時間よ止まれ 前編
今日、明日、明後日は、お昼は類つくです。
季節が全然違う上に、なんともまったりしたお話ですが・・・
閃いちゃったのでシカタナイ(苦笑)
宜しくお付き合いください。
司が記憶喪失でNYへ去って2年余り・・・
付かず離れずの仲の2人です。
__________
<つくし19歳 類20歳の晩夏>
「ねぇ、類。海を見に行きたい。」
牧野がふいに言ったのは、大学3年の夏休みも終わりに近い頃だった。
2人でランチでもと牧野を誘って、待ち合わせたビストロで、食前酒を選ぼうとメニューを見ていた時に。
このビストロは、牧野のお財布でも心配ないお値段のランチを出す。
まぁ、絶対に牧野に払わせたりはしないけれど。
星付きのフレンチレストランに連れて行くと
「こんな高いお店・・・」
と遠慮の言葉ばかり口にする牧野。
「安くたって美味しい物はいっぱいあるの!」
ある日無理矢理引っ張ってこられたこの店は、こじんまりとしているけど、シェフもギャルソンもフランス人で、店の中はフランス語が飛び交い、店構えもフランスのビストロそのまま。
BGMにはシャンソンが絶え間無く流れ、牧野は
「フランスに行った気分になる!」
とあの大きくて黒い瞳を輝かせて喜んだんだ。
初めて連れて来られた日に食べた鴨のコンフィ。
一口、口に入れて思わず
「美味しいね。」
と言ったら、
「ほらね、安くても美味しい物あったでしょ!」
と嬉しそうに笑った。
「俺はあんたが美味しそうに食べてるのを見るのが好きなのに。」
「それを言うなら、あたしも類が美味しいって食べてくれたら嬉しいの!」
と言って顔を赤くする。
隣の客ともぶつかりそうな位の距離にセッティングされた席。
手を伸ばしたら向かいに座る牧野にすぐ届く位の小さなテーブル。
窮屈でザワザワとした中で食事するのは落ち着かないけど。
いつも嬉しそうに俺の前に座っているから。ついついこの店に来てしまう。
夏休みと言っても、もうぼちぼち仕事も始めていたから、遊んでばかりいたわけでもなく。
牧野もバイトやらレポートで忙しくしていたらしい。
2人でゆっくり会うのは久しぶりだった。
牧野とのその夏の思い出もまだ何もなかったから
「うん、海、いいね。でも見るだけでいいの?
あんたはその場まで行ったら、泳ぎたくなった!とか言って、海に飛び込みそうなんだけど。
まず水着を買いに行く?」
なんて答えたんだ。
「もー、人を子供扱いしてっ!
あたしだってお盆過ぎたらクラゲが出るって知ってるし、類の前で水着姿になりたいなんて思ってないんだからねっ!」
って顔を赤くしてプリプリしてる。
「ふふっ。分かったよ。ランチしたら海にドライブに行こう。
キールもワインも今はお預けだね。」
とドリンクメニューを閉じた。
「えっ? 類の車で行くの?」
「うん。待たせてる車返して、食事してる間にここまで持って来てもらう。」
「そっ、そんなの悪いよ。
せっかくのオフの日のご飯なんだし、アルコール飲んだらいいのに。」
「別にいつでも飲めるよ、ワインは。」
「まあ、そうだけど。」
ランチは楽しく進む。
オードブルの盛り合わせ。
トマトとバジルの冷製スープ。
メインはついついあの鴨のコンフィを選んでいた。
牧野はすっかり俺が鴨肉好きなんだと思い込んでいる。
ただあんたの喜ぶ顔を見たいだけなんだけどなぁ。
牧野のメイン料理は牛ほほ肉の赤ワイン煮。
「柔らかいっ!口のなかでホロホロっとお肉が解けるよ。」
なんて感激しながら食べている。
もちろんデザートも断らない。
一人でピーチメルバにうっとりする牧野を見ながら、コーヒーを飲んだ。
牧野と食事するといつもの何倍も食べ物が美味しく感じられる。
食事を終えて、一路海へ車を走らせる。
車はシルバーのメルセデス・ロードスターにした。
「類、本当に運転上手くなったよねぇ。
初めて乗せてもらった時と、同じ人の運転とは思えない。」
と牧野が笑う。
「免許取って何年経ったと思ってんの。
海外に仕事で行った時にも運転する事あるしね。
結構楽しいんだよ、ヨーロッパの田舎道を走るのとかさ。」
「へぇー、素敵だね。
あたしの頭の中には映画やテレビで見た景色がイメージされてるけど、類はリアルに見てきてるんだよねぇ。」
「今度一緒に行く?」
「何言ってるの、ムリだよそんなの。
でもいつか行ってみたいなぁ~、ゆっくりヨーロッパ旅行!なんてさ。」
そう言って牧野は高速道路のなんてことない車窓を見ていた。
いや、本当に見ていたのかな。
このところの牧野はなんだか遠い目をしている時がある。
何処を見ているの?
何を考えてる?
牧野の事、何でも分かっていたいのに、やっぱり全てを手にすることは出来なくて。
牧野は何も言わない。
だから俺も聞かない。
ただ笑顔でいて欲しい。
そのためだったら何でもする。
今出来る事は何だろう・・・
そんな事を思いながらハンドルを握ってた。
高速道路を降りて一般道へ。
段々目的の海が近づいてきた。
「類ー、あっちに海が見えてきたー!」
「うん、あと15分位かな。」
「ねえねえ、これ開けて!」
と頭上の幌を左手でかるく叩いている。
ご要望に応えて幌をオープンすると、一気に車内の空気が流れ出し、熱気がどっと押し寄せてきた。
まだまだ暑い夏の日差しが肌を刺す。
俺は慌ててサングラスをかけた。
「気持ちいー!」
と両手を万歳するように掲げる牧野。
「暑いよ…」
「だってもう着くんでしょ。ちょっと位いいじゃない。
何のためのオープンカーよ。」
「あのね、牧野。これは春と秋の天気のいい時用な訳。
夏は普通開けないんだよ。」
「じゃあ、何でこの車持ってきてもらったのよ?」
「いや、夕暮れ時に海を見ながら走らせたら、あんたが喜びそうだなって思ったからさ。」
「いい! それいい考え! でも今もすっごく気持ちいいよ。」
とこっちを見てにっこり笑う。
あぁ、そうか。
いいのか、これで。
__________
前編終わって、海に着いてない!(苦笑)

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季節が全然違う上に、なんともまったりしたお話ですが・・・
閃いちゃったのでシカタナイ(苦笑)
宜しくお付き合いください。
司が記憶喪失でNYへ去って2年余り・・・
付かず離れずの仲の2人です。
__________
<つくし19歳 類20歳の晩夏>
「ねぇ、類。海を見に行きたい。」
牧野がふいに言ったのは、大学3年の夏休みも終わりに近い頃だった。
2人でランチでもと牧野を誘って、待ち合わせたビストロで、食前酒を選ぼうとメニューを見ていた時に。
このビストロは、牧野のお財布でも心配ないお値段のランチを出す。
まぁ、絶対に牧野に払わせたりはしないけれど。
星付きのフレンチレストランに連れて行くと
「こんな高いお店・・・」
と遠慮の言葉ばかり口にする牧野。
「安くたって美味しい物はいっぱいあるの!」
ある日無理矢理引っ張ってこられたこの店は、こじんまりとしているけど、シェフもギャルソンもフランス人で、店の中はフランス語が飛び交い、店構えもフランスのビストロそのまま。
BGMにはシャンソンが絶え間無く流れ、牧野は
「フランスに行った気分になる!」
とあの大きくて黒い瞳を輝かせて喜んだんだ。
初めて連れて来られた日に食べた鴨のコンフィ。
一口、口に入れて思わず
「美味しいね。」
と言ったら、
「ほらね、安くても美味しい物あったでしょ!」
と嬉しそうに笑った。
「俺はあんたが美味しそうに食べてるのを見るのが好きなのに。」
「それを言うなら、あたしも類が美味しいって食べてくれたら嬉しいの!」
と言って顔を赤くする。
隣の客ともぶつかりそうな位の距離にセッティングされた席。
手を伸ばしたら向かいに座る牧野にすぐ届く位の小さなテーブル。
窮屈でザワザワとした中で食事するのは落ち着かないけど。
いつも嬉しそうに俺の前に座っているから。ついついこの店に来てしまう。
夏休みと言っても、もうぼちぼち仕事も始めていたから、遊んでばかりいたわけでもなく。
牧野もバイトやらレポートで忙しくしていたらしい。
2人でゆっくり会うのは久しぶりだった。
牧野とのその夏の思い出もまだ何もなかったから
「うん、海、いいね。でも見るだけでいいの?
あんたはその場まで行ったら、泳ぎたくなった!とか言って、海に飛び込みそうなんだけど。
まず水着を買いに行く?」
なんて答えたんだ。
「もー、人を子供扱いしてっ!
あたしだってお盆過ぎたらクラゲが出るって知ってるし、類の前で水着姿になりたいなんて思ってないんだからねっ!」
って顔を赤くしてプリプリしてる。
「ふふっ。分かったよ。ランチしたら海にドライブに行こう。
キールもワインも今はお預けだね。」
とドリンクメニューを閉じた。
「えっ? 類の車で行くの?」
「うん。待たせてる車返して、食事してる間にここまで持って来てもらう。」
「そっ、そんなの悪いよ。
せっかくのオフの日のご飯なんだし、アルコール飲んだらいいのに。」
「別にいつでも飲めるよ、ワインは。」
「まあ、そうだけど。」
ランチは楽しく進む。
オードブルの盛り合わせ。
トマトとバジルの冷製スープ。
メインはついついあの鴨のコンフィを選んでいた。
牧野はすっかり俺が鴨肉好きなんだと思い込んでいる。
ただあんたの喜ぶ顔を見たいだけなんだけどなぁ。
牧野のメイン料理は牛ほほ肉の赤ワイン煮。
「柔らかいっ!口のなかでホロホロっとお肉が解けるよ。」
なんて感激しながら食べている。
もちろんデザートも断らない。
一人でピーチメルバにうっとりする牧野を見ながら、コーヒーを飲んだ。
牧野と食事するといつもの何倍も食べ物が美味しく感じられる。
食事を終えて、一路海へ車を走らせる。
車はシルバーのメルセデス・ロードスターにした。
「類、本当に運転上手くなったよねぇ。
初めて乗せてもらった時と、同じ人の運転とは思えない。」
と牧野が笑う。
「免許取って何年経ったと思ってんの。
海外に仕事で行った時にも運転する事あるしね。
結構楽しいんだよ、ヨーロッパの田舎道を走るのとかさ。」
「へぇー、素敵だね。
あたしの頭の中には映画やテレビで見た景色がイメージされてるけど、類はリアルに見てきてるんだよねぇ。」
「今度一緒に行く?」
「何言ってるの、ムリだよそんなの。
でもいつか行ってみたいなぁ~、ゆっくりヨーロッパ旅行!なんてさ。」
そう言って牧野は高速道路のなんてことない車窓を見ていた。
いや、本当に見ていたのかな。
このところの牧野はなんだか遠い目をしている時がある。
何処を見ているの?
何を考えてる?
牧野の事、何でも分かっていたいのに、やっぱり全てを手にすることは出来なくて。
牧野は何も言わない。
だから俺も聞かない。
ただ笑顔でいて欲しい。
そのためだったら何でもする。
今出来る事は何だろう・・・
そんな事を思いながらハンドルを握ってた。
高速道路を降りて一般道へ。
段々目的の海が近づいてきた。
「類ー、あっちに海が見えてきたー!」
「うん、あと15分位かな。」
「ねえねえ、これ開けて!」
と頭上の幌を左手でかるく叩いている。
ご要望に応えて幌をオープンすると、一気に車内の空気が流れ出し、熱気がどっと押し寄せてきた。
まだまだ暑い夏の日差しが肌を刺す。
俺は慌ててサングラスをかけた。
「気持ちいー!」
と両手を万歳するように掲げる牧野。
「暑いよ…」
「だってもう着くんでしょ。ちょっと位いいじゃない。
何のためのオープンカーよ。」
「あのね、牧野。これは春と秋の天気のいい時用な訳。
夏は普通開けないんだよ。」
「じゃあ、何でこの車持ってきてもらったのよ?」
「いや、夕暮れ時に海を見ながら走らせたら、あんたが喜びそうだなって思ったからさ。」
「いい! それいい考え! でも今もすっごく気持ちいいよ。」
とこっちを見てにっこり笑う。
あぁ、そうか。
いいのか、これで。
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前編終わって、海に着いてない!(苦笑)



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