似た者同士 4
西門さんの気まぐれで、食事に連れ出される時がある。
近くまで来たついでだとか、牧野に栄養補給だとか言ってるけど、あたしだってもうちゃんと働いてるんだから、ご飯位食べれるっていうのに。
いつまでもビンボーのレッテルは貼られたままらしい。
道明寺も類も美作さんも、今は海外に仕事の拠点があって、F4は昔のように集まれなくなった。
西門さんにとって、あの3人以外に気楽にご飯を食べたりお酒を飲める相手っていうのが、女を感じさせないあたしなんだろう。
顔はめちゃくちゃ広そうだけど、友達は少なそうだもんね。
今夜も突然連絡が入って、時間と場所を指定された。
行ってみればそこは、入るのを躊躇するような瀟洒な佇まいの洋館。
邸宅レストランらしい。
あたしには分不相応…と溜息を吐きつつ、足を踏み入れた。
西門さんの名前を告げると広い個室に案内される。
中では、既に西門さんが1人でアペリティフを飲み始めてた。
「よ、つくしちゃん。先にやってるぜ。」
「…ねえ、なんで、こんなところに呼び出すのよ?」
「美味い物に目が無いつくしちゃんを喜ばせてやろうと思って?」
「もっと敷居の低いお店で十分なんだけど、あたし…」
「会食の相手がドタキャンしてきたんだよ。
勿体ないだろ、折角の料理、無駄にしちゃ。」
変な嘘。
今日口説く予定だった女の子に逃げられたって、素直に言えばいいのに。
勿体ないとか、無駄になるとか言えば、あたしが口答えできなくなるって思ってる。
もう、嫌になっちゃう…
はあ…と息を吐き、苦笑しながら席に着いた。
期待に違わぬ手の込んだ美味しい料理が次々と運ばれてくる。
西門さんの選ぶワインも料理に合っていて、2人で杯を重ねた。
「それにしてもすごいお店だねー。
このお庭の景色も素晴らしいし。
ねえ、ここって芸能人のお忍びデートとかにも使われちゃうとこ?」
「ああ、まあ、そういうこともあるんじゃね?
気に入った?」
そう言ってにやっと笑うその表情。
あたしはそれを見ると苦しくなるってのに、不意打ち的に披露する。
じわじわと湧き起こる胸の痛みを押し殺すために、こっそり奥歯を噛みしめた。
面と向かって座っていられなくなり、席を立って、ライトアップされた庭がよく見える窓辺に立つ。
ちょろちょろと水が溢れる音がするヨーロピアンテイストの噴水の周りは、色んな種類の薔薇で覆われている。
まるで異国の別荘にでも来た気分だ。
でもすぐにそんな事を思う自分が可笑しくなる。
これは束の間の夢なのに。
ここを出れば、その夢はすぐに醒めてしまうのに。
この一緒にいる時間が苦しい。
でも会えない時間も苦しい。
会いたくて、会いたくなくて。
あたしは一体どうすればいいんだろう…
気がつけば隣に西門さんが立って、同じように窓の外を見ていた。
「そんなに熱心に庭見ちゃって。
なんか面白いモンでもあんのか?」
そんな事を聞かれて、視線をそちらに流した。
「…お前、何泣いてんだよ?
何かあったのか?」
「泣いてなんかないでしょ。」
「今にも泣きそうな顔してる。
何だよ、何でもオニーサンに言ってみ?
仕事か? 男か?
お前の悩みぐらい、ぱぱっと俺が解決してやるよ。」
悩みの元凶が何を言ってるんだろ…
貴方がこの世にいる限り、あたしの胸の痛みは続くのかな。
ううん、もしこの世から消えてしまったとしても、あたしの胸は痛いままなんじゃない?
そうしたら、この痛みを消す方法は、自分自身が消える以外ないのかもしれない。
「…消えちゃいたい。」
「ん?」
「消えてなくなりたい。」
「何言ってんだよ。」
弱音を口にしたら、途端に喉の奥から熱いものが込み上げてきた。
それを必死に飲み下そうとしたのに、飲み込みきれず、涙となって目からぽろりと落ちる。
「嘘… 何でもない…っ…」
西門さんが緩く緩くあたしを腕の中に囲う。
おでこに温かな唇がそっと触れている。
それを感じて、吐息が小さく震えた。
「どうした? 何かあったのか?
誰かに虐められたってんなら、俺がそいつをきっちりシメてやんよ。
ったく、つくしちゃんは良くも悪くも曲がった事が嫌いだからな。
そんなんだと敵も多いだろ?
何でも白黒つけずに、グレーもあるって学べよ。
そうじゃないと生きにくいぜ、この世の中。」
あたしだって伊達に歳とってない。
世の中綺麗事だけじゃすまないなんて、とっくに分かってる。
でもこの気持ち、白が会いたいで、黒が会いたくないだとしたら、グレーは一体何なのよ…?
「大丈夫。誰にも虐められてない。
1人でちょっと落ち込んでるだけ。」
そう言いながら、腕を突っ張って、西門さんの身体を押し返した。
それでも泣き顔をまともに見られる勇気はなくて、下を向いていたら、ふいに頬っぺたにハンカチを押し当てられる。
ふわりと漂う、西門さんの香り。
その香りを感じて、また自己嫌悪に陥る。
昨夜もこの香りに誘われて、あたしは大木さんと一緒にいた。
大木さんはリハビリだって言ったけど、今のところあたしには何の効果も感じられない。
この人を忘れることも出来ず、大木さんに恋をすることも出来ず、唯々夜を重ねるだけ。
「帰るぞ。」
何も言わなくなったあたしに業を煮やしたのか、西門さんに背中を押されて、店の外へと連れ出された。
待たせてあった車で、あたしのマンションへと送られる。
静かな空気が流れる車内で、あたしはやっぱり何も話せないでいた。
西門さんの方を見ないようにシートに座る。
なのに身体中でその気配を感じようと、必死で息を殺していた。
いいって断ったのにも係わらず、部屋の前までついて来てくれた西門さん。
あたしがドアを開けて、中に入ったのを見届けて、優しく声を掛けてくれる。
「とっとと風呂入って寝ろ。
しっかり寝たらまた気持ちも切り替わるから。
ああ、結構ワイン飲んだから、湯船は浸かるなよ。
シャワーにしとけ。
それからちゃんと水飲めよ。」
「…西門さん。」
「なんだ?」
ありがとうと言おうと思っていた筈なのに、あたしの口を突いて出てきたのは全然違う言葉だった。
__________
うにゃー!
難しくて難しくて、改稿を重ねました!
ボツ原稿がふたーつ!
いつか何かのネタにして昇華させよう…
さあ、つくしの次のセリフはなんでしょうか?
実は… まだ決めかねてます(苦笑)

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近くまで来たついでだとか、牧野に栄養補給だとか言ってるけど、あたしだってもうちゃんと働いてるんだから、ご飯位食べれるっていうのに。
いつまでもビンボーのレッテルは貼られたままらしい。
道明寺も類も美作さんも、今は海外に仕事の拠点があって、F4は昔のように集まれなくなった。
西門さんにとって、あの3人以外に気楽にご飯を食べたりお酒を飲める相手っていうのが、女を感じさせないあたしなんだろう。
顔はめちゃくちゃ広そうだけど、友達は少なそうだもんね。
今夜も突然連絡が入って、時間と場所を指定された。
行ってみればそこは、入るのを躊躇するような瀟洒な佇まいの洋館。
邸宅レストランらしい。
あたしには分不相応…と溜息を吐きつつ、足を踏み入れた。
西門さんの名前を告げると広い個室に案内される。
中では、既に西門さんが1人でアペリティフを飲み始めてた。
「よ、つくしちゃん。先にやってるぜ。」
「…ねえ、なんで、こんなところに呼び出すのよ?」
「美味い物に目が無いつくしちゃんを喜ばせてやろうと思って?」
「もっと敷居の低いお店で十分なんだけど、あたし…」
「会食の相手がドタキャンしてきたんだよ。
勿体ないだろ、折角の料理、無駄にしちゃ。」
変な嘘。
今日口説く予定だった女の子に逃げられたって、素直に言えばいいのに。
勿体ないとか、無駄になるとか言えば、あたしが口答えできなくなるって思ってる。
もう、嫌になっちゃう…
はあ…と息を吐き、苦笑しながら席に着いた。
期待に違わぬ手の込んだ美味しい料理が次々と運ばれてくる。
西門さんの選ぶワインも料理に合っていて、2人で杯を重ねた。
「それにしてもすごいお店だねー。
このお庭の景色も素晴らしいし。
ねえ、ここって芸能人のお忍びデートとかにも使われちゃうとこ?」
「ああ、まあ、そういうこともあるんじゃね?
気に入った?」
そう言ってにやっと笑うその表情。
あたしはそれを見ると苦しくなるってのに、不意打ち的に披露する。
じわじわと湧き起こる胸の痛みを押し殺すために、こっそり奥歯を噛みしめた。
面と向かって座っていられなくなり、席を立って、ライトアップされた庭がよく見える窓辺に立つ。
ちょろちょろと水が溢れる音がするヨーロピアンテイストの噴水の周りは、色んな種類の薔薇で覆われている。
まるで異国の別荘にでも来た気分だ。
でもすぐにそんな事を思う自分が可笑しくなる。
これは束の間の夢なのに。
ここを出れば、その夢はすぐに醒めてしまうのに。
この一緒にいる時間が苦しい。
でも会えない時間も苦しい。
会いたくて、会いたくなくて。
あたしは一体どうすればいいんだろう…
気がつけば隣に西門さんが立って、同じように窓の外を見ていた。
「そんなに熱心に庭見ちゃって。
なんか面白いモンでもあんのか?」
そんな事を聞かれて、視線をそちらに流した。
「…お前、何泣いてんだよ?
何かあったのか?」
「泣いてなんかないでしょ。」
「今にも泣きそうな顔してる。
何だよ、何でもオニーサンに言ってみ?
仕事か? 男か?
お前の悩みぐらい、ぱぱっと俺が解決してやるよ。」
悩みの元凶が何を言ってるんだろ…
貴方がこの世にいる限り、あたしの胸の痛みは続くのかな。
ううん、もしこの世から消えてしまったとしても、あたしの胸は痛いままなんじゃない?
そうしたら、この痛みを消す方法は、自分自身が消える以外ないのかもしれない。
「…消えちゃいたい。」
「ん?」
「消えてなくなりたい。」
「何言ってんだよ。」
弱音を口にしたら、途端に喉の奥から熱いものが込み上げてきた。
それを必死に飲み下そうとしたのに、飲み込みきれず、涙となって目からぽろりと落ちる。
「嘘… 何でもない…っ…」
西門さんが緩く緩くあたしを腕の中に囲う。
おでこに温かな唇がそっと触れている。
それを感じて、吐息が小さく震えた。
「どうした? 何かあったのか?
誰かに虐められたってんなら、俺がそいつをきっちりシメてやんよ。
ったく、つくしちゃんは良くも悪くも曲がった事が嫌いだからな。
そんなんだと敵も多いだろ?
何でも白黒つけずに、グレーもあるって学べよ。
そうじゃないと生きにくいぜ、この世の中。」
あたしだって伊達に歳とってない。
世の中綺麗事だけじゃすまないなんて、とっくに分かってる。
でもこの気持ち、白が会いたいで、黒が会いたくないだとしたら、グレーは一体何なのよ…?
「大丈夫。誰にも虐められてない。
1人でちょっと落ち込んでるだけ。」
そう言いながら、腕を突っ張って、西門さんの身体を押し返した。
それでも泣き顔をまともに見られる勇気はなくて、下を向いていたら、ふいに頬っぺたにハンカチを押し当てられる。
ふわりと漂う、西門さんの香り。
その香りを感じて、また自己嫌悪に陥る。
昨夜もこの香りに誘われて、あたしは大木さんと一緒にいた。
大木さんはリハビリだって言ったけど、今のところあたしには何の効果も感じられない。
この人を忘れることも出来ず、大木さんに恋をすることも出来ず、唯々夜を重ねるだけ。
「帰るぞ。」
何も言わなくなったあたしに業を煮やしたのか、西門さんに背中を押されて、店の外へと連れ出された。
待たせてあった車で、あたしのマンションへと送られる。
静かな空気が流れる車内で、あたしはやっぱり何も話せないでいた。
西門さんの方を見ないようにシートに座る。
なのに身体中でその気配を感じようと、必死で息を殺していた。
いいって断ったのにも係わらず、部屋の前までついて来てくれた西門さん。
あたしがドアを開けて、中に入ったのを見届けて、優しく声を掛けてくれる。
「とっとと風呂入って寝ろ。
しっかり寝たらまた気持ちも切り替わるから。
ああ、結構ワイン飲んだから、湯船は浸かるなよ。
シャワーにしとけ。
それからちゃんと水飲めよ。」
「…西門さん。」
「なんだ?」
ありがとうと言おうと思っていた筈なのに、あたしの口を突いて出てきたのは全然違う言葉だった。
__________
うにゃー!
難しくて難しくて、改稿を重ねました!
ボツ原稿がふたーつ!
いつか何かのネタにして昇華させよう…
さあ、つくしの次のセリフはなんでしょうか?
実は… まだ決めかねてます(苦笑)



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