あたし、最近涙もろい。
ふとした時にぽろりと涙が出る。
別にすごく悲しい事があったとか、辛い事があったとか、そういうんじゃなくて。
夜、アパートに帰って、1人で静かに部屋でぼーっとしてる時とか。
誰かと「また明日ね!」って別れた帰り道とか。
綺麗な夕焼けが目に飛び込んできた時に。
何故か泣いちゃってる事がある。
なんでかな?
あたし、ずっと泣いてなかったのにな。
喉の奥のところで、ぐっと堪えて、お腹の底の方に押し込んで。
涙が溢れないように、零れないようにって思ってきたのに。
この前、西門さんの胸を借りて泣いちゃって以来、涙腺が緩くなってる気がする。
あの時、思いっきり泣いてスッキリした自分がいた。
それが心地よかったのかもしれない。
それ迄、泣くなんて何かに負けるような気がして出来なかった。
だけど、ひとしきり泣くと、顔を上げた時には少し気持ちが軽くなっている気がする。
涙を流す度に心の重荷が一つ消えてくような感覚。
西門さんが言ってた「手に入れた荷物は全部持ってなくていい」っていうのはこの事なのかな?
あたしは今、要らない物を捨てている作業中みたいだ。
春になって、突然色々なものが目に飛び込んできた。
それまで心に響かなかった事が、急に意味を持ち始めた。
優しい風が吹いて様々な匂いを運んでくる。
お日様の暖かさにほっとして。
綺麗な色の花々に思わずにっこりして。
こんな事しばらく忘れてた。
桜子のお家の、あの桜のトンネルは夢みたいに美しかった。
桜吹雪がアプローチに降り注いで、全てが桜色に染まっていた。
いつ迄もあの下に立っていたかった。
西門さんが見せてくれた、海に落ちる無数の春雷。
空がひび割れる様に走る稲光と劈く雷鳴に心が震えた。
西門さんが雷が好きだというのが少し分かった気がした。
こうやって季節が巡っていることを改めて感じるようになった。
今日は久しぶりに何の予定もない休日。
皆が色々誘いの声を掛けてくれたけれど、1人でのんびりする時間が欲しくて、予定は入れなかった。
気ままに散歩でも行ってみよう。
新しく出来たカフェでランチしてみるのもいいかも。
それから春らしい新しい靴を買おうかな。
そう思いながらアパートを出て、川沿いの土手を散歩した。
晴れた土手には風が渡り、白詰草が可愛い絨毯のように一面に広がってた。
それを見ていて、子供の頃白詰草で花冠を作ったのを不意に思い出した。
ゆっくり歩きながら白詰草を摘んで、花冠を編んでみる。
昔取った杵柄。
手が作り方を覚えていて、スイスイと出来上がってく。
ふふふ。上手に出来ちゃった。
自分で冠る訳にもいかず、土手で遊んでいた小さな女の子にプレゼントしてみた。
突然の知らない人からの贈り物に、びっくりしながらも小さな手で受け取ってくれて、「ありがと。」って言ってくれた。
その子のお母さんからもお礼を言われて、恐縮しながらもほんわかした気持ちになる。
「有り難う」は本当に魔法の言葉だから。
こんな風にあたしを幸せにしてくれる。
しゃがみこんで白詰草にもう一度触れてみた。
大好きだったなぁ、このお花で遊ぶの。
そうだ、四つ葉のクローバーも一所懸命に探したっけ。
白詰草の生えているところを見つけたら、歩いていても、自転車に乗っていても、必ず止まって探したんだ。
本当にたまーに見つかるんだよね。
そう思ったら、つい四つ葉のクローバーを見つけたくなって、掌で葉を撫でながら、目を凝らした。
暫く探していたけれど、やっぱりそんな簡単に見つかる訳はなく。
また来ればいいよね。
四つ葉のクローバーは逃げないし。
次にここに来る楽しみが出来た。
そう思って1人で頷きながらその場を離れた。
行きたかったカフェに向かって歩いていたら、ふと気付いた。
あ、あたし、1人でちゃんと歩けてるかも。
1人の時間、持て余してないかも。
ずっと自分の中の空っぽを扱いあぐねて、どうしようって悩んでいた。
でも今日はそんなこと一度も考えないで、自分の思うままにのんびりと時間を過ごしてた。
些細なことだけど、すごく嬉しい。
あたし、ちょっとずつ前に進めてるのかなぁ。
「必要な物だけ持って、前へ進むんだよ。」
また西門さんの声がする。
うん。
必要な物を選んで。
それを持って前に進みたい。
自分の足取りがふっと軽くなるのを感じた。
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ふとした時にぽろりと涙が出る。
別にすごく悲しい事があったとか、辛い事があったとか、そういうんじゃなくて。
夜、アパートに帰って、1人で静かに部屋でぼーっとしてる時とか。
誰かと「また明日ね!」って別れた帰り道とか。
綺麗な夕焼けが目に飛び込んできた時に。
何故か泣いちゃってる事がある。
なんでかな?
あたし、ずっと泣いてなかったのにな。
喉の奥のところで、ぐっと堪えて、お腹の底の方に押し込んで。
涙が溢れないように、零れないようにって思ってきたのに。
この前、西門さんの胸を借りて泣いちゃって以来、涙腺が緩くなってる気がする。
あの時、思いっきり泣いてスッキリした自分がいた。
それが心地よかったのかもしれない。
それ迄、泣くなんて何かに負けるような気がして出来なかった。
だけど、ひとしきり泣くと、顔を上げた時には少し気持ちが軽くなっている気がする。
涙を流す度に心の重荷が一つ消えてくような感覚。
西門さんが言ってた「手に入れた荷物は全部持ってなくていい」っていうのはこの事なのかな?
あたしは今、要らない物を捨てている作業中みたいだ。
春になって、突然色々なものが目に飛び込んできた。
それまで心に響かなかった事が、急に意味を持ち始めた。
優しい風が吹いて様々な匂いを運んでくる。
お日様の暖かさにほっとして。
綺麗な色の花々に思わずにっこりして。
こんな事しばらく忘れてた。
桜子のお家の、あの桜のトンネルは夢みたいに美しかった。
桜吹雪がアプローチに降り注いで、全てが桜色に染まっていた。
いつ迄もあの下に立っていたかった。
西門さんが見せてくれた、海に落ちる無数の春雷。
空がひび割れる様に走る稲光と劈く雷鳴に心が震えた。
西門さんが雷が好きだというのが少し分かった気がした。
こうやって季節が巡っていることを改めて感じるようになった。
今日は久しぶりに何の予定もない休日。
皆が色々誘いの声を掛けてくれたけれど、1人でのんびりする時間が欲しくて、予定は入れなかった。
気ままに散歩でも行ってみよう。
新しく出来たカフェでランチしてみるのもいいかも。
それから春らしい新しい靴を買おうかな。
そう思いながらアパートを出て、川沿いの土手を散歩した。
晴れた土手には風が渡り、白詰草が可愛い絨毯のように一面に広がってた。
それを見ていて、子供の頃白詰草で花冠を作ったのを不意に思い出した。
ゆっくり歩きながら白詰草を摘んで、花冠を編んでみる。
昔取った杵柄。
手が作り方を覚えていて、スイスイと出来上がってく。
ふふふ。上手に出来ちゃった。
自分で冠る訳にもいかず、土手で遊んでいた小さな女の子にプレゼントしてみた。
突然の知らない人からの贈り物に、びっくりしながらも小さな手で受け取ってくれて、「ありがと。」って言ってくれた。
その子のお母さんからもお礼を言われて、恐縮しながらもほんわかした気持ちになる。
「有り難う」は本当に魔法の言葉だから。
こんな風にあたしを幸せにしてくれる。
しゃがみこんで白詰草にもう一度触れてみた。
大好きだったなぁ、このお花で遊ぶの。
そうだ、四つ葉のクローバーも一所懸命に探したっけ。
白詰草の生えているところを見つけたら、歩いていても、自転車に乗っていても、必ず止まって探したんだ。
本当にたまーに見つかるんだよね。
そう思ったら、つい四つ葉のクローバーを見つけたくなって、掌で葉を撫でながら、目を凝らした。
暫く探していたけれど、やっぱりそんな簡単に見つかる訳はなく。
また来ればいいよね。
四つ葉のクローバーは逃げないし。
次にここに来る楽しみが出来た。
そう思って1人で頷きながらその場を離れた。
行きたかったカフェに向かって歩いていたら、ふと気付いた。
あ、あたし、1人でちゃんと歩けてるかも。
1人の時間、持て余してないかも。
ずっと自分の中の空っぽを扱いあぐねて、どうしようって悩んでいた。
でも今日はそんなこと一度も考えないで、自分の思うままにのんびりと時間を過ごしてた。
些細なことだけど、すごく嬉しい。
あたし、ちょっとずつ前に進めてるのかなぁ。
「必要な物だけ持って、前へ進むんだよ。」
また西門さんの声がする。
うん。
必要な物を選んで。
それを持って前に進みたい。
自分の足取りがふっと軽くなるのを感じた。
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