2人で見る月<Whiteday 2015> 前編
「下弦の月」シリーズ。
バレンタインSSの1か月後。
ホワイトデーSSです。
__________
ひと月前のバレンタインデーに、人生初の「本気の告白」ってモンをして。
そして人生初の「恋人」と呼べる存在を手に入れた。
幸せ真っ只中にいるはずの俺だけど。
相手はあの初心で鉄パン穿いてる牧野だ。
そうとんとん拍子に事が進むわけも無い。
互いに仕事もある訳で、週に1回牧野が仕事帰りに稽古に来る時と、牧野が休みの土日で俺に空いてる時間があったら会えるくらいで。
これって今迄とあんまり変わらなくねえか?
ま、今迄と違うトコって言ったら、2人きりになった時に抱き締めたりキスしたり出来るようになったってとこ。
でもしょっちゅうキスしようとすると「エロ門っ!」って真っ赤な顔で睨み付けてくるし。
抱き締めてる時に、少しでも手が妖しい動きをしようものなら、ギャーギャー騒いで逃げてくし。
俺の中には色んな女を簡単に誑し込むテクはあっても、それはこの年まで鉄パン処女を貫いてる牧野をその気にさせるには役立たないらしい。
いや、別に事を急いでる訳じゃねえけど…
何年もずっと友達の振りをしつつ、見つめてきた女と恋人同士になれたんだから。
ちょっとでも長く一緒にいて、沢山触れ合って。
長年の飢えを満たしたいって思ったっておかしくないだろ?
結局俺と付き合ってるんだから、牧野も俺の事好きだったって事だろ?
どうしてこんなにガードが固いんだよ!
1ヶ月前より明らかに変わったことは他にもあった。
それはお袋の態度と、邸の中の空気。
どうやら俺が牧野を好きだったことは、ずっと前からお袋にはバレていたらしい。
一般庶民の中でも貧乏な部類に入るであろう牧野との交際なんか、認められる訳ないって思ってたのに、
「複数の方と同時に浮名を流す放蕩息子より、一人の女性を愛し抜いて幸せに笑ってくれてる息子の方がいいに決まっているでしょう。」
と、さらりと言われてしまった。
「え、いいのか?」
「良いも悪いも、全て貴方次第なのではなくって、総二郎さん?
母親としては勿論貴方に愛すべき人が出来たという事は嬉しいことですよ。
でも牧野さんとお付き合いするということが、次期家元の足を引っ張っている…と人様に受け取られるような事があってはなりません。
そういうことを耳にしたら、牧野さんだってお辛いでしょう。
その想い、貫き通したいのなら、貴方がまずしっかり自分のやるべきことをやらないと。
貴方の本気、見せてくださいね。」
涼しい顔してそんな事を俺には言いつつ、牧野の稽古の日にはタイミングよく現れて、母屋で牧野に美味い物を食わせたり、さり気無く着物のお古を着せたり、自分も楽しんでる節がある。
でも、そうやっている事が、牧野は唯の通い弟子じゃなくて、家元夫人のお気に入り…という雰囲気を邸の中に浸透させている。
そうなってくると、邸の中の人の目も、どこか柔らかいものになっていて。
毎日そこで暮らす俺にとっては擽ったくもあり、面映ゆくもある。
俺にとってこの邸は、こんなアットホームな場所じゃなかったはずだ。
親父もお袋も弟も、同じ屋根の下には暮らしているけれど、まるで他人のようで。
内弟子や使用人に至っては、居て当たり前、働いて当たり前、空気のような存在だとすら思っていた。
それは相手にとっても同じ事。
次期家元という看板を背負わされた張子の虎。
見かけは整っていても、中身は空っぽ。
通り一遍の事を無難にこなす、ちゃらんぽらん。
ずっとそんな風に思われていただろう。
そしてそれは大体当たっている。
態とそんな風に振る舞っていたのだから。
でも牧野に稽古をつけているうちに、俺の気持ちは徐々に変わっていったんだ。
牧野が真剣に稽古に取り組めば取り組む程、俺は牧野の師として恥ずかしくない男になりたいと思うようになったから。
真面目に茶道と向き合うようになったのは、牧野を想ったからこそだった。
牧野と係わると、色んな人間の心が動く。
俺も、お袋も、そしてこの邸に住まう人にまでも、その不思議な力が連鎖していく。
牧野にホワイトデーはどこかに出掛けるか?と尋ねたら、どこにも行かなくていいよ、一緒にご飯を食べれれば…なんて言う。
女ってこんな日は特別な事して欲しいモンじゃねえの?
いや、俺は今迄そういうのは徹底的に避けてきたんだけど、恋人には我儘言われたい。
偶々土曜日だったから、俺の仕事が終わった後に、牧野を連れ出して外で食事をした。
いかにも牧野が好きそうな小洒落たロケーションのイタリアン。
広い落ち着いた雰囲気の個室で食べる、季節の食材をふんだんに使った料理は、一皿ごとに違うアートを見ているかのように美しい盛り付けで、牧野は目を輝かせている。
「ねー、西門さん、見ても綺麗だし、食べても美味しいっ!」
「良かったな、つくしちゃん。
俺ってちゃんとお前の好きなモン分かってる、良い彼氏だろ?」
「なんか、一言多いけどね…」
「照れんなって。ま、こんなカッコいい彼氏とサシで飯食ってたら、照れちゃう気持ちも分かるけど。」
「だから、そういうのがウルサイって言ってんの!
ワインばっか飲んでないで、ちゃんとご飯食べなさいよー!」
他愛もない掛け合いをして、食事をして。
デザートには、これまた牧野好みの、沢山の種類を少しずつ盛り付けたデザートプレートを。
そこに書かれた自分の名前に、キャーキャー喜んで写メまで撮ってる。
「バレンタインにブラウニー作ってくれたろ。そのお返しな。」
「お誕生日でもないのに、こんなデザート出てきてビックリ!
ありがと、西門さん!」
にっこり笑って、デザートをパクつく牧野が可愛くて。
それだけでも、今日ここに来た甲斐あったななんて思ってる自分がいる。
ふうん、コイビトがいるって、こういう気持ちなのか。
照れ臭いけど、これって幸せってやつだよなぁ。
そんな笑顔に癒されて、今日の食事は俺的には大成功。
牧野の部屋まで戻ってきた俺達は、狭いソファに並んで座り、牧野の入れてくれたコーヒーを飲んでいる。
この狭いソファは座り心地は全然良くないが、牧野と密着して座れる点が唯一の利点だ。
照れ屋の牧野も、ここでなら大人しく俺の隣にいてくれるし。
そっと肩を抱き寄せて、頬にちゅっとキスをすると、首を縮めて赤くなってる。
ふふふと笑って髪を梳いてやると、もっと赤くなった。
初心いのも可愛いけど、どうやったら攻略できるんだ、これ?
無理矢理っつーのは趣味じゃないしな…
「好きだ、牧野…」
耳元で囁いて、そこにも唇を寄せる。
びくんと身体を震わせて、それを受けた牧野が、小さな声で
「あたしも西門さんが好きだよ…」
って答えてくれたから、ぎゅっと抱き寄せた。
お前といると、俺までエロ門じゃなくて、晩生な男になっちまいそうだよ、全く。
__________
えー、後編がございますが、付き合って1ヶ月の初心いつくしはそう簡単に攻略できませんので、R展開ございません!ということを真っ先にお伝えしておきます(笑)
お休みしてしまってスミマセン…
とても辛いのよ…
咳止まらないのよ。
咳と鼻詰まりが苦しくて、寝不足であります。
やわらかティッシュが物凄い勢いで無くなります。
明日は買いに行かないと…
あとひとつ、お知らせです!
一昨日、諸般の事情により、パスワード入力が必要な記事のパスワードを変更いたしました。
これまでのパスワードでは記事を読めなくなっておりますのでご注意ください。
今月の下弦の月は、ドンピシャ本日14日でございます。
タイムリーに「下弦の月」の続きかけて良かった(笑)
本日のブログ村バナーは2人が飲んだ赤ワイン(のつもり)です。

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バレンタインSSの1か月後。
ホワイトデーSSです。
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ひと月前のバレンタインデーに、人生初の「本気の告白」ってモンをして。
そして人生初の「恋人」と呼べる存在を手に入れた。
幸せ真っ只中にいるはずの俺だけど。
相手はあの初心で鉄パン穿いてる牧野だ。
そうとんとん拍子に事が進むわけも無い。
互いに仕事もある訳で、週に1回牧野が仕事帰りに稽古に来る時と、牧野が休みの土日で俺に空いてる時間があったら会えるくらいで。
これって今迄とあんまり変わらなくねえか?
ま、今迄と違うトコって言ったら、2人きりになった時に抱き締めたりキスしたり出来るようになったってとこ。
でもしょっちゅうキスしようとすると「エロ門っ!」って真っ赤な顔で睨み付けてくるし。
抱き締めてる時に、少しでも手が妖しい動きをしようものなら、ギャーギャー騒いで逃げてくし。
俺の中には色んな女を簡単に誑し込むテクはあっても、それはこの年まで鉄パン処女を貫いてる牧野をその気にさせるには役立たないらしい。
いや、別に事を急いでる訳じゃねえけど…
何年もずっと友達の振りをしつつ、見つめてきた女と恋人同士になれたんだから。
ちょっとでも長く一緒にいて、沢山触れ合って。
長年の飢えを満たしたいって思ったっておかしくないだろ?
結局俺と付き合ってるんだから、牧野も俺の事好きだったって事だろ?
どうしてこんなにガードが固いんだよ!
1ヶ月前より明らかに変わったことは他にもあった。
それはお袋の態度と、邸の中の空気。
どうやら俺が牧野を好きだったことは、ずっと前からお袋にはバレていたらしい。
一般庶民の中でも貧乏な部類に入るであろう牧野との交際なんか、認められる訳ないって思ってたのに、
「複数の方と同時に浮名を流す放蕩息子より、一人の女性を愛し抜いて幸せに笑ってくれてる息子の方がいいに決まっているでしょう。」
と、さらりと言われてしまった。
「え、いいのか?」
「良いも悪いも、全て貴方次第なのではなくって、総二郎さん?
母親としては勿論貴方に愛すべき人が出来たという事は嬉しいことですよ。
でも牧野さんとお付き合いするということが、次期家元の足を引っ張っている…と人様に受け取られるような事があってはなりません。
そういうことを耳にしたら、牧野さんだってお辛いでしょう。
その想い、貫き通したいのなら、貴方がまずしっかり自分のやるべきことをやらないと。
貴方の本気、見せてくださいね。」
涼しい顔してそんな事を俺には言いつつ、牧野の稽古の日にはタイミングよく現れて、母屋で牧野に美味い物を食わせたり、さり気無く着物のお古を着せたり、自分も楽しんでる節がある。
でも、そうやっている事が、牧野は唯の通い弟子じゃなくて、家元夫人のお気に入り…という雰囲気を邸の中に浸透させている。
そうなってくると、邸の中の人の目も、どこか柔らかいものになっていて。
毎日そこで暮らす俺にとっては擽ったくもあり、面映ゆくもある。
俺にとってこの邸は、こんなアットホームな場所じゃなかったはずだ。
親父もお袋も弟も、同じ屋根の下には暮らしているけれど、まるで他人のようで。
内弟子や使用人に至っては、居て当たり前、働いて当たり前、空気のような存在だとすら思っていた。
それは相手にとっても同じ事。
次期家元という看板を背負わされた張子の虎。
見かけは整っていても、中身は空っぽ。
通り一遍の事を無難にこなす、ちゃらんぽらん。
ずっとそんな風に思われていただろう。
そしてそれは大体当たっている。
態とそんな風に振る舞っていたのだから。
でも牧野に稽古をつけているうちに、俺の気持ちは徐々に変わっていったんだ。
牧野が真剣に稽古に取り組めば取り組む程、俺は牧野の師として恥ずかしくない男になりたいと思うようになったから。
真面目に茶道と向き合うようになったのは、牧野を想ったからこそだった。
牧野と係わると、色んな人間の心が動く。
俺も、お袋も、そしてこの邸に住まう人にまでも、その不思議な力が連鎖していく。
牧野にホワイトデーはどこかに出掛けるか?と尋ねたら、どこにも行かなくていいよ、一緒にご飯を食べれれば…なんて言う。
女ってこんな日は特別な事して欲しいモンじゃねえの?
いや、俺は今迄そういうのは徹底的に避けてきたんだけど、恋人には我儘言われたい。
偶々土曜日だったから、俺の仕事が終わった後に、牧野を連れ出して外で食事をした。
いかにも牧野が好きそうな小洒落たロケーションのイタリアン。
広い落ち着いた雰囲気の個室で食べる、季節の食材をふんだんに使った料理は、一皿ごとに違うアートを見ているかのように美しい盛り付けで、牧野は目を輝かせている。
「ねー、西門さん、見ても綺麗だし、食べても美味しいっ!」
「良かったな、つくしちゃん。
俺ってちゃんとお前の好きなモン分かってる、良い彼氏だろ?」
「なんか、一言多いけどね…」
「照れんなって。ま、こんなカッコいい彼氏とサシで飯食ってたら、照れちゃう気持ちも分かるけど。」
「だから、そういうのがウルサイって言ってんの!
ワインばっか飲んでないで、ちゃんとご飯食べなさいよー!」
他愛もない掛け合いをして、食事をして。
デザートには、これまた牧野好みの、沢山の種類を少しずつ盛り付けたデザートプレートを。
そこに書かれた自分の名前に、キャーキャー喜んで写メまで撮ってる。
「バレンタインにブラウニー作ってくれたろ。そのお返しな。」
「お誕生日でもないのに、こんなデザート出てきてビックリ!
ありがと、西門さん!」
にっこり笑って、デザートをパクつく牧野が可愛くて。
それだけでも、今日ここに来た甲斐あったななんて思ってる自分がいる。
ふうん、コイビトがいるって、こういう気持ちなのか。
照れ臭いけど、これって幸せってやつだよなぁ。
そんな笑顔に癒されて、今日の食事は俺的には大成功。
牧野の部屋まで戻ってきた俺達は、狭いソファに並んで座り、牧野の入れてくれたコーヒーを飲んでいる。
この狭いソファは座り心地は全然良くないが、牧野と密着して座れる点が唯一の利点だ。
照れ屋の牧野も、ここでなら大人しく俺の隣にいてくれるし。
そっと肩を抱き寄せて、頬にちゅっとキスをすると、首を縮めて赤くなってる。
ふふふと笑って髪を梳いてやると、もっと赤くなった。
初心いのも可愛いけど、どうやったら攻略できるんだ、これ?
無理矢理っつーのは趣味じゃないしな…
「好きだ、牧野…」
耳元で囁いて、そこにも唇を寄せる。
びくんと身体を震わせて、それを受けた牧野が、小さな声で
「あたしも西門さんが好きだよ…」
って答えてくれたから、ぎゅっと抱き寄せた。
お前といると、俺までエロ門じゃなくて、晩生な男になっちまいそうだよ、全く。
__________
えー、後編がございますが、付き合って1ヶ月の初心いつくしはそう簡単に攻略できませんので、R展開ございません!ということを真っ先にお伝えしておきます(笑)
お休みしてしまってスミマセン…
とても辛いのよ…
咳止まらないのよ。
咳と鼻詰まりが苦しくて、寝不足であります。
やわらかティッシュが物凄い勢いで無くなります。
明日は買いに行かないと…
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