「ねぇ、あきらぁ。」
甘ったるい声を出して、妖艶に微笑みながら、こちらにしなだれかかって来るこの人を、可愛いと思えた瞬間があったから、デートをしていた筈なのに。
胸の中のどこかに生まれた、このベタベタと纏わりつく腕を振り払ってしまいたい・・・という衝動に、つい苦笑いしたくなるのを押し殺す。
「何、ミサコさん?」
「もうすぐお誕生日でしょ?
その日もこうやって2人で会えない?
折角だから、何処か素敵なお店で食事して・・・」
俺、この人に自分の誕生日なんか教えたっけ?
いや、多分教えてはいない筈だけど、そんなのちょっと調べれば分かる事か・・・
「あー、ごめん、その日はちょっと・・・」
「なあに? もう別の女と予定がある・・・なんて言わないわよね?」
きろりと上目遣いでこっちを探って来る、その視線。
ついつい誰かと比べてしまう。
あいつの俺を見上げる視線は、なんて穢れが無くて真っ直ぐな事か。
この人の、自分の魅力を知り尽くして、どれだけ媚びを載せれば男心を擽れるのか、計算されたその仕草は、女性の努力を感じさせても、俺の心を射抜くことはない。
「・・・いや、そんな事しないよ。
俺がミサコさんに夢中なの、分かってるでしょ。
そういう日は家にいないと、妹達が煩いんだよ。
あいつら、朝からケーキ焼いたり、ホームパーティーの準備をしたりしてさ。」
「ふふふ、シスコンなんだから。
そう言って、クリスマスもバレンタインも会ってくれなかったくせに。」
「それはお互い様。
ミサコさんだって、そういうイベントの日くらいご主人の帰りを待ってないとダメだって言ってたでしょ。
ウチは俺がシスコンというより、あいつらがブラコンなんだよ。
親父が留守がちだから、あいつら、妙に俺に懐いちゃっててさ。」
「クリスマスやバレンタイン、一緒に過ごせなかったからこそ、あきらのお誕生日は一緒にって思ってたのに!」
そうやって怒ったふりするのも計算のうちだろ?
拗ねていたら、俺が機嫌を取るのを知ってるから。
そうだね、今日のところはお望み通りの男を演じておくよ。
きっともう貴女とこうして会う事もないだろうし。
浮き立たない心を持て余してしまう俺。
ちょっとスリリングで、程よく甘くて、心地よかった、人妻との逢瀬が、すっかり色褪せて見えて。
その真逆にある、あいつの事ばかり思い出してた。
牧野はよくウチに出入りしてる。
大学に入ってからは、絵夢と芽夢の家庭教師として雇っているから。
それは、バイト漬けで疲れ切ってる牧野を見たくなくて、俺がお袋に進言したのだ。
安定したバイト料を得られる牧野にとっても、『つくしお姉ちゃま』に懐いている双子にとってもいい話だったこの案は、すんなり受け入れられた。
今じゃ週2回の勉強の日の他に、お袋が忙しい時のチャイルドシッターとしての出番まである。
使用人がこんなにいるってのに「だって、絵夢と芽夢が『つくしお姉ちゃまに来て頂きたいの!』って言うんですもの。」なんて言って、しょっちゅう牧野をウチに呼び付けてる。
牧野も「あたしで良かったら、何でもお手伝いします!」なんて二つ返事で引き受けるから、邸で牧野の姿を見る回数は増える一方だ。
季節折々の行事の時もそう。
双子の我儘のせいで、クリスマスディナーも我が家で一緒に摂ったし、年始のお参りにだって絵夢と芽夢と揃いの着物を着せられて、まるで家族の一員のように出掛けたんだ。
バレンタインデーは邸の中に甘ーい香りが漂って、女共のきゃいきゃい騒ぐ声が響いて。
夕食後のデザートの代わりに双子と牧野から、3人合作の手作りチョコレートケーキを贈られた。
遅くやって来た大きな3人目の妹。
そう思って自分の気持ちを誤魔化そうとしていたけれど。
一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、封印していた筈の感情が、むくりむくりと膨らんでしまう。
俺は牧野が好きなんだ。
そう、もうずっと前から・・・
司が牧野に惚れていたから、自分の気持ちにブレーキをかけた。
でも司がいなくなった今、俺はどうしたらいいんだろう?
牧野は・・・ 司を忘れる日がくるんだろうか?
2月28日。
俺の誕生日当日。
思っていた通り、朝食の席で双子達から釘を刺された。
「お兄ちゃま、今日は大学でのお勉強が終わったら、真っ直ぐお帰りになってね!」
「そうよ、今日は『ご友人とのお出掛け』はダメなのよ。
総二郎お兄ちゃまや類お兄ちゃまがお誘いになってもお断りしてね!」
「「私達、お待ちしてるから!」」
分かった、分かった・・・と答えつつも、誕生日を過ごしたいのはこの2人ではなくて、別の誰かだという事に改めて気付かされる。
大学で牧野の現れそうなところをそれとなく通ってみても、その姿は見つからなくて。
牧野の笑顔が見たかったのにな。
それが何よりの誕生日プレゼントだったのに。
そんな事を思いながら、少々気落ちしつつ、双子に言われた通り邸に直帰した。
エントランスを入り、「あきら様、お帰りなさいませ。」とコートを受け取ってくれた使用人が、その場で「今お戻りになりました。」内線電話を掛けている。
多分双子達に「お兄ちゃまがお戻りになられたら教えてね!」とか言われているのだろう。
「絵夢と芽夢はリビングルーム?」
「いえ、お嬢様方のお部屋であきら様をお待ちです。」
「ああ、そう。ありがとう。」
独り廊下を歩いて辿り着いた双子の部屋の前。
コンコンとドアをノックする。
「絵夢ー? 芽夢ー?」
「「どうぞお入りになってー!」」
一体何が待ち受けているのか。
くすりと笑いを漏らしてから、ドアを開けた俺を襲ってきたのは、パンパンパン!と派手なクラッカーの音と、カラフルなテープ。
そして破顔している3人の姿だった。
「「お兄ちゃま、お誕生日おめでとー!」」
絵夢と芽夢が、俺の元に駆け寄って来る。
でも俺が見詰めていたのは、その後ろからこちらを見て、楽し気に微笑んでいる牧野だった。
「美作さん、お誕生日おめでとう。」
「ああ・・・」
「ね、お兄ちゃま、驚いたでしょ!」
「つくしお姉ちゃまのアイデアよ!
クラッカーなんて初めてで、私達も大きな音にびっくりしたわ!」
クラッカーの音よりも、部屋いっぱいに広がっているカラフルなデコレーションよりも、牧野の笑顔がそこにあることに驚いている。
今日はもう会えないんじゃないかと思っていたから、会えた嬉しさがじわじわとこみ上げて来た。
4人で一頻り過ごして。
頃合いを見て牧野を子供部屋から連れ出した。
お袋の趣味が詰まった応接室の一つでお茶を飲む。
「牧野、今日大学行ったのか?」
「うん、お昼までね。
ランチも摂らずに、こちらにお邪魔しちゃった。
ほら、あれの準備があったからね。」
それだから大学で見かけなかったのか。
「悪かったな、それは。」
「んーん、全然。
お陰で美味しいアフタヌーンティーセット頂いちゃった!
美作さんちのサンドイッチとスコーン、ホントに好きなの、あたし。」
食べ物のことを話す時の牧野は本当に嬉しそうに笑うから、此方までつられてしまう。
「それは良かった。
いつでも食べに来て。
シェフもお袋も喜ぶから。」
勿論俺も嬉しい。
いや、嬉しいんだけど、どこかが苦しくもあって・・・
でも顔を見れないのはつまらないし・・・
ああ、俺はどうしたらいいのかな?
「ね、美作さん。」
牧野が俺を見詰めていた。
真っ直ぐな視線。
やっぱりそれは俺の胸に突き刺さるから、甘い痛みが走って、俺は思わず目を眇めてしまう。
「あたし、美作さんの妹を卒業したいの。」
その言葉に、今度は心臓がぎゅっと縮んだ。
俺から離れたいという意味に聞こえたから。
「それは・・・ 絵夢と芽夢の家庭教師を辞めたいって事か?」
「ち、違うよ!
2人ともとってもいい子だし。
あたし、絵夢ちゃんと芽夢ちゃん、大好きだもん!
そうじゃなくって・・・」
段々と声が小さくなって、俺に向かっていた視線もあらぬ方向を向いてしまった。
何を言われるのか、不安に苛まれるけど、続きを聞く以外に道はない。
「そうじゃなくって?」
「・・・もう妹でいるのはイヤなの。」
「え・・・?」
「あたし、あたし・・・」
頰を真っ赤に染めた牧野が、再び俺を見詰める。
「あたし、美作さんが好きなのっ!
妹じゃなくて・・・一人の女の子として見て欲しいんです!」
「え・・・?」
牧野が俺を好き?
本当なのか?
考えた事も無かった事を告げられて、俺は気の利いた言葉を返せないでいた。
「迷惑・・・だよね。
分かってる!
分かってるけど、あたし、もう、妹でいるのは苦しいの。」
「牧野・・・」
気が付いたら、牧野の隣に立っていた。
驚いて俺を見上げている牧野の手を取って立たせ、向かい合わせになる。
「牧野、有り難う。」
心細そうな顔をしてる牧野に告げる言葉はひとつだけ。
「俺も牧野が好きなんだ。
妹だなんて思ってない。
いや、思えなくなって困ってた。」
目の前にある額にそっと唇を押し当てる。
「嘘!」
「嘘じゃないよ。」
「だって、また妹扱いしてるじゃない!」
ふうん、このキスじゃ納得出来ないって?
お前を驚かせない為に、我慢してたっていうのに。
じゃあお望み通りに恋人のキスを贈ろう。
最初はそっと触れるだけ・・・と思っていたのに。
一度唇を重ね合わせたら、離れ難くて、何度も何度も口付けを落とした。
牧野がはあ・・・と吐息を漏らしたから、やっと自分を止める事が出来た。
「これで分かった?」
こくりと頷く牧野が可愛くて、自分の腕に閉じ込める。
華奢な身体はすっぽりと俺の胸に埋まってしまう。
ああ、俺は今日、最大のプレゼントを貰ってしまったな。
後にも先にもない。
一番欲しくて、大事なものを手に入れた。
「好きだよ、牧野。」
__________
あきらのお誕生日プレゼントはつくし!という事で( 艸`*)
Happy birthday あきら!

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甘ったるい声を出して、妖艶に微笑みながら、こちらにしなだれかかって来るこの人を、可愛いと思えた瞬間があったから、デートをしていた筈なのに。
胸の中のどこかに生まれた、このベタベタと纏わりつく腕を振り払ってしまいたい・・・という衝動に、つい苦笑いしたくなるのを押し殺す。
「何、ミサコさん?」
「もうすぐお誕生日でしょ?
その日もこうやって2人で会えない?
折角だから、何処か素敵なお店で食事して・・・」
俺、この人に自分の誕生日なんか教えたっけ?
いや、多分教えてはいない筈だけど、そんなのちょっと調べれば分かる事か・・・
「あー、ごめん、その日はちょっと・・・」
「なあに? もう別の女と予定がある・・・なんて言わないわよね?」
きろりと上目遣いでこっちを探って来る、その視線。
ついつい誰かと比べてしまう。
あいつの俺を見上げる視線は、なんて穢れが無くて真っ直ぐな事か。
この人の、自分の魅力を知り尽くして、どれだけ媚びを載せれば男心を擽れるのか、計算されたその仕草は、女性の努力を感じさせても、俺の心を射抜くことはない。
「・・・いや、そんな事しないよ。
俺がミサコさんに夢中なの、分かってるでしょ。
そういう日は家にいないと、妹達が煩いんだよ。
あいつら、朝からケーキ焼いたり、ホームパーティーの準備をしたりしてさ。」
「ふふふ、シスコンなんだから。
そう言って、クリスマスもバレンタインも会ってくれなかったくせに。」
「それはお互い様。
ミサコさんだって、そういうイベントの日くらいご主人の帰りを待ってないとダメだって言ってたでしょ。
ウチは俺がシスコンというより、あいつらがブラコンなんだよ。
親父が留守がちだから、あいつら、妙に俺に懐いちゃっててさ。」
「クリスマスやバレンタイン、一緒に過ごせなかったからこそ、あきらのお誕生日は一緒にって思ってたのに!」
そうやって怒ったふりするのも計算のうちだろ?
拗ねていたら、俺が機嫌を取るのを知ってるから。
そうだね、今日のところはお望み通りの男を演じておくよ。
きっともう貴女とこうして会う事もないだろうし。
浮き立たない心を持て余してしまう俺。
ちょっとスリリングで、程よく甘くて、心地よかった、人妻との逢瀬が、すっかり色褪せて見えて。
その真逆にある、あいつの事ばかり思い出してた。
牧野はよくウチに出入りしてる。
大学に入ってからは、絵夢と芽夢の家庭教師として雇っているから。
それは、バイト漬けで疲れ切ってる牧野を見たくなくて、俺がお袋に進言したのだ。
安定したバイト料を得られる牧野にとっても、『つくしお姉ちゃま』に懐いている双子にとってもいい話だったこの案は、すんなり受け入れられた。
今じゃ週2回の勉強の日の他に、お袋が忙しい時のチャイルドシッターとしての出番まである。
使用人がこんなにいるってのに「だって、絵夢と芽夢が『つくしお姉ちゃまに来て頂きたいの!』って言うんですもの。」なんて言って、しょっちゅう牧野をウチに呼び付けてる。
牧野も「あたしで良かったら、何でもお手伝いします!」なんて二つ返事で引き受けるから、邸で牧野の姿を見る回数は増える一方だ。
季節折々の行事の時もそう。
双子の我儘のせいで、クリスマスディナーも我が家で一緒に摂ったし、年始のお参りにだって絵夢と芽夢と揃いの着物を着せられて、まるで家族の一員のように出掛けたんだ。
バレンタインデーは邸の中に甘ーい香りが漂って、女共のきゃいきゃい騒ぐ声が響いて。
夕食後のデザートの代わりに双子と牧野から、3人合作の手作りチョコレートケーキを贈られた。
遅くやって来た大きな3人目の妹。
そう思って自分の気持ちを誤魔化そうとしていたけれど。
一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、封印していた筈の感情が、むくりむくりと膨らんでしまう。
俺は牧野が好きなんだ。
そう、もうずっと前から・・・
司が牧野に惚れていたから、自分の気持ちにブレーキをかけた。
でも司がいなくなった今、俺はどうしたらいいんだろう?
牧野は・・・ 司を忘れる日がくるんだろうか?
2月28日。
俺の誕生日当日。
思っていた通り、朝食の席で双子達から釘を刺された。
「お兄ちゃま、今日は大学でのお勉強が終わったら、真っ直ぐお帰りになってね!」
「そうよ、今日は『ご友人とのお出掛け』はダメなのよ。
総二郎お兄ちゃまや類お兄ちゃまがお誘いになってもお断りしてね!」
「「私達、お待ちしてるから!」」
分かった、分かった・・・と答えつつも、誕生日を過ごしたいのはこの2人ではなくて、別の誰かだという事に改めて気付かされる。
大学で牧野の現れそうなところをそれとなく通ってみても、その姿は見つからなくて。
牧野の笑顔が見たかったのにな。
それが何よりの誕生日プレゼントだったのに。
そんな事を思いながら、少々気落ちしつつ、双子に言われた通り邸に直帰した。
エントランスを入り、「あきら様、お帰りなさいませ。」とコートを受け取ってくれた使用人が、その場で「今お戻りになりました。」内線電話を掛けている。
多分双子達に「お兄ちゃまがお戻りになられたら教えてね!」とか言われているのだろう。
「絵夢と芽夢はリビングルーム?」
「いえ、お嬢様方のお部屋であきら様をお待ちです。」
「ああ、そう。ありがとう。」
独り廊下を歩いて辿り着いた双子の部屋の前。
コンコンとドアをノックする。
「絵夢ー? 芽夢ー?」
「「どうぞお入りになってー!」」
一体何が待ち受けているのか。
くすりと笑いを漏らしてから、ドアを開けた俺を襲ってきたのは、パンパンパン!と派手なクラッカーの音と、カラフルなテープ。
そして破顔している3人の姿だった。
「「お兄ちゃま、お誕生日おめでとー!」」
絵夢と芽夢が、俺の元に駆け寄って来る。
でも俺が見詰めていたのは、その後ろからこちらを見て、楽し気に微笑んでいる牧野だった。
「美作さん、お誕生日おめでとう。」
「ああ・・・」
「ね、お兄ちゃま、驚いたでしょ!」
「つくしお姉ちゃまのアイデアよ!
クラッカーなんて初めてで、私達も大きな音にびっくりしたわ!」
クラッカーの音よりも、部屋いっぱいに広がっているカラフルなデコレーションよりも、牧野の笑顔がそこにあることに驚いている。
今日はもう会えないんじゃないかと思っていたから、会えた嬉しさがじわじわとこみ上げて来た。
4人で一頻り過ごして。
頃合いを見て牧野を子供部屋から連れ出した。
お袋の趣味が詰まった応接室の一つでお茶を飲む。
「牧野、今日大学行ったのか?」
「うん、お昼までね。
ランチも摂らずに、こちらにお邪魔しちゃった。
ほら、あれの準備があったからね。」
それだから大学で見かけなかったのか。
「悪かったな、それは。」
「んーん、全然。
お陰で美味しいアフタヌーンティーセット頂いちゃった!
美作さんちのサンドイッチとスコーン、ホントに好きなの、あたし。」
食べ物のことを話す時の牧野は本当に嬉しそうに笑うから、此方までつられてしまう。
「それは良かった。
いつでも食べに来て。
シェフもお袋も喜ぶから。」
勿論俺も嬉しい。
いや、嬉しいんだけど、どこかが苦しくもあって・・・
でも顔を見れないのはつまらないし・・・
ああ、俺はどうしたらいいのかな?
「ね、美作さん。」
牧野が俺を見詰めていた。
真っ直ぐな視線。
やっぱりそれは俺の胸に突き刺さるから、甘い痛みが走って、俺は思わず目を眇めてしまう。
「あたし、美作さんの妹を卒業したいの。」
その言葉に、今度は心臓がぎゅっと縮んだ。
俺から離れたいという意味に聞こえたから。
「それは・・・ 絵夢と芽夢の家庭教師を辞めたいって事か?」
「ち、違うよ!
2人ともとってもいい子だし。
あたし、絵夢ちゃんと芽夢ちゃん、大好きだもん!
そうじゃなくって・・・」
段々と声が小さくなって、俺に向かっていた視線もあらぬ方向を向いてしまった。
何を言われるのか、不安に苛まれるけど、続きを聞く以外に道はない。
「そうじゃなくって?」
「・・・もう妹でいるのはイヤなの。」
「え・・・?」
「あたし、あたし・・・」
頰を真っ赤に染めた牧野が、再び俺を見詰める。
「あたし、美作さんが好きなのっ!
妹じゃなくて・・・一人の女の子として見て欲しいんです!」
「え・・・?」
牧野が俺を好き?
本当なのか?
考えた事も無かった事を告げられて、俺は気の利いた言葉を返せないでいた。
「迷惑・・・だよね。
分かってる!
分かってるけど、あたし、もう、妹でいるのは苦しいの。」
「牧野・・・」
気が付いたら、牧野の隣に立っていた。
驚いて俺を見上げている牧野の手を取って立たせ、向かい合わせになる。
「牧野、有り難う。」
心細そうな顔をしてる牧野に告げる言葉はひとつだけ。
「俺も牧野が好きなんだ。
妹だなんて思ってない。
いや、思えなくなって困ってた。」
目の前にある額にそっと唇を押し当てる。
「嘘!」
「嘘じゃないよ。」
「だって、また妹扱いしてるじゃない!」
ふうん、このキスじゃ納得出来ないって?
お前を驚かせない為に、我慢してたっていうのに。
じゃあお望み通りに恋人のキスを贈ろう。
最初はそっと触れるだけ・・・と思っていたのに。
一度唇を重ね合わせたら、離れ難くて、何度も何度も口付けを落とした。
牧野がはあ・・・と吐息を漏らしたから、やっと自分を止める事が出来た。
「これで分かった?」
こくりと頷く牧野が可愛くて、自分の腕に閉じ込める。
華奢な身体はすっぽりと俺の胸に埋まってしまう。
ああ、俺は今日、最大のプレゼントを貰ってしまったな。
後にも先にもない。
一番欲しくて、大事なものを手に入れた。
「好きだよ、牧野。」
__________
あきらのお誕生日プレゼントはつくし!という事で( 艸`*)
Happy birthday あきら!



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