pretend «side総二郎» -中編-
類に俺と牧野の間柄が露見したのは、そうやって常に2人で部屋に籠っていたからだった。
気紛れに牧野の部屋を訪れた類に、馬鹿正直な牧野が慌てた対応をして、訝しがられた。
玄関先で類を追い返す・・・なんて上手く出来なかった牧野。
隠れてもしょうがない・・・と、腹を括った俺と類はリビングで顔を合わせた。
「何でここに総二郎がいるの?」
類の視線が俺に突き刺さる。
後ろめたい事をしている自覚はあっても、その視線をちゃんと受け止めないのは違う・・・と思って、俺も真っ直ぐ類を見返した。
テンパった牧野が妙に明るい声を出してる。
そんな事で類は誤魔化せやしないのに。
「あー、えっと、あの、ご飯!
ご飯食べにきたんだよね。ねっ?
西門さんも偶には庶民のご飯食べたいみたいでさ。
類も食べてくでしょ?」
「・・・・・・。」
「外、寒かった?
今日、なんかあったかいもの作ろうかな?
類、何か食べたい物ある?」
「牧野。」
「んっ? 何? 何がいい?」
「帰るよ、俺。」
「え? どして?
わざわざ寄ってくれたんでしょ?」
「俺さ、困ってるあんた、見てたくないんだよね。
だから帰る。またね。」
そう言い残して、即座に部屋を後にした類。
その背中を見送った牧野はとても動揺していた。
「ねえ、どうしよ・・・?」
「どうしようもねえよ。
それに類は誰にも何も言わない。」
「それはそうかも知れないけど・・・。」
「類だけには知られたくなかったって?
類はいつだってお前の王子様だもんな。」
「・・・そうじゃなくて。
きっと誤解してるだろうなって。
西門さんとあたし、そんなんじゃないのに・・・。」
いや、きっと、一目見ただけで正確に理解してるぜ、類は。
そう確信していたけれど、もっと牧野を混乱させるかも・・・と思い、口にはしなかった。
そして、俯いて言葉少なになってしまった牧野を抱き寄せて、そっと背中を撫でさする事しか俺には出来なかった。
牧野がこうやって落ち込むのは・・・、俺達が人に言えない関係を結んでいる証拠だ。
牧野が自分の半身のように思っている類にさえ告げられない、あってはならない俺達の秘密の時間。
分かってはいたけれど、改めて己の罪を認識させられた。
類からは後日電話が掛かってきた。
「総二郎・・・」
「類、説教は無しだぜ?」
「どうするつもり?」
「どうって・・・、どうもするつもりはねえけど。」
「それって牧野を傷付けるんじゃないの?」
いつだって牧野を守ってる類。
そんな類を出し抜いて牧野を手にした俺。
少しの優越感がなかったと言ったら嘘になる。
でも罪悪感の方が遥かに大きかった。
分かっている。
俺がやっている事が全く正しくないという事は。
「全部分かってて一緒にいるんだよ、今だけな。」
「人前では笑ってたって、独りでこっそり泣いてるような女なんだ。
あいつがどんな思いしてるか想像つくだろ?」
「だから・・・、分かってるって。
分かってるけど止められないんだよ。
仕方ないだろうが。」
「はあ・・・、何で・・・?」
「それは・・・、類はよく知ってるだろ。
あいつに魅入られたら、誰だってこうなっちまうって。」
「・・・・・・。」
司の母親は牧野を決して受け入れようとしなかった。
酷い事をしていたようにも見えたけど、俺達の世界じゃそれが当たり前。
一瞬でも本気で牧野の手を取ろうとした司の方が酔狂だと思われても仕方なかった。
花沢だってそうだ。
牧野を類の友人としてまでは認めても、花沢の花嫁に据える事は絶対にない。
だからそれを分かっている類は決して無茶をしなかったし、類の事を友として誰よりも近しく感じているんだろう牧野を、大切に大切に見守っている立場に甘んじていた。
越えてはいけないラインを飛び越えたのは俺だ。
でも好きになってしまったら自分を止められなかった。
俺だけが牧野に惹かれていたのなら、何とか立ち止まれたのかもしれない。
だけど、牧野の俺を見詰める視線に気付いてしまったから。
互いに想い合ってしまったら、もう流れ出した感情の激流に抗えなかった。
「・・・それでも、あいつの為には距離を取るべきだったんじゃない?」
「そんな正論、要らねえよ。」
出来たらとっくにやってる。
出来なかったから、こんな事になってんだ。
類がまた溜息を吐いたのが機械越しに耳に届く。
「牧野がなるべく泣かないようにしてやって。」
「ああ・・・。」
そんな事不可能なのは、類も俺も知っていて。
だけどその上で釘を刺された。
言わずにいられない類の気持ちも分かる。
俺が類の立場なら、牧野の部屋で鉢合わせした時に、即刻手を引けと殴りつけてるかも知れないくらいだ。
それだけ言い置いて、類は通話を終わらせた。
手にしている携帯電話を見詰めながら、牧野を想う。
猛烈に顔が見たくなった。
腹の中に渦巻くこの嫌な感じを、束の間でも忘れさせてくれるのは牧野だけだから。
電話を掛けたら、途端に朗らかな声が耳の中に溢れ出す。
その声を聞いているだけでほっとして。
瞼を閉じて聞き入った。
幸せなのに、切なさで胸が締め付けられる。
俺はいつかこれを手放すんだ・・・と思いながら聞く声は、大切過ぎて、一言も聞き漏らしたくなくて。
全て頭の中に録音しておけたらいいのに・・・なんて思う。
「今から行ってもいいか?」
「えー? 部屋片付いてないよー?」
「気にしねえって。何かいる物あるか?」
「んーと、冷蔵庫にビールしか無いから、自分が飲む物買って来たら?」
「分かった。じゃ、後でな。」
飛びきり美味いワインと。
それに合わせるチーズと。
あいつが好きそうなスイーツと。
あと、絶対に嬉しそうに顔を埋めるだろう花束を買っていこう。
一つでも多くあいつの笑顔が見られるように。
だって俺達には・・・、限られた時間しか残っていないから。
遠くない未来に、終わりは必ずやってくるのだから。
それでも俺は、あいつに会わずにはいられないんだ・・・
_________
ちょーっとお話が前後しておりまして、ここは前編の総二郎とつくしの別れのシーンよりも前の部分です。
時間の流れとしては、
類にバレる→結婚決まってお別れ→後編(22日0時UP予定)・・・
という順になります。
複雑で申し訳ありません^^;
実はですね・・・
インターネットバンキングの暗証番号が書いてある紙を失くしまして。
銀行から送られてきた封筒ごと丸っと。
いや、多分家の中にあるんだけど。
もう1ヶ月くらいずっと探してるんだけど、発掘出来ないんですよね・・・
困ってます。
ホントーに困ってます(~_~;)

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
気紛れに牧野の部屋を訪れた類に、馬鹿正直な牧野が慌てた対応をして、訝しがられた。
玄関先で類を追い返す・・・なんて上手く出来なかった牧野。
隠れてもしょうがない・・・と、腹を括った俺と類はリビングで顔を合わせた。
「何でここに総二郎がいるの?」
類の視線が俺に突き刺さる。
後ろめたい事をしている自覚はあっても、その視線をちゃんと受け止めないのは違う・・・と思って、俺も真っ直ぐ類を見返した。
テンパった牧野が妙に明るい声を出してる。
そんな事で類は誤魔化せやしないのに。
「あー、えっと、あの、ご飯!
ご飯食べにきたんだよね。ねっ?
西門さんも偶には庶民のご飯食べたいみたいでさ。
類も食べてくでしょ?」
「・・・・・・。」
「外、寒かった?
今日、なんかあったかいもの作ろうかな?
類、何か食べたい物ある?」
「牧野。」
「んっ? 何? 何がいい?」
「帰るよ、俺。」
「え? どして?
わざわざ寄ってくれたんでしょ?」
「俺さ、困ってるあんた、見てたくないんだよね。
だから帰る。またね。」
そう言い残して、即座に部屋を後にした類。
その背中を見送った牧野はとても動揺していた。
「ねえ、どうしよ・・・?」
「どうしようもねえよ。
それに類は誰にも何も言わない。」
「それはそうかも知れないけど・・・。」
「類だけには知られたくなかったって?
類はいつだってお前の王子様だもんな。」
「・・・そうじゃなくて。
きっと誤解してるだろうなって。
西門さんとあたし、そんなんじゃないのに・・・。」
いや、きっと、一目見ただけで正確に理解してるぜ、類は。
そう確信していたけれど、もっと牧野を混乱させるかも・・・と思い、口にはしなかった。
そして、俯いて言葉少なになってしまった牧野を抱き寄せて、そっと背中を撫でさする事しか俺には出来なかった。
牧野がこうやって落ち込むのは・・・、俺達が人に言えない関係を結んでいる証拠だ。
牧野が自分の半身のように思っている類にさえ告げられない、あってはならない俺達の秘密の時間。
分かってはいたけれど、改めて己の罪を認識させられた。
類からは後日電話が掛かってきた。
「総二郎・・・」
「類、説教は無しだぜ?」
「どうするつもり?」
「どうって・・・、どうもするつもりはねえけど。」
「それって牧野を傷付けるんじゃないの?」
いつだって牧野を守ってる類。
そんな類を出し抜いて牧野を手にした俺。
少しの優越感がなかったと言ったら嘘になる。
でも罪悪感の方が遥かに大きかった。
分かっている。
俺がやっている事が全く正しくないという事は。
「全部分かってて一緒にいるんだよ、今だけな。」
「人前では笑ってたって、独りでこっそり泣いてるような女なんだ。
あいつがどんな思いしてるか想像つくだろ?」
「だから・・・、分かってるって。
分かってるけど止められないんだよ。
仕方ないだろうが。」
「はあ・・・、何で・・・?」
「それは・・・、類はよく知ってるだろ。
あいつに魅入られたら、誰だってこうなっちまうって。」
「・・・・・・。」
司の母親は牧野を決して受け入れようとしなかった。
酷い事をしていたようにも見えたけど、俺達の世界じゃそれが当たり前。
一瞬でも本気で牧野の手を取ろうとした司の方が酔狂だと思われても仕方なかった。
花沢だってそうだ。
牧野を類の友人としてまでは認めても、花沢の花嫁に据える事は絶対にない。
だからそれを分かっている類は決して無茶をしなかったし、類の事を友として誰よりも近しく感じているんだろう牧野を、大切に大切に見守っている立場に甘んじていた。
越えてはいけないラインを飛び越えたのは俺だ。
でも好きになってしまったら自分を止められなかった。
俺だけが牧野に惹かれていたのなら、何とか立ち止まれたのかもしれない。
だけど、牧野の俺を見詰める視線に気付いてしまったから。
互いに想い合ってしまったら、もう流れ出した感情の激流に抗えなかった。
「・・・それでも、あいつの為には距離を取るべきだったんじゃない?」
「そんな正論、要らねえよ。」
出来たらとっくにやってる。
出来なかったから、こんな事になってんだ。
類がまた溜息を吐いたのが機械越しに耳に届く。
「牧野がなるべく泣かないようにしてやって。」
「ああ・・・。」
そんな事不可能なのは、類も俺も知っていて。
だけどその上で釘を刺された。
言わずにいられない類の気持ちも分かる。
俺が類の立場なら、牧野の部屋で鉢合わせした時に、即刻手を引けと殴りつけてるかも知れないくらいだ。
それだけ言い置いて、類は通話を終わらせた。
手にしている携帯電話を見詰めながら、牧野を想う。
猛烈に顔が見たくなった。
腹の中に渦巻くこの嫌な感じを、束の間でも忘れさせてくれるのは牧野だけだから。
電話を掛けたら、途端に朗らかな声が耳の中に溢れ出す。
その声を聞いているだけでほっとして。
瞼を閉じて聞き入った。
幸せなのに、切なさで胸が締め付けられる。
俺はいつかこれを手放すんだ・・・と思いながら聞く声は、大切過ぎて、一言も聞き漏らしたくなくて。
全て頭の中に録音しておけたらいいのに・・・なんて思う。
「今から行ってもいいか?」
「えー? 部屋片付いてないよー?」
「気にしねえって。何かいる物あるか?」
「んーと、冷蔵庫にビールしか無いから、自分が飲む物買って来たら?」
「分かった。じゃ、後でな。」
飛びきり美味いワインと。
それに合わせるチーズと。
あいつが好きそうなスイーツと。
あと、絶対に嬉しそうに顔を埋めるだろう花束を買っていこう。
一つでも多くあいつの笑顔が見られるように。
だって俺達には・・・、限られた時間しか残っていないから。
遠くない未来に、終わりは必ずやってくるのだから。
それでも俺は、あいつに会わずにはいられないんだ・・・
_________
ちょーっとお話が前後しておりまして、ここは前編の総二郎とつくしの別れのシーンよりも前の部分です。
時間の流れとしては、
類にバレる→結婚決まってお別れ→後編(22日0時UP予定)・・・
という順になります。
複雑で申し訳ありません^^;
実はですね・・・
インターネットバンキングの暗証番号が書いてある紙を失くしまして。
銀行から送られてきた封筒ごと丸っと。
いや、多分家の中にあるんだけど。
もう1ヶ月くらいずっと探してるんだけど、発掘出来ないんですよね・・・
困ってます。
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