雨の夜明け
空が薄らと白み始めた明け方。
しとしとと降る雨の音が、細く開けられた窓から冷気と共に流れ込んでくる。
気に入っていると言っていた柔らかなブランケットに無造作に包まって、カーテンの狭間から窓の外を見ている牧野がいた。
こんな朝早くに何してんだ?
窓開けてて寒くないか?
雨音聞いてんのか?
それとも・・・
雨の日に別れた男を思い出してる?
どれもこれも口には出さないまま、半分ブランケットで隠れている後ろ姿をじっと見詰める。
朝の空気に晒された腕や肩が寒そうに見えて、つい手を伸ばした。
触れた前腕は思った通りひんやりとしている。
「あぁ、起こしちゃった?
雨音うるさかった?
それともちょっと寒かった?
窓閉めよっか?」
そう矢継ぎ早に呟いて俺の返事を待つまでも無く牧野が吐き出し窓を閉めると、雨の音は殆ど聞こえなくなった。
狭い部屋に低く響くのは、片隅に置かれた古くて小さな冷蔵庫のコンプレッサーの音だ。
倒れ込むように俺の隣へと身を寄せてきたから、目の前に戻ってきた頬を掌で包むと、そこもまた冷えていた。
目を閉じてされるがままになっている牧野にゆっくりと手を這わせる。
頬から首筋、鎖骨、肩先。
柔らかく滑らかな肌と、華奢な骨格が掌や指先を通して伝わってきて、何故か胸の中に泣きたいような切なさが生まれる。
「お前、どこもかしこも冷てぇよ。」
「窓開けて、朝の空気をちょっと吸おうと思ったら、思いの外冷え込んでたみたい。
雨のせいかな?」
雨。
耳の奥底に残る雨音。
冷たい雨が身体を冷やしていく感覚。
いつまで経っても、牧野の記憶の中に居座る雨の日の出来事。
それを考えて欲しくなくて、今隣にいる俺を感じて欲しくて、冷えてしまった肌にそっとそっと触れていく。
「西門さんは体温高いよね。
手、あったかい。」
「・・・お前が冷えてんだよ。」
そう言ったら仄かに微笑んだ。
「安心する、あったかくって大きな手。」
お前に持って欲しいのは、寂しさを埋める為の安心感なんかじゃなくて。
俺を想って焦がれるような恋情なのに。
そういったものは心に湧いて来ないのか・・・
「まだ早いよ。
もう一眠りしたら?
今日も忙しくなるんでしょ?」
そう言いながら自分こそ力を抜いてもう一眠りしようとしている牧野を間近で見詰めていたら、心臓がぎゅうっと締め付けられるような激しい痛みに襲われた。
俺に真の心はくれないのに、優しさや思いやりは惜しみなく与えて。
更に身体だけ自由にさせるだなんて。
残酷な事をしてくれる。
知ってるか?
俺にも心はあるんだぜ。
振り向かない女を抱いて、快感を上回る胸の痛みを味わう位には。
いつの日か、俺を想ってくれと願いながら腕の中に閉じ込めた。
雨音はもう耳には届かない。
今聞こえるのは、互いの微かな吐息と規則正しい心臓の鼓動だけ。
目覚ましのアラームが鳴る時まで、胸の痛みに苛まれながら、唯々牧野を抱き締める。
そんな雨の夜明けの、取るに足らない一場面。
_________
そろそろ梅雨入りが近そうですね。
そんな空模様と、総二郎とつくしの1コマを書いてみました。
随分と間が空いてしまいました。スミマセン。
病人が体調を崩して1ヶ月、入院して3週間。
体力的にも、精神的にも余裕が無いのです…
色々なお話の続きは、もう少し落ち着いてきたら書きたいです。
しばらくお待ち下さいませ。

ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
しとしとと降る雨の音が、細く開けられた窓から冷気と共に流れ込んでくる。
気に入っていると言っていた柔らかなブランケットに無造作に包まって、カーテンの狭間から窓の外を見ている牧野がいた。
こんな朝早くに何してんだ?
窓開けてて寒くないか?
雨音聞いてんのか?
それとも・・・
雨の日に別れた男を思い出してる?
どれもこれも口には出さないまま、半分ブランケットで隠れている後ろ姿をじっと見詰める。
朝の空気に晒された腕や肩が寒そうに見えて、つい手を伸ばした。
触れた前腕は思った通りひんやりとしている。
「あぁ、起こしちゃった?
雨音うるさかった?
それともちょっと寒かった?
窓閉めよっか?」
そう矢継ぎ早に呟いて俺の返事を待つまでも無く牧野が吐き出し窓を閉めると、雨の音は殆ど聞こえなくなった。
狭い部屋に低く響くのは、片隅に置かれた古くて小さな冷蔵庫のコンプレッサーの音だ。
倒れ込むように俺の隣へと身を寄せてきたから、目の前に戻ってきた頬を掌で包むと、そこもまた冷えていた。
目を閉じてされるがままになっている牧野にゆっくりと手を這わせる。
頬から首筋、鎖骨、肩先。
柔らかく滑らかな肌と、華奢な骨格が掌や指先を通して伝わってきて、何故か胸の中に泣きたいような切なさが生まれる。
「お前、どこもかしこも冷てぇよ。」
「窓開けて、朝の空気をちょっと吸おうと思ったら、思いの外冷え込んでたみたい。
雨のせいかな?」
雨。
耳の奥底に残る雨音。
冷たい雨が身体を冷やしていく感覚。
いつまで経っても、牧野の記憶の中に居座る雨の日の出来事。
それを考えて欲しくなくて、今隣にいる俺を感じて欲しくて、冷えてしまった肌にそっとそっと触れていく。
「西門さんは体温高いよね。
手、あったかい。」
「・・・お前が冷えてんだよ。」
そう言ったら仄かに微笑んだ。
「安心する、あったかくって大きな手。」
お前に持って欲しいのは、寂しさを埋める為の安心感なんかじゃなくて。
俺を想って焦がれるような恋情なのに。
そういったものは心に湧いて来ないのか・・・
「まだ早いよ。
もう一眠りしたら?
今日も忙しくなるんでしょ?」
そう言いながら自分こそ力を抜いてもう一眠りしようとしている牧野を間近で見詰めていたら、心臓がぎゅうっと締め付けられるような激しい痛みに襲われた。
俺に真の心はくれないのに、優しさや思いやりは惜しみなく与えて。
更に身体だけ自由にさせるだなんて。
残酷な事をしてくれる。
知ってるか?
俺にも心はあるんだぜ。
振り向かない女を抱いて、快感を上回る胸の痛みを味わう位には。
いつの日か、俺を想ってくれと願いながら腕の中に閉じ込めた。
雨音はもう耳には届かない。
今聞こえるのは、互いの微かな吐息と規則正しい心臓の鼓動だけ。
目覚ましのアラームが鳴る時まで、胸の痛みに苛まれながら、唯々牧野を抱き締める。
そんな雨の夜明けの、取るに足らない一場面。
_________
そろそろ梅雨入りが近そうですね。
そんな空模様と、総二郎とつくしの1コマを書いてみました。
随分と間が空いてしまいました。スミマセン。
病人が体調を崩して1ヶ月、入院して3週間。
体力的にも、精神的にも余裕が無いのです…
色々なお話の続きは、もう少し落ち着いてきたら書きたいです。
しばらくお待ち下さいませ。



ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
- 関連記事
