distance -on the ice-
クリスマスSSの総二郎は、ご要望が多かった、「distance」の続編です。
_________
寒い。
とても寒い。
そして数多の人でごった返している。
分かっていながらクリスマス・イヴに屋外スケートリンクなんて所に来たのは、牧野が雑誌のページを捲りながら、
「わぁ、素敵ー。こんなとこ行ってみたーい!」
と瞳をキラキラさせながら言ってたのを盗み見てたからで。
その願いを叶えてやりたい!と思ってしまうのは不可抗力ってもんだろう。
そういう事で今、2人でキンキンに凍らされた氷の上にいるのだった。
当の牧野は、最初は2人きりというところに非常に難色を示したが、あの三年寝太郎の類が人混みの中スケートなんかしたがる訳もなく。
あきらはクリスマス・イヴは既に予定がしっかり入っていると聞いて、渋々2人でも仕方ないか・・・と観念したみたいだ。
「何で西門さんはクリスマス・イヴなのに暇なのよ?
引く手数多でしょ?」
「俺はそういう特別なイベントの日は女とは過ごさないって決めてんの。
そういう日に一緒にいて、途端に彼女面されるの面倒なんだよ。」
「・・・どーせあたしは『女』のカテゴリーにも入んない雑草ですよっ!」
「・・・牧野は牧野だろ。
こんな生き物、この世にお前しかいねえよ。
独自のカテゴリー確立してるよな、牧野って。
ヒト科ヒト属牧野種。」
「もー、どーいう意味よ、それっ!
あたしは珍獣じゃなーい!」
「それにお前だってクリスマス・イヴだってのに暇してんじゃん。」
「あたしはっ!
カテキョのバイト先の子がクリスマスぐらい勉強休みたいって言うから、来週の平日に振替したのよっ!
ホントならバイトの筈だったの!」
「まあ、寂しい事に変わりないけどな。」
「べ!つ!に! あたしは寂しくなんかなーいっ!」
はぁ・・・。
鈍感過ぎるこの珍獣・・・もとい牧野は、これだけ言っても全く気付かない。
クリスマス・イヴという特別な日に、俺が牧野と過ごす事の意味を!
自分が俺にとっての特別な存在だとは、欠片も思っていないのだ。
まあ、俺も、真正面からぶつかっていけてないんだけど・・・。
すってんころりんと転んで、氷の上で無様な姿を繰り広げるに違いないと思っていたけれど、ぎこちない動きながら何とか滑っている・・・というか、ちょこちょこ歩いている牧野がいる。
「なあ、何でそんな直ぐに隣の足に体重移動させちまうんだよ?
ペンギンが歩いてるみたいだろ、それ。
もっと長い時間エッジの上に乗るんだよ。
そうしたら滑ってくようになるから。」
「えー? だって転びそうになって怖いんだもん!」
「俺が手を繋いでやるから大丈夫だって。
こうやって足がVの字になるみたいに立って。
右足のエッジ全体で蹴り出して、左足のエッジに乗る。」
俺の身体が牧野から離れてすーっと滑り出す。
「で、次はその反対。
これを繰り返してりゃ嫌でもスケートは滑ってく。」
そう言いながらくるりと牧野の周りを回って、隣に戻ってきた。
そんな俺を目で追って、憮然とした表情を浮かべてる。
何で機嫌悪くなってるのか?と思ったら、こんな事を言い出した。
「もー! 誰もが自分と同じ様に出来ると思ったら大間違いなんだからね!」
「別にそんな事言ってねえだろ。
俺は大体何でもそつなくこなせちまうタイプの人間なんだよ。
だからってつくしちゃんに合わせて態と下手に滑る意味もねえし。
ほら、もうちょい片足に体重乗せてみろって。
こうやって手繋いでれば転ばねえだろ。」
ご機嫌斜めの牧野の手袋でもこもこしている右手を取って、氷の上を滑り出す。
「うわっ!」「きゃあっ!」「こ、転ぶっ!」等と、小さく叫んでる。
「俺と同じテンポで足動かしてみ。
右足で蹴って、左足に乗る。
今度は左足で蹴って、右足に乗る。」
わーきゃー騒ぎながらも、少しずつマシになってきた。
側から見ればイチャイチャしているバカップルだろう。
実際はまだそこには到達出来てないんだけど。
いつもは俺とは距離を取りたがる牧野が、俺の手に必死で縋ってる。
どれだけ転ぶのが怖いんだ?
初心者なら多少転んでも仕方ないだろうに。
ゆっくりゆっくり、他の人にぶつからないようにリンクを回る。
時折バランスを崩しずっこけそうになるのをサポートしているうちに、段々と楽しくなってきたが、牧野はまだまだ必死の形相だ。
俺としてはもうちょい笑顔が見たい。
「牧野、肩上がり過ぎ。ガチガチだろー?
もうちょいリラックスしろよ。」
「で、で、出来ないっ!気を抜くと転びそうっ!」
言ったそばからおっとっと・・・と、手をバタつかせた。
すると足元も疎かになる。
転ばせない為に一度停まって、つんのめって来たところを胸で抱き止めた。
「おい、落ち着け。」
「な、なんかすごい疲れる・・・。」
「お前、不必要に身体中力入り過ぎてて、そのせいで疲れるんだよ。
一旦休憩して何か飲んだりするか?」
「え、やだ! もうちょっと練習して滑れるようになる!」
そう言って俺の胸をドンと押して来た。
俺との接触を極端に嫌う牧野のことだ。
俺の胸元からちょっとでも離れたいと思ってやったんだろうけど、そういう急な動きはリンクの上では禁物。
咄嗟に手を差し伸べる前に、牧野はリンクの上にどっしんと尻餅をついていた。
「痛いー! それに冷たいー!」
半べそみたいな情けない顔をしてるのが可笑しくて、笑わずにはいられない。
「ほら。」
初心者は立つのも大変だ。
笑いを噛み殺しながら手を差し伸べて、ぐいっと引き上げるみたいにして立たせてやった。
片手で俺に掴まりつつ、反対の手で下半身に付いた氷の欠片を払い落としてる。
「氷の上で転ぶとすごく痛いー!
フィギュアスケートの選手とか大変過ぎない?」
「ああ、まあ、そうだろうけど・・・。」
手袋越しとはいえ、ずっと手を繋いでいられる。
牧野が俺から逃げていかない。
寒いけれど、スケートリンクってのも悪くないな。
そんな事を思いながら氷の上を2人で滑る。
クリスマス・イヴにおける俺と牧野の距離感はこんな感じだ。
_________
2人がスケートしに行ったのは、東京ミッドタウンのアイスリンクです。
ミッドタウンって、キラキラしてるよね、イルミネーション無くても。
コロナ禍になってから一度も行ってないけど、またいつか遊びに行きたいなー。
管理人、運動音痴だけど一応北国育ちなので、冬のスポーツ出来るんですよ。
スケート、スキー、スノーボード、クロスカントリー。
まあ、どれもこれもこの10年はやってないや!
病人が落ち着いたら、またゲレンデにも行きたいなー。
皆様は冬のスポーツは何がお好きですか?
総二郎、あきらはやらせたら何でも出来そう。
類は出来るかもだけどやらないよね笑

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
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寒い。
とても寒い。
そして数多の人でごった返している。
分かっていながらクリスマス・イヴに屋外スケートリンクなんて所に来たのは、牧野が雑誌のページを捲りながら、
「わぁ、素敵ー。こんなとこ行ってみたーい!」
と瞳をキラキラさせながら言ってたのを盗み見てたからで。
その願いを叶えてやりたい!と思ってしまうのは不可抗力ってもんだろう。
そういう事で今、2人でキンキンに凍らされた氷の上にいるのだった。
当の牧野は、最初は2人きりというところに非常に難色を示したが、あの三年寝太郎の類が人混みの中スケートなんかしたがる訳もなく。
あきらはクリスマス・イヴは既に予定がしっかり入っていると聞いて、渋々2人でも仕方ないか・・・と観念したみたいだ。
「何で西門さんはクリスマス・イヴなのに暇なのよ?
引く手数多でしょ?」
「俺はそういう特別なイベントの日は女とは過ごさないって決めてんの。
そういう日に一緒にいて、途端に彼女面されるの面倒なんだよ。」
「・・・どーせあたしは『女』のカテゴリーにも入んない雑草ですよっ!」
「・・・牧野は牧野だろ。
こんな生き物、この世にお前しかいねえよ。
独自のカテゴリー確立してるよな、牧野って。
ヒト科ヒト属牧野種。」
「もー、どーいう意味よ、それっ!
あたしは珍獣じゃなーい!」
「それにお前だってクリスマス・イヴだってのに暇してんじゃん。」
「あたしはっ!
カテキョのバイト先の子がクリスマスぐらい勉強休みたいって言うから、来週の平日に振替したのよっ!
ホントならバイトの筈だったの!」
「まあ、寂しい事に変わりないけどな。」
「べ!つ!に! あたしは寂しくなんかなーいっ!」
はぁ・・・。
鈍感過ぎるこの珍獣・・・もとい牧野は、これだけ言っても全く気付かない。
クリスマス・イヴという特別な日に、俺が牧野と過ごす事の意味を!
自分が俺にとっての特別な存在だとは、欠片も思っていないのだ。
まあ、俺も、真正面からぶつかっていけてないんだけど・・・。
すってんころりんと転んで、氷の上で無様な姿を繰り広げるに違いないと思っていたけれど、ぎこちない動きながら何とか滑っている・・・というか、ちょこちょこ歩いている牧野がいる。
「なあ、何でそんな直ぐに隣の足に体重移動させちまうんだよ?
ペンギンが歩いてるみたいだろ、それ。
もっと長い時間エッジの上に乗るんだよ。
そうしたら滑ってくようになるから。」
「えー? だって転びそうになって怖いんだもん!」
「俺が手を繋いでやるから大丈夫だって。
こうやって足がVの字になるみたいに立って。
右足のエッジ全体で蹴り出して、左足のエッジに乗る。」
俺の身体が牧野から離れてすーっと滑り出す。
「で、次はその反対。
これを繰り返してりゃ嫌でもスケートは滑ってく。」
そう言いながらくるりと牧野の周りを回って、隣に戻ってきた。
そんな俺を目で追って、憮然とした表情を浮かべてる。
何で機嫌悪くなってるのか?と思ったら、こんな事を言い出した。
「もー! 誰もが自分と同じ様に出来ると思ったら大間違いなんだからね!」
「別にそんな事言ってねえだろ。
俺は大体何でもそつなくこなせちまうタイプの人間なんだよ。
だからってつくしちゃんに合わせて態と下手に滑る意味もねえし。
ほら、もうちょい片足に体重乗せてみろって。
こうやって手繋いでれば転ばねえだろ。」
ご機嫌斜めの牧野の手袋でもこもこしている右手を取って、氷の上を滑り出す。
「うわっ!」「きゃあっ!」「こ、転ぶっ!」等と、小さく叫んでる。
「俺と同じテンポで足動かしてみ。
右足で蹴って、左足に乗る。
今度は左足で蹴って、右足に乗る。」
わーきゃー騒ぎながらも、少しずつマシになってきた。
側から見ればイチャイチャしているバカップルだろう。
実際はまだそこには到達出来てないんだけど。
いつもは俺とは距離を取りたがる牧野が、俺の手に必死で縋ってる。
どれだけ転ぶのが怖いんだ?
初心者なら多少転んでも仕方ないだろうに。
ゆっくりゆっくり、他の人にぶつからないようにリンクを回る。
時折バランスを崩しずっこけそうになるのをサポートしているうちに、段々と楽しくなってきたが、牧野はまだまだ必死の形相だ。
俺としてはもうちょい笑顔が見たい。
「牧野、肩上がり過ぎ。ガチガチだろー?
もうちょいリラックスしろよ。」
「で、で、出来ないっ!気を抜くと転びそうっ!」
言ったそばからおっとっと・・・と、手をバタつかせた。
すると足元も疎かになる。
転ばせない為に一度停まって、つんのめって来たところを胸で抱き止めた。
「おい、落ち着け。」
「な、なんかすごい疲れる・・・。」
「お前、不必要に身体中力入り過ぎてて、そのせいで疲れるんだよ。
一旦休憩して何か飲んだりするか?」
「え、やだ! もうちょっと練習して滑れるようになる!」
そう言って俺の胸をドンと押して来た。
俺との接触を極端に嫌う牧野のことだ。
俺の胸元からちょっとでも離れたいと思ってやったんだろうけど、そういう急な動きはリンクの上では禁物。
咄嗟に手を差し伸べる前に、牧野はリンクの上にどっしんと尻餅をついていた。
「痛いー! それに冷たいー!」
半べそみたいな情けない顔をしてるのが可笑しくて、笑わずにはいられない。
「ほら。」
初心者は立つのも大変だ。
笑いを噛み殺しながら手を差し伸べて、ぐいっと引き上げるみたいにして立たせてやった。
片手で俺に掴まりつつ、反対の手で下半身に付いた氷の欠片を払い落としてる。
「氷の上で転ぶとすごく痛いー!
フィギュアスケートの選手とか大変過ぎない?」
「ああ、まあ、そうだろうけど・・・。」
手袋越しとはいえ、ずっと手を繋いでいられる。
牧野が俺から逃げていかない。
寒いけれど、スケートリンクってのも悪くないな。
そんな事を思いながら氷の上を2人で滑る。
クリスマス・イヴにおける俺と牧野の距離感はこんな感じだ。
_________
2人がスケートしに行ったのは、東京ミッドタウンのアイスリンクです。
ミッドタウンって、キラキラしてるよね、イルミネーション無くても。
コロナ禍になってから一度も行ってないけど、またいつか遊びに行きたいなー。
管理人、運動音痴だけど一応北国育ちなので、冬のスポーツ出来るんですよ。
スケート、スキー、スノーボード、クロスカントリー。
まあ、どれもこれもこの10年はやってないや!
病人が落ち着いたら、またゲレンデにも行きたいなー。
皆様は冬のスポーツは何がお好きですか?
総二郎、あきらはやらせたら何でも出来そう。
類は出来るかもだけどやらないよね笑



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