君のための指輪
このところずっと海外に行く度に、宝飾店に足を運んでしまう。
いや、海外だけじゃない。
日本でだって、どこでも目に付いた店があったら入ってしまう。
探しているものはただ一つ。
牧野の薬指を彩る為の指輪。
だけど、どこでどんな指輪を見ても、これだ!というものに巡り会えない。
大きな石の綺羅びやかなもの、小さな石の可愛らしいもの、石のグレードが高いもの、デザインが優れているもの・・・。
美しい指輪は沢山ショーケースの中に並んでいる。
でも、やっぱりピンと来ない。
俺はあの牧野のほっそりとした薬指に、最高に似合うものを見つけたいんだ。
じゃあオーダーメイドすればいいって事になるけれど。
どんなものがいいのか閃かないから、ヒントを探したくて、今日もショーケースとにらめっこしてしまった。
だけど、どれを見ても違う・・・と思ってしまう。
牧野に似合う指輪はどんな物なのか。
どうしてこんなに探しても見つからないんだろう?
東京は桜の満開宣言が出て数日経った。
少し盛りを過ぎて、風が強く吹くとはらはらと散っている。
俺の誕生日デートの為に、仕事を何とか定時で終えて、オフィスが入っているビルから駆け出してきた牧野と、夕方の公園を散歩している。
「ねえ、類、知ってる?
マジックアワーに空と桜を写真に撮ると、空の深い青をバックに出来て桜の花が映えるんだって!」
そんな事言いながら、スマホを空に翳して繰り返し写真を撮っているから、何かに躓いて転びやしないかと、俺は桜より牧野の足元が気になって仕方なかった。
公園の遊歩道って平らかと思いきや、敷石がちょっと出っぱってたり、芝生との境に縁石があったりするから。
「類、類、類!」
桜なんかちっとも見ていなかった俺を、牧野が興奮気味に呼んで、ジャケットをくいっと引っ張るから、それに導かれて顔を上げた。
俺達の前方の大きな染井吉野の木から、まるで雪のように白い花びらが降っている。
はらはらなんてもんじゃない。
これこそ花吹雪・・・というようにどっと降り注ぎ、目の前が白く染まる。
「わあ・・・、すごい。綺麗だねぇ。」
落ちてくる無数の桜の花びらを見詰めながら牧野が顔を綻ばせる。
俺はそんな牧野を見て頬が緩んでいく。
俺にとって、一番見ていたいのは牧野の笑顔だから。
それはどんな美しい景色や花も敵わない。
この世で目にするものの中で、ダントツ1位に嬉しいもの。
「今日、ここ来て良かったねー。
こーんな綺麗なとこ見れちゃった!」
「ん、牧野が喜んでくれたら俺も嬉しい。」
「類と一緒に見れたから、1人で見るより嬉しいし、思い出深くなるんだよ。」
そんな牧野の言葉も俺を嬉しくさせる。
「あっ!」
目の前にぽとりと萼ごと桜の花が落ちて来たのを、牧野がそっと拾い上げる。
その手の中には、花の真ん中が紅く染まった桜があった。
「可愛いー、桜の花。」
そう言って牧野が戯れに、左手の中指と薬指の付け根に載せた可憐な花一輪。
「ね、見て! こうしたら指輪みたい。」
それを目にしてはっとした。
ほんのり色づくその桜の花はどんなダイヤモンドよりも、牧野の指にぴたりとくる。
俺がずっと探していたのは、これだったんだ!
宝飾店のショーケースの中に見つからない筈だよ。
牧野を彩るのは、硬い石の輝きなんかじゃなくて、こうして野に咲く柔らかな色合いの花の方が相応しいんだから。
「よく似合ってる。」
「ふふふっ。そう?」
「『つくし』と『桜』。
両方とも春のもので相性いいのかも。」
「あたし、誕生日12月なのに、なんで『つくし』なのかなぁ。
変だよね、うちのパパとママのネーミングセンス。」
「俺は好きだけどね。
『つくし』って名前も。
その持ち主も。
名付けてくれたパパやママも。」
そう言ったら、ひと時黙りこくった。
沈黙が続くからどんな顔してるのかと覗き込んだら、寄り目になって、口はアヒルみたいな形で固まっている。
「あんた、何、その顔?」
「・・・外でさらっとそんな事言わないでよ!」
「そんな事って?」
「もうっ! 分かってるくせに!」
今度は可愛く怒り出したから、その変化に俺はついつい笑ってしまった。
何してたって愛おしいばっかりだ。
会う度に気持ちが膨らんでいく。
俺はこれからも、こんな想いを重ねて生きていくんだな・・・としみじみ思う。
「ねえ、牧野?」
「・・・何よ?」
「もうちょっと待っててね。」
「何を?」
「この指に相応しい指輪を用意するまで。」
そう囁いて左手を取り、さっき桜の花が飾られていた辺りをそっと撫でる。
すると今度は目を丸く見開いた。
黒目がちな瞳が一層大きく見える程に。
その瞳に映り込む時間が一番長い相手に、自分がなりたいと思いながら、そっと笑い掛けた。
あの桜の花みたいな指輪を作ろう。
牧野の指に密やかに咲く花みたいな指輪を。
そしてその指輪を贈る時、俺は笑う牧野を見つけるんだろうか?
それとも涙する牧野なんだろうか?
そんな事を考えるのも幸せなんだな。
「好きだよ、牧野。」
俺の心を揺らす事の出来るただ一人に想いを伝える。
巡り会えた幸せを噛み締めながら。
_________
お誕生日デートながら、そんなシーンを盛り込めず…
そして大遅刻!
スミマセン>_<
これでも精一杯です。
指輪の話、ずっとアイデアを温めてたんですけど。
相手は誰なのか、その花は何なのか…で悩んでました。
類とつくしと言えばチューリップですが、指輪に見立てるには花が大き過ぎるので、桜にしてみました。
2人で見た桜はこんなだったでしょうか?

遅くなってしまったけれど、類、お誕生日おめでとう!

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
いや、海外だけじゃない。
日本でだって、どこでも目に付いた店があったら入ってしまう。
探しているものはただ一つ。
牧野の薬指を彩る為の指輪。
だけど、どこでどんな指輪を見ても、これだ!というものに巡り会えない。
大きな石の綺羅びやかなもの、小さな石の可愛らしいもの、石のグレードが高いもの、デザインが優れているもの・・・。
美しい指輪は沢山ショーケースの中に並んでいる。
でも、やっぱりピンと来ない。
俺はあの牧野のほっそりとした薬指に、最高に似合うものを見つけたいんだ。
じゃあオーダーメイドすればいいって事になるけれど。
どんなものがいいのか閃かないから、ヒントを探したくて、今日もショーケースとにらめっこしてしまった。
だけど、どれを見ても違う・・・と思ってしまう。
牧野に似合う指輪はどんな物なのか。
どうしてこんなに探しても見つからないんだろう?
東京は桜の満開宣言が出て数日経った。
少し盛りを過ぎて、風が強く吹くとはらはらと散っている。
俺の誕生日デートの為に、仕事を何とか定時で終えて、オフィスが入っているビルから駆け出してきた牧野と、夕方の公園を散歩している。
「ねえ、類、知ってる?
マジックアワーに空と桜を写真に撮ると、空の深い青をバックに出来て桜の花が映えるんだって!」
そんな事言いながら、スマホを空に翳して繰り返し写真を撮っているから、何かに躓いて転びやしないかと、俺は桜より牧野の足元が気になって仕方なかった。
公園の遊歩道って平らかと思いきや、敷石がちょっと出っぱってたり、芝生との境に縁石があったりするから。
「類、類、類!」
桜なんかちっとも見ていなかった俺を、牧野が興奮気味に呼んで、ジャケットをくいっと引っ張るから、それに導かれて顔を上げた。
俺達の前方の大きな染井吉野の木から、まるで雪のように白い花びらが降っている。
はらはらなんてもんじゃない。
これこそ花吹雪・・・というようにどっと降り注ぎ、目の前が白く染まる。
「わあ・・・、すごい。綺麗だねぇ。」
落ちてくる無数の桜の花びらを見詰めながら牧野が顔を綻ばせる。
俺はそんな牧野を見て頬が緩んでいく。
俺にとって、一番見ていたいのは牧野の笑顔だから。
それはどんな美しい景色や花も敵わない。
この世で目にするものの中で、ダントツ1位に嬉しいもの。
「今日、ここ来て良かったねー。
こーんな綺麗なとこ見れちゃった!」
「ん、牧野が喜んでくれたら俺も嬉しい。」
「類と一緒に見れたから、1人で見るより嬉しいし、思い出深くなるんだよ。」
そんな牧野の言葉も俺を嬉しくさせる。
「あっ!」
目の前にぽとりと萼ごと桜の花が落ちて来たのを、牧野がそっと拾い上げる。
その手の中には、花の真ん中が紅く染まった桜があった。
「可愛いー、桜の花。」
そう言って牧野が戯れに、左手の中指と薬指の付け根に載せた可憐な花一輪。
「ね、見て! こうしたら指輪みたい。」
それを目にしてはっとした。
ほんのり色づくその桜の花はどんなダイヤモンドよりも、牧野の指にぴたりとくる。
俺がずっと探していたのは、これだったんだ!
宝飾店のショーケースの中に見つからない筈だよ。
牧野を彩るのは、硬い石の輝きなんかじゃなくて、こうして野に咲く柔らかな色合いの花の方が相応しいんだから。
「よく似合ってる。」
「ふふふっ。そう?」
「『つくし』と『桜』。
両方とも春のもので相性いいのかも。」
「あたし、誕生日12月なのに、なんで『つくし』なのかなぁ。
変だよね、うちのパパとママのネーミングセンス。」
「俺は好きだけどね。
『つくし』って名前も。
その持ち主も。
名付けてくれたパパやママも。」
そう言ったら、ひと時黙りこくった。
沈黙が続くからどんな顔してるのかと覗き込んだら、寄り目になって、口はアヒルみたいな形で固まっている。
「あんた、何、その顔?」
「・・・外でさらっとそんな事言わないでよ!」
「そんな事って?」
「もうっ! 分かってるくせに!」
今度は可愛く怒り出したから、その変化に俺はついつい笑ってしまった。
何してたって愛おしいばっかりだ。
会う度に気持ちが膨らんでいく。
俺はこれからも、こんな想いを重ねて生きていくんだな・・・としみじみ思う。
「ねえ、牧野?」
「・・・何よ?」
「もうちょっと待っててね。」
「何を?」
「この指に相応しい指輪を用意するまで。」
そう囁いて左手を取り、さっき桜の花が飾られていた辺りをそっと撫でる。
すると今度は目を丸く見開いた。
黒目がちな瞳が一層大きく見える程に。
その瞳に映り込む時間が一番長い相手に、自分がなりたいと思いながら、そっと笑い掛けた。
あの桜の花みたいな指輪を作ろう。
牧野の指に密やかに咲く花みたいな指輪を。
そしてその指輪を贈る時、俺は笑う牧野を見つけるんだろうか?
それとも涙する牧野なんだろうか?
そんな事を考えるのも幸せなんだな。
「好きだよ、牧野。」
俺の心を揺らす事の出来るただ一人に想いを伝える。
巡り会えた幸せを噛み締めながら。
_________
お誕生日デートながら、そんなシーンを盛り込めず…
そして大遅刻!
スミマセン>_<
これでも精一杯です。
指輪の話、ずっとアイデアを温めてたんですけど。
相手は誰なのか、その花は何なのか…で悩んでました。
類とつくしと言えばチューリップですが、指輪に見立てるには花が大き過ぎるので、桜にしてみました。
2人で見た桜はこんなだったでしょうか?

遅くなってしまったけれど、類、お誕生日おめでとう!



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