500話達成記念にバカップルを・・・と思ってたんですけど、なかなかUPする間がなくて。
季節がちょっとズレてるのはご容赦下さい!
__________
5月。
杉花粉も飛び終わって、爽やかないい季節が巡って来た。
俺のオンナである牧野のご機嫌も回復中。
春先は薬飲んでも目を真っ赤にして、鼻をずびずびさせ、出掛ける時は帽子にマスクに花粉症対策メガネまでして、酷い有様だった。
まるでちっこい女銀行強盗を従えて歩いてるみたいで。
更に、牧野の部屋に一歩入ろうものなら、玄関ドアの前で服にブラシを掛けられ、挙句の果てに、そのまま風呂場に突っ込まれる。
そうして身体中を洗っちまって、部屋着に着替えないと、リビングへと進ませてくれないのだ。
部屋の中では常に空気清浄機がフル回転。
夜、いざコトに及ぼう!と部屋の電気を消すと「お部屋が暗くなりました。静かにしますね。」なんて機械が喋って水を注すんだ!
全ては花粉のせいだ。
この世の中の杉が全部無花粉杉になっちまえばいいのに!と、呪いたくもなったが。
やっとそれからも解放されるのが、毎年5月の初めなのだった。
牧野も「洗濯物、ベランダに干せるね!」と喜びながら、ベランダと網戸の掃除をしている。
「洗濯物なんて乾燥機使えばいいんじゃね?」
「お日様の力って偉大なんだから!
乾燥機は使えば使うだけお金かかるけど!
なんてったってお日様はタダよ、タダ!
タダで洗濯物乾かしてくれるの!」
と、『タダ』というキーワードを連発されて、黙るしかない俺だった。
そんな訳で、今日も牧野はいそいそと朝から洗濯をし、それをせっせとベランダへと運び出してる。
見ようによっちゃ、家事を頑張る新妻風・・・に見えない事も無い。
折角の休日の朝。
俺はまだベッドでイチャイチャしてたいのに、牧野にとっては天気のいい休日は絶好の洗濯日和ということで、気が付いた時にはベッドの中から消えているのだ。
つまらない・・・
これはヒジョーにつまらない。
仕方ないから、ベッドから抜け出して、狭い部屋をあっちへこっちへ・・・と目まぐるしく動き回る牧野を、ソファに身体を預けながら見ている。
「西門さん、シャワー入っちゃって!
出てきたら朝ご飯にするからねっ!」
「んー・・・」
「ねえ、いいお天気だよ!
ご飯食べたらどこ行こうか?
お弁当作ってピクニックとか行っちゃう?
それともさ、パンダの赤ちゃん見に動物園行こっか?
あー、あとさ、池袋の水族館もいいね!
前行った時寒くてじっくり見れなかった、ペンギンが空飛んでるみたいに見える水槽!
あそこ、今日なら空も綺麗だからいい感じになるんじゃない?
ねえ、西門さんはどこ行きたい?」
「んーーー・・・」
「ねえ。さっきからんーしか言ってないよ!」
「んん・・・」
だって、お前は天気が良くて上機嫌でも、俺はお前とマッタリ出来なくてつまんねえんだもん。
お前が挙げるデート先は、まるで中学生のデートだろ?
公園とか、動物園とか、水族館だぜ?
俺は今日はお前と青空の下健全なデートをしたい気分じゃねえんだ!
もっともっと2人きりでイチャイチャしてたいんだっての。
そう思っていたら、俺の前につつつ・・・と牧野が寄って来た。
怪訝な顔して俺の事を見下ろしてる。
「ね、どしたの?
どこか具合でも悪い?」
額にぺたっと当てられた掌は水仕事をしていたせいかひんやりしていた。
「熱は・・・なさそうだけど。」
あー、気持ちいいな。
お前が俺にちょっと触れるだけで、こんなに安らぐなんて。
ったく、参っちまうよ。
お前って、ホント最強。
「・・・キスしてくれたらシャワー行く。」
「はあ? 何言っちゃってんのよ!?」
慌てて飛び退ろうとした牧野の手を掴まえて、ニヤリと笑ってみせる。
「だって目が覚めねえんだもん。
つくしちゃんのキスで起こしてよ。」
「ば、馬鹿言ってないで、さっさとお風呂場行きなさいよっ!
それにもう起きてるじゃ・・・」
ぐいっと俺の方にその顔を引き寄せる。
煩い唇を塞ぐように、自分の唇を重ねて。
濃厚なキスで牧野を腰砕けにしてやった。
床にぺたりと座り込んで、頬を赤らめながら惚けている牧野を満足気に見下ろす。
「ごっそーさん。
デートはお前の好きなとこでいいぞ。
俺はお前と一緒にいられりゃ、どこだって楽しいからさ。」
そう告げて、バスルームへと歩き出したら、背中に罵声が飛んでくる。
「バカーっ! エロ門っ!」
ふん。何にもしてねえだろうが。
エロいことしてから言って欲しいな、そういう台詞は。
別に俺は一日ベッドでエロい事してたっていいんだけど。
相当お前に譲歩してるんだぜ、これでも。
結局この日はプリプリ怒ってる牧野を宥めすかして、水族館へと出掛けた。
牧野が見たがっていたペンギンの前は、黒山の人だかり。
俺は背が高いからどうってことないけど、牧野はチビだから、首をあっちに伸ばしたり、こっちの隙間から覗いたり。
その動きが面白すぎる。
あーあ、こんなの貸切にしてゆったり見りゃいいのに。
そういう事すると怒るからなあ、こいつ・・・
コツメカワウソがステージに上げられて、ちょこまかちょこまか動き回るグリーティングタイムに牧野は大興奮。
可愛い、可愛いを連発している。
挙句の果てにカワウソの顔が描かれたミニパンケーキなんてのを買ってゴキゲンだ。
その顔をぱくんと食っちまうんだから、何か矛盾してねえか?と思うけど。
幸せそうな顔してパクついてるから、突っ込まないで黙っといてやることにした。
「美味しいよっ! 西門さんも食べなよ!」ってそのパンケーキを口に突っ込まれそうになったのには抵抗したけどな!
水族館の後は、池袋のメープルで食事した。
メープルご自慢の板長がいる和食の店の個室で、ふたり向かい合わせで食べるのは、土用にはちょっと早いけど鰻を使った会席だ。
別に、俺は鰻なんか食べなくたって、今夜も牧野をメロメロに出来るけどよ・・・
浮かんでくる笑いを噛み殺しながら、メシを食べる。
この後、ここのスイートで迎える熱い夜を想像した。
なのに、食べ終わった牧野はけろっとして、「さあ、帰ろっ!」と言うのだ。
「折角来たんだし。
バーで一杯飲まねえ?
景色もいいぜ、ここ。
お前、そういうの好きじゃん。」
そう、カクテル飲んでほろ酔いの牧野を頂くなんて、楽しみ過ぎる。
牧野の部屋のあの狭いベッドじゃなくて、メープルの広々とした白いシーツの上に押し倒して。
それからほんのりと桜色にそまったその肌に唇を落とす。
恥ずかしそうに牧野が啼いて・・・
思う存分それを堪能する魅力的な一夜。
「えー、ダメだよ。
洗濯物干しっぱなしだもん。
早く帰んなくっちゃ。
ホントは夕方までに帰るつもりだったんだー。
美味しそうなご飯に釣られて遅くなっちゃった!
さ、行こ、西門さん!」
すたすたと個室を出て行く牧野。
がっくりと肩を落とす俺。
洗濯物・・・
忘れてたぜ、そんなもの。
ダメだ。こうなったら、無理矢理スイートなんかに押し込めたら、機嫌が最悪になるに決まってる。
もう帰るしかないらしい。
あっという間に俺の甘ーい夜の計画は立ち消えになった。
ノロノロと立ち上がって、牧野を追う。
溜息が零れるのも仕方ないってもんだろう。
「楽しかったねー!」「美味しかったねー!」と上機嫌な牧野に生返事をしながら、タクシーの中で腕組みをする。
どうやってこれを挽回してやろうか?と頭を巡らせた。
帰って来た牧野の部屋で、牧野は真っ先にベランダに飛び出していき、洗濯物を取り込んでる。
そうしたら、ベランダから素っ頓狂な声が聞こえて来た。
「ああーーーーー!」
「どうした?」
「カラス! 絶対カラスの仕業だよお!
あたしのお気に入りのTシャツ、盗られたぁ!」
「カラス?」
「春のカラスって、巣作りに針金ハンガー盗む事あるって聞いたことあるもん!」
ベランダにあたしの服何枚か落っことされてて、ハンガーだけ無くなってるの!
それどころか、お気に入りのシロクマ柄のTシャツも無くなってる!
一緒に盗られたんだよ、きっと!
カラスめー!許せなーい!!!!!」
たったTシャツ1枚と針金ハンガー盗られただけで、えらい怒りようだ。
それもシロクマ柄。
お前が部屋着として愛用してたのは知ってるけど。
単なるTシャツじゃねえか。
「だから洗濯物は乾燥機使えって言ってんのに・・・
Tシャツなんて、また買えばいいじゃねえか。な?」
「あれは期間限定商品でもう買えないの!
すっごくすっごく気に入ってたし、2000円もしたのにー!」
2000円・・・
激安じゃね?
俺が着てるシャツ、Di〇rの春夏物で40000円だったけど・・・
お前のシャツ20枚買えちまうぜ?
「気に入ったシャツ見付けたら買ってやるから。
シロクマは諦めろよ。」
「んーーーーー!
カラス、徹底抗戦してやるわ!
もう二度と洗濯物盗られないんだから!」
頭から湯気が立ちそうに怒ってる牧野。
早く宥めて、俺のテリトリー=ベッドに移動したいのに。
あちこちの抽斗やら箱やらを開けたり閉めたり。
何やら工作めいたことを始めた。
「おーい、つくしちゃーん?
何してんの?」
「カラス撃退グッズ、作ってんの!
これベランダに設置して、カラス寄せ付けない様にするんだ!」
「なあ、それ、明日でいいだろ?
今夜はもう洗濯物干さないんだろうし、カラスも寝てるって。」
「ダメっ! 今やっちゃいたいの!
あたしは戦うわよ!
あ、西門さん、先寝てていいよ。
冷蔵庫にビール冷えてるから。
お風呂の後、どうぞ。」
「いや、あの・・・」
風呂だってお前と入って、あんな事こんな事したいし。
1人でベッドに行く気なんかサラサラないんだけど、俺。
何の為に週末一緒にいるんだよ?
2人で『愛』確かめ合う為だろ?
牧野の鬼気迫る背中に気圧されて、それ以上は畳み掛けられなくなり・・・
仕方なく1人でビールを飲む羽目になった。
牧野は空のDVDに紐を付けたり、銀色のピカピカ光るテープですだれ状のものを作ったり、一心不乱に作業してる。
それを全てベランダに設置して、スッキリした顔で部屋の中に戻って来た。
「あれ? 西門さん、まだお風呂入ってないの?
先寝てていいって言ったのにー。」
「・・・・・・」
「ど、どしたの?
何か機嫌悪そ・・・」
「お前・・・」
「へ? あたし、何もしてないでしょ?
何? 何? 何なのよ?」
「散々待たせやがって。
俺を粗末にしたらどうなるかって教えてやる!」
「え? あの、ちょっと待っ・・・」
「待たねえ!
もう嫌って程待たされたからな!」
洗濯物のせいで何度もお預け食らって、こっちは爆発寸前だ!
風呂場でふにゃふにゃのくてくてに牧野を融かして。
その後ベッドで美味しく頂いた。
勿論抗議の声を上げる余裕なんか与えない。
脱力しきった牧野を抱き締めて、やっと飢えを満たせた俺は幸せな眠りに就いた。
翌日の午後、ベランダで「カラスに勝ったー!」と高らかに勝ち名乗りをしたり、誇らしげにシロクマTシャツを俺の目の前に掲げ、「管理人さんのところに届いてた! カラス、これ咥えて飛べなかったみたい!」と、満面の笑みを浮かべる牧野に出逢う事なんか、夢にもみないで。
__________
ちょっと季節がズレましたが。
こんなの書いて寝かせてました。
風邪が辛すぎて、お話を書く余裕ないので、蔵出しです。
バカップルはスラスラ書けますな。
ラストまで一気に書いちゃった記憶があります。
暗いお話が続いてましたので、息抜きして下さいませー。
いやー、それにしても風邪が全然抜けない!
病院行っても、薬飲んでも、ゆっくり寝ても、全然治らない!
これってさ、これってさ・・・
いつも言ってるけど加齢ってやつよね。
ああ、少し体力づくりしないとダメみたいです。
連日暑い日も続いています。
西日本の豪雨災害、胸が痛むばかりです。
出来る事は少ないですが、気持ちだけでも・・・と募金をしてきました。
テレビを見たり、Webでニュースを読んでは、色々な事を祈っています。

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
季節がちょっとズレてるのはご容赦下さい!
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5月。
杉花粉も飛び終わって、爽やかないい季節が巡って来た。
俺のオンナである牧野のご機嫌も回復中。
春先は薬飲んでも目を真っ赤にして、鼻をずびずびさせ、出掛ける時は帽子にマスクに花粉症対策メガネまでして、酷い有様だった。
まるでちっこい女銀行強盗を従えて歩いてるみたいで。
更に、牧野の部屋に一歩入ろうものなら、玄関ドアの前で服にブラシを掛けられ、挙句の果てに、そのまま風呂場に突っ込まれる。
そうして身体中を洗っちまって、部屋着に着替えないと、リビングへと進ませてくれないのだ。
部屋の中では常に空気清浄機がフル回転。
夜、いざコトに及ぼう!と部屋の電気を消すと「お部屋が暗くなりました。静かにしますね。」なんて機械が喋って水を注すんだ!
全ては花粉のせいだ。
この世の中の杉が全部無花粉杉になっちまえばいいのに!と、呪いたくもなったが。
やっとそれからも解放されるのが、毎年5月の初めなのだった。
牧野も「洗濯物、ベランダに干せるね!」と喜びながら、ベランダと網戸の掃除をしている。
「洗濯物なんて乾燥機使えばいいんじゃね?」
「お日様の力って偉大なんだから!
乾燥機は使えば使うだけお金かかるけど!
なんてったってお日様はタダよ、タダ!
タダで洗濯物乾かしてくれるの!」
と、『タダ』というキーワードを連発されて、黙るしかない俺だった。
そんな訳で、今日も牧野はいそいそと朝から洗濯をし、それをせっせとベランダへと運び出してる。
見ようによっちゃ、家事を頑張る新妻風・・・に見えない事も無い。
折角の休日の朝。
俺はまだベッドでイチャイチャしてたいのに、牧野にとっては天気のいい休日は絶好の洗濯日和ということで、気が付いた時にはベッドの中から消えているのだ。
つまらない・・・
これはヒジョーにつまらない。
仕方ないから、ベッドから抜け出して、狭い部屋をあっちへこっちへ・・・と目まぐるしく動き回る牧野を、ソファに身体を預けながら見ている。
「西門さん、シャワー入っちゃって!
出てきたら朝ご飯にするからねっ!」
「んー・・・」
「ねえ、いいお天気だよ!
ご飯食べたらどこ行こうか?
お弁当作ってピクニックとか行っちゃう?
それともさ、パンダの赤ちゃん見に動物園行こっか?
あー、あとさ、池袋の水族館もいいね!
前行った時寒くてじっくり見れなかった、ペンギンが空飛んでるみたいに見える水槽!
あそこ、今日なら空も綺麗だからいい感じになるんじゃない?
ねえ、西門さんはどこ行きたい?」
「んーーー・・・」
「ねえ。さっきからんーしか言ってないよ!」
「んん・・・」
だって、お前は天気が良くて上機嫌でも、俺はお前とマッタリ出来なくてつまんねえんだもん。
お前が挙げるデート先は、まるで中学生のデートだろ?
公園とか、動物園とか、水族館だぜ?
俺は今日はお前と青空の下健全なデートをしたい気分じゃねえんだ!
もっともっと2人きりでイチャイチャしてたいんだっての。
そう思っていたら、俺の前につつつ・・・と牧野が寄って来た。
怪訝な顔して俺の事を見下ろしてる。
「ね、どしたの?
どこか具合でも悪い?」
額にぺたっと当てられた掌は水仕事をしていたせいかひんやりしていた。
「熱は・・・なさそうだけど。」
あー、気持ちいいな。
お前が俺にちょっと触れるだけで、こんなに安らぐなんて。
ったく、参っちまうよ。
お前って、ホント最強。
「・・・キスしてくれたらシャワー行く。」
「はあ? 何言っちゃってんのよ!?」
慌てて飛び退ろうとした牧野の手を掴まえて、ニヤリと笑ってみせる。
「だって目が覚めねえんだもん。
つくしちゃんのキスで起こしてよ。」
「ば、馬鹿言ってないで、さっさとお風呂場行きなさいよっ!
それにもう起きてるじゃ・・・」
ぐいっと俺の方にその顔を引き寄せる。
煩い唇を塞ぐように、自分の唇を重ねて。
濃厚なキスで牧野を腰砕けにしてやった。
床にぺたりと座り込んで、頬を赤らめながら惚けている牧野を満足気に見下ろす。
「ごっそーさん。
デートはお前の好きなとこでいいぞ。
俺はお前と一緒にいられりゃ、どこだって楽しいからさ。」
そう告げて、バスルームへと歩き出したら、背中に罵声が飛んでくる。
「バカーっ! エロ門っ!」
ふん。何にもしてねえだろうが。
エロいことしてから言って欲しいな、そういう台詞は。
別に俺は一日ベッドでエロい事してたっていいんだけど。
相当お前に譲歩してるんだぜ、これでも。
結局この日はプリプリ怒ってる牧野を宥めすかして、水族館へと出掛けた。
牧野が見たがっていたペンギンの前は、黒山の人だかり。
俺は背が高いからどうってことないけど、牧野はチビだから、首をあっちに伸ばしたり、こっちの隙間から覗いたり。
その動きが面白すぎる。
あーあ、こんなの貸切にしてゆったり見りゃいいのに。
そういう事すると怒るからなあ、こいつ・・・
コツメカワウソがステージに上げられて、ちょこまかちょこまか動き回るグリーティングタイムに牧野は大興奮。
可愛い、可愛いを連発している。
挙句の果てにカワウソの顔が描かれたミニパンケーキなんてのを買ってゴキゲンだ。
その顔をぱくんと食っちまうんだから、何か矛盾してねえか?と思うけど。
幸せそうな顔してパクついてるから、突っ込まないで黙っといてやることにした。
「美味しいよっ! 西門さんも食べなよ!」ってそのパンケーキを口に突っ込まれそうになったのには抵抗したけどな!
水族館の後は、池袋のメープルで食事した。
メープルご自慢の板長がいる和食の店の個室で、ふたり向かい合わせで食べるのは、土用にはちょっと早いけど鰻を使った会席だ。
別に、俺は鰻なんか食べなくたって、今夜も牧野をメロメロに出来るけどよ・・・
浮かんでくる笑いを噛み殺しながら、メシを食べる。
この後、ここのスイートで迎える熱い夜を想像した。
なのに、食べ終わった牧野はけろっとして、「さあ、帰ろっ!」と言うのだ。
「折角来たんだし。
バーで一杯飲まねえ?
景色もいいぜ、ここ。
お前、そういうの好きじゃん。」
そう、カクテル飲んでほろ酔いの牧野を頂くなんて、楽しみ過ぎる。
牧野の部屋のあの狭いベッドじゃなくて、メープルの広々とした白いシーツの上に押し倒して。
それからほんのりと桜色にそまったその肌に唇を落とす。
恥ずかしそうに牧野が啼いて・・・
思う存分それを堪能する魅力的な一夜。
「えー、ダメだよ。
洗濯物干しっぱなしだもん。
早く帰んなくっちゃ。
ホントは夕方までに帰るつもりだったんだー。
美味しそうなご飯に釣られて遅くなっちゃった!
さ、行こ、西門さん!」
すたすたと個室を出て行く牧野。
がっくりと肩を落とす俺。
洗濯物・・・
忘れてたぜ、そんなもの。
ダメだ。こうなったら、無理矢理スイートなんかに押し込めたら、機嫌が最悪になるに決まってる。
もう帰るしかないらしい。
あっという間に俺の甘ーい夜の計画は立ち消えになった。
ノロノロと立ち上がって、牧野を追う。
溜息が零れるのも仕方ないってもんだろう。
「楽しかったねー!」「美味しかったねー!」と上機嫌な牧野に生返事をしながら、タクシーの中で腕組みをする。
どうやってこれを挽回してやろうか?と頭を巡らせた。
帰って来た牧野の部屋で、牧野は真っ先にベランダに飛び出していき、洗濯物を取り込んでる。
そうしたら、ベランダから素っ頓狂な声が聞こえて来た。
「ああーーーーー!」
「どうした?」
「カラス! 絶対カラスの仕業だよお!
あたしのお気に入りのTシャツ、盗られたぁ!」
「カラス?」
「春のカラスって、巣作りに針金ハンガー盗む事あるって聞いたことあるもん!」
ベランダにあたしの服何枚か落っことされてて、ハンガーだけ無くなってるの!
それどころか、お気に入りのシロクマ柄のTシャツも無くなってる!
一緒に盗られたんだよ、きっと!
カラスめー!許せなーい!!!!!」
たったTシャツ1枚と針金ハンガー盗られただけで、えらい怒りようだ。
それもシロクマ柄。
お前が部屋着として愛用してたのは知ってるけど。
単なるTシャツじゃねえか。
「だから洗濯物は乾燥機使えって言ってんのに・・・
Tシャツなんて、また買えばいいじゃねえか。な?」
「あれは期間限定商品でもう買えないの!
すっごくすっごく気に入ってたし、2000円もしたのにー!」
2000円・・・
激安じゃね?
俺が着てるシャツ、Di〇rの春夏物で40000円だったけど・・・
お前のシャツ20枚買えちまうぜ?
「気に入ったシャツ見付けたら買ってやるから。
シロクマは諦めろよ。」
「んーーーーー!
カラス、徹底抗戦してやるわ!
もう二度と洗濯物盗られないんだから!」
頭から湯気が立ちそうに怒ってる牧野。
早く宥めて、俺のテリトリー=ベッドに移動したいのに。
あちこちの抽斗やら箱やらを開けたり閉めたり。
何やら工作めいたことを始めた。
「おーい、つくしちゃーん?
何してんの?」
「カラス撃退グッズ、作ってんの!
これベランダに設置して、カラス寄せ付けない様にするんだ!」
「なあ、それ、明日でいいだろ?
今夜はもう洗濯物干さないんだろうし、カラスも寝てるって。」
「ダメっ! 今やっちゃいたいの!
あたしは戦うわよ!
あ、西門さん、先寝てていいよ。
冷蔵庫にビール冷えてるから。
お風呂の後、どうぞ。」
「いや、あの・・・」
風呂だってお前と入って、あんな事こんな事したいし。
1人でベッドに行く気なんかサラサラないんだけど、俺。
何の為に週末一緒にいるんだよ?
2人で『愛』確かめ合う為だろ?
牧野の鬼気迫る背中に気圧されて、それ以上は畳み掛けられなくなり・・・
仕方なく1人でビールを飲む羽目になった。
牧野は空のDVDに紐を付けたり、銀色のピカピカ光るテープですだれ状のものを作ったり、一心不乱に作業してる。
それを全てベランダに設置して、スッキリした顔で部屋の中に戻って来た。
「あれ? 西門さん、まだお風呂入ってないの?
先寝てていいって言ったのにー。」
「・・・・・・」
「ど、どしたの?
何か機嫌悪そ・・・」
「お前・・・」
「へ? あたし、何もしてないでしょ?
何? 何? 何なのよ?」
「散々待たせやがって。
俺を粗末にしたらどうなるかって教えてやる!」
「え? あの、ちょっと待っ・・・」
「待たねえ!
もう嫌って程待たされたからな!」
洗濯物のせいで何度もお預け食らって、こっちは爆発寸前だ!
風呂場でふにゃふにゃのくてくてに牧野を融かして。
その後ベッドで美味しく頂いた。
勿論抗議の声を上げる余裕なんか与えない。
脱力しきった牧野を抱き締めて、やっと飢えを満たせた俺は幸せな眠りに就いた。
翌日の午後、ベランダで「カラスに勝ったー!」と高らかに勝ち名乗りをしたり、誇らしげにシロクマTシャツを俺の目の前に掲げ、「管理人さんのところに届いてた! カラス、これ咥えて飛べなかったみたい!」と、満面の笑みを浮かべる牧野に出逢う事なんか、夢にもみないで。
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ちょっと季節がズレましたが。
こんなの書いて寝かせてました。
風邪が辛すぎて、お話を書く余裕ないので、蔵出しです。
バカップルはスラスラ書けますな。
ラストまで一気に書いちゃった記憶があります。
暗いお話が続いてましたので、息抜きして下さいませー。
いやー、それにしても風邪が全然抜けない!
病院行っても、薬飲んでも、ゆっくり寝ても、全然治らない!
これってさ、これってさ・・・
いつも言ってるけど加齢ってやつよね。
ああ、少し体力づくりしないとダメみたいです。
連日暑い日も続いています。
西日本の豪雨災害、胸が痛むばかりです。
出来る事は少ないですが、気持ちだけでも・・・と募金をしてきました。
テレビを見たり、Webでニュースを読んでは、色々な事を祈っています。



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