大学は新年度に入り、周りの雰囲気はどこかふわふわしてるけど、俺はいつもと変わらない。
そして牧野も。
いつも通り大学とバイトで大忙しだ。
そんな牧野の久し振りに予定がない週末。
時間があるからと言って、どこかに出掛けたい訳じゃない。
俺は牧野と一緒にいられればそれでいいから。
でも牧野はどこにいたってじっとしていられないみたいだ。
庭の八重桜が綺麗に咲いているからと、俺の家に牧野を呼んで、その木が良く見える大広間の障子を開け放った。
「牧野様をこちらのお部屋にお通しするのるのは初めてでしたでしょうかねえ?」
「そうです! お庭であの桜が咲いているのを見せて頂いたことはあったんですけど・・・
ここから見るとまるで高級な日本画みたいに綺麗ですねえ。」
「牧野様のお考えはとってもユニークでらっしゃる。
ウチのお坊ちゃまはこの通り、何を見てもいつもぼーっとしてらして。
なーんにも仰らないでしょう?
桜も庭も、お坊ちゃまには宝の持ち腐れなんでございますよ。
牧野様に楽しんで頂けて宜しゅうございました。」
小林さんが牧野の突飛な発言にくすくす笑いながら応えてる。
高級な日本画って・・・
中級や低級な日本画ってあるのかな?
それに小林さんも『お坊ちゃま』なんて言うなよ、もう二十歳過ぎの男のこと。
いつもは類様って呼んでるくせに、牧野と話してると、つられて小林さんまで発言がおかしくなってく。
「小林さん、類は・・・ 類さんは、これでも何も考えてない訳じゃないんですよ。
色々思ってても、胸に秘めてるタイプの人間なんです。」
「そうなんでしょうかねえ?
赤ちゃんの頃からお仕えしてますが、昔からこの調子で。
それでも牧野様とお知り合いになられてからは、ずっと表情豊かになられました。
笑顔も口数も増えて・・・
全部牧野様のお蔭ですね。」
「そんな、あたし、何もしてませんから。
変わったとしたら、類が自分から変わったんです!」
俺の事なんかどうでもいいだろ。
早く2人きりでのんびりしたいのに。
小林さんは牧野と話すのが楽しいらしく、あれこれ世話を焼いてる振りをしながら、そこに居座ってる。
「・・・もうそれぐらいにして。
牧野がお腹減らしちゃうから。」
「あら、大変失礼致しました。」
「止めてよ、類っ!
あたしが意地汚いみたいな言い方。」
そのタイミングでぐうーーーと牧野の腹の虫が鳴ったから。
牧野は顔を真っ赤にして、「や、ちょっと今のは・・・」とかなんとかもごもご言ってるし。
俺がそれ見た事か・・・と小林さんにちろっと視線を流すと、何故だか嬉しそうに微笑んでいる。
「それではこの辺で失礼させて頂きます。
牧野様、ごゆっくりお過ごしくださいませ。」
小林さんが出て行って、2人だけになった広い畳敷きの部屋は急に静かになった・・・のはほんのひと時だけだった。
座卓の上には、今日の昼飯が並べられている。
早速食べようと牧野をうながすと、わーきゃー言う声が止まらなくなった。
牧野がお花見気分を味わいたいだろうという板場の気遣いからか、松花堂弁当仕立てになっている。
とは言っても、四つ切箱に全てが収まる訳も無く、四角い弁当箱の他に、何かのなますが盛られた向附、赤い色がちらっと見えるから、多分海老か蟹のしんじょの上に菜の花があしらわれた汁椀、御造の三種盛、更に小さな釜が各々に添えられていて、その中では鯛めしが炊かれていた。
自分の分の蓋を取らなくても、目の前でひとつひとつ蓋を開けて、喜びの声を上げてる牧野の様子を見ているだけで、中身が分かる。
つい、ふふふと笑ってしまった。
「すっごく美味しそうだよー、類!」
「じゃあ、見てばっかりいないで食べたら?」
「うんっ! そうする。頂きまーす!」
大きな口を開けて、ぱくりと頬張り、一瞬遅れて幸せそうに目を瞑って味を堪能する。
そんな牧野を見ているのが幸せだ。
「何だろ、これ?
よく分かんないけどおっいしー!
ねえねえ、類、食べてみてよ、この黄色いの。
それでこれが何なのか、教えて!」
「・・・献立、書いたの持ってこさせればいいんじゃない?」
「そうじゃないよ!
2人であれこれ言いながら食べるのが楽しいんだもん。
ね、ね、ね?」
そんなに目をキラキラさせて言い募られると、食べてみるしかなくなる。
牧野の言う『黄色いの』を口に運ぶと、それは魚の黄身味噌焼きだった。
口の中のものが無くなってから、待ち構えている牧野に答える。
「鰆かなんかじゃないの?
それに黄身味噌が塗られてる。」
「へえ、鰆。黄身味噌。」
鸚鵡返しに呟いて、今度はその隣に箸をのばす。
「わっ! モチモチ!
これはお麩だあ。
生麩ってなかなか食べる機会ないから、新鮮っ。
ウチで食べるお麩は、乾物なのよ。丸くておっきいヤツでさ。
それをお汁に入れたり、炒め物に混ぜたりするんだけど、同じお麩でも別物だよねえ。」
「んー、じゃあ、今度はその丸くて大きい麩の料理を、牧野が俺に食べさせてよ。」
「そんなの、いつでもすぐに作れるけどさ。
めっちゃ庶民の料理だよ?」
「俺、いつもあんたの作るもの、美味しいって食べてるでしょ。」
「うん、まあ・・・ 珍しいとか呟いてることもあるけど、残さず食べてくれるよね。」
牧野の手料理は、本当に俺にとっては珍しいものがいっぱい出てくるんだけど。
俺の為に作ってくれたと思えば、どれもこれも嬉しい。
いつだってその料理を、作ってくれる手間を、共に食事できる時間を大切に思ってる事、牧野にはあんまり伝わってないみたいだ。
「当たり前でしょ。俺はあんたが作ってくれる料理が一番好きだから。」
そう言ったら、急に顔を真っ赤に染めた。
夢中で動かしてた箸も止まってる。
「そっ、そっ、そんな訳ないじゃない!
こんなに美味しいお料理、いつも食べてるくせにっ!」
「俺は牧野に嘘なんか言わないよ。
ホントに思ってる事言ってるだけ。」
「もうっ! お世辞はいいってば!
類もぼーっとしてないで食べなさいよ!」
照れ隠しの為に、俺にあれこれ言うのもいつもの事。
怒られないように、そっと笑ってから、「はいはい。」と返した。
こんな調子で、俺達の昼食は進んで行く。
食後に小林さんがフルーツを運んできて、お茶を淹れてくれた。
お腹いっぱい!とか言ってたくせに、また幸せそうに琵琶を口に運んでる。
「ねえ、初物ってどっち向いて食べるんだっけ?」とか俺に聞きながら。
西でも東でもどっちでもいいじゃん。
絶対に迷信だから、それ。
俺の方を向いて食べる・・・が正解だよ、牧野。
__________
暫く更新が止まっていてスミマセンでした。
やっとお話UPです。
えーっと、類のお誕生日SSを書けなかったのが心残りでして(;^_^A
類に何か書いてあげなきゃなー!と思っておりました。
先日のチャット会で、「桜のお話で甘いのを・・・」というようなお声もありまして、染井吉野は散ってしまったけど、まだ八重桜が咲いてる!と慌ててこのお話を書きました。
前半は食べ物ネタにしてみました(笑)
桜ネタは後半にて!
いやあ、類誕前後から、本当に怒涛の日々でして。
全然PCを開けずにおりました。
年度末、年度始って仕事が忙しいですね!
そこに加えて病人が度々ダウンしまして。
そうなると今度は寝ずの看病がそこに追加される訳ですよ。
更にまだまだ飛んでる花粉!
これが鼻水を呼ぶんだ!
柔らかティッシュの箱がどんどん空きます。
あとひと月弱かなー、花粉は・・・
早く飛び終わってくれることを願うばかりです。
さてさて、書きかけの「難破船」の原稿がどっか行っちゃいましてね。
どの端末に、どうやって保存したのか、見つからない。
もしかして、あれは夢の中で書いたのだろうか?
そしてキリリクもちょこちょこ書いてます。
早く落ち着いていっぱいお話書きたいです!
どうか応援よろしくお願いします!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
そして牧野も。
いつも通り大学とバイトで大忙しだ。
そんな牧野の久し振りに予定がない週末。
時間があるからと言って、どこかに出掛けたい訳じゃない。
俺は牧野と一緒にいられればそれでいいから。
でも牧野はどこにいたってじっとしていられないみたいだ。
庭の八重桜が綺麗に咲いているからと、俺の家に牧野を呼んで、その木が良く見える大広間の障子を開け放った。
「牧野様をこちらのお部屋にお通しするのるのは初めてでしたでしょうかねえ?」
「そうです! お庭であの桜が咲いているのを見せて頂いたことはあったんですけど・・・
ここから見るとまるで高級な日本画みたいに綺麗ですねえ。」
「牧野様のお考えはとってもユニークでらっしゃる。
ウチのお坊ちゃまはこの通り、何を見てもいつもぼーっとしてらして。
なーんにも仰らないでしょう?
桜も庭も、お坊ちゃまには宝の持ち腐れなんでございますよ。
牧野様に楽しんで頂けて宜しゅうございました。」
小林さんが牧野の突飛な発言にくすくす笑いながら応えてる。
高級な日本画って・・・
中級や低級な日本画ってあるのかな?
それに小林さんも『お坊ちゃま』なんて言うなよ、もう二十歳過ぎの男のこと。
いつもは類様って呼んでるくせに、牧野と話してると、つられて小林さんまで発言がおかしくなってく。
「小林さん、類は・・・ 類さんは、これでも何も考えてない訳じゃないんですよ。
色々思ってても、胸に秘めてるタイプの人間なんです。」
「そうなんでしょうかねえ?
赤ちゃんの頃からお仕えしてますが、昔からこの調子で。
それでも牧野様とお知り合いになられてからは、ずっと表情豊かになられました。
笑顔も口数も増えて・・・
全部牧野様のお蔭ですね。」
「そんな、あたし、何もしてませんから。
変わったとしたら、類が自分から変わったんです!」
俺の事なんかどうでもいいだろ。
早く2人きりでのんびりしたいのに。
小林さんは牧野と話すのが楽しいらしく、あれこれ世話を焼いてる振りをしながら、そこに居座ってる。
「・・・もうそれぐらいにして。
牧野がお腹減らしちゃうから。」
「あら、大変失礼致しました。」
「止めてよ、類っ!
あたしが意地汚いみたいな言い方。」
そのタイミングでぐうーーーと牧野の腹の虫が鳴ったから。
牧野は顔を真っ赤にして、「や、ちょっと今のは・・・」とかなんとかもごもご言ってるし。
俺がそれ見た事か・・・と小林さんにちろっと視線を流すと、何故だか嬉しそうに微笑んでいる。
「それではこの辺で失礼させて頂きます。
牧野様、ごゆっくりお過ごしくださいませ。」
小林さんが出て行って、2人だけになった広い畳敷きの部屋は急に静かになった・・・のはほんのひと時だけだった。
座卓の上には、今日の昼飯が並べられている。
早速食べようと牧野をうながすと、わーきゃー言う声が止まらなくなった。
牧野がお花見気分を味わいたいだろうという板場の気遣いからか、松花堂弁当仕立てになっている。
とは言っても、四つ切箱に全てが収まる訳も無く、四角い弁当箱の他に、何かのなますが盛られた向附、赤い色がちらっと見えるから、多分海老か蟹のしんじょの上に菜の花があしらわれた汁椀、御造の三種盛、更に小さな釜が各々に添えられていて、その中では鯛めしが炊かれていた。
自分の分の蓋を取らなくても、目の前でひとつひとつ蓋を開けて、喜びの声を上げてる牧野の様子を見ているだけで、中身が分かる。
つい、ふふふと笑ってしまった。
「すっごく美味しそうだよー、類!」
「じゃあ、見てばっかりいないで食べたら?」
「うんっ! そうする。頂きまーす!」
大きな口を開けて、ぱくりと頬張り、一瞬遅れて幸せそうに目を瞑って味を堪能する。
そんな牧野を見ているのが幸せだ。
「何だろ、これ?
よく分かんないけどおっいしー!
ねえねえ、類、食べてみてよ、この黄色いの。
それでこれが何なのか、教えて!」
「・・・献立、書いたの持ってこさせればいいんじゃない?」
「そうじゃないよ!
2人であれこれ言いながら食べるのが楽しいんだもん。
ね、ね、ね?」
そんなに目をキラキラさせて言い募られると、食べてみるしかなくなる。
牧野の言う『黄色いの』を口に運ぶと、それは魚の黄身味噌焼きだった。
口の中のものが無くなってから、待ち構えている牧野に答える。
「鰆かなんかじゃないの?
それに黄身味噌が塗られてる。」
「へえ、鰆。黄身味噌。」
鸚鵡返しに呟いて、今度はその隣に箸をのばす。
「わっ! モチモチ!
これはお麩だあ。
生麩ってなかなか食べる機会ないから、新鮮っ。
ウチで食べるお麩は、乾物なのよ。丸くておっきいヤツでさ。
それをお汁に入れたり、炒め物に混ぜたりするんだけど、同じお麩でも別物だよねえ。」
「んー、じゃあ、今度はその丸くて大きい麩の料理を、牧野が俺に食べさせてよ。」
「そんなの、いつでもすぐに作れるけどさ。
めっちゃ庶民の料理だよ?」
「俺、いつもあんたの作るもの、美味しいって食べてるでしょ。」
「うん、まあ・・・ 珍しいとか呟いてることもあるけど、残さず食べてくれるよね。」
牧野の手料理は、本当に俺にとっては珍しいものがいっぱい出てくるんだけど。
俺の為に作ってくれたと思えば、どれもこれも嬉しい。
いつだってその料理を、作ってくれる手間を、共に食事できる時間を大切に思ってる事、牧野にはあんまり伝わってないみたいだ。
「当たり前でしょ。俺はあんたが作ってくれる料理が一番好きだから。」
そう言ったら、急に顔を真っ赤に染めた。
夢中で動かしてた箸も止まってる。
「そっ、そっ、そんな訳ないじゃない!
こんなに美味しいお料理、いつも食べてるくせにっ!」
「俺は牧野に嘘なんか言わないよ。
ホントに思ってる事言ってるだけ。」
「もうっ! お世辞はいいってば!
類もぼーっとしてないで食べなさいよ!」
照れ隠しの為に、俺にあれこれ言うのもいつもの事。
怒られないように、そっと笑ってから、「はいはい。」と返した。
こんな調子で、俺達の昼食は進んで行く。
食後に小林さんがフルーツを運んできて、お茶を淹れてくれた。
お腹いっぱい!とか言ってたくせに、また幸せそうに琵琶を口に運んでる。
「ねえ、初物ってどっち向いて食べるんだっけ?」とか俺に聞きながら。
西でも東でもどっちでもいいじゃん。
絶対に迷信だから、それ。
俺の方を向いて食べる・・・が正解だよ、牧野。
__________
暫く更新が止まっていてスミマセンでした。
やっとお話UPです。
えーっと、類のお誕生日SSを書けなかったのが心残りでして(;^_^A
類に何か書いてあげなきゃなー!と思っておりました。
先日のチャット会で、「桜のお話で甘いのを・・・」というようなお声もありまして、染井吉野は散ってしまったけど、まだ八重桜が咲いてる!と慌ててこのお話を書きました。
前半は食べ物ネタにしてみました(笑)
桜ネタは後半にて!
いやあ、類誕前後から、本当に怒涛の日々でして。
全然PCを開けずにおりました。
年度末、年度始って仕事が忙しいですね!
そこに加えて病人が度々ダウンしまして。
そうなると今度は寝ずの看病がそこに追加される訳ですよ。
更にまだまだ飛んでる花粉!
これが鼻水を呼ぶんだ!
柔らかティッシュの箱がどんどん空きます。
あとひと月弱かなー、花粉は・・・
早く飛び終わってくれることを願うばかりです。
さてさて、書きかけの「難破船」の原稿がどっか行っちゃいましてね。
どの端末に、どうやって保存したのか、見つからない。
もしかして、あれは夢の中で書いたのだろうか?
そしてキリリクもちょこちょこ書いてます。
早く落ち着いていっぱいお話書きたいです!
どうか応援よろしくお願いします!



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