うと、失恋の痛みなどに浸っている余裕は全くなかった。
甲斐性の無い父親を筆頭に、頼みの綱は牧野ばかりという家族を背負いながら、バイトに明け暮れていく。
学費が嵩む英徳を離れ、公立高校へと転校した牧野とは顔を合わせることはなくなった。
それでも類は牧野を気にかけ、独りで会いに行っていたようだ。
桜子も連絡を取っていたらしい。
俺は心のどこかで気になりながらも、司と牧野がいない日常に段々と慣れていった。
だから2年もの時間が経過したタイミングで、街で牧野とばったり会うことになるとは、夢にも思っていなかった。

夕方の人出が多い街の雑踏の中で、牧野はど派手なユニフォームに身を包み、何かのキャンペーンの販促物を配っていた。

「お願いしまーす!」
「有り難うございまーす!」

数人のキャンペーンガールが道行く人の手元に何かを差し出してる。
勿論俺はそれが何のキャンペーンなのかは全く興味が無く。
惜し気もなくミニスカートの裾から晒されている脚が一番綺麗な女はどれだ?位の思いで、その女達の方をちらりと見遣った。
一人の女の髪が、今時珍しい黒々としたストレートヘアーを揺らしていて、周りのカラーリングやパーマを施した女より目を引いた。
その黒髪の女がくるっとこちらに振り返り、手に持った籠の中身を「お願いしまーす!」と言いながら俺の前に突き出した。
それが牧野だった。
俺は思わず受け取りながら、足を止め、声を掛けた。

「牧野?」
「へっ?」

碌にこっちの顔も見ずに、籠の中身を捌く事ばかりに注力していた牧野が、ふいっと頭を上げ、俺と目線を絡ませる。
目が合って、ぱちりぱちりと瞬きした後、急に慌てだした。

「に、に、西門さんっ!」
「おう、久し振り。で、これ、何?」
「え? あ、あの、リニューアルされた煙草のサンプルをお配りしてます・・・」
「バイト?」
「うん・・・」
「それでこーんなカッコしちゃってるんだ、つくしちゃんは。
すげー脚見せてんな。
パンツも見えそうだぜ?」
「ちょっと・・・ もういいから行って! バイバイっ!」

キャンペーンガールに不似合いな、不機嫌そうな表情を浮かべ、そう言い捨てて俺に背を向ける。
何事もなかったかのように、また販促物を道行く人に配り始めた。
仕事を邪魔する気はないけれど、久し振りに会った牧野ともう少し言葉を交わしたくて、俺はちょっと離れた所で牧野のバイトが一段落つくのを待つことにした。
3人の女達が煙草のサンプルとやらを捌き終わり、片付け始めたのを見計らって、再び牧野の背後に立った。

「ま、き、の!」
「うわっ!」

素っ頓狂な声を上げながら牧野がその肩をびくつかせ、振り返る。

「はあ・・・ もう何なのよ・・・
何でまだここにいるの?
今夜のデートのお相手はどうしたのよ、西門さん!」
「何だよ。折角久し振りに会えたんだし、そんな素気無くすんなよ。
積もる話もある事だし、仕事終わったんならメシでもどうだ?」
「ムリ、ムリ。あたし、着替えに戻んなきゃいけないし。
ほら、雨も降りそうだから西門さんももう行きなよ。じゃあね!」

牧野の仕事仲間らしき女達が興味津々・・・といった風情でこっちを見ている。
きっと牧野は俺の事を彼女等に話すことすら煩わしいんだろう。
俺を追い払うべく、ひらひらと手を振った。

無下にされればされるほど俺の中の天邪鬼な部分が顔を出す。
ここはひとつからかってやろうと、牧野のひらひらさせている手を捕まえた。
逃がさないように握りながら俺の口元に持っていき、指に唇を押し当てると、途端に牧野が真っ赤になる。
聞こえよがしに、まるで運命の恋人達の再会みたいな台詞を吐いてやった。

「つれない事言うなよ、つくし。
俺、お前の事ずっと探してたのに。
もう逃がさない・・・」

そう言って、ぐいっと手を引いて身体も俺の方に引き寄せる。

「ちょっ! やめてよっ! こんな歩道の真ん中で変な小芝居するのっ!」
「芝居じゃねえよ。
俺はいつだってお前には本気なんだよ。」

甘く笑って、ちょっと首を傾げて顔を牧野に近付けてくと、余計に慌ててジタバタし出した。

「あー、もー、分かった! 分かったから放してっ!」

どんっと俺の胸を手で突いて後退る。
紅い頬をしたまま俺を睨み付け、目の前の一軒の店を指さした。

「あそこで待ってて!
着替えたら戻ってくるから。
でもちょっとだけだからねっ!」

ふふんと笑いながらも頷くと、然も忌々しい物でも見るかのような目線で不満を表した後、仕事仲間と何処かに消えてった。
牧野に指定された店は小洒落たカフェ。
中に腰を落ち着けて、2杯目のコーヒーを飲み終わる頃、ぶすっとした顔で牧野が店に入ってきた。
服は私服になっている。

久し振り・・・なんて挨拶もすることなく、俺の前に座った牧野は、注文を取りに来たウェイターに「すみません、すぐ出ますので結構です。」なんて断ってる。

「おいおい、飲み物1杯分くらい付き合ってくれたって罰は当たんねえだろ?
カフェオレひとつ、追加で。」

牧野がはあ・・・と深い溜息を吐く。

「どうしてそうやって自分勝手なのよ、あんた達は。
何でも自分の思い通りにしちゃうの、止めた方がいいいよ。」
「ちょっとだけって言ったのはお前だろうが。
そのちょっとだけの時間の為に、仕事終わるまで待っててやった俺に何かいう事ねえの?」
「そんな事、頼んでないし。」

冷たい顔して、そっぽを向く。
頤のラインが、記憶の中よりシャープになっている気がした。
運ばれてきたカフェオレに口をつけるけど、少し熱かったらしい。
すぐにカップをソーサーに戻して、やっと俺の方を向いた。

「相変わらずだね、西門さん。」
「お前もな、つくしちゃん。
まだまだ勤労処女してるんだ?」
「そういう事を言うから、西門さんといるのはイヤなんだよ。
別にあたしなんかに用事はないでしょ?
あたし、雨降る前に帰りたいからもう行くね。
これ、コーヒー代。」

バッグから取り出した財布から千円札を1枚抜いてテーブルの上に置いて、席を立とうとする。

「おい、まだ飲んでもねえだろ?」
「でもあたし、ホントにもう行かないと・・・
じゃあね、バイバイ。」

気忙し気に俺の前から去ろうとする牧野を追い掛けて、俺も店を出た。
追いついて、隣を歩きながら言ってみる。

「雨降ったら車で送ってやるよ。
この後何もないなら一緒にメシ食おうぜ。」
「あたしはいいよ。
ホントに早く帰りたいの。
西門さんは一期一会の綺麗な人とでも食事に行ったらいいじゃない。」

どうにも頑なな態度。
俺とまともに口を利かないのも面白くない。
でもどうしてそんなに頑ななのか、ちょっと気になったから、俺はタクシーを止めて、後部座席に牧野と自分の身体を圧し込んだ。


__________



本日、4月23日で、拙宅は開設2周年を迎えました!
いつも遊びに来て下さっている皆様のお蔭で続けて来れたと思っています。
本当に有り難うございます。
緩やかなペースでの更新になっておりますが、それでも細々と続けて行けたらと思っていますので、これからもどうぞ宜しくお願いします
今日・明日は開設2周年記念プチイベントということで、お友達のりく様のお力もお借りしまして、2日間で4回更新&チャット会の開催を予定しております。
チャット会は今日・23日の23時からですよー!
皆様、2周年を一緒に楽しんで頂けたら幸いです。


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遠くに聞こえる雷鳴は恋の知らせ 中編

「西麻布まで。」

運転手にそう告げて車を出させたには出させたのだが、隣の煩い女は文句タラタラ。

「ちょっと! あたし帰りたいって言ってるでしょ!
すみません、最寄りの地下鉄の駅で降ろして下さい。」
「ったく、何でだよ、つくしちゃん。
雨降ろうが車で移動すりゃ問題ねえだろ?
積もる話もある事だし、そう冷たくすんなよ。
帰るにしたって家まで送ってってやるから。
お前んち、前と同じとこか?」
「どこでもいいでしょ。西門さんに関係ない!
積もる話なんかもないから! もうほっといてよ。
あたしと西門さんは住む世界が違うんだから。
自分の身の丈にあった人とつるんでる方がいいよ、お互い。」

『住む世界が違う』という言葉に、牧野の拒絶の激しさに、司とのあの別れがそんな態度を取らせているのだと気付く。
暫し言葉を失っていると、運転手が「地下鉄の駅、この先すぐですけどどうします?」と聞いてきた。

「降りますっ!」
「送ってくから。そのまま走らせて下さい。
ほら、さっさとお前の家の場所を言え!」
「いいよ、地下鉄乗ればいいんだから。」
「いいから、早く言え。運転手さんが困るだろ?」

溜息ひとつのあとに、牧野がぼそりと今暮らしている町の名前を告げた。
それはちょっと寂れたイメージのある下町だった。

「ふうん、つくしちゃん、引っ越してたんだな。」
「家賃が安くて学校に通いやすいところって探したら自然にこうなっただけ。」
「学校?」
「公立大に受かったから。春から通ってる。」
「そうか・・・ 類とは今でも会ってるんだろ?」
「会ってるっていうか・・・
断っても断っても、花沢類が勝手に来ちゃうの。
あたしといたって花沢類の為になる事、何にもないのにね。」

類は牧野が好きなんだ。
多分、司と牧野が付き合ってた時からずっと。
好きな女に会いたいって思うのは普通の事だろ。
損得勘定で動いてる訳じゃない。
類が今までにそうして追い掛けた女は初恋の静と、この牧野だけだ。
こいつはそれに気付かないのか・・・?
それとも気付かない振りをしてるのか?

「俺と牧野は2年振りだな。」
「そう・・・だね。
あたしが転校してから会ってなかったもんね。
相変わらず美作さんとお祭りコンビしてるの?」

これ以上文句を言うのは無駄だと悟ったのか、やっと落ち着いた調子で返事を返してきた。
こっちを向いて微かに笑う。
薄暗いタクシーの車内で、その笑い顔には斑らに陰影がついて、それが妙に寂しげに見えた。

こいつはこんな表情をするやつだったっけ?

「からかう相手がいないと、俺とあきらも大人しいもんさ。
品行方正な大学生ってやつをやらせてもらってますよ。」
「どうだかねー?」

まあ、俺もあきらも、一度大学の敷地を出ればやりたい放題なんだけど。
キャンパスの中ではそれなりに真面目にやっていた。

「牧野は? 何やってんの?」
「あたしは学校とバイトの毎日だよ。
学費と生活費、全部自分で稼がなきゃだから、兎に角割のいいバイト探して駆けずり回ってる。
英徳のお坊っちゃま達とは違うの。」
「まーたそうやって線を引く。
俺達、ダチだろ?
ダチに出自や環境の違いは関係ねえだろ?」

俺の問い掛けに、サラサラの黒髪を掻き上げながらふふふと自嘲した。

「ホントにそう思う?」
「ホントにって・・・
俺達の気持ちに嘘があるってのか?」
「そうじゃない。そうじゃないよ。
皆があたしと仲良くしてくれて、それは本当に嬉しかった。
だけどあたしに皆の立場や背負ってるものの重みが分からないように、皆には何も持たない雑草の気持ちは分からない。
でもそれはしょうがないよね。
誰も悪くないんだもん。
ただあたしとあんた達は違う。それだけ。」

司との恋の障害を乗り越えられなかった事は、今も色濃く牧野に陰を落としていた。
張り巡らされた見えない壁は、こちらからのアプローチを拒絶する。
きっと度々牧野を訪ねている類にも、こんな調子なんだろうと想像した。

「俺が貧乏暇無しな庶民にならない限り、お前とはダチでいられない。
そういう事か?」
「そうは言ってない。」
「いや、言ってるも同然だろ。」
「違うもん!」

ムキになった牧野が俺を睨み付ける。

そうそう、そうこなくっちゃ。
儚く笑う牧野なんて見たくない。
お前はそうやって感情溢れさせて、生命力に満ちてる女だろ?

「違わねえ。俺を馬鹿にすんなよ。
俺はお前が貧乏だろうと、金持ちになろうと変わらねえよ。
会えばこうやって喋るし、態度だって変えるつもりない。
いつだって鉄パン処女ってからかってやるよ。
って、あれ? お前、鉄パン脱いだのか?」

下らない事を言って混ぜっ返した俺の言葉を受けて、途端に茹で蛸のように真っ赤になって怒り出した。

「もーーーっ!
何て事言うのよっ、このエロ門ーーーっ!」
「あ、その様子じゃ、まだなんだな。」
「ほっといてっ!」

ぷいと窓の方に顔を向けた牧野。
くすくす笑いを堪えながら、横目でそれを見ていたら、打って変わって沈んだ声で「あ・・・ 雨、降って来ちゃった・・・」と呟いた。
確かに窓ガラスには細かい雨粒が付き始めている。

「傘無いのか? まあ、俺も持ってねえけど。
部屋の前までクルマつけるから心配すんな。」
「・・・濡れるのが嫌なんじゃない。
あたし、雨は嫌いなの。」
「ふうん・・・」

何か嫌な思い出でもあんのか?
そう続けようとして、すんでの所でその台詞を飲み込んだ。
記憶を探ると、ひとつだけ思い当たる事があったから。

司と牧野が別れて、牧野がメイドをしていた道明寺家を出ていった夜。
あの夜が土砂降りの雨だった。
翌日、雨は上がったけれど、司も牧野も登校しなくて・・・
和也が「牧野から休学届けが出ている。」と俺達に教え、何があったのか知る為に俺達は司の元に駆け付けた。
司は酷く荒れていて、俺達の事も拒絶して、結局何も聞けなかったけれど、牧野との関係が突然終わったらしいという事は何となく分かった。
そこに司の母親の力が及んでいた事は後々分かってくるのだが、それ以来司は俺達すら寄せ付けず孤立していく。
昔のように暴力的になり、どんどん荒んだ司は常に付いて回るSP達でも抑えられなくなり、とうとう自分の身体をも酷く痛め付けてしまった。
そしてその治療に専念する・・・という名目の下、NYへと連れ去られる。
だけどあれは治療目的なんかじゃなかった。
そう、治療なんて日本でだっていくらだって出来たんだから。
日本でこれ以上問題を起こすのは困るから、自分の監視下に置こうという、司の母親の意思だったに違いない。
その時以来、俺達は司とは会っていない。
そして牧野が出した休学届けは、いつの間にか転学届けへとすり替わり、牧野も英徳から姿を消した。
類と桜子から、牧野はなんとかやっていると聞いたが、自分でも様子を見に行こうという気にはなかなかなれなかった。
俺は人と深く関わるのが面倒だと常々思って生きて来たから。
牧野が英徳から消える。それも又一期一会。
自分の目の前から去って行ったのなら、敢えて追う必要はない・・・と自分を納得させた。

でも・・・
今隣で車に揺られている牧野は、どう見ても2年前の傷が癒えているようには見えない。
傷付いた時に支える事が出来たのは、2人の恋を見守ってきた俺達だけだったのではないのか?
いや、類も桜子も、牧野の心に寄り添おうとはしたのだろうけれど。
俺に出来る事だってあったのかもしれないのに、面倒だからと知らない振りをしたんだ。

胸の中には今更ながら後悔の念が沸き起こる。
雨は嫌いだと言ったのに、窓の外ばかり見ている牧野の手が、膝の上でぎゅっと握り込まれていて、小さく震えているように見えたから・・・
俺は何のてらいも無く、その拳に手を伸ばした。


__________



トラウマを抱えたつくしと、それに気付いてつくしを思い遣る総二郎。
続きはまた明日(?)という事で。


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遠くに聞こえる雷鳴は恋の知らせ 後編

牧野の握り拳は、俺の掌にすっぽり覆われてしまう小ささ。
突然の接触に驚いて、牧野は反射的にびくりと身体を跳ねさせ、その手を引こうとしたけど、俺はしっかりと捕まえた。

「え・・・ 何?」
「お前、寒いんだろ。ちょっと震えてる。」
「寒くなんかないよ。ねえ、放して・・・」
「いや、冷えてる。こんな冷たい手してるの、分かんねえの?」

実際、牧野の手はひやりと冷たい。
その手をそっと撫でたり摩ったりしているうちに、きつく握り締めていた拳からは段々と力が抜けていき、震えも止まっていった。
次第に温もりを取り戻していく小さな手。
少しかさついていて、牧野の苦労している日々の生活を表しているかのようだ。

「ね、もういいよ、西門さん。」
「そうか? 反対側の手も冷たいんだろ?
そっちも暖めてやるよ。」
「や、もうホントにいいから。」
「遠慮すんなって。何なら手だけじゃなくてカラダ全部暖めてやってもいいんだぜ。」
「ヤダっ!」

途端に身体を俺から離す為に窓際に寄り、両手で自分を抱き締めてる。
横目できっと俺を睨み付けてきた。

「ふふっ、冗談だって。
流石の俺も、牧野の鉄パン脱がすのは大変そうだし。
ここまで来たら、結婚するまで履いとくのもいいんじゃね?」
「鉄パン、鉄パン言うなーーー!」
「オイオイ、つくしちゃんの方が連呼してるぜ?」
「あー、もー、あたしをからかって遊ぶの止めてよねっ!」

2年前に時間が巻き戻ったかのような車内。
俺の知っている牧野が見られて、ちょっとほっとした。
車の外で雨が降っていることを忘れさせようと、俺はずっと牧野をからかったり、笑わせたりする話を次々と口にして・・・
やがて牧野の住むアパートの前にタクシーは止まった。

「今日はありがと、西門さん。
こんな所まで送らせちゃってごめんね。
皆に宜しく! じゃあねー!」

そう言って車を降り、小走りでアパートの外階段へ向かっていく。
カンカンカンと音を響かせ階段を上り、2階のひとつのドアに牧野が消えていくところまでを窓ガラス越しに見詰めてから、俺は車を出させた。


この夜を境に、俺は時々牧野の事を考えるようになった。
あいつは今どうしてんのかな?とか・・・
今日は雨が降ってるけど、大丈夫なのか?とか・・・
不思議と気になった。
そしてとうとう一日中雨が降り続いた日の夜、あの安普請の牧野のアパートのドアを叩くことになる。
ドアを開けた牧野が、目を丸くして言葉を失くすから、つい笑ってしまった。

「よ、つくしちゃん、元気?」
「・・・何で?」
「んー? ちょっと美味い茶菓子が余ったから。
牧野、こんなの好きそうだなって思って持ってきた。」

そう言って、目線の高さまで、手にした包みを掲げてみる。

「そんな事の為に、ここまで来たの?」
「別にいいじゃん、ダチに会いに来るのに大層な理由なんか要らねえだろ。」

眉間に皺を寄せ、ぶつくさと文句を言いながらも、俺を部屋に上げてくれた。

「突然来るから、片付いてもないけど・・・」
「だって俺、お前の電話番号知らねえんだもん。」
「花沢類に聞けばよかったじゃん。」
「ああ、そう言われればそうだな。気付かなかった。」

本当は気付かなかった訳じゃなく・・・
類に聞くのも、桜子に聞くのも何となく憚られて、唯一知っているこのアパートへと来てしまったんだ。

片付いてないと言ったけど、さして物もない部屋の中は綺麗に整っていた。

「適当に座ってて。今お茶淹れるから。
って言っても、西門さんの口に合うかどうか。
スーパーで売ってるような緑茶だよ。」
「ああ、煎茶も持って来たんだ。
俺が淹れてやろうか?」
「えー、いいのー?
凄いね、西門流次期家元の淹れるお茶なんて、そうそう飲めないよね。」

そう言って、やっと明るい顔になった牧野。
今夜、ここに来たのは間違いじゃなかったのかも・・・と思えた。
小さな卓袱台を囲んで2人で座って、茶菓子を食べて、茶を飲んで、他愛ない事を話す。
目の前にいる牧野は、雨の夜だけど震えてはいない。
身体のどこかに余計な力が入っていたけれど、ほっとして、それがすうっと抜けていった。


雨の夜、独りで震えていないか気になった。
そんな夜は牧野に電話をした。
時には食事に誘って。
またある時は部屋まで手土産を持って押しかけて。
会って、顔を見て、話をすれば、心配が少し消える。
俺と別れた後、独りになったら雨に気持ちが負けてしまうのかもしれないけれど。
雨が止むまで一緒に過ごすなんて出来やしないから、日付が変わる前にお休みを言って別れるのが暗黙のルールみたいになった。

いつもは雨の日に俺から連絡を入れるのに、珍しく牧野から電話があった。
今日は雨だって降っていない。
何かあったのかと一瞬焦ったけれど、のんびりした声が告げたのは

「あたし今日バイトないの。
西門さん、暇ならご飯食べに来ない?
いつもの細やかなお礼に貧乏食作るからさ。」

という、律儀な牧野らしい申し出だった。
アパートを訪ねてみれば、いつもの小さな卓袱台の上に牧野の心尽くしの料理が並んでいる。
見たことも食べたこともない不思議な品もあったけど、それを試してみるのもまた一興。

家族の団欒なんて知らない俺だけど。
いつか結婚したって温かな家庭なんて望めないだろうけど。
もし俺が西門総二郎ではなくて、牧野みたいな一般の家庭に生まれていて、好きになった女と一緒になれて。
2人で食卓を囲む事があったとしたら、こんな感じなんだろうか?

そんなありえない夢みたいなことを思わせる食事だった。
食後に牧野が淹れてくれたコーヒーを飲んだ。
俺はブラックで、牧野は牛乳をたっぷり入れたカフェオレで。
更に牧野は俺が持って来たフルーツタルトに齧り付く。

「ねえ、ホントに西門さんは食べないの?」
「ああ、もう腹一杯。
つくしちゃんの料理が美味かったから食い過ぎたわ。
コーヒーだけで十分。」
「お世辞言ったって、これ以上何も出ないのに。」
「別にお世辞じゃねえよ。ホントに美味かったよ、つくしちゃんの愛情たっぷり手料理。」
「感謝の念が詰まった料理の間違いでしょ!」

ぷりぷりしながら、タルトを口に運んでる牧野を見ていると、自然と顔が緩んでいたらしい。
「ニヤニヤしないで!」との言葉まで飛んでくる。
雨が降ってる時は、なるべく夜遅くまで一緒にいる様にしていたけれど。
今夜は雨が降っていないから、人心地着いたところで帰ろうかと、傍らに置いていたジャケットに手を伸ばした。

「あ、これ、雷の音?」

安普請の牧野の部屋は、外の音がよく聞こえてくる。

「ああ、そうかも。春雷ってやつか。
この後、一雨くるのかもな。」

雨が降るのか・・・?

スマホでこの後の天気を確認していると、牧野がぽつりと呟いた。

「雨、降ったらいいのに。」
「何でだよ。お前、雨嫌いじゃねえか。」
「だって・・・ 雨が降ったら、西門さんはもう少しここにいてくれるでしょ。」

その言葉にはっとする。

雨。
司との別れを思い出させる雨。
それが俺との時間を過ごすきっかけに変わってる・・・?
牧野にとって雨が新しい意味を持つようになってるなんて。

胸の中が熱くなる。
こちらを探る様な目で見つめてくる牧野に、微笑みながら答えた。

「雨なんか降らなくたって、俺はここにいる。
牧野が望むだけ。」

新しい何かが始まる予感に、心臓が鳴っている。
牧野が泣き笑いみたいな顔になったから・・・
そっと近付いて、その顔を俺の胸に引き寄せた。


__________


1周年の時と同様に、恋の和歌から題材を頂きました。

鳴る神の 少し響<とよ>みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
「雷がちょっと鳴ってるのが聞こえるね。
空は曇っているし雨も降らないかな・・・
そうしたら貴方をここに引き留められるのに。」

【返歌】
鳴る神の 少し響<とよ>みて 降らずとも 我<わ>は留まらむ 妹<いも>し留めば
「ああ、雷が少し鳴ってるな。
雨なんか降らなくたって俺はここにいる。
お前が俺にいて欲しいって言うんならな。」

出典は万葉集の巻十一、柿本人麻呂歌集から。
両方とも詠み人知らずの歌です。
勝手に総つく風に現代語訳を考えてみました。


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雨待ちの日々 前編

200万HIT記念イベント・第三弾は「遠くに聞こえる雷鳴は恋の知らせ」のつくしsideのお話にしました。
「雷鳴」を書いた時に、続編を・・・とのお声が多かったのと、自分でもちょっと尻切れトンボ?と思っていたので。
今回はちょっとしっとりした2人です。


__________



「雨・・・?」
「ああ、いつの間にか降り出したみたいだな。」

窓に雨粒が当たる音。
雨樋を水が流れてく音。
時々外の道を車が走り抜け、水を跳ね上げていく音。
そんな音を温かな腕の中で聴くのは、なんて心が安らぐんだろう。
顔を寄せた滑らかな胸からはとくりとくりと規則正しい鼓動が響き、それがまたあたしを安心させる。
その音はまるで時計のようで。
西門さんの鼓動は2人でいられる時間の大切さを教えてくれる。

さっき迄2人で求め合って、想いを交わし合っていたから、身体はどこか重たくて、力が入らないんだけれど。
その後にやって来るこの静かな時間があたしは大好きだ。
西門さんに身も心も満たされて、ぴったり寄り添っているこの時。
他に何も要らない・・・なんて思ってしまう。
西門さんの指があたしの髪の毛をするりするりと梳いているのがちょびっと擽ったくて、でもあたしを幸せな気持ちにしてくれる。
うふふと小さく笑ったら、西門さんが「何だよ?」って優しい声で聞いてくる。
「何でもない。」って言いながら、もっとしっかりほっぺたをその胸にくっ付けたら、両腕できゅうって抱き締めてくれた。

人肌ってこんなにあったかくて、気持ちがいいものだったんだね。
好きな人と肌を重ねたいって思うのは自然な事だったんだって、貴方とこうなってあたしにもやっと分かった。

「寒くないか?」

少し冷えてしまった肩を掌で摩ってくれてる。

「ん、寒くないよ。」って答えながらも、その優しい手の温もりが嬉しい。

「もう雨が降っても震えないんだな。」
「・・・だって、西門さんがいてくれるから。」
「そっか・・・」

おでこにそっと押し当てられる唇。
離れていってもじんわりと余韻が残る。
またとくりとくりと鳴っている西門さんの鼓動を聞きながら、目を瞑った。



あたしは雨が嫌いだった。
雨の日に、酷い嘘を吐いたから。
大好きだった相手を、物凄く傷付ける嘘を吐いたから。
自分を守るために、自分の一番大事だった人を裏切ったから。
そんな日が土砂降りの雨だった。
傘も持たずにびしょ濡れになったあの日の雨は、あたしの涙を隠してくれたけど、身も心も芯から冷たくした。
あれ以来、あたしの心は冷え切ったままで。
そして雨が降る度に、自分のしてしまったことを思い出して、胸が千切れる様な痛みに苛まれながら震えていた。
自業自得。
よく分かってる。
あたしはその罰を受けなきゃいけない。
だから、その痛みに襲われても、身体がカタカタ震えても、自分で自分をぎゅっと抱き締めて、じっとじっと耐えるだけ。
雨が降り止んで、その痛みの波と身体の震えが引いていくのを待っていた。

雨が降りそうな夜に、西門さんに拾われた。
あたしが大好きだった人。
あたしが嘘を吐いた人。
あたしが深く深く傷付けて、そのせいであたしの前から消えていった人。
その人の小さい頃からの親友である西門さん。
出来れば会いたくなかった。
西門さんを一目見るだけで、自分の犯した罪をより鮮やかに思い出してしまったから。

あたしはあなたの親友を傷付けた女なのに。
優しくしてもらう価値なんかないのに。

互いの共通項である筈のいなくなってしまった人の事は一言も口にせず。
何事もなかったかのように話をして。
昔と同じようにあたしの事をからかって笑う。
もう会いたくなかった筈なのに、久し振りに会えて嬉しい気持ちがどこかから湧いてくる自分がいて、ちょっと戸惑った。

でもこれっきり。
もう会う事は無いだろう。

そう思ったから、とびきり明るく別れを告げた筈だったのに。
それ以来、西門さんはちょくちょくあたしの前に現れるようになった。

雨が降っている夜。
あたしが胸の痛みに苛まれ、独りで震えている時に、軽ーい調子の台詞を口にしながら、部屋を訪ねて来た。
いいって言っているのに、無理矢理食事に連れ出されたりもした。
あくまでも、あたしの意思を尊重してくれる花沢類とは違って。
西門さんは強引で、自分勝手で、あたしに有無を言わさないから。
いつの間にかそのペースに巻き込まれてしまう。
気が付くと、雨の夜は、よく2人であたしの部屋にいるようになっていた。
特に何をする訳でもない。
ただ、お茶を飲んだり、他愛もない事を喋ったり。
西門さんがあたしをからかって笑ったり、憤慨したあたしが怒っていたり。
そんな何気ない時間を、この狭い部屋で過ごすだけ。
雨が降っている夜は、独りきりで震えていたのに、西門さんに会えた夜は震えなくなった。
日付が変わる前に西門さんは帰っていく。
そして独りになって、暗い部屋で雨音に耳を澄ます。
自分のしでかした罪は消えることは無い筈なのに、張り裂けそうな胸の痛みは、いつしか鈍痛に変わっていた。
まるで凍り付いていた大地が、温かな春がやって来て、少しずつ融けて芽吹きの時期を迎えるように。
あたしの心は温められて、冷たかった雨は新芽を潤す恵みになった。


雨が降っていないのに初めて2人で部屋にいた時、遠くで雷が鳴っているのが聞こえてきたのは、何かの啓示だったのたろうか。

「あ、これ、雷の音?」

と呟いたら、

「ああ、そうかも。春雷ってやつか。
この後、一雨くるのかもな。」

って西門さんが答える。
思わず、

「雨、降ったらいいのに。」

と口から本音が零れ出た。

「何でだよ。お前、雨嫌いじゃねえか。」

そう、あたしは雨が嫌いだった。
あの日からずっと。
だけど今は・・・

「だって・・・ 雨が降ったら、西門さんはもう少しここにいてくれるでしょ。」

きっと縋る様な目で、西門さんを見てしまったと思う。
帰らないで欲しいって、ここにいてって思いで、西門さんを見詰めた。
ふっと緩んだ表情は、今迄に見たことが無いほど優しくて。
それを見るだけで、胸が軋む。

「雨なんか降らなくたって、俺はここにいる。
牧野が望むだけ。」

信じられない言葉が聞こえて来て、あたしは訳が分からなくなった。
息が苦しくて、言葉は喉の奥に詰まって出てこない。
目と鼻がじんとして、胸の奥もかあっと熱くなった。
テーブルの向こう側にいた西門さんが、気付いたらあたしのすぐ隣にいて。
広い胸に引き寄せられた。
とくりとくりと鳴る心臓の音。

こうして人の鼓動を感じるなんて、どれ位振りだろう・・・
そしてこの胸の中は、なんて温かいんだろう。

かちこちに緊張していた筈の身体から、徐々に力が抜けていく。

とくり、とくり、とくり。

西門さんの身体の中から届く音は、まるで魔法のように、あたしの心を落ち着かせてくれた。
そこに降り出した雨のさーさーさーという音が重なる。

その日、あたしは初めて西門さんと夜を越えた。


__________



え? あの夜はそんな事になってたの?
ねえ、そう思っちゃうよねえf^_^;
どうしてもね、後付けで話を書くと、色々難しいんですよね。←言い訳!
もうちょっとだけ、つくしのお話は続きます!

暖かいお見舞いのお言葉、有り難うございます。
骨ねえ。ギューンと突き抜けるような痛みは無くなりつつあるんですけど、ずどーんと重たい痛みが纏わりつきます。
多分今日、もう一度レントゲン撮って、骨の具合診てもらってきます。
早く元通りに動きたーい!


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雨待ちの日々 中編

夜を越えた・・・と言っても、ただ朝まで一緒にいただけで。
何も無かった。
本当に何も。
西門さんに優しく抱き留められていただけ。
キスのひとつも交わさなかった。
でも・・・
必ず0時を回る前にあたしの部屋を後にしていた西門さんが、一緒にいてくれる事。
あたしをからかう時に淡く触れるだけだった西門さんの手があたしの背中に置かれている事。
それはとっても大きな変化に思えた。



「ずっと独りで泣いてたのか?」

髪の毛にくっつきそうなところにある唇から、温かな吐息と共に落ち着いた声が降ってくる。

「・・・泣いたことなんかないよ。」

泣く事さえ罪だと思ってた。
涙にして自分のしでかした事を流し去ってしまうなんて、許されないと思ってた。
人を裏切り、傷付けた痛みを抱えていることが、唯一の生きていく為の免罪符だった。

「じゃあ、泣くのを堪えて震えてたんだ。
牧野らしいな。」

言い当てられて、つい身体がぴくりと跳ねた。
西門さんの大きな掌がゆっくり背中を撫でて、それを宥めてくれる。
小さな子供が泣いているのを『もう大丈夫だよ』って安心させる為に摩ってあげてる手みたいに、何度も何度も背中の上を行き来するのを感じてたら、本当に泣きたくなってきた。

「もう我慢しなくていいんじゃねえの?」
「え・・・?」

その台詞に驚いて、首を反らして西門さんの顔を見上げた。
柔らかな微笑みを浮かべて、あたしの乱れた髪の毛を、そっと耳に掛けてくれている。
その指先が温かい。

「泣きたいなら泣いたっていいんだよ。
独りで辛い事抱え込むな。
お前がそうやって我慢してたって、誰も幸せになんてならない。
お前自身だってそうだろ?
それなら、思いっ切り泣いて、胸に溜め込んだもの吐き出して。
新しい一歩踏み出した方がいいって思わねえ?」
「でも・・・」
「お前は悪くないよ、牧野。」
「だってあたし・・・」

あなたの親友を傷付けたの。
あんな苦し気に絞り出された人の声、聞いたことなかった。
雨に濡れて、悲しみと絶望の色を浮かべてた瞳があった。
あたしがそうさせちゃったの。
あたしが・・・

「お前は悪くないんだ。
俺達は皆分かってるよ。
きっとあいつも・・・
だからそんな風に自分を責めるな。」

そう言われて温かな眼差しで見詰められたら、じわじわと西門さんの顔が滲んでいった。

「泣いていいぜ、思いっ切り。
ああ、でも独りの時には泣くなよ。
俺がこうやって涙を拭いてやれないだろ。」

目の端から零れ落ちた涙を、西門さんの温かな指先で拭われる。
一度泣き始めたら、涙はぽろぽろぽろぽろ溢れてしまい、自分ではどうにも止められなくなった。
しゃくりあげながら泣き始めたあたしの頭をまた自分の胸に引き寄せて、シャツに涙を吸い取らせてる。
その広い胸の中は温かなゆりかごのようだった。
あたしはそこで、涙が枯れるまで泣いた。
そして泣き疲れて、そのまま寝てしまったらしい。
気が付いた時、西門さんの腕の中で丸く縮こまっている状態だった。
そろりそろりと首を伸ばして西門さんの様子を窺おうとしたら、ふふふと小さな笑い声が耳に届く。
はっとして、西門さんの胸から自分の身体を引き剥がした。

「ご、ご、ごめんっ!
あたし、寝ちゃってた!」
「ああ、少しはスッキリしたか?」
「え・・・? あ、うん・・・」
「そりゃ良かった。」

そう言って伸びてきた西門さんの右の掌は、あたしの頭にぽふぽふと優しく触れた。
その感覚に、とても安心させられる自分がいる。
窓の外からは、しとしとと雨が降る音や水がちょろちょろ流れる音がしているけれど、車の走る音や人の声は全く聞こえず、やけに静かだと思った。

「ね、西門さん、今何時?」
「んー? もうすぐ午前2時か。」
「えっ? か、帰らなくていいの?」

今迄必ず日付が変わる前にこの部屋を出て行っていた西門さん。
もう少しここにいて・・・と言ったのは自分だったけれど、今夜もいつもと同じ頃に帰ってしまうのだと思っていた。

「つくしちゃんはこの雨模様の丑三つ時に、俺を部屋から追い出すつもりか?」
「そ、そうじゃなくて・・・」
「牧野が望むだけここにいる。
さっきそう言ったろ。」
「あたしが望むだけ・・・?」

あたしは何を西門さんに望んでいるんだろう?
この人だってあたしの手の届かない人なのに。
住む世界が違う人なのに。
いとも簡単にその垣根を越えて、あたしのところにやって来ちゃうから、あたしはつい勘違いしてしまいそうになる。
でも今は、切実に、この温もりが必要だ。

「じゃあ、朝まで一緒にいて。」

自分ではそれなりの覚悟を持って、その言葉を告げたつもりだったのに。
優しく眇めた目をしながらひとつゆっくり頷いて。
「ああ、いいぜ。」って言った西門さんは、朝まで何もしなかった。
唯々あたしをその胸に抱き留めてくれてた。
2人で1枚の毛布に包まりつつ、身を寄せ合って迎えた朝は、温かくて、安らぎを与えてくれて、でも少しだけ切なくて。
西門さんのとくりとくりと鳴る胸の音は心地よくあたしの耳に届き、この時間が少しでも長く続けばいいのにと願わずにいられない自分がいる。
気付けば雨は上がっていた。


__________



短いのですが、キリがいいのでここで切りました。
据え膳食わない総二郎。
あり得るのか?
でも相手がつくしならあり得そう。
そう思って書いてます。
「夜を越えた」と言うキーワードのせいでR展開を期待されていた方には、肩透かしくらわせちゃったことをお詫びします(苦笑)

午後、雨が上がって清々しい風が吹き、太陽も顔を出しました。
真夏が来る前の爽快な時間を堪能すべく、窓いっぱい開けて、空気入れ替えしましたよ♪


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