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Author:hortensia
花男にはまって幾星霜…
いつまで経っても、自分の中の花男Loveが治まりません。
コミックは類派!
二次は総二郎派!(笑)
総×つくメインですが、類×つく、あき×つくも、ちょっとずつUPしています!
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時間よ止まれ 中編

小さな海水浴場の駐車場に車を停めた。
防波堤の向こうは砂浜。

「潮の香りがするー。」

牧野の声が弾んでる。
車を降りて海辺に目をやると、夏も終わりに近いからか、海水浴客は殆ど居なくて、地元の子供達が遊んでいる程度。
凪の海だ。
潮騒が耳に優しい。

「ねぇ、類、砂浜降りていい?」
「うん、いいけど、波打ち際までは裸足にならないで。
きっと砂が焼けてて熱いから。」
「大丈夫~!サンダル持って来たんだ。
ふっふっふ、実は類の分もあるの。
安物で申し訳ないけど、はい、どうぞ!」

牧野のトートバッグから出て来たのは、ショップバッグに入った一足のサンダル。

「足のサイズ分からないから、テキトーに買っちゃったけど。
お店でサイズは?って聞かれて。
分からないから、色んなサイズのサンダル並べてもらって、類の足をイメージしてこれにします!って選んだの。」

なんだ、それ。面白いけど。
電話一本くれればいいのに。
そう話す間にもさっさと自分はスリッポンからサンダルに履きかえていて、今にも砂浜に飛び出して行きそうだ。
靴と靴下を脱いで試してみる。

「んー、丁度いいみたい。ありがと、牧野。」
「あー、良かった。このサンダル、履き心地が抜群で。
今周りの人にオススメ中なの。ね、砂浜歩こうよ!」

防波堤の切れ間の階段から砂浜におりる。

「類が言った通り、ほんとに砂熱いね。
これは裸足では歩けないよ。」
「そうでしょ。昔、砂浜が熱くてびっくりしたことがあったんだよね。」
「でもこんなに空いてるなんて意外。
夏休みもまだ終わってないから、もうちょっと人が居るのかと思ってた。」
「まぁ、今日は平日だし。
あと、観光客はもっとメジャーな海水浴場に行くんじゃない?
ここは地元の人が遊びに来る所。」
「そんな所、よく知ってたねぇ。」
「近くに別荘があるんだ。」
「そっか。さすが花沢のお坊っちゃま!」

お坊っちゃま、言うな。

「あたし、海って好き。
この波がキラキラしてるのも、匂いも、音も、風も。」

俺の少し前を牧野が歩く。
長いサラサラの黒髪が、海風に踊る。

綺麗だな。あの髪に触れたい。

「髪伸びたね。」
「うん、ほら、お茶のお稽古の時にさ、きゅって髪纏めてお着物着ると、なんだかぴしっと気合が入るから、ある程度は伸ばしてたいんだよね。」
「ふぅん・・・」

総二郎しか知らない牧野。
週に一回、狭い茶室に二人きり。
そのことを思い出すとなんだか面白くない。
着物を着て髪を結い、その白くて細い首を晒す。
どんなに嫋やかな姿だろう。

「類、ちょっとバッグ持っててくれる?」
「ん、いいよ。」

何やら色々詰まっていそうな大きめのバッグを預かると、牧野は両手で髪を纏めてポニーテールに結わえた。
気持ちを読まれたようで、とくっと心臓が一瞬大きく脈打った。
ゆらゆらする尻尾の向こうには、白い項。

「髪上げると涼しいっ!
さっきから暑かったんだよねぇ。」

と言いながら、俺の腕からバッグを取ろうと手を伸ばしてきた。
下を見ていなかったんだろう。
砂に足を取られよろけ、俺に向かって倒れ込んできた。
咄嗟に胸と片手で受け止める。

「ポニーテール、似合ってる。」

と言いながら、牧野が言うところの天使の微笑みを浮かべて顔を覗き込むと、顔を真っ赤にして

「ご、ごめん、ありがと・・・」

と、必死に腕を突っ張って、俺から身体を離そうとしてる。
黒い瞳が濡れている。

その目、反則だよ。
いつも何気ない振りをしてるけど、本当は俺の胸に突き刺さるんだ。

照れ隠しなのか、くるりと踵を返して、早足で海に向かって歩き出した。
波打ち際ギリギリでサンダルを脱ぎ捨て、ジャブジャブと海に入っていく。
思わず

「転ばないでよ、あんたそそっかしいんだから。」

と声をかけた。

日陰に腰を下ろしながら、波と戯れる牧野を見ていた。
海は光が乱反射して、銀色に輝いている。
空の色は夏の終わりを感じさせるクリアブルー。
そこをカモメが飛んで行く。
きらめきの中で牧野の華奢な身体が踊る。
ポニーテールの尻尾が跳ねる。
笑顔が眩しくて目を細めた。

この風景を永遠に俺のものだけにしたい。
他の誰にも見せたくない。
時間が止まればいいのに。

「気持ちいいよ、類も入ろうよ。」
「俺はいいよ。ここで見てるから。」
「ねぇ、ちょっとだけでいいからさ。」

俺の手を引っ張り、無理矢理立たせる。
渋々ズボンの裾をたくし上げ、2人で波打ち際に素足で立った。
白い波がすぅっとやって来て、一拍おいて引いて行く。
足の下の砂も少し流されて、なんだか海に引き込まれている気になる。

「こんな事するの久しぶりだ。」
「そうなの? まぁ、類はインドア派だからねぇ。
でもあたしも海に来たの、何年振りだろ。楽しいね!」

そう言いながら、ばちゃばちゃと波をキックする。
少し大きな波が来そうで、2人で後ずさりした。

「わわわわわっ!」

跳ねる波飛沫で服が濡れそうになり、慌ててる牧野。
引き潮の力が思ったより強くて、身体を持って行かれそうになり、思わず牧野の手を掴んだ。
はっとした牧野が目を丸くして俺を見つめる。

行かないで。
何処にも行かないで。
俺の隣で笑っていて。

どうしても声には出せなかった。

そのまま牧野の手を引いて、水際を歩いた。
海水が染みて固まった砂地の方が、砂浜よりずっと歩きやすい。


「類、海、綺麗だね。」
「ん。」 牧野、綺麗だよ。
「波の音聞いてると癒されるね。」
「ん。」 あんたの声が俺を癒すんだ。
「ずっとここに居たくなっちゃう。」
「ん。」 ずっとあんたの隣に居たい。
「連れてきてくれてありがとね。」
「ん。」 あんたの願いなら何だって叶えてあげるよ。
「もーーーっ、さっきから『ん』しか言ってない!」
「ん。」
「ほらまた!」
「牧野…」
「ん?」
「何でもない・・・」 好きだよ・・・


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