「ねえ、牧野。」
「んー? なあに?」
「何かちょーだい。」
「は? 何かって何よ?」
いつも通りにあたしの部屋に入り浸って、勝手に寛いでる類が、突然そんな事を言い出した。
見れば、掌をお皿の様にしながらあたしの方に片手を突き出して、小首を傾げてにっこりしてる。
「ハロウィンって何か甘い物を貰う日なんでしょ。
だから、ちょーだい?」
んーーー?
ハロウィンって、子供が仮装して、『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』なんて言って、ご近所を回って、お菓子を貰って歩く・・・みたいなイベントなんだよね?
甘い物を貰う日・・・ってのはちょっと違うと思うんだけど。
勿論類は仮装なんかしてないし。
そもそも子供でもないし!
あたしだってお菓子の準備なんかしてないよ。
「甘い物・・・
何かあったかなぁ?」
よっこらしょっと、ババくさい掛け声をついつい口にしながら、座卓に手を突いて立ち上がったあたしは、取り敢えず狭いキッチンに向かった。
何かお菓子の買い置きがあったかな?と頭を巡らせながら、ストッカーの扉を開けてみる。
出て来た甘い物は・・・
風邪を引いた時の余りののど飴の袋と。
かりんエキス入りと書いてあるのに惹かれて買ったインスタントの生姜湯だけ。
これをお菓子として出す訳にはいかない。
もう少し奥をごそごそやっても、出てくるのはお菓子じゃなくて、買い置きの調味料と乾物ばかりだ。
「うーん・・・ 何もない・・・」
そのうち指先が何かふにょっと柔らかいものにぶつかった。
あ、これは!と引っ張り出すと、それはホットケーキミックス。
時々朝ご飯代わりに焼いたりして、独りで幸せに食べてる魅惑の味。
安売りしてた時に買っておいたんだった。
だって賞味期限が長かったから。
「ねえ、類、ホットケーキ食べる?」
キッチンから顔を出して、類にそう聞くと、
「あんたが作ってくれるなら、何でも。」
なんて返事が返って来る。
ま、これしか甘い物なんて作れなさそうだから、これでいいか?と、冷蔵庫から卵と牛乳とバターとマヨネーズを取り出して、シンクの下からはボウルを引っ張り出した。
ボウルに材料を入れて、ふんわり焼く為の秘訣・マヨネーズをスプーン1杯。
ふっくらとしたホットケーキ焼いて、類に「ん、おいし・・・」なんて、言わせちゃおうじゃないの!
菜箸でさっくり混ぜ合わせるのもポイントなのよね。
ついつい混ぜ過ぎちゃうと膨らまなくなるから、そこに気を付けて・・・
フライパンを温めて、バターをぽとりとひと塊。
それを満遍なく塗り広げてから、お玉で生地を流し込んだ。
フライパンからはもう甘い香りがしてきて、ワクワクする。
弱火でじっくり焼いて、表面にフツフツと小さな穴が開き始めたから、フライ返しでえいっとひっくり返した。
うーん、ちょうどいいきつね色!
そうそう、ホットケーキはこうじゃなくっちゃねー!
焼き目はちょっとカリっとしてるくらいが美味しいのよ!
焼きながらどんどん楽しくなってきた。
2枚、3枚と焼いて、お皿に重ねて盛り付けて。
蜂蜜をたらーりと掛けたら、もう完璧。
あたしはいそいそとそれを座卓の上に運んでいった。
「類、お待たせっ!
ホットケーキ、焼けたよ!
あ、コーヒー淹れ直すね!」
空っぽのマグカップが見えたから、慌てて薬缶でお湯を沸かして、ドリップオンのコーヒーを淹れる。
類にこんな安物のコーヒーでいいのかしら?といつも首を傾げちゃうけど、『郷に入っては郷に従え』とでも思っているのか、類からは文句も聞こえてこないので、ついついそのままになってしまっていた。
それにいつも残さず飲んでるし。
口に合わないものは絶対に飲み食いしない人だから、案外これでも大丈夫なんだろう。
「あー、ごめんごめん、温かいうちに食べたいよね。
はい、コーヒーも入ったから。
食べよっか?」
「ん。」
ふんわりさっくり焼けたホットケーキにナイフを入れる。
切り分けたホットケーキを互いの小皿に載せて、一つは類の前に、一つは自分の前に置いた。
「頂きまーす!」
「・・・頂きます。」
食べ物を食べる時には頂きますを言うのよ!としっかり刷り込んだからか、類もちゃんとあたしに続いて唱和してくれる。
それを内心ちょっぴり嬉しく思いながら、ぱくりと最初の一切れを自分の口に押し込んだ。
「あ、これ、美味し!」
自画自賛はどうかと思うけど。
ホントに美味しく焼けてたから、つい嬉しくなって、素直な感想が口から飛び出す。
バターの風味も効いていて、柔らかいけど香ばしい。
大満足の出来だった。
「ん、美味しいよ、牧野。」
類が優し気に笑いながらそう言ってくれるから、『ヤッタ!類の「美味しい」頂きました!』なんて、こちらの頬っぺたも上がっちゃう。
「良かった、いっぱい食べてね!」
「あい。」
ご機嫌な類と、向かい合わせに座りながら、ホットケーキをパクつく、のんびりした午後。
あたしはすっかり幸せな気分になっていた。
類と一緒にいる時、あたしは一番リラックス出来て、心地いい。
余計な気も使わないし、隣にいてくれるのがとっても自然なんだ。
だから、彼氏とかも出来ないのよね・・・
だって、類以上にあたしが心地よくいられる相手って、そうそう見つけられないもの。
「あー、美味しかった!
類、甘い物足りた?」
「んー、まだちょっと足りない・・・かも。」
「え? そうなの? もうちょっとホットケーキ焼こうか?」
そう言って立ち上がったあたしを追うように、類も立ち上がった。
何で類も立つんだろ?と思った次の瞬間、類の顔がこっちにすいーっと近付いてきて。
ふんわり唇に何かが舞い降りた。
ビックリし過ぎて目を見開いているうちに、類は離れていって、にっこり笑いながらあたしを見下ろしてる。
「な、な、な、何、今の?」
「ん? 甘い物、足りなかったから貰ったの。
牧野、ホットケーキはもういいよ。
俺、腹一杯。」
「は? そ、そうじゃなくて!
今あたしに何したのっ?」
慌てまくって、しどろもどろになってるあたしを見て、くすっと笑い声を漏らした類がいる。
「何って、キス。」
「き、き、き、キス?」
「うん。」
「友達はキスはしないんだってば!」
「じゃ、友達じゃなくなればいいんじゃない?」
類と友達でいられないなんて・・・
そんなの嫌だ!
だってこの人はあたしにはかけがえのない存在なんだもん。
「恋人になれば?」
類の爆弾発言に、今度は目を瞬いているあたし。
カメラのシャッターを連続で切るみたいに、目の前の類がコマ送りになった。
また徐々に近づいてきた端正な顔。
逃げもせずに立ち尽くしてしまうあたしは、さっきよりも長く唇を啄まれる。
「ふうん、キスって好きな子とするとこんな幸せな気持ちになるんだね。
俺、知らなかったや。
牧野、ご馳走様。」
悪戯な笑みを浮かべて、物凄い台詞をサラリと言ってのけるこの人は、本当にあたしの知ってる類なの?
きちんとご馳走様言ってるのはいいとして・・・
問題はそれ以外のトコよ!
「ほ、ほ、本気なのっ?」
「俺はずっと本気だったけど。
あんたでしょ、ずっと俺への気持ち、見て見ない振りしてきたのはさ。
でも、まあ、今日から素直になってくれたらいいよ。
ね、My honey。」
「だ、誰がMy honeyよ!」
類の右手がこっちに伸びて来る。
何するつもり?と身体を硬くしたら、親指の腹で下唇をゆっくりとなぞられた。
その接触にぴくりと震えたあたし。
なのに類ってば、そんな事気にする素振りもなく、親指をぺろりと舐めちゃった!
ぎゃーーーーー!!!!!
「ん? だって、ほら、蜂蜜味。
甘い物、足りたと思ったけど・・・
これなら幾らでも食べれそ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「俺、もう随分待ったから。これ以上は待たない。」
え? え? え?
気付いたら、あたしは類の腕の中。
「Happy Halloween、牧野。
これからも・・・
いや、これまで以上に宜しくね。」
類の甘い囁きに、あたしの思考回路はパンク寸前。
ハロウィンって・・・
ハロウィンって!
こんなに甘いものだった?
__________
うわーん! 遅刻! 大遅刻!
Halloweenのお話、総二郎で書き始めたんですけど。
どうしてもエンドまで辿り着けなくて・・・
急遽方向転換して類つくにしてみました。
「この頃、類、出てきませんね。」
「甘い類つく、読みたいです。」
「食べ物ネタ、最近ないですね。」
なんていうお声も頂いてたので・・・
でも、これが甘い類つくになっているかどうかはちょっと疑問です(^^;
突貫工事故、お許し下さいませ。
風邪、ぶり返しちゃって。
連日連夜、咳に苦しめられてます・・・
薬も飲みすぎちゃったのか、効かないしー( ;∀;)
明日はお休み。
少し養生します・・・
コメントへのお返事、少々お時間頂けたらと思いますm(__)m

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
「んー? なあに?」
「何かちょーだい。」
「は? 何かって何よ?」
いつも通りにあたしの部屋に入り浸って、勝手に寛いでる類が、突然そんな事を言い出した。
見れば、掌をお皿の様にしながらあたしの方に片手を突き出して、小首を傾げてにっこりしてる。
「ハロウィンって何か甘い物を貰う日なんでしょ。
だから、ちょーだい?」
んーーー?
ハロウィンって、子供が仮装して、『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』なんて言って、ご近所を回って、お菓子を貰って歩く・・・みたいなイベントなんだよね?
甘い物を貰う日・・・ってのはちょっと違うと思うんだけど。
勿論類は仮装なんかしてないし。
そもそも子供でもないし!
あたしだってお菓子の準備なんかしてないよ。
「甘い物・・・
何かあったかなぁ?」
よっこらしょっと、ババくさい掛け声をついつい口にしながら、座卓に手を突いて立ち上がったあたしは、取り敢えず狭いキッチンに向かった。
何かお菓子の買い置きがあったかな?と頭を巡らせながら、ストッカーの扉を開けてみる。
出て来た甘い物は・・・
風邪を引いた時の余りののど飴の袋と。
かりんエキス入りと書いてあるのに惹かれて買ったインスタントの生姜湯だけ。
これをお菓子として出す訳にはいかない。
もう少し奥をごそごそやっても、出てくるのはお菓子じゃなくて、買い置きの調味料と乾物ばかりだ。
「うーん・・・ 何もない・・・」
そのうち指先が何かふにょっと柔らかいものにぶつかった。
あ、これは!と引っ張り出すと、それはホットケーキミックス。
時々朝ご飯代わりに焼いたりして、独りで幸せに食べてる魅惑の味。
安売りしてた時に買っておいたんだった。
だって賞味期限が長かったから。
「ねえ、類、ホットケーキ食べる?」
キッチンから顔を出して、類にそう聞くと、
「あんたが作ってくれるなら、何でも。」
なんて返事が返って来る。
ま、これしか甘い物なんて作れなさそうだから、これでいいか?と、冷蔵庫から卵と牛乳とバターとマヨネーズを取り出して、シンクの下からはボウルを引っ張り出した。
ボウルに材料を入れて、ふんわり焼く為の秘訣・マヨネーズをスプーン1杯。
ふっくらとしたホットケーキ焼いて、類に「ん、おいし・・・」なんて、言わせちゃおうじゃないの!
菜箸でさっくり混ぜ合わせるのもポイントなのよね。
ついつい混ぜ過ぎちゃうと膨らまなくなるから、そこに気を付けて・・・
フライパンを温めて、バターをぽとりとひと塊。
それを満遍なく塗り広げてから、お玉で生地を流し込んだ。
フライパンからはもう甘い香りがしてきて、ワクワクする。
弱火でじっくり焼いて、表面にフツフツと小さな穴が開き始めたから、フライ返しでえいっとひっくり返した。
うーん、ちょうどいいきつね色!
そうそう、ホットケーキはこうじゃなくっちゃねー!
焼き目はちょっとカリっとしてるくらいが美味しいのよ!
焼きながらどんどん楽しくなってきた。
2枚、3枚と焼いて、お皿に重ねて盛り付けて。
蜂蜜をたらーりと掛けたら、もう完璧。
あたしはいそいそとそれを座卓の上に運んでいった。
「類、お待たせっ!
ホットケーキ、焼けたよ!
あ、コーヒー淹れ直すね!」
空っぽのマグカップが見えたから、慌てて薬缶でお湯を沸かして、ドリップオンのコーヒーを淹れる。
類にこんな安物のコーヒーでいいのかしら?といつも首を傾げちゃうけど、『郷に入っては郷に従え』とでも思っているのか、類からは文句も聞こえてこないので、ついついそのままになってしまっていた。
それにいつも残さず飲んでるし。
口に合わないものは絶対に飲み食いしない人だから、案外これでも大丈夫なんだろう。
「あー、ごめんごめん、温かいうちに食べたいよね。
はい、コーヒーも入ったから。
食べよっか?」
「ん。」
ふんわりさっくり焼けたホットケーキにナイフを入れる。
切り分けたホットケーキを互いの小皿に載せて、一つは類の前に、一つは自分の前に置いた。
「頂きまーす!」
「・・・頂きます。」
食べ物を食べる時には頂きますを言うのよ!としっかり刷り込んだからか、類もちゃんとあたしに続いて唱和してくれる。
それを内心ちょっぴり嬉しく思いながら、ぱくりと最初の一切れを自分の口に押し込んだ。
「あ、これ、美味し!」
自画自賛はどうかと思うけど。
ホントに美味しく焼けてたから、つい嬉しくなって、素直な感想が口から飛び出す。
バターの風味も効いていて、柔らかいけど香ばしい。
大満足の出来だった。
「ん、美味しいよ、牧野。」
類が優し気に笑いながらそう言ってくれるから、『ヤッタ!類の「美味しい」頂きました!』なんて、こちらの頬っぺたも上がっちゃう。
「良かった、いっぱい食べてね!」
「あい。」
ご機嫌な類と、向かい合わせに座りながら、ホットケーキをパクつく、のんびりした午後。
あたしはすっかり幸せな気分になっていた。
類と一緒にいる時、あたしは一番リラックス出来て、心地いい。
余計な気も使わないし、隣にいてくれるのがとっても自然なんだ。
だから、彼氏とかも出来ないのよね・・・
だって、類以上にあたしが心地よくいられる相手って、そうそう見つけられないもの。
「あー、美味しかった!
類、甘い物足りた?」
「んー、まだちょっと足りない・・・かも。」
「え? そうなの? もうちょっとホットケーキ焼こうか?」
そう言って立ち上がったあたしを追うように、類も立ち上がった。
何で類も立つんだろ?と思った次の瞬間、類の顔がこっちにすいーっと近付いてきて。
ふんわり唇に何かが舞い降りた。
ビックリし過ぎて目を見開いているうちに、類は離れていって、にっこり笑いながらあたしを見下ろしてる。
「な、な、な、何、今の?」
「ん? 甘い物、足りなかったから貰ったの。
牧野、ホットケーキはもういいよ。
俺、腹一杯。」
「は? そ、そうじゃなくて!
今あたしに何したのっ?」
慌てまくって、しどろもどろになってるあたしを見て、くすっと笑い声を漏らした類がいる。
「何って、キス。」
「き、き、き、キス?」
「うん。」
「友達はキスはしないんだってば!」
「じゃ、友達じゃなくなればいいんじゃない?」
類と友達でいられないなんて・・・
そんなの嫌だ!
だってこの人はあたしにはかけがえのない存在なんだもん。
「恋人になれば?」
類の爆弾発言に、今度は目を瞬いているあたし。
カメラのシャッターを連続で切るみたいに、目の前の類がコマ送りになった。
また徐々に近づいてきた端正な顔。
逃げもせずに立ち尽くしてしまうあたしは、さっきよりも長く唇を啄まれる。
「ふうん、キスって好きな子とするとこんな幸せな気持ちになるんだね。
俺、知らなかったや。
牧野、ご馳走様。」
悪戯な笑みを浮かべて、物凄い台詞をサラリと言ってのけるこの人は、本当にあたしの知ってる類なの?
きちんとご馳走様言ってるのはいいとして・・・
問題はそれ以外のトコよ!
「ほ、ほ、本気なのっ?」
「俺はずっと本気だったけど。
あんたでしょ、ずっと俺への気持ち、見て見ない振りしてきたのはさ。
でも、まあ、今日から素直になってくれたらいいよ。
ね、My honey。」
「だ、誰がMy honeyよ!」
類の右手がこっちに伸びて来る。
何するつもり?と身体を硬くしたら、親指の腹で下唇をゆっくりとなぞられた。
その接触にぴくりと震えたあたし。
なのに類ってば、そんな事気にする素振りもなく、親指をぺろりと舐めちゃった!
ぎゃーーーーー!!!!!
「ん? だって、ほら、蜂蜜味。
甘い物、足りたと思ったけど・・・
これなら幾らでも食べれそ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「俺、もう随分待ったから。これ以上は待たない。」
え? え? え?
気付いたら、あたしは類の腕の中。
「Happy Halloween、牧野。
これからも・・・
いや、これまで以上に宜しくね。」
類の甘い囁きに、あたしの思考回路はパンク寸前。
ハロウィンって・・・
ハロウィンって!
こんなに甘いものだった?
__________
うわーん! 遅刻! 大遅刻!
Halloweenのお話、総二郎で書き始めたんですけど。
どうしてもエンドまで辿り着けなくて・・・
急遽方向転換して類つくにしてみました。
「この頃、類、出てきませんね。」
「甘い類つく、読みたいです。」
「食べ物ネタ、最近ないですね。」
なんていうお声も頂いてたので・・・
でも、これが甘い類つくになっているかどうかはちょっと疑問です(^^;
突貫工事故、お許し下さいませ。
風邪、ぶり返しちゃって。
連日連夜、咳に苦しめられてます・・・
薬も飲みすぎちゃったのか、効かないしー( ;∀;)
明日はお休み。
少し養生します・・・
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