distance -後編-
色々自分の中で決めてる事がある。
その1、なるべく2人きりにならない事!
その2、常に1m以上の距離を保つ事!
その3、目をしっかりとは合わせない事!
その4、真面に話を取り合わない事!
その5、一緒に歩く時は隣を歩かない事!
2人きりになると、あたしテンパって変なこと口走るかもしれないから。
細心の注意を払って、2人きりにならないようにしてた筈なのに。
どうしてか、今はカフェで向かい合ってる・・・。
何でこんな事になっちゃったのかな?
類は?
美作さんは?
何でこの人と2人なのよー?
近づくと不意にドキッとさせられちゃうから、近くにはいたくない。
兎に角、距離を置くように気をつけてたのよ。
なのに今はテーブルを挟んでるだけ。
テーブルの奥行って、多分1mない位?
半径1m範囲内だよ、今の距離!
これはあたしにとっては近過ぎるんだ。
距離が近いと心臓がとっくんとっくんうるさくて、息苦しく感じるのよ。
こうなったらせめて、目は合わせないようにしよう。
あの人の目ってさぁ、何か変なビーム出てるでしょ、絶対。
人の心を惑わす類いのよ。
人間じゃなくて、妖怪なのかも。
フェロモン妖怪ってやつね。
だから視線合わせちゃうとヤバいから、顔見ない!
その変なビームが出る目で、あたしが紅茶飲んでケーキ食べてるところをじーっと見てるみたいなんだけど・・・。
どうせフォークの上げ下げがエレガントじゃないとか。
紅茶ガブ飲みしやがってとか思ってるんでしょ。
ほっといてよね。
庶民の食べ方なんてこんなもんですよ。
あたし、誰にも迷惑掛けてないでしょ!
この向かい合わせの距離感に耐えられず、食べ終わったら銀杏並木を散歩したいって言ったらこの人ってば、
「別にいいぜ。
つくしちゃんの食い気が落ち着いたら、散歩しようぜ。」
とか言う訳。
はぁ・・・。
ホント、この人にとってのあたしって、『常にお金なくてひもじい思いをしてる気の毒な女』なのよね。
失礼しちゃうわ。
ちゃんと日々バイトしてお金稼いで、ご飯もしっかり食べてますし!
今のこれは単なるおやつですし!
でもムキになって言い返さないもんね!
むかっとして言い返したとしても、口でこの人に勝てるわけないのよ。
何か言って余計にやり込められる位なら、さらーっと聞き流しとけばいいの。
とか思いつつ、なかなか上手く出来ないのは、あたしのスルースキルがまだまだなのよね・・・。
ティータイムを終わらせてカフェを出れば、少し日が傾き始めていて、ここに来た時よりも風が肌寒い。
初冬は夕暮れが訪れるのが早いよね。
暗くなる前にこの景色を写真に収めたい!って思って、スマホを色んな方向に向けつつ、銀杏の葉が落ちている歩道を歩いてく。
でも並んでは歩かない!
あくまでもあたしのペースで!
何ならあたしの連れだって他の人から見えない位離れててもいい。
だって、凸凹コンビでしょ、2人並んでたら。
身長も違うし、佇まいも違うし、顔面偏差値もね・・・。
自分のこと、嫌いじゃないよ。
あたしはあたし。
パパとママから貰ったこの身体。
この体型も、顔も、あたしらしいって思って大切にしてる。
だけどさー、こういう人の隣に立つと、どうしても比べられて、ジロジロ見られるのよ。
その視線がチクチク刺さるんだよね、あたしのハートに。
今迄だって散々色々あったけど。
こんなあたしにだって心があるのよ!
なんでも跳ね除けてるみたいに見えても、ホントは痛み感じてるの!
だから、露骨に比べられながら隣を歩きたくはないんだ。
銀杏の黄葉に気を取られつつ、頭のどこかで余計な事をあれこれ考えていたら、注意散漫になっていたらしい。
後ろから「おいっ!」と鋭い声がして。
はっとした次の瞬間、凄く強い力で腕を引っ張られて、気が付けばがっしりした胸に引き寄せられていた。
ジャケット越しなのに、この人の心臓がどっくんどっくん鳴っているのが聞こえてきて、頭の上からは「はぁ・・・」という溜息が降って来る。
な、なんなの、これ?
あまりの事に身体がフリーズ!
「馬鹿牧野っ!
もうちょい周り見ろよ!
自転車がお前の鼻先擦り抜けてったぞ!
あと一歩前に出てたらぶつかってたろ!」
「ご、ごめん・・・。」
「お前なぁ・・・、こっちの寿命が縮まるんだよ!」
自転車にぶつかりそうだったと全く気付かなかったあたしは今、別の意味で寿命が縮まりそうだ。
もう一度深い溜息が聞こえてから、密着していた身体が離れていく。
恐る恐る目線だけ上目遣いにして顔を見たら、うんざりだ・・・と言わんばかりの表情を浮かべて立っていた。
互いの視線がばっちりぶつかっちゃった。
今は変なビームじゃなくて、お怒りモードの鋭い目付きで睨まれてる。
悪かったわよ、悪かったけど・・・、そんな怒んなくったっていいじゃない?
怒ったって無かった事にはならないし・・・。
「んーーー・・・。」
何か唸ってるから、まだ叱られるの?とちょっと身構えたら、右手に持っていたスマホをもぎ取られ、あたしが肩から下げていたトートバッグに捩じ込まれる。
「な、 何すんの?」
「もう写真は十分だろ?
お前はいっぺんに二つの事なんか出来ねえんだよ。
景色を見るならそっちに集中しろ。
あれもこれもやろうとするから危ない目に遭うんだ。」
これまた言い返したいけど言い返せない。
実際、あたしにはそういうところがあって・・・。
何かに気を取られて、うっかり・・・みたいな事は今迄にもいっぱいあったんだ。
うぐっと言葉に詰まって立ち尽くしていると、スマホが無くなった右手をぐいーんと引っ張られ、一歩先を歩き出した人につられて足が前へと進み出した。
「えっ? 何?」
「危なっかしいから捕まえとくんだよ。」
「あ、あたし、ちゃんと1人で歩けるもん!」
「それが出来てなかったろ?」
そりゃ、出来てなかったんだけどさ・・・。
あー、もー、困ったな。
今日は決め事が全然守れない!
どーなっちゃってんの、今日のあたし?
こんな筈じゃなかったのに。
手を繋いで素敵な景色の並木道を歩く・・・だなんて、まるでデートみたいな事になっちゃってるじゃん。
それが、あたしの心臓をどこどこどこどこ太鼓みたいに打ち鳴らしちゃってて。
しかも、じわじわとこの人の体温が右手から身体全体へと広がっていくんだもん。
参っちゃう!
他人からの視線なんて全く気にならない。
さっきまで夢中だった銀杏だって目に入らない。
ただただ右手が繋がる先の人の事を斜め後ろから見ながら歩いてる。
あーん!
この人にしたら、ただ単にほっとけないからやってるんだろうし、深い意味なんか無いんだろうけど!
あたしにとっては、物凄く大っきな出来事なのよ!
この人と2人きりで、更に手を繋いで歩くだなんて。
急に起こった距離の縮まりに、気もそぞろ。
繋がれてる右手があったかくて、じんじんと痺れてる。
空気はひんやりしてるのに、頬っぺたがぽっぽしてきた。
これは赤くなってるに違いない。
だけど、この人のちらっと見えてる左耳が赤いのは、きっと寒いせい・・・なんだよね?
困ってるのに嬉しい。
嬉しいけど困る。
決め事がちっとも守れない今日のあたしと、過保護なこのあったかい手の持ち主の間の距離は、バグってしまって0cm!
心臓はバクバクしっぱなし!
_________
UPしよう、しよう…と思いつつ、毎晩体調優れずにスマホ片手に寝落ちしてました。
お誕生日SSな筈なのに、どこにもそれを織り込めなかった。
失敗です^^;
総二郎の片想い…かと思いきや、ホントはつくしも…みたいなすれ違いを書きたかったんです。
今年も無事に総誕になった瞬間に、チャット会にいらして下さった皆様と一緒に「おめでとう」を叫べて、楽しかったです♪
ありがとうございましたー!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
その1、なるべく2人きりにならない事!
その2、常に1m以上の距離を保つ事!
その3、目をしっかりとは合わせない事!
その4、真面に話を取り合わない事!
その5、一緒に歩く時は隣を歩かない事!
2人きりになると、あたしテンパって変なこと口走るかもしれないから。
細心の注意を払って、2人きりにならないようにしてた筈なのに。
どうしてか、今はカフェで向かい合ってる・・・。
何でこんな事になっちゃったのかな?
類は?
美作さんは?
何でこの人と2人なのよー?
近づくと不意にドキッとさせられちゃうから、近くにはいたくない。
兎に角、距離を置くように気をつけてたのよ。
なのに今はテーブルを挟んでるだけ。
テーブルの奥行って、多分1mない位?
半径1m範囲内だよ、今の距離!
これはあたしにとっては近過ぎるんだ。
距離が近いと心臓がとっくんとっくんうるさくて、息苦しく感じるのよ。
こうなったらせめて、目は合わせないようにしよう。
あの人の目ってさぁ、何か変なビーム出てるでしょ、絶対。
人の心を惑わす類いのよ。
人間じゃなくて、妖怪なのかも。
フェロモン妖怪ってやつね。
だから視線合わせちゃうとヤバいから、顔見ない!
その変なビームが出る目で、あたしが紅茶飲んでケーキ食べてるところをじーっと見てるみたいなんだけど・・・。
どうせフォークの上げ下げがエレガントじゃないとか。
紅茶ガブ飲みしやがってとか思ってるんでしょ。
ほっといてよね。
庶民の食べ方なんてこんなもんですよ。
あたし、誰にも迷惑掛けてないでしょ!
この向かい合わせの距離感に耐えられず、食べ終わったら銀杏並木を散歩したいって言ったらこの人ってば、
「別にいいぜ。
つくしちゃんの食い気が落ち着いたら、散歩しようぜ。」
とか言う訳。
はぁ・・・。
ホント、この人にとってのあたしって、『常にお金なくてひもじい思いをしてる気の毒な女』なのよね。
失礼しちゃうわ。
ちゃんと日々バイトしてお金稼いで、ご飯もしっかり食べてますし!
今のこれは単なるおやつですし!
でもムキになって言い返さないもんね!
むかっとして言い返したとしても、口でこの人に勝てるわけないのよ。
何か言って余計にやり込められる位なら、さらーっと聞き流しとけばいいの。
とか思いつつ、なかなか上手く出来ないのは、あたしのスルースキルがまだまだなのよね・・・。
ティータイムを終わらせてカフェを出れば、少し日が傾き始めていて、ここに来た時よりも風が肌寒い。
初冬は夕暮れが訪れるのが早いよね。
暗くなる前にこの景色を写真に収めたい!って思って、スマホを色んな方向に向けつつ、銀杏の葉が落ちている歩道を歩いてく。
でも並んでは歩かない!
あくまでもあたしのペースで!
何ならあたしの連れだって他の人から見えない位離れててもいい。
だって、凸凹コンビでしょ、2人並んでたら。
身長も違うし、佇まいも違うし、顔面偏差値もね・・・。
自分のこと、嫌いじゃないよ。
あたしはあたし。
パパとママから貰ったこの身体。
この体型も、顔も、あたしらしいって思って大切にしてる。
だけどさー、こういう人の隣に立つと、どうしても比べられて、ジロジロ見られるのよ。
その視線がチクチク刺さるんだよね、あたしのハートに。
今迄だって散々色々あったけど。
こんなあたしにだって心があるのよ!
なんでも跳ね除けてるみたいに見えても、ホントは痛み感じてるの!
だから、露骨に比べられながら隣を歩きたくはないんだ。
銀杏の黄葉に気を取られつつ、頭のどこかで余計な事をあれこれ考えていたら、注意散漫になっていたらしい。
後ろから「おいっ!」と鋭い声がして。
はっとした次の瞬間、凄く強い力で腕を引っ張られて、気が付けばがっしりした胸に引き寄せられていた。
ジャケット越しなのに、この人の心臓がどっくんどっくん鳴っているのが聞こえてきて、頭の上からは「はぁ・・・」という溜息が降って来る。
な、なんなの、これ?
あまりの事に身体がフリーズ!
「馬鹿牧野っ!
もうちょい周り見ろよ!
自転車がお前の鼻先擦り抜けてったぞ!
あと一歩前に出てたらぶつかってたろ!」
「ご、ごめん・・・。」
「お前なぁ・・・、こっちの寿命が縮まるんだよ!」
自転車にぶつかりそうだったと全く気付かなかったあたしは今、別の意味で寿命が縮まりそうだ。
もう一度深い溜息が聞こえてから、密着していた身体が離れていく。
恐る恐る目線だけ上目遣いにして顔を見たら、うんざりだ・・・と言わんばかりの表情を浮かべて立っていた。
互いの視線がばっちりぶつかっちゃった。
今は変なビームじゃなくて、お怒りモードの鋭い目付きで睨まれてる。
悪かったわよ、悪かったけど・・・、そんな怒んなくったっていいじゃない?
怒ったって無かった事にはならないし・・・。
「んーーー・・・。」
何か唸ってるから、まだ叱られるの?とちょっと身構えたら、右手に持っていたスマホをもぎ取られ、あたしが肩から下げていたトートバッグに捩じ込まれる。
「な、 何すんの?」
「もう写真は十分だろ?
お前はいっぺんに二つの事なんか出来ねえんだよ。
景色を見るならそっちに集中しろ。
あれもこれもやろうとするから危ない目に遭うんだ。」
これまた言い返したいけど言い返せない。
実際、あたしにはそういうところがあって・・・。
何かに気を取られて、うっかり・・・みたいな事は今迄にもいっぱいあったんだ。
うぐっと言葉に詰まって立ち尽くしていると、スマホが無くなった右手をぐいーんと引っ張られ、一歩先を歩き出した人につられて足が前へと進み出した。
「えっ? 何?」
「危なっかしいから捕まえとくんだよ。」
「あ、あたし、ちゃんと1人で歩けるもん!」
「それが出来てなかったろ?」
そりゃ、出来てなかったんだけどさ・・・。
あー、もー、困ったな。
今日は決め事が全然守れない!
どーなっちゃってんの、今日のあたし?
こんな筈じゃなかったのに。
手を繋いで素敵な景色の並木道を歩く・・・だなんて、まるでデートみたいな事になっちゃってるじゃん。
それが、あたしの心臓をどこどこどこどこ太鼓みたいに打ち鳴らしちゃってて。
しかも、じわじわとこの人の体温が右手から身体全体へと広がっていくんだもん。
参っちゃう!
他人からの視線なんて全く気にならない。
さっきまで夢中だった銀杏だって目に入らない。
ただただ右手が繋がる先の人の事を斜め後ろから見ながら歩いてる。
あーん!
この人にしたら、ただ単にほっとけないからやってるんだろうし、深い意味なんか無いんだろうけど!
あたしにとっては、物凄く大っきな出来事なのよ!
この人と2人きりで、更に手を繋いで歩くだなんて。
急に起こった距離の縮まりに、気もそぞろ。
繋がれてる右手があったかくて、じんじんと痺れてる。
空気はひんやりしてるのに、頬っぺたがぽっぽしてきた。
これは赤くなってるに違いない。
だけど、この人のちらっと見えてる左耳が赤いのは、きっと寒いせい・・・なんだよね?
困ってるのに嬉しい。
嬉しいけど困る。
決め事がちっとも守れない今日のあたしと、過保護なこのあったかい手の持ち主の間の距離は、バグってしまって0cm!
心臓はバクバクしっぱなし!
_________
UPしよう、しよう…と思いつつ、毎晩体調優れずにスマホ片手に寝落ちしてました。
お誕生日SSな筈なのに、どこにもそれを織り込めなかった。
失敗です^^;
総二郎の片想い…かと思いきや、ホントはつくしも…みたいなすれ違いを書きたかったんです。
今年も無事に総誕になった瞬間に、チャット会にいらして下さった皆様と一緒に「おめでとう」を叫べて、楽しかったです♪
ありがとうございましたー!



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