粉雪舞い降りる君の肩先 9
「牧野が、好きだ。」
もう一度言葉を重ねた。
牧野は何も言わずに立ち竦んでいる。
口を真一文字に結んで、唯々俺を見返してきた。
「友達としての『好き』じゃない。
俺は牧野に恋してる。」
強い決意を持って、牧野に向かって右手を差し出す。
「牧野から俺の手を取って。
そうしたら俺は牧野のものになる。」
どのくらい見詰め合っていたのだろう。
互いの間に沈黙が流れた後、牧野は小さくぎこちなく、だがはっきりと頭を横に振って、俺を拒絶した。
無表情だった顔が、今にも泣き出しそうに歪められていくのが見える。
「・・・怖いよ、そんなの。
いつかこの手から零れ落ちるものは手にしたくない。
失くした時の激しい痛みを味わいたくないから。
美作さんも同じだもの。
どんなに優しくしてくれても、やっぱりあたしとは違う世界の人だから。」
ああ・・・
司との別離はこんなにも牧野に傷を負わせてる。
何年経っても癒えることのない深傷だ。
その傷を俺にそっと手当てさせて欲しいのに。
牧野はそれを許してくれない。
「じゃあ牧野は、俺が何も持たない、美作とも関係ない、英徳にも通っていない、そんな男にならない限り、俺の手を取ってはくれないのか?
傷つく事を恐れて、ずっとその場に立ちどまっている事を選ぶのか?
牧野、それじゃ何も変わらないんだ。
前を向いて歩けるようにならないんだ。
自分で変わりたいと思わない限り、牧野を取り巻くものはずっと同じままなんだよ。
どんな暗くて深い穴に落ちているのか、俺には想像する事しか出来ない。
だけど俺が無理矢理お前の手を引っ張るだけじゃ、そこから出してやれないんだ。
牧野も俺に向かって手を伸ばさないと、助けてやれない。」
だから、お願いだ、牧野。
俺に向かって手を差し出してくれ。
俺はお前が好きだ。
だから、何を置いてもお前を暗闇から抜け出させてやりたいって、心からそう思ってるんだよ。
「・・・でも怖いの。
理屈じゃないの。
怖くて、怖くて堪らない。
もう一度あんな思いするくらいなら・・・
大切なものは二度と持ちたくない。」
とうとう牧野の目から涙が滴り始めた。
何を想って泣いているのかと想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
「俺を信じて欲しい。
俺は牧野の手を放さない。何があっても。」
また頭がゆらゆらと左右に揺れる。
涙もぽろぽろと溢れ落ちていく。
「無理だよ、美作さん・・・
王子様はお姫様と幸せになるの。
あたしはいつまで経っても雑草のまま。
お姫様にはなれない。
それは変えられない事なんだよ。
そんなの美作さんが一番よく知ってるでしょう?」
かつて牧野には越えられなかった高い壁があった。
司という支えを得て、そこをよじ登ってみようと、力を尽くした時があった。
知ってるよ。
俺はずっと見て来たんだ。
2人の無謀にも思えた恋の始まりから終わりまでの全ての時間を。
それを知った上でお前にこんな事を言う俺が、どれだけの覚悟を持っているのか、知らないままに拒まないで欲しい。
「牧野が牧野ならそれでいい。
他には何もいらない。
俺はそれ以外の事を望んでない。
ありのままの牧野と俺で、並んで歩いて行こう。」
「・・・あたしは何も持ってない。
お金もない。
家柄もない。
美作さんが望まなくても・・・それじゃだめなんだよ。」
「だめじゃないよ、牧野。
俺は牧野を傷付けない。
そう覚悟を決めてなきゃこんな事言ってない。
俺が牧野を護るよ、何があっても、どんな事からも。
だから俺の手を取ってくれ。」
もう一度しっかりと牧野に向かって右手を伸ばす。
「おいで、牧野。
もう独りで暗闇にいるのは終わりにしよう。」
「・・・美作さん。」
「怖いよな。
そうだろうと思うよ。
俺になんか想像のつかない、底知れない恐怖なんだろう。
それでも・・・
それでも、それを振り切って俺の所まで来て欲しい。
俺を信じて。
俺は牧野を二度と1人にしない。
ずっとずっと手を繋いでいくよ。
だから、牧野。
俺を選んでくれ。」
牧野の震える泣き声が切なく耳に響く。
「怖い・・・」
そうだよな。分かってる。分かってるよ。
牧野が囚われている闇の中は、俺の想像なんか簡単に凌駕してしまうような恐怖が渦巻いているんだろう。
そこを抜け出す事よりも、闇に身を浸している方が心安らかでいられると錯覚してしまう程に、牧野を毒してしまった。
「怖いよ、そんなの・・・」
「牧野・・・」
どう言ったら俺の手を取ってくれるのか分からない。
でも何か言わなければ、牧野は俺から離れていくのだろう。
それだけは絶対に嫌だ。
「俺を信じて欲しい。」
「・・・美作さん。」
牧野にとって、とても酷な事をしているんだという自覚はあった。
何の心構えもないところに、いきなりこんな事を言われても混乱するのは必至だ。
それでも溢れてしまった想いを隠す術はもうない。
全てを抱えて飲み込んでおくには、俺はきっと若過ぎて、そして人としての器が小さ過ぎた。
「俺は司の代わりにはなれない。
なりたいとも思ってない。
司が今でも牧野にとって特別な存在だって事も分かってる。
それでも・・・、まだ牧野の中に司がいても・・・、俺は牧野の隣に自分の居場所を作りたい。
それを許してくれないか?
もう独りでいるのは止めにしてくれ。
俺を牧野の隣にいさせて欲しい。」
そう言ったら、牧野が両手で顔を覆ってしまった。
その下で激しく涙を溢しているのだろうか?
肩が揺れている。
微かな嗚咽が聞こえて来る。
近寄って、抱き締めて、涙を拭いてやりたいけれど・・・
牧野が俺を求めてくれないとしてはいけない気がして、俺は立ち尽くすばかりだった。
「牧野・・・」
2人で重ねてきた時間があった。
そして手と手を繋いで体温を伝えあう事も、数え切れない程になった。
俺が牧野を大切に思っている事は、牧野だって気付いていた筈だ。
牧野だって今日迄俺を拒まなかった。
俺達の間には何かが生まれかかってる。
俺と同じだけの熱量じゃなかったとしても、牧野の心の中に俺を想う気持ちはあるんだって信じてる。
泣いている牧野の前に歩み寄る。
改めて牧野の目前に右手を差し出した。
「牧野、俺の手を取ってくれ・・・」
泣き濡れた瞳で俺を見上げて、涙声のまま「美作さん・・・」と俺を呼んだ。
俺まで泣き出しそうになる程に胸が締め付けられて、それを押し殺そうとした身体が小刻みに震えてる。
ああ、やっぱり届かないのか・・・?
そんな絶望感に打ちのめされそうになった時、ことん・・・と牧野が俺の胸に額を押し付けた。
________________
寒い。寒いよ、雪の降る夜に立ち話は・・・
って、誰がやらせてんじゃー!って話ですよね。
あともう少し続いてしまうかな?
寒そうな中頑張ってるあきらとつくしに応援お願いします!
次はつくし語りの番かと思いますが。
まだ全く書けてないよ^^;
もう4月なんですよね・・・
ステイホーム心掛けているので、予定が殆ど無いんですけど。
あ、あのパティスリーにお菓子買いに行こ!とか、髪切りたい!とか思う度に定休日にぶつかってるっていうね。
己のタイミングの悪さに苦笑いです。

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
もう一度言葉を重ねた。
牧野は何も言わずに立ち竦んでいる。
口を真一文字に結んで、唯々俺を見返してきた。
「友達としての『好き』じゃない。
俺は牧野に恋してる。」
強い決意を持って、牧野に向かって右手を差し出す。
「牧野から俺の手を取って。
そうしたら俺は牧野のものになる。」
どのくらい見詰め合っていたのだろう。
互いの間に沈黙が流れた後、牧野は小さくぎこちなく、だがはっきりと頭を横に振って、俺を拒絶した。
無表情だった顔が、今にも泣き出しそうに歪められていくのが見える。
「・・・怖いよ、そんなの。
いつかこの手から零れ落ちるものは手にしたくない。
失くした時の激しい痛みを味わいたくないから。
美作さんも同じだもの。
どんなに優しくしてくれても、やっぱりあたしとは違う世界の人だから。」
ああ・・・
司との別離はこんなにも牧野に傷を負わせてる。
何年経っても癒えることのない深傷だ。
その傷を俺にそっと手当てさせて欲しいのに。
牧野はそれを許してくれない。
「じゃあ牧野は、俺が何も持たない、美作とも関係ない、英徳にも通っていない、そんな男にならない限り、俺の手を取ってはくれないのか?
傷つく事を恐れて、ずっとその場に立ちどまっている事を選ぶのか?
牧野、それじゃ何も変わらないんだ。
前を向いて歩けるようにならないんだ。
自分で変わりたいと思わない限り、牧野を取り巻くものはずっと同じままなんだよ。
どんな暗くて深い穴に落ちているのか、俺には想像する事しか出来ない。
だけど俺が無理矢理お前の手を引っ張るだけじゃ、そこから出してやれないんだ。
牧野も俺に向かって手を伸ばさないと、助けてやれない。」
だから、お願いだ、牧野。
俺に向かって手を差し出してくれ。
俺はお前が好きだ。
だから、何を置いてもお前を暗闇から抜け出させてやりたいって、心からそう思ってるんだよ。
「・・・でも怖いの。
理屈じゃないの。
怖くて、怖くて堪らない。
もう一度あんな思いするくらいなら・・・
大切なものは二度と持ちたくない。」
とうとう牧野の目から涙が滴り始めた。
何を想って泣いているのかと想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
「俺を信じて欲しい。
俺は牧野の手を放さない。何があっても。」
また頭がゆらゆらと左右に揺れる。
涙もぽろぽろと溢れ落ちていく。
「無理だよ、美作さん・・・
王子様はお姫様と幸せになるの。
あたしはいつまで経っても雑草のまま。
お姫様にはなれない。
それは変えられない事なんだよ。
そんなの美作さんが一番よく知ってるでしょう?」
かつて牧野には越えられなかった高い壁があった。
司という支えを得て、そこをよじ登ってみようと、力を尽くした時があった。
知ってるよ。
俺はずっと見て来たんだ。
2人の無謀にも思えた恋の始まりから終わりまでの全ての時間を。
それを知った上でお前にこんな事を言う俺が、どれだけの覚悟を持っているのか、知らないままに拒まないで欲しい。
「牧野が牧野ならそれでいい。
他には何もいらない。
俺はそれ以外の事を望んでない。
ありのままの牧野と俺で、並んで歩いて行こう。」
「・・・あたしは何も持ってない。
お金もない。
家柄もない。
美作さんが望まなくても・・・それじゃだめなんだよ。」
「だめじゃないよ、牧野。
俺は牧野を傷付けない。
そう覚悟を決めてなきゃこんな事言ってない。
俺が牧野を護るよ、何があっても、どんな事からも。
だから俺の手を取ってくれ。」
もう一度しっかりと牧野に向かって右手を伸ばす。
「おいで、牧野。
もう独りで暗闇にいるのは終わりにしよう。」
「・・・美作さん。」
「怖いよな。
そうだろうと思うよ。
俺になんか想像のつかない、底知れない恐怖なんだろう。
それでも・・・
それでも、それを振り切って俺の所まで来て欲しい。
俺を信じて。
俺は牧野を二度と1人にしない。
ずっとずっと手を繋いでいくよ。
だから、牧野。
俺を選んでくれ。」
牧野の震える泣き声が切なく耳に響く。
「怖い・・・」
そうだよな。分かってる。分かってるよ。
牧野が囚われている闇の中は、俺の想像なんか簡単に凌駕してしまうような恐怖が渦巻いているんだろう。
そこを抜け出す事よりも、闇に身を浸している方が心安らかでいられると錯覚してしまう程に、牧野を毒してしまった。
「怖いよ、そんなの・・・」
「牧野・・・」
どう言ったら俺の手を取ってくれるのか分からない。
でも何か言わなければ、牧野は俺から離れていくのだろう。
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牧野にとって、とても酷な事をしているんだという自覚はあった。
何の心構えもないところに、いきなりこんな事を言われても混乱するのは必至だ。
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全てを抱えて飲み込んでおくには、俺はきっと若過ぎて、そして人としての器が小さ過ぎた。
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司が今でも牧野にとって特別な存在だって事も分かってる。
それでも・・・、まだ牧野の中に司がいても・・・、俺は牧野の隣に自分の居場所を作りたい。
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もう独りでいるのは止めにしてくれ。
俺を牧野の隣にいさせて欲しい。」
そう言ったら、牧野が両手で顔を覆ってしまった。
その下で激しく涙を溢しているのだろうか?
肩が揺れている。
微かな嗚咽が聞こえて来る。
近寄って、抱き締めて、涙を拭いてやりたいけれど・・・
牧野が俺を求めてくれないとしてはいけない気がして、俺は立ち尽くすばかりだった。
「牧野・・・」
2人で重ねてきた時間があった。
そして手と手を繋いで体温を伝えあう事も、数え切れない程になった。
俺が牧野を大切に思っている事は、牧野だって気付いていた筈だ。
牧野だって今日迄俺を拒まなかった。
俺達の間には何かが生まれかかってる。
俺と同じだけの熱量じゃなかったとしても、牧野の心の中に俺を想う気持ちはあるんだって信じてる。
泣いている牧野の前に歩み寄る。
改めて牧野の目前に右手を差し出した。
「牧野、俺の手を取ってくれ・・・」
泣き濡れた瞳で俺を見上げて、涙声のまま「美作さん・・・」と俺を呼んだ。
俺まで泣き出しそうになる程に胸が締め付けられて、それを押し殺そうとした身体が小刻みに震えてる。
ああ、やっぱり届かないのか・・・?
そんな絶望感に打ちのめされそうになった時、ことん・・・と牧野が俺の胸に額を押し付けた。
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寒い。寒いよ、雪の降る夜に立ち話は・・・
って、誰がやらせてんじゃー!って話ですよね。
あともう少し続いてしまうかな?
寒そうな中頑張ってるあきらとつくしに応援お願いします!
次はつくし語りの番かと思いますが。
まだ全く書けてないよ^^;
もう4月なんですよね・・・
ステイホーム心掛けているので、予定が殆ど無いんですけど。
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