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hortensia

Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
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下弦の月 後編

気付けばまた真っ暗で息苦しい場所に堕ちていた。
喘ぐように息をして、必死にもがいてその場から逃げようとするうちに目が覚めた。
俺がもがいていたのは、しっかりと包まれた羽毛の厚い上掛けの中で。
暑苦しくて、それを力の入らない手で身体から引き剥がした。
目が回ってる…と思いながら、なんとか身体を起こすと、額から濡れタオルがぱたりと落ちる。
それを手にしつつ、さっきは隣にいた牧野を探して、視線を彷徨わせると、窓辺でカーテンを掴みながら、こちらを振り返った牧野と目が合った。

「あ、西門さん、目、覚めた?」

とととと駆け寄ってくる。
そんなに勢いつけて走るほどの距離じゃねえよ…と思いながらも、牧野がこっちに向かってくると思ったらどこかほっとする。

「布団剥いじゃって… 暑いの、西門さん?」

口を開くのも面倒で、「んー…」と唸りながら首を小さく縦に振れば、牧野が分厚い上掛けを足元に押しやり、薄手の毛布を掛けてくれた。

「何か食べれそう?
お粥とうどん、作ってもらったよ。
ちょっと冷めちゃったかもだけど…」

そう言われてローテーブルの上を見遣れば、色々普段はそこに無いはずの物が置かれているのが目に入る。
牧野がそこに行って、何やらかちゃかちゃ音をさせ始めた。
甲斐甲斐しい牧野と2人きりで俺の部屋。
病気も捨てたもんじゃないって気になってくる。
戻ってきた牧野の手には、ガラスのグラスと茶碗が一つずつ。

「これ飲める? 経口補水液だって。
板前さんお手製みたいだよ。」

渡されたグラスの中身を口に含むと、微かにしょっぱくて、甘いような気がする。

「美味しい? 蜂蜜や果物の果汁を入れたって仰ってた。」
「味、わかんねえ…」
「そっか、熱あるもんね。」

くすりと笑って、俺からグラスを取り上げて、今度は粥の入った茶碗を持たせる。

「ちょっと食べてみて。
うどんの方が良かったら、またよそってくるから。」

ほんのり温もりを残しているその粥を蓮華で口に押し込む。
やっぱり美味いか不味いかなんてちっともわからないけど、牧野がキラキラした目で「いっぱい食べて!」と訴えかけてくるから、機械的に蓮華を動かした。
粥を食べて、薬を飲んで。
また横にならされた俺は、身体を牧野の方に向けながら、疑問に思ってることを聞いてみた。

「何で牧野がここにいる訳?」

そう言った途端、ベッドサイドの椅子に座った牧野が、急に顔を赤らめた。

「…もしかして、覚えてない…の?」
「全然覚えてないっつーか、気が付いたらここにいたって感じ?」

服の裾なんか手で握り締め、もじもじしながら牧野が話し出す。

「今日は冬期講習会の打ち合わせと… その後家元夫人のゆかりの方々を中心としたお茶会があったの。」
ああ、それは覚えてる。
「夕方、お茶会のお客様をお見送りして、お茶室に戻ってきたと思ったら、西門さんがバターンと倒れた。」
んー、見送ったとこまでしか覚えてねえ。
「それで… 片付けをお手伝いしようとあたしは水屋にいた訳だけど…」
何で急に口が重くなる?
「大きな音がしたから、慌ててお茶室を覗いたら、西門さんが転がってて。
他のお弟子さんなんかもすぐ駆けつけてらしたから、皆で声を掛けたんだけど…」

どんどん声が小さくなっていく牧野。
俺と視線を合わせないように、下向いてばかりいる。
何だ? 俺は何をやった?

「で…?」
「これ以上自分の口からは言いたくない…」
「じゃ、他の奴から聞くからいいよ。」
「それもダメ!」
真っ赤な顔して向きになって止めるからには何かあるんだろう。
「じゃ、牧野が話せよ。」
「もーーーー! 何で覚えてないのよっ!
あたし、恥ずかしかったんだからっ!」
おいおい、今度はお怒りか?
「あのねえっ! 西門さんがねえっ! 『牧野、牧野!』って譫言みたいに呼んで。
側に行ったら、あたしの手掴んで離さなくてっ!
皆の前で『行くな。どこにも行くな。』なんて呟くからっ!
皆さんには盛大に誤解されるしっ!
家元夫人まで『牧野さん、申し訳ないけど、今日は総二郎さんに付いていてやってくれませんか?』なんて仰るから、あたしは帰れなくなっちゃってっ!
手もぎゅうぎゅう握って離してくれなかったから、お弟子さん達と一緒に西門さんをこのお部屋に運んで。
それでここにずっといたのっ!」

言い切って、顔中を熟れきったトマトのように真っ赤にした牧野は、あらぬ方向を見遣って、頬をぷっくり膨らませながら俺を無視してる。
最初はぽかんとしていた俺も、熱でぼうっとした頭で牧野の言葉の意味を理解し始めると、顔が火照り始めた。

はあ… 恐ろしいもんだな。
胸の奥に仕舞いこんでた本音が、こんな時に飛び出すだなんて。
人間、前後不覚に陥るまで働いたりしちゃいけねえな。
いや、病気の時は身体を厭えって話か?

「つくしちゃん。」

名前を呼ぶ時位、はっきり呼んでやりたいのに、熱のせいか掠れ声しか出ない。

「つくしちゃん言うな!」
「病人に優しくして。」
「十分してるでしょっ!」
「俺と付き合って。」
「はあっ?」
「もう告白したんだろ、俺? どこにも行くなって言ったんだろ? 答えは?」
「何よ、それっ! あんなの告白じゃなくて、病人が熱に浮かされて言った戯言でしょっ!」

毛布の中から手を伸ばして、牧野の手を捕らえた。

「冷てえなあ、牧野の手。」
「西門さんの手が熱いだけ。」
「これ、冷たくて気持ちいい。」
「あ、氷枕、取り換えようか?」

椅子から立とうとした牧野を逃がさないように、今のあらん限りの力で手を握った。

「どこにも行くな。俺の側にいて。牧野が好きだから。」
「また熱に浮かされてるんでしょ。」
「じゃあ、熱が下がるまでここにいてくれよ。
熱が下がったらもう一度言うから。」
「はいはい。」
「はいはいじゃねえよ。」
「分かった、分かった。病人はもう寝るの。」

毛布の上からぽふぽふと手で肩を叩いて俺を宥める牧野。

お前、熱下がったら本気出すからな。
俺が本気で口説いたら、いくら鉄パン穿いてる牧野だって逃げらんねえぞ。
あれ? 病気だけど、俺、今、結構幸せかも?

冷たく柔らかな手を握りしめながら、風邪の齎した思わぬ副産物に、胸が騒ぐ。
優しく笑ってる牧野が俺を見つめてるのが途轍もなく嬉しい。

「今日はねぇ、お月様が丁度半分くらいだよ。
パンケーキを半分にしたみたいなお月様。」
おいおい、つくしちゃん、お前の頭の中はいつも食べ物のことでいっぱいなのか?
少しはこの病人の事を想ってくれねえの?
「元気になったら、中庭の枯山水のところで一緒にお月様見てね。
そしてあたしの話も聞いてね?」

うんうんと頷きながらも、俺の意識は夢の中に引きずり込まれてく。

でももう大丈夫だ。
俺は帰る場所を見つけた。
この手があるところが、俺の帰る場所。
もう二度と手離さない、俺の大事な… 恋人って呼んだら怒るのか?
まあ、そこんとこは風邪が治ってからじっくり交渉する事にしよう。
心して待ってろよ、牧野…


__________


自分が具合悪くて寝込んだ時に思い付いたお話でした。
お馬鹿な総二郎、風邪にかこつけてつくしのハートを手に入れた???(笑)
明日のバレンタインにおまけを1話くっつけたいと思います。


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